Restrained angel 『Restrained angel(2003年1月5日発行)』より
「あっ……っんっ!」 暗い部屋に荒い息遣いと甘い声が響く。 その声は床から聞こえてきていた。 そこには、白い肢体が横たわっている。 薄暗い室内にぽっかりと白い肌が、何とも艶めかしく浮かび上がるのだった。 「はっ……」 苦しげで、それでいてその吐息は何かを待ち侘びているようでもあった。表情は長めの前髪に隠されて見ることは叶わない為、その瞳の彩りも確認することは出来ない。 赤味の掛かった金髪がその眼差しを覆い隠しているのだ。 でも、乾いているであろう赤い口唇を舌で舐めたり、口唇を噛んだりする仕草は彼の今の状況を物語っていた。 白と赤それだけが彼を飾る色彩であった。それ以外の色は薄暗い部屋の中では意味をなさなくなっている。 まるで四肢を落とされて、床に転がされているように見えるが、よく目を凝らせばそれは違った。 足は大腿部まである皮製のブーツで腕は二の腕辺りまである同じく皮製の手袋で覆われている為、薄暗い部屋の中では目を凝らさなければ見ることが出来なかったのだ。その上に、腕は後ろに回されて、左手首は左足首と、右手首は右足首とそれぞれに短いチェーンで繋がれていた。 だから、彼は床から立ち上がることが出来なかったのだ。 「っう………、っぁあああ」 突然、額を床に擦り付けて腰を僅かに上げる。背筋から腰の滑らかなラインを捩れさせて、何かに耐えるように震えていた。 僅かなモーター音が彼の吐息に被さって聞こえる。 床から離れた白いまろやかな双丘の狭間からはコードが尻尾の如く出ていて、其処からそのモーター音が聞こえてくるのであった。小さなモーター音は緩急をつけて彼を責め苛んでいる。 「っは、っくぅ………」 膝頭を上げて、股間に籠もった熱をどうにかして放射しようとしているのだが、それはこの場所すら拘束されている彼には叶わないことであったのだ。 そうペニスすらも、鈍く輝くリングでしっかりと塞き止められていた。 6連のプラチナ色のリングを連ねているのは黒い皮であり、そこから更に球袋に回されて二つの球もしっかりとペニスに連なる皮で一つずつ拘束されていた。先端から滲み出た愛液がペニスを濡らし、淫猥にテラテラと刺激を求めて輝いている。 性器を拘束する全てが、拘束された性器が隠さずに全てがリアルに空気に晒されている。 そこには普通であったのなら、それを阻むはずの赤味の掛かった金髪と同じ色合いの恥毛がなかったのだ。子供のようにつるりとした性器が剥き出しになっている。 彼にこのような格好を強要した男が、丁寧に剃毛してしまった証だった。 それが故に、剥き出しになった敏感な肌は簡単に刺激を拾い、更なる快楽にと連なっていく。 「っふん、っくぅう、あん」 堪らないのだと腰を振り、勃ち上がったペニスを床に擦りつけようとして、躯を倒すと、かちゃりと音がする。それにも構わずにうつ伏せになり、腰をグライントさせて床にペニスを擦り付けるが、強い刺激に慣れたペニスには却って生温く感じられて、もっと強く押し付けようとすると小さな悲鳴が上がり、を反転させて最初の向きとは逆向きに横になっていた。 「っい、っあ」 床に頬を擦り付けた彼の胸元でかっしゃりと何かかがにぶつかる音がした。 それは彼の乳首につけられたボディクリップで、両の乳首を挟んだクリップをプラチナ色の鎖が繋いでいる。うつ伏せになり腰を床に擦りつけた時にその鎖がクリップを引っ張ったのだ。 この行為が始まってからずっと着けられている為、感覚が麻痺してしまっていたが、鎖がひっぱられる感触に甘い痛みという疼きが胸元にも点される。 つける前に幾度も口で愛撫をされた。 歯で甘く噛み、舌で転がすように舐められて、しっかりと固く尖った乳首にボディクリップを施された。 本当はピアスでもしてやりたいのだがと残念そうに言ってくれた。しても構わないと笑ってみせると、戦闘中に敵に向かって色気を振りまかれたら堪らないと歪んだ笑いと共にそう彼は言葉を返してきたのだ。 それとも、戦闘じゃなくってこの躯で敵を悩殺してみせるのかと、それとも、敵の大将をその躯で誑し込んでみせるのかと、恋人に対する言葉とは思えぬ、まるで、卑下するような口調で彼の愛撫に応えるジェットに言葉という痛みをぶつけて来た。 でも、ジェットにとってはそれが自分に対しての彼の想いなのだと、そう分かるから、嬉しさのあまりに身を大きく悶えさせてしまった。それに対して、彼は楽しそうに、笑ってくれたのだ。まるで、自分が彼の言葉に悦んでいるのを理解していて、それが彼にとっての歓びであるともとれる笑みであった。 暗に自分の躯が彼にとってそれだけ魅力的なのだと言ってくれているようなものであるから、そんな彼を思い出すだけで、深い快楽が下半身に差し込んでくる。 「くっ…」 強く口唇を噛んだ。 早く、戻ってきて欲しい。 惨くされてもいいから、愛して欲しい。 サイボーグの躯だ。本気になれば、この拘束を解くことは何でもないことだけれども、それは彼に対する愛への裏切りなる。この汚れた躯を愛してくれる彼が欲することは何でもすると、誓った自分への裏切りになる。 だから、早く、自分が我慢できなくなって、この拘束を解いてしまう前に帰ってきて……とジェットは心からそう願って、甘い疼きが齎される感覚から逃れようと再び、口唇を固く噛み締めていた。 「っあ…」 それでも、ジェットの性感帯を心得た彼の拘束は心地良すぎるのだ。 前立腺に当たるように捻り込まれたモーターが再び、強い振動を伴って動き始める。たらりとペニスの先端から愛液が太腿に落ちていくその感触にすら、肌が粟立ってしまう。 こんなモーターではなく彼に深く、強く貫かれたい。 自分を抉り、貫くあの強い彼の兇器に口付けをして、頬を摺り寄せ、口一杯に含みたい。 彼の匂いを躯で感じて、自分の躯で育てて、あの彼の劣情の証を自分に注いで欲しい。彼の劣情が与えられるのならば、彼が望む自分の部位でそれを受け止める。飲んで見せろというのなら、悦んで飲み干したい。激しく犯されるのならば、壊れるくらいに犯されたい。 こんなものでは満足は出来ない。 あの激しいまでの絶対的な彼の力に、組み伏せられて彼以外考えられないくらい、支配されたくて堪らない。彼に支配されることに、悦びを純粋に感じられる。どんなに惨いと人に言われるような行為であったとしても、彼の齎す行為の向こうには自分に対する愛情が秘められている。 それだけで、ジェットは自分には過ぎる愛だと、そう思っている。 苦しい息の下、想いが届けとばかりにジェットは愛しい男の名前を呼んだ。 「アル…、っは、やっくうぅ……っふん……」 「いい子にしていたか」 すっかり部屋が暗闇に包まれて、僅かに冷たい空気が忍び込んで来た頃、ジェットを拘束していた男が帰って来た。荒い息を整えながら、ジェットは顔を上げると口の端だけまくりあげるように笑う恋人の顔を見詰める。 声の調子だけ聞くと、何処か機嫌が良さそうだと分かるとも少しばかり安堵を覚える。 室内に明かりが点されて、ジェットの淫らな肉体も彼の視線に曝される。 アルベルトは満足げにジェットを見ると、傍らに跪いてそのやわらかな髪を撫で上げる。顔の鼻から上半分を覆っていた髪を鋼鉄の指で払うようにしてやると、淫猥な色を点した青い瞳が蛍光灯の光の下で淫美に輝いた。 人工のモノであったとしても、ジェットの青い瞳は美しい。 どんなに情欲で濡れて、自分に踏みにじられて、惨い愛され方をしたとしてもその美しさは変わらずに其処に存在しているのだ。いや、自分に愛されれば、愛されるほどに、アルベルトの瞳にはジェットが美しくなっていくように感じられる。 そして、その皇かなめ白い肌も、黒い皮製の手袋とブーツに映えて、更に美しく見える。見られることに恥じらいを感じて、僅かに膝を閉じる仕草ですら可愛らしい。 「床は痛いだろう」 口調だけはとても優しい。 端から見れば、こんなに惨いことをジェットに強要した人物には見えない程に、優しく髪を撫でる。 「アル…」 コレだけは外してやろうと、呟いてアルベルトはジェットの両手両足を拘束していた鎖を外してやる。ジェットは後ろに反る形になっていた背中を丸めて、自分の腕で自分を抱くようにして深い溜息を吐いていた。 長い、しなやかな手足が舞うようにひらめき、自らの躯に巻き付く様は蝶の瞬きを連想されるものがあった。空を自由に舞う美しき蝶の羽を針で刺し、動けなくしているのは紛れもなく自分だ。 自分の美しい蝶、いや天使だと蹲るジェットの白い肢体を視線で舐め上げる。 確かに、アルベルトはジェットが大人しく自分を待っていたことに満足していた。 本気になれば、こんな拘束は解くことが出来る。サイボーグであるならば、いくら非力と言われてしまう程度の力しか持たぬジェットであったとしても、逃れられるものであるのにだ。 大人しく自分の言うことを聞いたことに対しては、安堵感がある。 「ベッドに行こうか」 とジェットを促して立たせると、覚束ない足取りながらも自分が促すように立ち上がりベッドへと近付いていく。自分がこれからどのように可愛がってやろうかと、考えていると知っているのだろう。 それでも、ジェットは自分に逆らうことはない。 アルベルトに身に着けさせられたブーツと手袋、ボディクリップにペニスリングは白い肌に映えて例えようもなく美しく映る。 アルベルトの中にはサディズム的な嗜好が眠っていた。 戦いを知らずに生きていればそんな自分の奥に潜む欲望には気付かずに済んでいたのだろうが、戦いを知ってしまったアルベルトはそれに気付いてしまった。それが、ジェットを愛することにより奇妙に捩れ始めて、ジェットを拘束していたいとの欲望に変貌を遂げてしまった。 でも、ジェットは逃げなかった。 それを知っていて、自らに身を差し出して来たのだ。 どんなプレイを強要しても、ジェットは恥じらいながらも応えてきた。離れて暮らしていても、アルベルトが電話でそう命じればその通りにしてくれる。そのいじらしさが可愛くてならないのだ。 次の休暇にベルリンに来た時はアパートの玄関で、全裸でアナルを解してそれを扉を開けたらすぐに見られるように四つん這いになって待っていろと、そう命じたことがあったが、ジェットは恥じらいに全身を染めながらもアルベルトの言うとおりに自らに解したアナルをちゃんとアルベルトに見せてくれた。 それ以外にも、数えられないほどの辱めという名の愛を与えたのに、ジェットは逃げずにここに居てくれる。 こんな自分でも、愛されたいと心から願うジェットが居てくれることに満足を覚えると共に、もっと彼を虐めてやりたいとの欲望が募ってくる。 ベッドの端に腰掛けたジェットに視線だけで、横になれと指示をすると困ったような顔をしながら言われた通りに仰向けに寝転がった。手袋の嵌められた両手で勃起したペニスを隠す。 何処までも、恥じらいを忘れないそんな姿が、余計にアルベルトの心の暗い欲望に火を点けるのだ。 「手をどけて、ジェットをよく見せてくれ」 と言いつつ、ベッドに乗り、膝に手を当てて大きく足を開かせて、全てを自分の眼前に曝させる。ジェットは視線を逸らしたまま頬を染めて言われるままに手をどけると、濡れてテラテラと光るペニスが現れる。 綺麗に剃毛された陰部は子供のようにつるりとしていて、どのように拘束されているかの全てがよく分かる。 複雑な性具を付けさせたりするには、陰毛が邪魔になって痛い思いをさせてしまうし、上手く嵌らないこともある。剃ったとしてもまた生えてくるのだし、とアルベルトは自らの左手の電磁ナイフでジェットの股間を剃毛してしまったのだ。 お陰でジェットは普通にトイレに行くこともできはしない。 公共の場では、小用を足すにしても個室に入らなくてはならないし、誰かと風呂に入ったり、裸にならなくてはいけない場所には、一切行くことどころか、仲間内であっても肌を晒すことは簡単に出来なくなっている。それがまたアルベルトのいじましい独占欲を満足させてくれるのだ。 お陰で、拘束されたペニスの血管が浮き出る様や、球袋に続く道筋やアナルへと繋がるそんな場所までがよく見られるようになったこともあるが、ジェットの裸体を独占できる喜びがアルベルトにはあった。 「っんう」 見られているだけで、ジェットは興奮しているのかボディクリップを着けられた胸を上下にさせて、甘い吐息を漏らしている。 「インランだな」 と楽しそうに言うと、目をぎゅっと瞑って、躯を震わせる。 ああ、可愛らしくて、どうして虐めてやろうかとアルベルトの目が暗い輝きに支配されていくのだ。部屋に入って、ジェットの姿を見るまでは、解放して普通の恋人が抱き合うようなセックスをしてやろうと思っていたのに、そのあられもない姿を見た瞬間、そんなことは忘れてしまう。 ああ、もっとだと、歯止めが利かなくなってしまっていたのだ。 鋼鉄の手で蜜を流しているペニスの先端を撫でると、甘い声と共にもっととペニスが次の刺激を求めて引くつき、細い腰が僅かにくねるように動いた。 先端の僅かな穴を広げるように何度も撫でると、次第にジェットの声が忙しなくなっていく。 先端から流れた愛液はジェットのペニス全体を濡らしてしまっていたのだ。 足の付け根の皮膚の薄い所に行きを吹きかけて、戯れで引っかくだけでも悶えている。そして、勃ち上がる股間の下からジェットの体内から出ているコードがシーツの上に横たわっていた。 僅かな小さなモーターの振動が聞こえてくる。 ここを離れる寸前に挿入したモーターであった。強弱や振動のリズムを変更させてランダムに責めるように設定してあるそれは充分にジェットを弄っていたはずだ。でなければ、ジェットのペニスがこんなにも愛液を流して悦ぶはずはないのだ。 「インランなオマエに相応しいものをやろう」 とアルベルトはベッドサイドに仕舞っておいてあるものの存在を思い出した。半透明のビニール袋に入ったそれを引き出しから出して、ビニール袋から取り出し、細い管のようなものをジェットの目の前にと持っていくと、アルベルトから受ける愛撫でとろりと解けていたジェットの瞳が恐怖に彩られた。 「あっ……」 逃げるように肘を基点にして、ずり上がろうとするがアルベルトの鋼鉄の手が勃ち上がったぺニスをぎゅっと痛い程に握り締め、それを許そうとはしない。小さな悲鳴と共にジェットの動きが止まり、赤味の掛かった金髪の狭間から脅えた青い瞳を覗かせる。 そんなにも脅えたら、止められないとアルベルトは心で呟くと更に、よく見えるようにとジェットに近づける。 「それだけは…」 哀願する瞳が痛々しい。 でも、アルベルトには止めてやるつもりなど、なかった。そう言いつつも、ジェットの躯が快楽にどれ程にのた打ち回るのか、もう知っているからだ。止めてと言いつつも、躯は悦びを見出すのだ。ジェットの躯をそうしたのは自分なのだから、知らぬことはないのだ。 「俺は言ったよな。これはお仕置きだと……」 ジェットは黙ったまま、アルベルトを見詰めていたが諦めたように、再び、逃げようとした躯をベッドに横たえた。 何を言ったとしても、自分がアルベルトとの約束を守らなかったからだ。どんな約束でも、守らなければお仕置きされても仕方がない。それに、これは自分に対する愛情の証なのだとジェットには理解できていたから、否定は出来ないのだ。 「アル……」 弱々しく恋人の名前を呼ぶジェットは本当に愛しいと思える。可愛らしくてならないと、感じられる。 皮の手袋に包まれた右手を取り、右足の膝の裏を抱えさせ、同じように左もそうさせる。されるがままに大きく赤ん坊がオムツを換える時のように開かされている。ペニスだけではなく拘束された球袋から、いやらしく収縮を繰り返すアナルまでアルベルトの視線に晒されているだけでジェットは見られることの快楽に身を震わせてしまう。 愛されているその感覚がジェットの皮膚を鋭敏なものにして、視線にすら感じてしまう肉体へと変化させられてしまうのだ。 先端に、異物が潜り込んでくる。 「……ッイ、っあアル…、イッタっ………っあん」 ペニスの先端から潜り込んでくる異物は痛みをも連れてくる。幾度か、このプレイは強要されたが、今でも好きにはなれない。確かに、アルベルトは巧みで痛みの後に押し寄せる快楽は凄まじいものがあるのだけれども、でも、数日はペニスにある異物感が取れない。排泄に不便はないが、その排泄するだけで、その行為を思い出して、ペニスが反応してしまうのだ。 反応してしまえば、つい視線がそこにいく。すると綺麗に剃毛された陰部と対面することになり、アルベルトの手を思い出さずにはいられない。それだけなのに、躯は反応を始めてしまうのだ。 それが、ジェットには恥ずかしい。 トイレで隠れて幾度、自らを慰めたのか分からない。でも、幾度、自分で慰めたとしても一時の劣情は収まっても、それは大きな火種となりジェットの体内で燻り続けるだけなのだ。 触れられても、見られてもいないのに反応する自分の躯が恥ずかしくてならない。 「くっ…っうん」 痛みと快楽が交互にやってくる。ペニスを脅かす痛みとアナルに与えられる振動が、ジエットの意識を混濁させていくのだ。動いてならないといわれているだけに、その刺激は更に鋭敏に神経がそう拾ってしまう。 「いい子だ」 器用なアルベルトはジェットのペニスに一本の細い管を通すことに成功させる。 「アル」 痛みからか涙目になったジェットの眦を優しく舌で拭うと、アルベルトを求めるようにおずおずと腕が背中に回された。 管を含んだペニスを鋼鉄の手で摩ると、大きくジェットは背を逸らして喘いだ。痛いとも、いいとも付かぬ声を上げて、悶えた。 「っ………っイヤ……、っあん。い、っああん、ひゃんんんん」 「気持ちイイな」 耳元に注ぎ込まれるアルベルトの問いにジェットは必死で首を縦に振って答える。違うといえば、アルベルトは自分にもっと惨いことをしてくる。アイシテイルし、何をされてもいいけれども、これ以上の快楽は自分にとっては危険だ。 アルベルトの齎す罠から逃れたいわけではないけれども、これ以上は四六時中アルベルトに抱いてもらうことだけを考えてしまう自分になってしまいそうで怖かった。それでなくとも、アルベルトの存在を思い出すような、例えば、彼と同じ煙草の香りを嗅いだだけで股間が固くなったりするくらいなのだ。 アルベルトは躯を移動させて、ジェットのアクセサリーで飾られた股間を愛しげに舌で舐め上げる。とろりと流れる愛液を舌で舐めとってもまた、新しい愛液がとろりと出てくるのだ。 このまま自分なしではいられない躯にしてしまいたい。 一人で暮らすなど出来はない。 自分の帰りを待つ、自分だけのジェットにしてしまいたい。 どんな些細な出来事にすら自分の愛撫を思い出し、その熱を籠もらせて、悶えて欲しいと思う。 ジェットの人権すら認めていないような愛情の掛け方であるが、アルベルトはそれほどにジェットを手放したくはないと思っている。愛する人を失ってばかりいる、反動なのかジェットを手放したくはないとの思いが日々強まってくる。 そんな自分を突き放さないジェットもいけないのだと、そう言いつつ、ジェットのペニスを嘗め回した。管を含んだ出入り口を幾度も、舐めるとぺニスが引くつき、ジェットは甘い声を漏らす。 もっと啼く声が聞きたくて、戯れに管を回転させれば悲鳴が上がる。 楽しくてたまらない。 酷い男だが、こうさせたのはジェットだ。拒まぬ彼が悪いのだ。美しい淫靡な生き物である彼が悪いのだ。 ずっと拘束されていて、長く射精したい欲望が溜まったペニスは健気にアルベルトの愛撫に応える。そろそろ、開放してやらねば、反対に使い物にならなくなってしまう。それだけは、させたくはなかった。 アルベルトの仕打ちはあくまで、ジェットに自分にしか与えられない快楽を教えるためで、決してその躯を痛めつける為ではないのだ。 「ジェット」 舌で手で愛撫しながら、ペニスリングを外すと、大きな溜息が頭上から漏れ聞こえる。アルベルトを求めるように髪に手を絡めて、腰を押し付ける。もっとしてと甘えるように悶える細い腰が愛らしくてたまらない。 締め付けられていたペニスをねぎらうように何度も舌で舐める。 塞き止められていた血流が一気に流れ始めて、押さえつけられていた快楽が狂ったようにペニスを責めさいなむ。 「っあ、ダメ…。イイ……っも、もっとぉ〜。っあぁあぁぁぁん、アルゥ…………うう」 どうとって良いのかわからぬ喘ぎ声が漏れてくるのはジェットが感じている証であることに違いはない。いつも、こうしてジェットは乱れる。アルベルトの思うが侭に、その痩躯を悶えさせてくれるのだ。 アルベルトは、ペニスに刺さった最期のアクセサリーを抜くと、甲高い悲鳴が、どんな苦痛に満ちた実験であったとしても呻き声一つあげなかったあのジェットが、か弱い悲鳴を上げて、白濁した液体を放った。 「っい、っあああああああん、ッイイッタ………」 ぱたりとアルベルトの髪に絡んでいた腕がベッドに落ち、悶えていた足が力なく投げ出された。意識を失ったジェットのとは裏腹に拘束されていたペニスはひくひくと長い間、白濁とした液体を流して、開放された悦びを噛み締めているようでもあった。 そのしどけない姿を見て、アルベルトは心から満足そうに微笑んだ。 服にジェットの放った精液が付いていたが、気にはならない。シーツをジェット自身をその白濁とした液体は汚したが、むしろそれがアルベルトには嬉しい。 感じてくれた証なのだし、自分の齎した行為が間違いではないとそう言われている気がするからであった。 「ジェット」 意識を失ったその頬を優しく撫でる。 優しいキスを落として、乱れる髪を撫で付けて、目尻から零れた涙を拭った。 愛しくてたまらない肉体だ。愛したいとも、虐めたいとも様々な感情がジェットに対してはある。 けれども、その向こうにあるのは、自分から離れなくしてしまいたいとの想いだ。 どんな手段を用いたとしても、躯だけが快楽を求めていたのだとしてもジェットと言う存在を自分の傍らに置いておきたい。 ああ、本当は、そんなものではない。 自分だけを考えて、自分だけを見つめて欲しいと思っているのだ。 自分だけの為に、躯を開いて、心を開いて受け止めてくれるジェットが欲しい。 自分以外のことは考えられなくしてしまいたいのだ。 「ジェット、愛している」 名前を呼ぶだけで幸福だと思える。 腕に抱けるだけで自分が如何に、愛に恵まれているのかと感謝出来るけれども、ジェットに向けられる独占欲だけは、薄らぐことはない。もっともっとと貪欲に全てを欲しいと心が悲鳴を上げる。肉体だけでなく魂の全てすら自分のモノにしてしまいたい。エゴとも言える欲望が深くアルベルトの心には根差してしまっていた。 優しくもしてやりたい。 優しくも抱いてやりたい。 黒い醜い足を覆っていたブーツを丁寧に気を失っているジェットを起こさぬように脱がせる。足に残った、皮の匂いに顔を顰めて、何度も何度もその無骨見える鋼鉄の手で解すようにもんでやる。 そして、腕を覆っていた手袋も外して、白い存外に長い指先を自由にして、皮の匂いが残る手の甲に恭しくキスを落として、幾度も口唇で優しく辿り指の先を口に含んで甘く噛み、頬を寄せる。 大切な大切なジェット。 惨く嬲りたいのに、優しくもしてあげたい。 大きく心の針はいつも触れ続けている。 胸に飾られた、ボディクリップもゆっくりと外して、少し変形した乳首にも癒すかのように舌を這わせた。 ぴくりとジェットの躯が跳ねたが、起きる気配は全くない。 それに安心するとアルベルトは再び、ジェットの乳首に舌を這わせ、手をとり、揉み解すようにする。 無理をさせたのが悪かった顔色に赤味が戻ってきていた。 目元のそばかすの跡が白く浮いて見える。 安堵の息を漏らして、アルベルトはベッドから立ち上がった。汚れたジェットの躯を綺麗に拭う為である。骨まで解けるほどに優しくもしてあげたいのだ。特に、こんなことをしてしまった後はいつもそう思える。 綺麗に拭ったら、抱き締めて眠ろう。 そして、次に目覚めたら、普通の恋人同士のように抱き合い、普通の恋人同士のセックスをしよう。まだ、この健やかなる吐息を漏らしている口唇に触れてはいない。 「ジェット」 とアルベルトはもう一度、愛しい気持ちの全てを一言に込めて、裸のジェットの躯に毛布を掛けるとバスルームへと姿を消した。 『ああ、アル…』 愛しい男の手が自分に触れるのが、感じられる。 躯は動けないのに、その感触と男が自分を如何に優しく扱ってくれるかだけは、何故かジェットに伝わってくる。 口唇をゆったりと綻ばせた。 優しく慈しみを込めて自分の名前を呼んで、汚れた躯を綺麗に拭ってくれる。そんなことをしなくとも、このまましておかれも自分は決して、それでも彼を嫌いにならないのにと思いつつも、そんな彼が好きで堪らない。 彼の中にある戦闘で芽生えたサディスティクな志向を性的なものに転化させたのは自分だった。人を殺すと言う行為は過ぎると精神に異常をきたさせる。 殺傷能力優れたアルベルトは来る日も来る日も実験と称する戦場へと狩り出されて、生きる為に戦い続けていた。それが、失った女への愛の形だと、命を奪って自分だけ生き残ってしまって贖罪だと、そう思っていた。 崩壊しつつあるアルベルトの自我を始めて理解したのはジェットであった。少なくともジェットも似たような経験をしていたし、ちょうどその頃ジェットにはフランソワーズが居てくれた。 その腕に、自らを抱き締めてくれることでジェットはその危機を乗り越えて、自分を自分でいられる術を身に着けることが出来たのだ。 でも、ジェットはそれを知っていて利用した。 一目見た時から、好きだったのだと思う。 彼の心が、死んだ恋人にあると知りながら、言葉と躯で巧みに彼を誘った。自棄になりかけていた彼は簡単にそれに乗ってきた。最初は、こんな形ではなく一方的に彼がジェットの躯で欲望を満たすだけの関係で、一度としてジェットは彼の手で逐情させてもらったことなどなかった。 でも、それでも良かった。 どうしよもないヒモに惚れて、貢ぐオンナみたいだと自分を評しながらも、彼が欲しくて堪らなかった。 惨くして欲しいのだと彼に訴えた。その方が自分は感じるのだと普通のセックスでは感じないと、そう言って無理にさせたのだが、やがて、それは形を変えて今に至る。特に、BG団を逃げ出してからの彼は変わった。 自分をセックスに縛り付けることを目的としているのがジェットには分かる。 そうさせたのは自分なのだ。 彼は自分を縛りたいと思っている。 いや、本当は自分が彼にそうされたくて、そうなるように彼が気付かぬ形で誘導して来たのだ。彼の心が全て、自分に向けられるのなら、彼の抱き人形になったとしても本望だ。自分の躯が人間そっくりに、いや、それ以上に作られているのは中古になった自分を上層部が慰み者にする為だったということぐらい知っている。 ギルモア博士が自分にジェットエンジンを取り付けなかったら、自分はそう今頃、男たちの玩具としての人生を終えていたのかもしれない。いや、ジェットエンジンを取り付けられても、上手く飛行できなければ、そう言う運命を辿るところであったのだ。 ジェットの再改造に失敗した場合、ジェットの躯にヴァギナをつける手術を施して、上層部の玩具として進呈される手筈に既になっていたことを、ジェットはちゃんと知っていた。 同じ玩具になるのなら、彼のモノでありたい。 何一つ、欲しいと思うことを封じ込めて生きてきたジェットの、最初で最後の執着がアルベルト・ハインリヒであったのだ。 彼を手に入れられる為なら、こんなことどうでもない。 彼に与えられる辱めなら、求めたいくらいだ。 『愛している』から、陳腐で、シンプルな言葉を自分が使う日が来るとは思ってもいなかった。でも、愛しているのだ。 彼の全てが欲しい。 鋼鉄の手が優しく自分の頬に触れる。 「ジェット、愛している」 その言葉をもらえるのなら、何でも出来るのだとジェットは夢現の中でゆったりととろけるような笑みを浮かべつつ、暗い自らの意識の海にその危うい恋心を沈めていった。 |
The fanfictions are written by Urara since'09/04/01
From 'Restrained angel' of the issue 2003/01/05