螺旋状に構築される殺意−SSS 『螺旋状に構築される殺意(2002年10月14日発行)』より
機械に繋がれたまま眠り続ける二人を見詰めながら、白髪の老人は笑った。 復讐などと、古い映画でもあるまいしと、そう笑う自分がいるのだけれども、こういう形でしか自分の存在を伝えられないし、その言葉でしか自分の気持ちを言い表せない。 出会ってからもう長い時間が過ぎた。 出会った頃は互いに研究への情熱に燃えていた。酒を片手に熱い議論を交わして朝を迎える時間など幾夜も過ごしてきた。いつも、励まし合ってきた友であった。研究する分野が違っていてもやはり友であったのだと、そう彼は思っているだろう。 でも、自分は違うのだ。 歪んだ形だけれども、彼を愛していた。 その愛くるしい小柄な体を豊かな科学者としての才能を初心な心を愛していたのだ。 だから、今も自分のことを忘れていないのかが知りたい。 そうこれを彼は裏切りと呼ぶのだろうか、それとも、自由を手に入れようとした代償だと思うだろうか。もう、そんなことはどうでも良いのだ。もう自分には復讐という妄執しか残されてはいないのだから。 ただ、その為だけの復讐に自分の人生の全てをかけた研究の成果がここにある。 愛しいとかの感情はない、むしろ、憎しみすら覚える。彼らがそそのかしたりしなければ、今も彼と会うことが出来たかもしれないのに、彼らが彼をそそのかしてあんな危険な目に合わせているのだ。 いずれ抹殺される運命なら自分の手で、そして、その遺体から生成した彼と自分の二人で、静かに研究の日々が送れないかと夢想している自分がばかばかしい。 でも、回り始めた歯車は止められない。 螺旋階段のように回り続ける思考はまるで、人の遺伝子にも似ている。人は人である以上、遺伝子を持っている以上、この螺旋の地獄からは逃れられないのだ。 自分もグルグルといつまでも螺旋の渦に巻き込まれて踊り続けるそんなちっぽけな存在に過ぎない。 グルグルとくるくると、いつまでも回り続け、命果つるまで遺伝子という名の螺旋状の迷路をさ迷うのだ。 |
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From '螺旋状に構築される殺意' of the issue 2002/10/14