みちゅるん様 『初めまして』
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初めまして



「動くなっ!!」
「ひっ」
 鋭い声が薄暗い倉庫の中に響いた。
 赤い防護服と赤味のかかった金髪が、浮かび上がる。
「両手を頭の上に、掌は開いてこちらに見せたまま上げろ」
 ジェットに銃口を向けられた男は、引き攣った声を出して、指示されるまま頭の上に両手を上げた。
 見渡すと、自分を守っていたはずの部下は全員床に倒れ伏していて、血生臭い匂いが充満していた。
「金ならやる。頼むから命だけは……、助けてくれ」
 一見、エリートビジネスマンにも見える小奇麗にした30歳前後の男は、ジェットにそう懇願する。
「お前なら、この世界でのし上がっていける。私のパートナーにならないか。その腕っ節、度胸、どれを取っても一流だ。私の持っていないものを君は持っている。そんな二人が手を組んだら、そうは思わないか」
 しかし、ジェットは顔色を変えぬまま、腹這いの体勢からゆっくりと上体を起こし、膝立ちになるが、銃口は男に向けられたままだ。
 彼等はBG団の末端組織で、ヘロインやコカインの密売によって利益を上げている。その一部を組織に上納するかわりに警察の情報やヘロインの生成工場を提供してもらっていたのだ。ジェットはたまたま、仲良くなった男の子の父親がこの組織と関わりがあり、息子の為にも組織を抜けようとしていてトラブルとなったのである。
 ヘロインを隠したまま、男は組織に消され、隠し場所をその息子が知っているだろうと連れ去られた所へジェットが助けに入ったのだ。
 少年は既に、警察に保護されているはずだ。
 男は何とかジェットを説得しようとするが、ジェットの顔色は変わらないままである。
 その時であった。遠くからサイレンの音が聞こえてくる。それは徐々に近付いているようだった。警察に保護された男の子が話したのだろう、警察が来るのが予想より早かったなとジェットは思う。
 もちろん、この男を殺すつもりなどなかった。
 BG団に繋がるものはきっと何も見付からないだろう。
 それを示唆するような証言をすれば、この男は消されるであろうし、そうなったとしてもジェットには係わり合いのないことである。
 ただ、自分と友達になってくれた少年に友達として出来る限りのことをしてやっただけなのだ。それ以上でも、以下でもない。
「早く逃げなくては、君だって、警察に捕まったらまずいんじゃ……」
 男の台詞が終らないうちに、ジェットの持っていた拳銃は火を噴いた。
 男は前にどさりと倒れた。痛みを堪えながらも、必死でジェットに向かって手を伸ばす。
 拳銃から放たれた弾は、男の右足大腿部に命中していた。もちろん、ジェットはわざとその場所を狙ったのである。
 警察が来るまで動けなくする為と、ささやかな意趣返しのつもりだった。
「あんた結構、別嬪だよな。ムショで可愛がってもらうんだな」
 そう告げるとジェットは背を向け、持っていた拳銃を男に向かって投げた。
 男が助けを請う言葉を口にしようとした時、ジェットの姿は其処にはなかった。
 次第にパトカーのサイレンの音は大きくなっていく。
 男は、がくりと伸ばした手を落とした。撃たれた傷からの出血で朦朧とし始めた意識下で、そう呟いた。
「あいつは……」





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