エイコンブ様 『002』 |
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002
空を飛ぶことは楽しい。 サイボーグとして与えられた能力の一つが空を飛べることであったというのは、ジェットにとってある意味幸運なことであったのかもしれない。 戦闘とは関係なく、気持ちの赴くままに空を飛ぶことは、ジェットの心を安定させる要素がある。 例え、それがメンテナンスの一環であったとしても、戦いでさえなければ楽しいことである。 空は青く晴れ渡り、雲は多少あるし、風もあるけれども、飛行するには問題のない天候であった。 何度も、上昇と急降下を繰り返した。 次には、左右にそれぞれ旋回を続ける。 更には、上昇し背後から下降するという動作も何度も繰り返す。 例え、背面から下降していたとしても、そのまま海面に激突することはない。何故なら、ジェットの皮膚はセンサーになっていて、空気のわずかな変化を感知することが可能だからだ。 背面からでも、空気中の水分含有量から海面との距離を測ることが出来るのだ。もちろん、それはジェットという素体に組み込まれている能力であるから、活かされているだけであって、他にジェットのような飛行型サイボーグの成功例はない。 唯一の成功例が小型エンジンを背負ったサイボーグマンなのである。 技術的な問題ではなく素体の持つ、バランス感覚や身体能力に起因するものであるとの見解が出されたからこそ、飛行型サイボーグの最初で最後の成功例にジェットは成り得たのだ。 つまり、ジェットは唯一無二の飛行型サイボーグなのである。 だから、空を飛ぶという感覚を誰とも分け合うことは出来ない。 恋人であるアルベルトですら分かち合えない感覚なのである。 しかし、空を飛んでいると清々しいまでに瑣末なことが吹っ切れて、ただ自分という存在がここに在るのだという気持ちになれる。 喧嘩していたり、仕事で面白くないことがあっても、全てが文字通り飛んでいってしまうのだ。 だから、ジェットは空を飛ぶ。 飛ぶという行為が自分という存在を、認識する為の方法であるからだ。 青い空に、ジェットの残した軌跡が薄っすらと浮かび上がっていた。 |
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