Love which is fascinated 『LOVE JET(2002年9月15日発行)』より



『ウソだろう?おいっ……』
ぐらりと視界が揺れて、背筋からぞくりと這い上がってきた甘い感触にジェットは戸惑いを覚えていた。隣に座っているアルベルトの低めの体温にすら反応を始めている自分が止められないでいる。これが、二人きりならば遠慮なく、アルベルトに抱きついて自分の欲求を伝えていたであろうが、ここはギルモア邸のリビングで、ジョーもフランソワーズもギルモア博士も、仕事を兼ねて来日しているピュンマも、定休日にはギルモア邸にやって来るブリテンも張々湖もいるのだ。
 誰にも気付かれぬように、深く呼吸してみるものの一向に改善されない。
 自分で自分が制御できずに、躯だけがどんどん熱くなっていく。スリムタイプのジーンズは双丘の形までもがわかるほどのものであるが故に、膨張する股間が苦しくてならない。
 周りに視線を配ると、ブリテンの奇妙な客をモチーフにした講談もどきの独り芝居に引き込まれて皆が穏やかな笑みを零している。場の雰囲気を乱さないようにと、隣に座っているアルベルトに視線だけで、トイレと伝えると足早に部屋に向かった。
 途中、何度も立ち止まり肩で息を注いだ。
 サイボーグの自分が余程のことでは息を切らさないのに、心臓はバクバクと壊れそうな音を立てて、その音がまるで耳元でしているかの如くに耳鳴りがする。壁に縋るようにしてようやく自分の部屋に辿り着くと転がるようにドアを開けた。


『ウソだろう?おいっ……』
 アルベルトはジェットの部屋のドアを開けた瞬間、目の前で展開されている光景に息を止め、続いてごくりと生唾を飲み込んだ。ジェットが少し頬を上気させ、潤んだ瞳でトイレと視線だけで、語りかけてそっとリビングを抜け出してから二〇分は経っている。あの情欲に濡れた顔はまさしくジェットがアルベルトを誘っている表情そのもので、全く、と呆れながらも自分の隣に座っているだけで、欲情してしまうジェットが可愛いと思えてしまった。
 ビールのお代わりを台所に取りに行ったフランソワーズとジェットの元にそろそろ赴こうとするアルベルトは台所の入り口にすれ違い。珍しく、耳元で『がんばってね』と彼女はそう囁きを寄越したのだ。だいたい、弟のように可愛がっているジェットを自分に取られたのは面白くないのだと常に公言しているくせに、時折、こうした過ぎた悪戯を仕掛けてくる。前はそうジョーを嗾けて自分とジェットの股間に“象さん”を描かせたのも、黒幕はフランソワーズであったのだ。
 平和と暇を持余している彼女が大人しくしているとはアルベルトは思っておらず、そろそろナニかやらかすだろうと、長い付き合いで培われた勘がそう告げていた。
「………っは、あっ………ぁぁあん、アルッ!」
 ジェットはジーンズと下着を右の足首に絡めて、ウエストラインまでしか丈のないTシャツを捲り上げて仰向けに寝転がり、大きく足を広げて自分の股間を両手で扱いていた。いくら見慣れた光景とはいえ、淫らな行為に耽るジェットの姿は生々し過ぎる。
 時には蒼い空の下やビルの狭間、あるいは車の中で、恋人同士の濃厚な時間を過ごしたことはあったし、確かにベッドの上で歯味わえない興奮が二人を支配した。けれども、今、アルベルトの下腹部から込み上げる欲はそれらとは違う類のものであった。
 ああ、と突然アルベルトは思った。
 フランソワーズの言っていたことはこれだったのだ。夕食前にシャワーを浴びていたジェットに最近、疲れているようだからと、特性ジュースを作ってくれたのだとジェットは言っていた。全てのピースがちゃんとあるべき場所に収まり、アルベルトは全ての状況を把握出来て、奇妙に安堵をしてしまう。
「……っは、っぁぁああああんっ!」
 足元でジェットの甲高い声が上がり、ジェットは股間から白い液体を吐き出して、肩で息をしていた。口の端からは涎が床へと落ちて、下半身はどろどろとして自分が放った液体で汚れている。
「ジェット」
 いとしげに名前を呼び、跪いて熱い萌える肢体を持て余す年下の可愛らしい恋人の髪を優しく撫でる。気の毒にもジェットはそれだけでピクンと躯を竦ませて、赤く熟れた口唇から熱い吐息を吐き出した。
「アル……、オレ」
 縋るような瞳がアルベルトに向けられる。
「淫乱だな」
 自分に対してだけ、淫乱になる恋人が好きでたまらない。自ら後孔を解して素肌に自分の大きめのワイシャツを羽織っただけで誘ったり、有無を言わさずにアルベルトのスラックスを脱がせて、自分を惨く貫く凶器を咥えて上目遣いに誘ったりもしてくる。
 そんなジェットがアルベルトは至極気に入っているし、自分だけしか見せない欲が健気にも可愛らしくも映るのだ。
「あんたが、こんなにしたんだ」
 荒い息の下で台詞を綴ったジェットは、自分の体液に塗れた右手でアルベルトのスラックスを握った。洋服が汚れるのを嫌うと知っててわざとしているのだ。アルベルトもわかっていて、それに対して冷笑で返してやる。
「洋服を汚すんじゃないと、言っているだろう。言うことを聞けない悪い子はお仕置きだな」
「ああ、お仕置きしてくれよ」
 ジェットは縋るように上半身を起こして、逃げようと立ち上がったアルベルトのスラックスのジッパーを下ろすと、下着の間から愛しいオトコの凶器を取り出して、熱い吐息と一緒に飲み込んだ。
 熱い滾るオトコのそれは既に顎の小さなジェットには大き過ぎるぐらいに育ってしまっていた。先端からは、透明の苦い液体がしたたるが、ジェットはその苦さですら乾いた喉を潤す甘露に思える。
「ホント…、淫乱だ」
 頭から耳の横、そして頬から顎に鋼鉄の手を滑らせると、ジェットはびくびくと躯を歓喜に奮わせる。敏感なジェットの皮膚は触れ合う感触に多大な反応を見せる。キスをしながらこの鋼鉄の手で躯中を撫で回しただけで、達してしまえるほどの敏感さなのである。飛行する為に必要だとはいえ、その敏感さにそれ以外の理由があるのではとつい穿った見方をしてしまうアルベルトもいなくはないのだ。
 どういうわけなのか、サイボーグになってからの自分は生身であった頃よりも性欲が強くなった。生身の頃は標準的なオトコであったと思うが、今は一歩間違えは性犯罪者になりかねないとそんな自分を苦笑する。
 ジェットを見ただけで、抱きたいと思い。あの白い肢体を蹂躙して、自分の腕の中で啼かせて、淫らなポーズを取らせて、自分を欲していると言わせて、と一人でいたとしてもそんなことを想像してしまう。今度会ったら、どんな方法で可愛がってやろうかと、常に思っている自分もかなりおかしいのだとアルベルトは自覚している。
 ジェットは無心でアルベルトの股間に顔を埋めて、奉仕している。
 顎から首筋や耳の後ろと彷徨わせていた鋼鉄の手を顎にかけてもういいのだと合図すると、ずるりと自らの雄芯をジェットの口から引き抜いた。
「アルッ……」
 とどこか頼りない瞳で見詰めるジェットはやはりとてつもなく凶悪的なほどに愛らしい。この瞳で見つめられて、その気になれない男は男じゃねぇなとアルベルトは思うのだ。
「下の口に欲しいだろう?」
 アルベルトの台詞にジェットは頬を羞恥で赤くする。ジェットは自分が卑猥な台詞を口にするのには抵抗ないらしいが、アルベルトが卑猥で下世話な台詞を口にするとどうしてだが、恥ずかしがるのだ。だから、アルベルトは時折、意識して使っている。アルベルトとは言え、普通の青年なのだ。セックスにも興味があるし、卑猥な台詞も知らないわけではない。
「っあ」
「淫乱なお前の下の口に俺のが入りてぇって…言ってんぜ」
 上体を屈めて耳元でそっと囁くと、ジェットの腰がすっとんと抜けて床にアヒル座りをしてしまった。ようやく支えていた自分の躯を膝が支えきれなくなってしまったのだ。それはもちろん、アルベルトに囁かれた台詞が留めとなってしまっている。
「入れて…くれよ、あんたが欲しい。壊れちまうぐらいにあんたに突っ込んで、引っ掻き回して欲しい」
 ジェットは震える指をアルベルトに伸ばすとその手をアルベルトはしっかりと掴み、その躯を自らに引き寄せた。そして、再び床に膝を落として、ジェットを抱き上げるとゆっくりとベッドに向かう。
「……ッアル」
「全く、ベッドまで我慢すればいいものを」
 アルベルトは楽しげな色を含んだ苦笑をそのニヒルな口の端に浮かべて、硬い胸元に頬を寄せるジェットを見下ろした。
「だって、こんなに効くなんて……」
 ジェットもバカではないのだ。ジョーとフランソワーズに勧められた特製栄養ジュースが普通のジュースではないことぐらい察していたし、下腹部がほんわりと温かくなってきたから、ナニを飲まされたぐらいは見当がついた。生身の頃、躯を売って生活していた頃に数度、使われた経験があったから、似た類のものであろうと、見当はつけていた。その時は、ジェットにはたいして効かず、興奮して襲い掛かってきたオトコに辟易した思い出くらいしかない。
 なのに、どうして、ジェットは断らなかったのかと言えば、アルベルトに抱いてもらえるから、ただ、これだけのシンプルな理由である。アルベルトに抱いてもらえるなら、ジェットは手段を選ばない。わざとらしい格好をするのも平気だし、足を広げて誘うのに、衒いもない。けれども、時折、アルベルトに激しく気を失うまでに弄ばれて、嬲られたいという欲望があるのだ。
 オンナのように喘いで、アルベルトを求めて、意識を失うまで責められて、躯がギシギシと音を立ててしまうくらいに愛されたい。どんなにアルベルトが自分を愛してくれているのかは知っている。自分の手を取るのに、自分を抱きしめるのに、アルベルトの中にどれほどの葛藤があったかなんて、見詰め続けていたから知っている。
 でも、手に入れてしまうと人間、更にもっとと求めてしまうのが悪い癖だ。
 肌を重ねれば、重ねるほどに、惨く愛して欲しいと思う。
 でも、アルベルトはいつも優しい。どんなに快楽の海に自分を突き落とす時でも、その優しさは変わらない。獣の如く貪り合ったとしても何処かでジェットの躯を考えてくれている。
 それも考えられないくらいに愛して欲しい。
「わかってたのか」
「うん」
 アルベルトは呆れるよりも、嬉しいと思ってしまう。自分に愛して欲しいと真摯に訴える彼がいとしく、躯を差し出して、愛してと強請る健気さに抑えていた欲が噴出すのを感じてしまう。
「俺に、惨くされたいのか」
 ベッドにそっとジェットの痩躯を横たえながらアルベルトはそう聞いた。
「ああ、惨くして欲しい」
 ジェットはそう答える。
「どういう風に惨くして欲しい」
「あんたにならナニをされてもいい。あんたが望むんなら、奴隷になったってイイ。あんたに愛してもらえるなら、玩具を突っ込まれたって、縛られたって、どんな辱めを受けって構わない。あんたがシテくれるんなら………」
 どんなにされてもアルベルトなら応えられるし、そうして欲しいのだ。どうして、こんなに思う自分がいるのかは、未だにわからないけれども、でも、アルベルトがどんな形であったにしても欲しいと思える。馬鹿げていると嘲笑われたとしても、ジェットはそんな形でしか人を愛して、そして求めることは出来ないのだ。
「そこまで、言うんなら、覚悟しろ、お前がイヤだと泣き叫んでも止められねぇからな」
「ああ」
 そんな骨まで解けてしまいそうな台詞と共に分厚い硬い躯が覆い被さってくる。アルベルトの愛用しているコロンの香りがふんわりと鼻腔を擽り、わずかに収まりかけていた熱い欲望が再び、頭を擡げ始める。三度、自分の手で放って、少しは落ち着いたと思っていたが、アルベルトと抱き合うと、無理に留めていた情欲が噴出すように感じる。
 大腿部に触れるアルベルトの熱く硬いペニスの感覚がジェットの足を自然と開かせる。口唇を重ねながら足を開いてその間にアルベルトの躯を抱きこんで、その硬いペニスに自分の後孔を擦り合わせて、腰を揺らめかして躯で突っ込んでくれとねだってみせる。
「ああ……、あんたの、ぶっといの突っ込んでクレヨ」
 口付けの合間にそう要求するけれども、アルベルトはニヤリと笑っただけで、再び、口唇を寄せてくる。欲しくてたまらないと喉が鳴り、自然と腰が揺れて、アルベルトの下腹部に自分のペニスを押し付ける。ちょうと、ベルトの固い金属にペニスが当たり、まるで、鋼鉄の手で愛撫されているように錯覚を起こして、ペニスはどんどん痛いほどに張り詰めていってしまう。こんなにわずかな刺激で感じてしまう自分のこの機械の躯が疎ましいとは今は思えない、むしろ、アルベルトが喜んでくれるのなら、もっと淫乱になりたいのだとジェットは鼻を鳴らして、腰を揺らして、後孔を擦り付けて、あまつさえ、手を伸ばしてアルベルトのペニスを引き込もうとすらしている。
「っっぁあああっっは……、ひっーーーーー」
 視界がぐらりと大きく歪み、下腹部から突き上げる圧迫感にジェットは甲高い悲鳴を上げた。まるで下肢が引き裂かれるような痛みにも似た感覚と、何者かに支配されるという絶対感が全てを呑み込んでいく。激しい律動につられて自分の躯も揺さぶられて、何かに掴もうと必死で手を伸ばした。
 硬い躯が指先に触れ、必死で爪を立てて捕まる。
「っつ」
 アルベルトはジェットの立てた爪に僅かな痛みを感じたような気がするものの硬い人口皮膚で覆われた彼の肉体には僅かに窪みが出来ただけであった。
「欲しかったんだろう」
 と台詞を綴るが、ジェットには届いてはいない。
 キスをしている最中に自分のペニスを体内に取り込もうと手を伸ばして、誘い込むジェットの後孔に先端が入った瞬間を見計らって脇の下に差し入れていた手でその軽く細い躯をひょいっと抱き上げたのだ。ジェットは自分の体重でアルベルトのペニスを受け入れることになり、まだ、準備も出来ていない突然の行為に悲鳴を上げたのだ。しかも、息吐く間もなく突き上げられて、ジェットはあられもない嬌声を上げ続ける。
「っああ……、アルッ!」
「啼けよ。ジェット……まだまだだぜ」
 アルベルトは意識を手放そうとしているジェットの耳元にまだ、始まったばかりだとの宣言を吹き入れると今度は、軽く薄い胸を突いた。とさりと後ろにジェットの上体が倒れるが、下半身だけはアルベルトの楔に捕らえられたままだ。上体が倒れたことにより、隠れていた赤味かかった金髪の恥毛とその中心にある濡れたぺニスがアルベルトの眼前に晒される。
 ジェットの痩躯を象ったように、ペニスは小さくはないがすんなりと細い形をしている。ふるふると震える様はアルベルトの何処かに仕舞ってあった嗜虐心に火を付けてしまうのだ。
 戦いを覚えたアルベルトは元々の性質からなのか、好戦的で嗜虐的な嗜好があることに気付いていた。それは戦いの中でしか現れないと思っていたが、こうしてジェットを抱くとたまに、そんな自分が顔を出す。けれども、ジェットはそれすらも、欲しいのだとすんなりと自分が閉ざしていた自分を受け入れてくれる。
 甘えているのは自分なのかもとアルベルトは思いつつも、一度、火の点いた感情は止められはしない。
 細い腰を人の手ではない手で、がっちりと自分に引き寄せて、欲しいと強請るその鋼鉄の手でペニスを握った。
「ひっ………。あっ、っんん、……・・・・っうあん」
 痛いまでに張り詰めたペニスはまだ尚も、アルベルトの愛撫に応えようと健気にもしとどに蜜を零して、細い足をアルベルトの腰に巻き付けてくる。
「いいだろう。お前、こうされるの好きだろう」
 その台詞と共に鋼鉄の手でジェットのペニスを強く、握り締めるとジェットは悲鳴を上げて白い液体を放ってしまった。
「イタ、イ…。アル」
「惨くされたてぇんだろう?」
その台詞に呼応するかのようにアルベルトを包み込んでいる内壁がうねり、後孔がきゅっと収縮を繰り返す。ジェットはその感触にすらああと声を上げて、もっとと深くアルベルトを誘い込もうとその躯は無意識に蠢いている。
「ああ、惨くシテ・・・・・・くれよ。蕩けちまうぐらいにさ」
 己の精液に塗れた手をジェットが差し出し、その手を鋼鉄の手で取ると、彼の匂いのする掌にアルベルトはキスを落とした。



『ウソでしょう?ちょっと・・・・・・』
 リビングで経過を見守っていたフランソワーズは溜息を吐いた。想像はしていたけれども、既に二人は4ラウンド目に突入していた。やはりと思える結末に向かって驀進中というわけだ。
 どう話そうかしらと、ギルモア博士の隣で幸せそうに甲斐甲斐しく世話を焼くジョーに視線をやった。所詮、バカップル相手だ。何をしても、メイクラブの小道具になってしまうなんて、付き合いの長いフランソワーズが一番良く知っている。
 でも、そんな姿を見てキリキリとするジョーも可愛くて楽しいのだけれどもね。と、我等が女王様は張大人特製の胡麻団子をビールで流し込みながら、次は可愛い坊やたちでナニをして遊ぼうかしらと穏やかな笑顔の向こうで考えていた。





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From 'LOVE JET' of the issue 2002/09/15