螺旋状に構築される殺意 『螺旋状に構築される殺意(2002年10月14日発行)』より
◆PROLOGUE 長く白い凹凸すらない無機質な廊下を足早に抜けていく。 ここを出たら、何があるというのであろうか。旨くいけば、自分の生きる場所を見付けられるかもしれないと彼は淡い希望を抱いていた。所詮は、旨くもいくはずがないことなのにだ。それを願わずにはいられないような過酷な場所で生きてきたのだ。 父親も母親もなく、ただの肉片から生まれた自分の人生を恨むわけではないのだが、拠り所のない寂しさがいつも心から離れずにいた。 自分が自分であることなど、許されはしない。 ある人物のコピーとして生まれて、彼に如何に近付くかだけにその全て費やして来たのだ。彼と同じものを好み、彼と同じ反応をして、彼と同じ人を好きになるように、彼と同じ…、ただそれだけだ。 些細なことでも自分であることは認められない。 羨ましいとは思わないが、自分は何者なのだろうとの疑問には囚われる。でも、行かねばならないのだ。逃げ出すことは出来ない。脅されているわけではないけれども、彼はそうして生きていくことしか知らなかった。二人で手を取り合ってここを出て行く選択肢を思い浮かべることすら出来ない。そんなふうに彼らは生まれて、教育されて、そして生きてきたのだった。 ここに残していくただ一人の同胞であり、友でありも家族であるその男の存在が気に掛かる。 生まれてから、訓練と名のついたこと以外では離れたことなどなかった。 違う肉片から生まれ、生まれた時から、睦み合い愛し合うように仕向けられた男。恋しているのではないけれども、大切な人だる。抱き合う行為ですらそれは互いがオリジナルに近付く為のものでしかない。 彼らはオリジナルと寸部違わないことだけを求めてられてきたのだから、それしか互いと抱き合う理由すら思いもつかずにいた。 自分のオリジナルはここに居る。 二人で攫って来た。目の前に飛び出した自分と瓜二つの存在に躊躇した瞬間、背後から彼が電磁波銃を撃った。サイボーグである彼らに麻酔銃は有効ではない。人工皮膚で跳ね返ってしまうし、機械の躯には効果はない。しかし、電磁波銃ならば、脳を痺れさせる効果と、体内の機械部分に誤作動を起こさせて動きを拘束できるのだ。 彼が面倒を見てくれるのだからオリジナルの心配はない。 自分と同じ顔をした彼には、何とも言えぬ感情があるのだが、それを誰かにぶつけたからといってどうなるものでもないのは自分が一番わかっている。 そして、その自分のオリジナルが、万が一の時は大切な人質となるのだ。 後は、自分が旨く彼ら00ナンバーの中に入っていけるかに作戦の成功は掛かっていた。 00ナンバーの中に入り込んで彼らを分裂させ、疑心暗鬼に陥らせた後にギルモア博士の元にある00ナンバーサイボーグの研究データの破棄、そして博士の抹殺が与えられた任務だった。 多分、最初で最後の任務になる。 何故なら、彼はこの為だけに生まれて来たのだから、それしか人生の目的がない。 自分たちを生み出した男は、こう言った。 任務が成功した暁には自由にさせてやると、00ナンバーの一員としてオリジナルの代わりに残るも良し、逃げ出して戻るも良し、何処かに行くも良しと言われている。まだ、先を決めていない。決められるはずはないのだ。自分のことすら自分の意思で決めたことはないのだから。 喉が渇いて何を飲むかとそんな些細なことですら、常にオリジナルなら、との思考が骨の髄まで染込んでしまっていた。 多分、オリジナルならただ一人の同胞と生きていく道を選ぶであろうけれども、でも自分はと言われるとどう答えていいのかわからない。自然と任務を終える時までには結論がでるのだろうと思う。 長い白い無機質な廊下の向こうに、晴れ渡る青い空を溶かし込んだ海が見えて来た。 この向こうに自分の、コピーとしてではなく、自分という存在の未来があるのだとそう願いたかった。 「ジェ、ジェットッ!」 背後から、全力でただ独りの同胞が走ってくる。息を切らせて、髪を乱して、感情を凍えさせた彼に相応しくない行動であった。いつも、決して感情を出さないでいる男であった。セックスの時ですら感じていても片眉を少し上げるだけで、何も伝えようとはしない頑なな男のすることではなかった。 「アル、何か忘れもん?」 振り返った肩に鋼鉄の手が置かれて、強く引き寄せられた。荒い息を整えるまでもなく強く、その痩躯を抱き締める。 ジェットと呼ばれた青年は目を丸くしている。 何が、彼にあったというのだ。一度として、セックスという行為の恋という名前の訓練でしか抱き締めてくれなかったのにと、不思議に思う。 何も語らずに、ただ強く強く抱き締められる。 躯がぎしぎしと悲鳴を上げてしまいそうな痛さだけれども、何処か心地好くて、何故か安心できて、初めて彼に抱き締められたのだとの気持ちになれた。 死線の只中に行くにも関わらず、この穏やかな感情は何であったのか、知りたくもないが、この感触を忘れたくはない。生きて帰って来られたら、またこうして抱き締めてくれるのだろうか。 でも、きっと彼はそうしてはくれないと思う。 何故なら、彼は凍えた心を持つ男のコピーなのだからと、抱き締められながらそんなことを思える自分に苦笑した。 「行かなきゃ」 男の強い抱擁から身を捩るようにして逃れたジェットは二、三歩後退り、まるで何かが弾けるような勢いで外を目掛けて走り出した。 腕の中からすり抜けるように消えたジェットを追いかけて、男が外へと続く開口まで来た時には、既にその抱き締めた痩躯はなく青い空に白いラインを描く雲があるだけであった。 凍えた心を持つ男はいつまでも、いつまでも抱き締めた彼が消えた方向を見詰め続けていた。 ◆002´Side 『なぁ、アイシテル。だから、オレをアイシテって言ったら、オマエ、怒るか?』 オレは目の前に立っているアイツにそう真正面から問い掛けた。アイツは困惑した表情を見せる。ああ、一度だって、アイシテルなんて上等な言葉使ったことねぇよな。 でもさ、もう、オレたち誰にも、ナニにも気を使わなくっていいんだぜ。 オレはオマエをアイシテル。 ずっと、一緒に居たい。 訓練じゃなくて、恋人として抱き締めて欲しい。そうして愛し合いたい。 ダメなのか。 例え、それが生まれる前から故意に決められていたことかもしんなくても、オレはアイシテル。最後にオマエを選んだ。 いや、ホントウに愛している人を見付けた。 コピー、どうだっていいよ。サイボーグ?関係ないさ。 だって、オレたちにはそんなものに拘る理由なんてなくなっちまったじゃぁないか。 生まれたこの島でずっと、一緒に居たい。 抱き合って、アイシテルと囁いて欲しい。 『アイシテル』 「ああ、ジェット、アイシテル。オマエだけを愛してる」 オレたちは、腕を伸ばして互いに抱き合った。 誰に抱き締められるよりも幸せで、オレは全ての願いが成就したのだと嬉しく思えた。誰にも邪魔されずに、ずっと二人きりで居られる。アイシテイルと言って抱き締めてくれる人がいる。それがホントウの幸せなのだとオレはようやく知ることが出来た。 オレがアイシテルのはアンタだ。アル・・・・・・。 固い胸に全てを預けてオレは、瞳を閉じた。 ××× 『あんたをアイシテイル』 そう呟いたオレの躯をあんたは撃ち抜いた。 関節への集中射撃でオレの足はもげ、左腕も肘から下はなかった。 みっともない姿だろうと思うぜ。あんたはこんなオレを見てどう思うんだろうな。オレを抱いて肉欲に溺れた数日間を、抱いた躯を自分で壊す気分って、知りたいとは思わないケド。それで、あんたがオレのこと覚えていてくれるならいい。 どうせ、オレ達は過去の遺物で、狂った科学者の遺産にしかすぎなかったんだ。 幻は消える運命なのさ。 でも、オレがあんたに抱いた感情は幻でも、インプットされた行動でもないことを知っていて欲しい。伝わらないだろうけど、その言葉をこの世に残して逝きたかった。受け入れてくれるあの世なんてないから、オレとあんた、あの世でも再会できねぇだろうけど。 もしオレに魂があるんだとしたら、あんたの傍に居たい。なんてね。 でも、多分、それは出来ない。オリジナルと幸せそうに笑うあんたを見たら、オレ、オリジナルを取り殺しちまうだろうからさ。ジェット・リンクである以上、好きな相手を誰かと、例え自分に至極近い存在であったとしても、シェア出来るわけがないじゃないか。 あんたに撃たれながら笑うオレを見て、あんたはほんの僅かだけどぎょっとした表情を作る。 戦ってるあんたは無表情に見えるだけで、その下には激しい感情が秘められている。優しくオレの出来そこないの躯を細やかに愛撫してくれた鋼鉄の右手は、それでも警戒を緩めずにオレに向けられたままだ。 あんたの戸惑いを感じながら、オレはオレのすぐ傍で白い液体の海に浸されたオレと同じ存在のアイツの元に、腕一本で這いずって行く様をあんたはじっと見詰めていた。 もう、機能は完全に停止してしまった。 あんたと同じ顔と躯を持った男。 でも、あんたのように優しくはない。オレを大切には扱ってくれない男。 でも、オレにとってはただ唯一の同朋。あんたをアイシテルけど、あんたとは行けない。この気持ち、多分、わかっては貰えないかもしれない。 あんたをアイシテいたけども、こいつを嫌いなわけじゃないんだ。この感情を何と呼ぶのか、一年しかこの世にいなかったオレには分からないけど。オレは、死ぬ時はこいつと一緒だと、ずっと前から、この世に生み出される前から、その想いが心にあったんだと思う。 鼻や耳や目からはこいつの人工血液が流れ出している。 こいつの胸に上体を預けて、一本だけ残った腕で汚れた顔を拭った。 『男前が台無しだ』 そう、呟いた台詞はあんたにも届いているはずだ。あんたをアイシテルけれども、死ぬのはこいつと一緒でなくてはならないんだよ。 あんたにはオリジナルがいるけど、こいつにはオレしかいないんだ。自分の凍えてしまった心に苛立っていたのは、こいつ自身だったんだ。確かに、オレは一度も、こいつに愛しているとも好きだとも言われたことはない。 セックスだって、オレがいかにオリジナルに近付くかのためだけで、オペレーションの一つとしか捉えていてくれなかった。恋人らしいハグの一つもしてくれなかったんだぜ。でも、オレがギルモア研究所に潜入するためにここを出て行こうとした時、こいつ、突然にハグしてくれた。息が詰まりそうに強く抱き締めてくれた。 何がこいつにあったのかわかんねぇけど、独りにさせられない。 同じ顔なのに、あんたとは全然違う気がする。死んでるからなんだろうかと、笑えてしまう。胸の人工皮膚を強引に片手で剥がすと、機械の胸板が露わになる。脇の下に手を差し入れて、スイッチを押すと、胸板が動き胸が大きく開かれ、脳は死んでいるのに、まだ動いている人工心臓がある。オレは周辺機器がショートするのも構わずに、その人工心臓を取り出そうとした。人工心臓に繋がれた人工血管、栄養パイプがプチプチと音を立てて剥がれて行く。 意識もない脳機能の停止したこいつの動いている心臓。 人間ではない証しなんだろう。きっと、あんたの躯もこんなんなんだろうな。微妙に違っていても、非常に似ているはずだ。 人工心臓を強引に剥がすと、オレはそれをあんたの前に投げ付けた。 ゴロゴロと嫌な音を立てて、心臓の形をした機械が転がって行く。 ことりとあんたの足元で止まった心臓。 『もうすぐ、こいつの体内の爆弾が爆発する。5分後だ。あんたの大切なモンは一番奥の部屋に大切に預かってる。鍵は、そこに転がってる年寄りの白衣のポケットに入っている。あんたらなら5分もあれば、十分なはずだろう』 あんたは何も言わずに、あんたが殺した年寄りの白衣から、鍵を取り出すと、わき目もふらずに部屋を出て行った。 オレもその背を追わなかった。 部屋に静寂が訪れる。 何も聞こえない。 こいつの胸に頭を預けて、顔を見詰めた。 嫌いなわけじゃない。でも、オレにはどうしてあげたら良いのか分からなかったんだ。苦しかった。凍えた心を持て余しているこいつを助けたかったんだ。出会って一年、躯は幾度も重ねたけれども、心を重ねることは出来なかった。 ただ、独りのオレの仲間で、友達で、家族だった男。 人工血液のついた口の端を指の腹で拭い、口唇を重ねた。 セックスの最中でしか、キスもさせてくれなかった男なのに、どうしてキスをしたいのだろうとオレは思う。 重ねるだけのキス。 視界が霞む。 オレ、何、泣いてるんだ。 こうなることはこいつのオリジナルに出会った時から分かっていたことじゃないのか。今更なのに、何故、泣ける。 一緒に死ぬと覚悟していたのに、どうして、オレは悲しいし、辛いし、こんなにも、こいつともっと生きたかったなんて未練を感じなくっちゃいけないんだよ。 『アイシテル』 ああ、そうだ。 アイシテいるのは、こいつだったんだ。あんたはそう、スキだったんだ。ホントウは、オレはこいつをアイシテいたんだ。だから、凍えた心を溶かすことの出来なかった自分が嫌だったのだ。 『アイシテル』 唯一、残った手でこいつの頬を撫でる。愛しい気持ちが溢れ出す。 最期だから、気付けたのかもしれないとしたら、オレは凄く馬鹿ってことだ。オリジナルのことも散々馬鹿扱いしたけど、やっぱり、馬鹿のコピーも馬鹿だったってことなのさ。 甲高い音が聞こえ、僅かにこの建物が揺れる。 二人は脱出したのだ。 よかったと思うよりも、邪魔モノが居なくなったと思うオレは、随分、尻軽なのか。 『なぁ、アイシテル。だから、オレをアイシテって言ったら、オマエ、怒るか?』 ××× 「どうした?」 そうオレに声を掛けたあんたを振り返る。 いとしいという感情を欠片も隠さずに向けてくれるのは、オレに対してじゃないってわかっていても面映くなる。愛されると言う感触の心地良さを始めてオレは知ったんだ。セックスで気持ちよくなる方法はいくらでも躯が覚えてる。 でも、抱き合うだけで満たされる心は、オレには縁がなかったし知らないことなんだ。 あんたはいつもこうしてオリジナルを抱くんだろう。哀しいわけじゃないけど、妙に心が痛くなる。泣きたくなるような感情が一体ナニであるのか、オレにはわからない。生まれて1年しか経っていないしオレはオレ自身として存在することを許されなかったから、自分の心を深く掘り下げたことなんかないんだ。 オリジナルがどう行動するのか、そればかりを追い続けてくるような人生を歩んで、ってほど長い時間じゃねぇけど、そんなんだ。 後ろから優しく抱き締められる。 肩にあんたの顎が乗り、そして左手は脇の下へと伸び、右手でしっかりと腰を抱かれる。背中から寄越す固い男の躯の感触と、熱い首筋に掛かる吐息、体温がない肉体であるのにも関わらず伝わる体温がどうしよもない深い思考の迷路にオレを連れて行こうする。 このまま何もせずに、オリジナルに成りすまして一生をここで終えてもいいとすら、オレは何度もここに来てから思った。 オレと一緒にいたあんたの偽者は、もっと感情のない男だったよ。 オレを抱くのは訓練の一環で愛しているわけでも、好きなわけでもない。まだ、セックスが好きってんなら救われたかもしんないがな。あいつに組み敷かれ喘ぐオレを冷たいブルーグレーの瞳でいつも見ていた。 同じ色合いなのに、あんたの瞳は凍えてはいない。 恋という熱をオレに伝えて寄越してくる。 離れるのすらいやだと言わんばかりにオレから離れようとはしない。囲うように大切にしてくれる。こんなに大切にされたことなんかないから、オレは困っちまうんだ。オリジナルはこうしてあんたに大切にされてたんだな。 一瞬しか顔を合わせてない。 あんたに愛された名残りを躯に残したオレのオリジナルは満たされた表情をしていた。それを見た瞬間、オレの心の何かのスイッチが入った気がしたんだ。それが今でもわかんねぇ。考えたくねぇ。考えることができねぇから、結局、オレは所詮、偽者だから其処までしか突き詰めることができねぇんだ。 「どうした?何かあったのか」 耳朶を通して伝わってくる口調は優しい。 だからこそ応えられねぇじゃねぇか。オレはコピーで本者は遠くに連れて行かれて、今頃あんたの偽者に玩具にされてるかもしんないなんてさ。オリジナルなら何の迷いも、衒いもなく温かな腕の中に浸れるんだろうけど、オレはその振りは出来ても心から安堵はできねぇ。 だから、ベッドに誘うしかねぇんだよ。 どうやって、オリジナルがあんたに甘えんのかよくわかんなくなってきちまったからさ。だんだん、自分が冷静でいられなくなってる自覚があるんだ。だから、オレはこう言うしかないんだ。 『アル、しよ』 「淫乱だな」 そう言ったオレの耳元にアンタは優しい囁きを吹き込んで来た。それは決して、卑下する言葉ではなく深い愛情で占められていて、如何なる時にも自分を求めてくれる恋人への存在に歓喜を覚えているのだとそう全てが物語っていた。 『だって、アルを見てるとしたくなる』 そう言うしかねぇじゃねぇか。 このまま優しく抱き締められてたらオレは自分がわからなくなりそうだった。だったら、抱かれて意識をぶっとばしちっまった方が楽になれる。こいつがベッドから出してくれなかったって、言えば言い訳にはなるじゃねぇかよ。 今、ギルモア邸には009とギルモア博士と001しかいねぇ。003は深夜しか戻らねぇって言うし、オレが002の偽者だって誰も気付いていない。簡単にこの施設の内部は把握出来た。 ギルモアの研究資料を破棄して、ついでに殺せばいいだけだけど、急ぐのは禁物だ。 まだ、博士の研究資料の保管先がわかってねぇ、聞いても不自然に思われたら、計画が狂っちまうだろう。全員が揃ったら人数からしてオレは不利になる。 ただひたすら、002としてオレはここで過ごさなくちゃいけないんだ。 『・・・っああ』 鋼鉄の手がいつの間にかしシャツの裾から潜り込んで来て、乳首を摘まれるように這わされた。あいつの手と変わんねぇなアンタの手も固くて冷たくて、でも、オレは触れられるとたまんなく感じちまう。 オリジナルがそう感じるからって、そう感じるようにって思い込みかもしんねぇ。本当はこの感触が嫌いなのかもしんねぇな。そう思うとどうしてだが、笑えてきちまうんだ。 あんたと昨日から何度も抱き合った。 確かに、そう感じるように作られてるからなのかもしんねぇけど、肉体的な快楽はあったし、優しくされて決してイヤじゃぁなかっんだぜ。でも、何処がこう心奥にしこりがあって、楽しみゃいいや、って思ってたのにセックスを愉しむことができねぇ。あいつとのセックスはそれでも訓練っていう名目があったから楽しめたけど、どうしてなんだろうな。あんたとのセックスは哀しいそんな感情が胸の奥で疼いちまうんだ。 あんたのこと好きになっちまったのかな。 だから、オリジナルにオレ嫉妬してんのかな。どんなにナニをしたってオレがコピーである事実は消えなくって、例え、オリジナルを殺したとしてもオレはオリジナルにはなれねぇんだよ。 あんたとオリジナルが過ごした時間をオレは知らないから、どんな過去が二人の間にあったのかまではオレは知ることはできねぇしな。そのように振舞えても、心の動きまではオリジナルの通りにはなれない。 既に空は暗くなっていて、大きな窓は鏡のようにオレたちを映し出していた。 すっかりシャツをはだけられて、ジーンズも太腿辺りまで下ろされて、下着の中ではあんたの鋼鉄の手がごそごそ這い回ってる。こんなセックスなんてしたことねぇよ。あいつとのセックスはいっつもベッドの中だったからさ。 足が震えて、自分を支えられなくなる。 『アル・・だっ・・・メダ』 立っていられないとそう伝えるあんたは軽々とオレを抱き上げて、そのままの乱れたオレの躯をベッドに投げて、征服してやろうとでもいうように伸し掛かってきた。重みが心地良い、支配されるその甘美な感触にオレは全ての神経を集中させた。 でないと、ナニをどう考えて感じていいのか、次第にわからなくっていく自分がイヤなんだ。 何者なのかと、そりゃぁ、002のコピーなんだろうけど、意思も感情もある。 でも、押し殺してオリジナルに成り切るしか生きる方法を知らないオレに、自分が何者なのかと考えさせるあんたの存在は辛すぎる。でも、抱かれていれば忘れられる。あんたとのセックスはハードで意識がぶっとんじまうくらいにイイからさ。 そうでしか、オレはあんたの前でジェットでいることができねぇ。 だから、オレは伸し掛かったアンタの凶器に自分から手を伸ばした。固くなり始めたアンタを握りこんで、くれよと耳元に囁いたんだ。 「オマエは、セックスが好きだな」 ああ、好きだよ。そうせずにはいられねぇよ。 でねぇと、オレはコピーとしていられなくなるから仕方ねぇじゃん。あんたに愛してもらいたいわけじゃねぇよ。でも、わかんねぇけど、優しくその腕に囲われるとつれぇ、不意に泣けてしまいそうになっちまう。 『アルとのセックス、好物なんだよっ!』 だから、アンタのすっげぇテクニックと逞しい、凶器でオレの意識をあの世までぶっとばしてくれよ。 ◆004 Side 『どうした?』 そう背後から声を掛けた俺に、オマエは俺のジェットと同じタイミングで振り返る。 偽者だと分かっていても、あまりにも似過ぎていた。 ジェットはギルモア邸に滞在している間、時折、気紛れのように真夜中や抱き合って眠りに落ちた後に、散歩と称した徘徊をすることがある。何を考えて、そのような行動に出るかはわかりはしないが、戻ってきたジェットはいつも楽しそうで、何処に行っていたのかと、ジェットが自分から口を割らない限り、俺も深く追求しようとは思ってもいなかった。 でも、朝方まで抱き合った後、眠ってしまった俺の腕の中から抜け出して、翌朝、戻ってきたジェットは僅かに印象が異なっていた。 でも、散歩に出掛けた後はよくあることなので、俺はあまり気にもせずにいた。 太陽がすっかり昇ってから戻ってきたジェットに、朝食を食べずにフラフラしていたことを叱ると、しょぼんと子供のように肩を落としてごめんなさいと言う。オレは構わないが、用意をしてくれているジョーに謝っとけというと、メシを食わなかった俺の心配をしてくれたんじゃないんだと、今度は反対に口唇を尖らして拗ねる。 ジェットは、こういう子供じみた部分を多く残している。 これが、愛情をもらえないまま躯だけ大きくなった歪みだと俺はそう思っている。けれども、そのくせ人に愛情を与える術はどうしてだが、心得ていて、サイボーグにされてしまった苦しみや絶望から俺たちを救い出してくれたのは、ジェットだった。 アンバランスで、優しい傷つきやすい心を持ったジェットを俺は愛している。 男と恋愛をすることなど生身の頃では考えられなかったことだけれども、今はジェットを腕に抱くことが、肌を重ねることが俺にとっては当たり前になっている。 拗ねてそっぽ向いたジェットの襟足の跳ねる癖のある赤味がかった金髪を優しく撫でて、細い躯を抱き寄せた。 そっぽ向いたままだけれども、素直に抱き締められるジェットが俺にはいとしくてならない。 『当たり前なことを聞くんじゃない。ちゃんとメシは食えって言ってるだろう』 こめかみに優しくキスを落とすと、ビクっと痩躯が戦慄く。 それがどういう意味か、俺にはわかっていた。僅かに落としたキスの感触でジェットは感じてしまっているんだ。そうだ。そうなるようにとしたのは俺なのかもしれないが、それをまたジェットも望んでいた。 ジェットに俺が求めるまま、俺がジェットに求めるまま、高い太陽の光の下で俺は恥ずかしいと身を捩るジェットを全裸にして、皇かなる肌の感触を存分に味わった。あんたもと、強請るジェットに勝手したお仕置きだとそう言って、触れることすら許さずに一方的な愛撫を与えていて、その違和感に気付いたのだ。 昨夜、くすぐったいと嫌がるジェットを押さえつけてつけたはずの赤い痕跡がその場所になかった。ことを終えてシャワーから出てきたジェットはしっかりと残った歯型にケダモノと抗議をしつつ、白い内股に残る俺の歯型を披露してくれたから知っている。 サイボーグだとは言え、人間により近く作られていて、特にジェットの皮膚はメンバーの中でも敏感に作られている。高度を音速の速さで飛行するジェットはわずかな気圧の変化を肌で感じられるようになっているからだ。それほどに敏感な皮膚はセックスにおいても敏感で、吐息が掛かっただけで身を悶えさせ、生身の皮膚のように簡単に痕が残る。二、三日もあれば消えてしまうが、昨夜、といっても明け方に近い時間につけた印が消えているのは些か奇妙だ。 それが、オマエがジェットではないと気付く、最初の理由だ。 BGが相手ならば、多分、偽者のジェットを送り込むような真似をしたとしても、ジェットが散歩から戻ってきた段階でまず、俺が抹殺されていたはずだ。博士とも顔を合わせているし、ジョーとも会っている。既に、この段階で全員が偽のジェットに撃ち殺されていたとしてもおかしくはない。そして、何者かに襲われたと仲間に連絡を入れてやって来る一人一人を順番に殺していけば、簡単に俺たちを抹殺できる。 BG団に関係があったとしても、BG団の外郭組織で本体そのものではない。ここまで、精工なジェットのコピーを作るなど、BG団の科学者の意地とかというよりも、怨念を感じてしまう。 いくら、BG団とはいえ、俺とジェットがこういう関係であることは知らないだろうし、本者のジェットの寸部違わぬ性的な反応をするまでに、そっくりには作らないはずだ。それだけで莫大なコストがかかる。ならば、ブリテンと同じ能力のサイボーグを一人、ギルモア邸に送り込んだ方が余程、効率的だ。 それに、これはピュンマと俺以外には誰にも話してはいないが、二人である結論を出したことがある。実はBG団は俺たちを抹殺してしまおうとは本気で思っていないということである。組織の邪魔者を俺たちの抹殺という任務を与えて俺たちに殺させる。 まあ、万が一、俺たちが死んだとしても、それはそれということなのであろう。 新しい兵器も俺たちに破壊されるようでは実戦に出すには改良必要だとテストができる。 あの巨大な組織が本気になれば俺たちを抹殺することくらいわけもないと、俺はそう考えている。ただ、それを実現できないのは、組織が巨大過ぎて決して、組織そのものが一枚岩ではないということだ。 それが幸か不幸か俺たちにとっては生き延びる道に繋がっている。 「アル、しよ」 そう、首を傾げる動作も、俺を誘う言葉も、俺の首に回した腕も何一つ違わない。ただ、一つ、違うのは、青い瞳の奥に哀しみを宿らせているくらいだ。だから、俺はすぐに、偽者だとわ7かっても憎む気にもなれなかった。 多分、偽のジェットの行動から推察すると本者は何処かに閉じ込められているはずだ。もし、オマエの正体が暴かれた時に人質に使うのが、定石だろうだからだ。だから、オマエが偽者であることに気付いていることをオマエに悟らせてはならない。 捜索は、他の連中に任せて、俺はこいつの相手をしなければ、本者のジェットが殺されてしまう可能性が高くなる。それくらいで、どうにかされるジェットではないはずだ。死線を潜り抜けた数は00ナンバー随一だからな。 他の連中が言うほど、ジェットはバカでも単純でもない。自分を危機から救い出す方法くらい心得ているはずだ。 でも、誰がという大きな疑問だけは残る。この精巧な偽のジェットを造るには、BG団の科学力が必要だけれども、こんな回りくどい、採算の取れないやり方はBG団のやり方ではない。 俺は腕の中にオマエを抱きながら、いくつもの推論を巡らせていた。 『淫乱だな』 俺が揶揄しながら、頬に鋼鉄の手を滑らせると擽ったそうに肩を竦めて、舌を出し、俺の鼻の頭をペロリと舐めた。こんな仕草もジェットそのままだ。 「だって、アルを見てるとしたくなる」 甘えたように頬を寄せる仕草も、俺をスキだと隠さずに告げる口唇も、鋼鉄の手で触れられる悦びを伝える吐息も何処にも、違いが見当たらないのだ。あの跡がないことに気付かなければ、俺も騙されていたかもしれない。 恐ろしいことに俺が残したのと同じ場所にある鬱血の跡すらジェットと同じだったのだ。ということは、オマエはジェットに一度は会っているに違いない。下手したら、ジェットを誘拐したのはオマエなのかもしれない。 フランソワーズですら、俺に言われなかったら気付かないとジェットの躯を透視してそう言ったのだ。それにいちいち仲間の躯の仲間で覗くような真似は普通はしないし、肌を重ねる関係でなくてはわからない程に似通ったジェットの偽者が紛れ込んだとなれば、全員が疑心暗鬼になりかねない。ジョーとフランソワーズとギルモア博士との協議の結果、黙って、経過を観察することになった。 幸いなことに現在、ギルモア邸には博士と眠り続けるイワンとフランソワーズとジョーだけで、日本で店を開いている張大人とブリテンは店の定休日にしか訪ねては来ない。博士と眠っているイワンは安全を確保する為に、研究と称して地下の実験室に篭ってもらえば、偽者のジェットが博士の暗殺を目論んだとしても、不可能だからであるし、目論見があるとしたら露呈しやすい状況になる。 で、俺は監視役ってとこだ。 フランソワーズはジョーを伴って、ジェットが監禁されている可能性のある場所の探索に出掛けた。博士が古い記憶を引っ張り出して来て、ひょっとしたらと言う可能性を示唆したからだ。フランソワーズは出掛けてに、二人ジェットがいたら、貴方とあたしで取り合いにならなくてもよかったかもねと冗談ともつかない台詞を残して、出掛けて言った。 『オマエは、セックスがスキだな』 そう言うと頬を脹らませる。口唇を尖らせる角度すら全く同じなのだ。 「アルとのセックス、大好物なんだよっ!」 と、強気の口調で噛み付くように言う台詞のアクセントも全く違いがない。 口では強気なことを言っていても、既に日の落ちた窓ガラスには後ろから俺に抱きこまれて、ジーンズを膝まで下ろされて、下着の中に手を入れた俺に好き放題されて、躯からは甘い吐息が零れてきている姿が映っている。 首筋に這わせた舌から伝わる感触も、小さく尖った乳首の形も固さも、この鋼鉄の手で握りこんだ熱い猛りの形も何処にも違いがない。滴る蜜の粘り具合まで、同じとは恐れ入った偽者だ。 俺の愛しているジェットではない。でも、俺はオマエをまるで、俺の愛しているジェットを抱くように抱くんだ。 それが俺を混乱させる。 心していないとつい、本者のジェットだと錯覚しそうになってしまう。 心の中で、こいつはジェットじゃないと幾度も呪詛のように呟きながら、俺はオマエと抱き合ったままベッドに雪崩れ込んだ。 そして、必死で俺の愛するジェットと違うところをがむしゃらに砂漠の中で小さな針を探すかのように、俺は一晩中、探し続けた。 ××× 「アル……。っん、アイシテルって言ってくれよ」 そう強請るこいつにアイシテルと囁くと奴は泣き叫んで悦んだ。歓喜の涙とも、哀しみの涙とも分からぬ涙を流して、俺の愛撫に全身で応える。何を求めているか、分からないが、こいつは俺に俺のジェットと同じように触れて欲しいと願っていることは躯が伝えてくる。 俺は、どうしたら良いのか分からないと思いつつも、いつもと変わらぬ仕草でこいつを抱いた。 数日間、ジェットを愛するように、こいつを抱き、愛した。時折、ジェットが戻って来たと錯覚を覚えながら、俺のジェットではないとの呪詛を唱えながら、でも、ジェットとの違いを探して、抱かずにはいられない日々であった。 でも、こいつは、今、俺の前でスクラップ寸前になっている。 ジェットの躯については、多分、下手したら俺の方が詳しい。弱点も知り尽くしている。 ジェットの弱点は装甲、つまり人工皮膚が薄いことと、飛行の為に軽量化された骨格等は、耐久性と言う点では、問題を抱えていることだ。特に関節部分は弱い。だいたい、怪我をする場合は関節関係が多い。 だから、俺は奴の関節部分に集中砲火を浴びせた。俺の予想通りにこいつの手と足はもがれた。俺の予測に反していたのは、それをこいつが避けようとはしなかった。自ら、弾丸の嵐に身を投じたようにすら見える行動に俺は驚きながら、戦う本能に逆らわなかった。感情が働けば、俺はこいつを助けていただろう。 でも、二人のジェットは要らない。 そう、最初に殺した俺とそっくりのもう一人のオレのように、自分以外に自分は要らない。 オレの弱点を俺は知っていて、自分の命を絶つ手段としてずっと考えていた方法で俺はオレを倒した。 オレの懐に飛び込んで、耳の穴から弾丸を送り込んだのだ。 弾丸はオレの脳を破壊させ、目、耳、鼻から人工血液を流して機能を停止させた。 ああ、俺が自分の頭を撃ち抜くとこうなるのかと、そんな感慨しか沸いてこない。戦う時には自然と感情を凍結させてしまう自分を、嫌だと思いつつも、長い間に沁み込んだ癖は簡単には抜けてくれない。 不自然な動きで機能を停止したオレに歩み寄ると言うより這って行くアイツ、愛しげに顔についていた人工血液を拭っていた。 オマエは、俺を愛していたんじゃなくて、俺が殺したオレを愛していたのだ。 だから、俺に抱かれて泣いたのだ。俺が俺のジェットとオマエを比べたようにオマエはオマエのオレと比べていたんだ。いや、オマエのことだ、失って初めて、俺が殺したオレを愛してると気付いたのかもしれない。 「もうすぐ、こいつの体内の爆弾が爆発する。5分後だ。あんたの大切なモンは一番奥の部屋に大切に預かってる。鍵は、そこに転がってる年寄りの白衣のポケットに入っている。あんた達なら5分もあれば、十分なはずだろう」 オマエはそう告げる。 俺の足元に転がったオレの心臓。黒く動きを止めた見苦しい物体。多分、似たようなものが俺の体内で今も動き続けている。 胸糞が悪くなる。 昔の自分を思い出す。 ヒルダを失って自棄になって、死に場所を求めていた自分が蘇ってくる。誰も信じられずに、全てを破戒したい衝動に満ちた日々が押し込めていた記憶の彼方から、地獄の蓋を持ち上げるかのように蘇ってくる感覚に、俺はこの二人を粉々に引き裂きたい欲求に囚われる。 右手のマシンガンを二人に向けたその先には、哀しげに俺が殺したオレを見詰めるオマエの姿があった。 ジェットと出会い、肌を重ねるようになった当初、ジェットはよくあんな瞳で俺を見詰めていた。その瞳の向こうには同情でも憐憫でもない。ただ、哀しみだけが存在していた。いつも、あの瞳を見ると苛立っていた。どうして、そんな眼差しで見るのかと、幾度も問い質して、乱暴に抱いたけれども、ジェットは笑って、何も答えはしなかった。 今は、あの時、ジェットが何を想っていたのか。少しは理解できる。 過去に囚われ、死ぬことを求めていた俺に、ジェットは同情ではなく純粋に、ただ、転んだ子供に手を差し伸べるように神が救いの手を差し伸べるように、何の見返りも同情もなく手を差し伸べてくれた。 それが、ジェットの優しさだと今は知っている。 そして、俺に惚れていたから、どんな扱いをされても傍にいたかったのだと、教えてくれた。 どん底に居た時ですらジェットは笑みを浮かべて俺の隣にいてくれたのだ。その答えを出すまでに、長い時間を要したのに、ジェットは文句一つ言わなかった。 そんな、昔の自分たちとこいつらは重なる。 俺たちのコピーなら、俺たちと同じ過程を歩んだとしても不思議ではない。 ただ、俺たちは生き延びたが、彼らは生き延びられなかっただけだ。 ギルモア博士そっくりに造られたこの白衣を着た年寄りも、肉体は博士のコピーで、頭の中は二人を作り出した狂った科学者のものであった。 ギルモア博士を恨んで、俺とジェットのコピーを作り、復讐を企んだ科学者はかなり昔にこの世の人ではなくなっていたけれども、復讐に取り付かれた科学者はその執念から脳だけを、憎んでいる博士と同じ肉体に移し替え、蘇ったのだ。 何を求めて、復讐をしようとしたのかすら、もう真実を知ることはできない。 まるで、三流のシナリオライターが書いたような展開には、反吐が出そうだ。 過去を切り取り、引っ張り出し、目の前に並べ立てられて、所業を一つ一つ、第三者に説明されてしまうような、記憶を引き摺りだされて、引っ掻きまわれたような感覚に俺はやり場のない憤りを抱えるしかなかった。 静かに、俺が殺したオレを見詰めるアイツを視線の端に引っ掛けると、俺はわき目も振らずに部屋を出て行った。 二人は、5分後には粉々になる。 跡形もなくなる。 でも、どうせ、死ぬのなら、形を残したいと思わない。人ではないのだから、土に帰ることはできないから、粉々になって、塵となってしまいたい。 多分、それは俺も望んでいること。だから、アイツは、俺の殺したオレの体内の爆弾を稼動させたのだろう。あれは、俺だから、そして、アイツはジェットだから、よく分かる。 俺たちにはフランソワーズがいたし、仲間もいた。 だから生きてこられたけれども、アイツらには仲間もいない。 互いしかいなかったのだ。 でも、俺はジェットを失ったら生きていけるのだろうかと、ふと疑問に思った。そして、ジェットは俺が死んだら、どうするのだろうかと、漠然と横たわっていた不安が形になって俺の目の前に差し出された。 俺はそれを振り払うように、ジェットが監禁されている部屋に向かって走り始めた。 ××× 俺の体内に仕込まれている爆弾は、そんじょそこらのモンじゃない。 爆破すれば、国の一つくらい簡単にふっとぶ代物だけれども、あいつの体内の爆薬は俺ほどのモノじゃなかったらしい。 やつらのアジトだった島を一つぶっ飛ばしたに過ぎなかった。 まるで、火山が爆発したかのように煙を上げる島影を水平線に乗せて俺は見ていた。 島から脱出した俺とジェットは、近くに待機していたドルフィン号まで戻ると、ジェットは待ち構えていた博士とフランソワーズにメンテナンスルームにと連れていかれた。 俺は振り返り何か言いたそうなジェットを目線だけで、見送るとそのまま島を見詰めていた。 悲しみも怒りもないのは何故だろう。 心が凍ってしまったかのように、感情が沸いては来ない。戦いの後に感じるやり場のない憤りも、尖ってささくれだった神経も自分の中に存在してはいない。 まるで夢を見ていたかのような感覚すらしてくるのだ。 爆発が沈静化したら、やっかいなどこぞの国の軍隊だのがやってくる前に彼らの死をもう一度、確認しなくてはならない。 博士は彼らが改心して、自分たちと関係ない場所で静かに生きていくのなら手を貸してもよいと言ってはくれたが、俺にはそんな気は毛頭なかった。 もし、わずかにでも生きている気配があれば、最後の始末を俺がつけるつもりでいた。そう、ジェットが愛してくれるこの鋼鉄の右手で全てを抹殺しようと決心している。それが、俺のやり方だし、今回ばかりはその意志を曲げるつもりはない。 博士には悪いが、死んでましたと報告する腹積もりだ。 俺の胸の内だけに仕舞ってしまえば、いいことなのだ。 少なくとも、俺とジェットが当事者なのだ。当事者が始末をつけてナニが悪いというのだ。 そう思いつつ、俺は未だに燻っている島影を見詰めていた。 ◆004´ Side 白い壁と白い床、そして白いシーツの中に鮮やかに浮かび上がる赤味がかった金髪と青い瞳。オレを最初に見た瞬間、無事だったのかと駆け寄ろうとして、次の瞬間にその足を止めた。 そして、『オマエは誰だ』とそう問い質し、俺を偽者だと見破ったんだ。 自分のそっくりがいるのだから、004のそっくりがいてもおかしくないとそう笑った。 オレが強引に抱こうとしても、こいつは大した抵抗はみせなかった。ただ、哀しそうな瞳の色を宿らせただけで、オレの望むように躯を開いて、あまつさえ求めるかのように腕を伸ばしてきた。 ナニを考えてるのかわからない。 オレが最初から偽者だとわかっていたのに、こいつはオレを拒まなかった…。本者とそういう間柄であるのは間違いない。躯の至る場所についた痕跡がそう物語っているし、その周囲にオレが触れれば、その痩躯を戦慄かせて甘い吐息を漏らした。 今も、夕食を片付けに来たオレに好い様に組み敷かれて、抱かれたばかりだというのに、その痕跡を残したシーツだけを纏いオレを抱き締めている。労わるように背を撫でられる手はとても温かで、オレの知らない心地良さを運んでくれる。 オレを責めることも、敵意を剥き出しにするわけでもなく諾々とオレの要求を受け入れ続けている。淫らな格好を要求しても、恥じらいながら頬を染めながらも、オレの要求を受け入れてくれる。 初めてことにオレは戸惑いを覚える。 オレのただ一人の同胞は決してオレの要求を受け入れはしない。同衾していても、心はここにあらずで、正面にいるオレを見詰めることはない。でも、こいつは違う。真っ向から当てられる青い瞳は居心地が悪いと思わせるけれども、逃げ出したいとは思えない。 細い腕と薄い胸なのに、抱き締められると温かで深い何かに抱き締められているような安堵感を感じるのだ。 そう、誰とも、こうして抱き合ったことなどない。 触れ合うことはあったとしても、それは所詮、訓練という名前のセックスで、好きな者同士の触れ合いとは全く違うものだ。オレはそれしか知らない。抱き締められる心地良さも、全てを受け入れもらえる安心感もオレは知らないでいた。 戯れるように髪の毛に指を潜らせて、背中をもう一方の手で撫で下ろす、時折髪の中に落とされるキスは甘い痺れを触れた場所から派生させるのだ。 アイツとはこんな形で抱き合ったことはない。 することだけを済ませてそそくさと去ろうとしたオレの腕の取り、まるで当たり前なのだといわんばかりにこいつはオレをその腕に抱き締めた。敵同士なのに、同じ顔と躯と遺伝子を持っているけれどもオレたちは敵同士だ。 オレたちはこいつらのダミーとして作られた。そして、そうなるように教育されてきた。どうしたら本者に近くなるのか、それしか考えたことのないそんな時間しかオレは知らない。 こいつとオレの本者がどういうふうに抱き合うのか考えることはあっても、どんな形の想いを互いに秘めているのか其処まではあまり考えことはない。感情を押し殺すように、あくまで本者のダミーとしてあらねばという枷があったからだ。 こいつが本者の代わりに、オレをしているわけではないのはわかる。 偽者だとわかっていて、身を任せるのだとしたら、余程のバカか淫乱だとしか思えないが、こいつはどう見てもどちらでもない。 オレに当てられる瞳はいつも穏やかで優しい。 単純で、無鉄砲な、性格と記述されていたが、オレにはそうは見えない。 底の見えない深い愛情という奴が、こいつの心の中には満ちている気がする。 『おい』 顔を仰け反らせるようにしてこいつの顔を見ると、笑みを浮かべてナニとオレに問いかける。まるで、恋人にするように当たり前な動作でオレのぶっきら棒な口調でも、どんな些細な呼びかけにも反応を返してくれる。 いつも自分はオレの傍にいるのだと、そう伝えてくるような真摯さが穏やかな表情の向こうにはある。 『どうして、オレを嫌いにならない。いや、オレを拒否しない』 くすりと笑う瞳には、そんなこともわからないのかと書かれている気がしてしまった。少し癪に障るが、そんなことよりもその答えが知りたかった。 「あんたが、アルだからだ」 それは答えになってはいない。 オレは偽者だ。そうだアルベルト・ハインリヒには違いないが、こいつのアルじゃない。造られた偽者でダミーだ。本者そっくりだけれども、微妙には違う。性能にも僅かな違いがある。本者のような過去も苦しみもない。 ただ、もう意識が芽生えた時にはサイボーグだったし、偽者だということも知っていた。そんなオレに何を思えというのだろう。所詮、造られた木偶人形は、木偶人形でしかない。人にはなれないものなのだ。 生身の頃、自分がどんなであったかなど、オレは知らないし、ヒルダという恋人もいなかった。過去を乗り越えて、こいつと愛し合うようになった経緯すら知らない。気付いたときには、オレの隣にはこいつの偽者がいて、こいつがパートナーだと最初から決められていた。 好きも嫌いもない。 それがオレにとっては当たり前だったのだから、仕方がない。 愛し合う者同士の営みの形を知っていても、心がどう通うのかなど見たことも聞いたこともないし、博士も教えてはくれなかったし、オレたちに知識と本者の記憶を植え込んだ教育システムのプログラムの中にもそんなものは存在しなかった。 一時的に、こいつらの仲間を欺く程度に似ていれば良いのであって、心まで似なくとも、いや、偽者には心はいらないということなのだろう。多分、オレはそう考えた。 「アルであること以外は、俺にとってたいした意味はないんだ。あんたが偽者でも、アルに違いはない」 オレに当てられる瞳には何の曇りもないように俺には見えた。 こいつが何を言いたいのかは理解できなかったけれども、オレが偽者でもこいつにとってはどうでもいいことだけは理解できる。でなけりぁ、あんな抱かれ方しても平気でいられるわけない。 躯をこじ開けるように無理に押し入っても、それでも求めるように腕を伸ばしてきたなんて、信じられなかった。 確かに、アイツもオレが多少、惨いことをしても何も言わなかった。行為の後で、静かに仕方ないよと笑うだけだった。伸ばしかけたオレの手をやんわりと留めて、独りでシャワールームに消えることも暫しあったんだ。 何がしたいのか、アイツを抱いてるとわからなくなる。 無表情に心を凍結させていないと、思うが侭に抱いてしまい、壊してしまう気がしてならなかった。どうしても、オレは本者みたいにアイツに、いやジェットに笑いかけることなど出来ない。してしまったら、オレは偽者だという自分の全てが崩れてしまう気が何処かでしているからだ。 木偶人形でなくてはならない。感情を持ってはいけない。その感情は本者が表すものと同じでなくてはならない。オレ自身から派生してくる感情であってはならないのだ。壊したい気持ちと、抱き締めてやりたい気持ちとが交錯して自分がどうすればよいのか判断できなくなる。 だとしたら、オレはオレというモノを凍結させるしかない。 004の偽者であり続けるためだ。 だから、オレではなく、アイツがギルモア邸に潜り込むことになった。オレでは、そうまだ本者に成り切れていないのだと、博士はそう冷たく言い放った。万が一の時のために、本者にサービスしてやれと、そうオレを嘲る様に。 オレが本者に近ければアイツは危険の中に身を置かなくもよかったというのだろうか。 それなのに、アイツは最後に笑って出て行った。 そんな出来損ないのオレに、こいつはどうしてこんなにも優しいのだ。 アイシテイル相手と引き離されて、そっくりの顔をした偽者に抱かれて、どうしてこいつは怒りはしないのだろう。 怒るどころかオレという存在すらも、受け入れてくれようとすらしている。 『このデキソコナイッ・・・、何をしている。さっさと戻ってこんかっ!』 博士の声が聞こえて、研究所の警報機が鳴り響いた。 多分、本者たちがここの場所を見付けたのだろう。彼らには高性能なレーダー以上の性能を持つ003が居る。それに、戦うことに対する経験値は計測が出来ないほどである。死線と死線の僅かな隙間をすり抜けて生きてきた連中だ。どんな事態でもひっくり返せる力があるのだろう。 オレは多分、何処かでこうなることを予測していた。 アイツが生きてるのかはわからないが、でも、もう一度だけ会いたいとそう思った。 身支度を整えて出て行こうとしたオレの背後から、気配がして咄嗟に振り返ったオレの腕の中にジェットが飛び込んできた。 『ジェット…』 痛い程にしっかりと首にしがみつくジェットがいた。 自分を受け止めてくれたその躯は決して大きなものではない。オレの腕の中にすっぽり納まる細い躯だ。咄嗟にオレはその細い躯を抱き締めようとして手が止まった。 そうだ。この躯を抱き締めるのはオレではない。 次にこいつを抱き締めるのは、多分、本者のオレなのだ。 オレはジェットを突き放すと、廊下へと躍り出た。僅かに、扉が開く一瞬、隙間から垣間見たジェットの目に涙が浮かんでいたのは決して、オレの見間違いはなかった。 その意味すらも、考えるまもなくオレは、オレの本者に、いや、もう一人のジェットに再会する為に、走り出していた。 一歩足を進めるごとに、オレを抱き締めてくれるジェットの姿が遠ざかり、青い空に溶け込むように消えたジェットの姿が、近付いてくるそんな錯覚に囚われていた。 ××× まるで、スローモーションの映像のようであった。 部屋に飛び込んだオレの視界に、オレを出来損ないの木偶人形扱いをし、オレを支配していた老人が血塗れで横たわっていた。訓練で培われたオレは意識することもなく動いて、左手のマシンガンの向こうに、老人を殺したであろう男を射程距離に入れる。 それよりも先に、本者のマシンガンが響き、視界の隅に入っていたもう一度、会いたいと思っていたアイツの姿があった。 そのマシンガンはアイツの足の関節を確実に狙い、アイツの足はもげて、機械が露わになった。かくんとまるで、糸を切られたマリオネットのようにアイツは崩れ落ちていった。助けようと思ったわけではない。 ただ、多分、本者ならこうするだろうと思っただけだった。 でも、本者はオレよりも何枚も上手だっただけだ。 訓練だけではない実戦を積んだ本者の動きにオレはついては行けなかった。辛うじて視界に納めて応戦するだけで反撃のチャンスすらオレには見えなかった。 何度かの銃撃の後、数十秒の沈黙の後に突然、本者は潜んでいた物陰から飛び出して来て、迷いもせずにオレに向かって走ってくる。咄嗟にマシンガンの銃口を向けるが、近距離で動くモノを打ち抜くのは非常に難しい。 幾度も訓練を重ねたが上手く的には当たらない。 その時のことをオレはどうしてだか、思い出していた。動くものに対して照準を旨く合わせられないことに対する自分に対する憤りでイライラしていたオレが気付くと、いつも其処にはアイツの困ったような視線があった。その顔が、鮮明に浮かび上がってくる。 そして、目の前まで来た本者は深く躯を沈めると一瞬で背後に回った。 『アルーーーーッ!』 ジェットの叫び声が聞こえた。 その声が本者ではなく、オレを呼んだのだとオレにはわかった。耳の横には冷たい本者のマシンガンが突きつけけられている、もうオレの頭の中を打ち抜く弾は発射されているのかもしれない。 本者なら、ああ、本者は迷わずにオレを殺すとわかっていたし、オレは殺されるなら、博士に破棄処分されるより本者に撃ち殺される方を選ぶ。わかっていた。多分、生まれて自分としての記憶が始まったその時から、偽者が本者に殺されることぐらい。 所詮、偽者は本者には勝てないのだ。 本者の過ごした年月を一年で辿るなんて無理だったんだよ。博士…。 貴方がオレたちに何を望んだのかは、わからない。ただ、ギルモア博士に害を加えたかったのはわかるが、何が原因でそう思って、どうしてオレたちを造ったのか、オレには最後までわからなかった。 叫ぶアイツの声と銃声がわずかなタイミングでずれて聞こえた。 途端に、視界が途切れる。 ああ、オレは本者に打ち抜かれたのだ。崩れる躯の感触が頭をふっとばされたにも関わらず、オレには感じられる。オレの躯と同じぐらい冷たい床の感触も知覚できる。 死ぬ時はまるで、テレビを消すように感覚器官が全て、閉ざされるのだとそう思い込んでいた。ああ、画面の見えない、壊れかけたテレビのようだ。何か音が聞こえるようで、聞こえない。 砂の嵐の画面に囲まれているような奇妙な中に、アイツの声がリアルにはっきりと飛び込んできた。 『男前が台無しだ』 そう言いつつ、多分、耳や鼻から血を流すオレの顔を優しく拭ってくれているのだろう。 その手の温かさに、オレは死ぬ間際にホントウの自分の気持ちを見付けた気がする。そうだ、オレはこの手でこういうふうに触れて欲しかったのだ。そして、今のように、優しく囁いて欲しかったのだ。 だから、心を凍えさせようとしてしまっていたのだ。 ホントウは本者が愛したように、オレもオレの愛する人を愛したかった。 でも、良かった。 最後に、オマエの声が聞けて、オマエに触れてもらって、願わくば何も残らぬようにして欲しいと願うオレは我侭で業の深い男だったらしい。機械の躯を晒したくないとか言うのではない。 そう偽者という名前でしか生きられなかったオレの存在を吹っ飛ばして欲しい。 何もなくなれば、オレはオレになれる気がする。 オマエの手がオレの胸に触れる。 ああ、オマエはオレの気持ちをわかってくれるのだ。 胸部がオマエの手で開かれて、オマエの一本だけ残った手が差し込まれるけれども、痛みはない。ああ、これで、ようやくオレはオレになれるかもしれないとふとそう思考した意識は闇に途切れた。 ××× 「なあ、アイシテル。だから、オレをアイシテって言ったら、お前、怒るか?」 オレの前に立つお前には、手も足もある。そして、オレも機械の躯で立っている。白い、それ以外に色彩のほとんどない研究所の長い廊下にいた。 向こうにはオマエの瞳と同じ青い空が見える。それを背にしたオマエはそうはにかみながらオレに告げる。 これが、ホントウにオレたちが望んだオレたちの間柄だったのだ。 と、ふとそう思える。オレが何と返事をするのか不安そうにして答えを待っていたオマエは、オレが好きだとそう告げるのを待っていてくれたのだろう。オレの手を拒もうとした時も、オレが否定した時のことを恐れたからじゃないのか。 そう、オレの都合のいい考えなのかもしれないけれども、そう思うとこいつが今まで以上にいとしく思える。 そうだ。オレたちにはもう、何も拘るものも、オレたちを縛りつける枷もないのだ。 あるのは互いの存在だけで、それ以外はいらないことなのだ。初めて、オレはオレになれた。そうだ。オマエのオレになれたのだ。 「アイシテル」 自分の気持ちを確かめようとするように、そんな言葉を紡ぐオマエの躯をしっかりと抱き締める。 『ああ、ジェット、アイシテル。オマエだけを愛してる』 腕の中に納まる細い躯。 ずっとオレを支えてくれて、そしてオレを助けてくれて、そしてアイシテくれた。いや、今でもアイシテくれている。こんなに情けないオレを、オリジナルではなくて、このオレを偽者のオレをアイシテくれる。大切な存在。 もっと、早くオレが自分の気持ちに気付いて、強くなれればお前を自由にしてやれたかもしれない。 でも、イイヨナ。 オレたちはようやく二人きりになれたんだから、ずっと、この島で二人で穏やかに暮らしていこう。 何もないこの島で、二人だけで、寄り添って抱き合って、オレたちに与えられる時間を享受していこう。 オレは細い躯をしっかりと抱き締めて、その肩口に顔を埋めた。 ああ、アイシテル・・・・・・。 ◆002 Side 『アル』 名前を呼んで、広い背中に腕を回すと、首筋に埋めていた顔を上げて、俺を見詰める。俺のアルと同じ名前と顔と、躯を持つ、アルがここに居る。 自分は偽者だと、そう言って俺をレイプするつもりだったらしいけども、俺は抵抗できなかった。俺のアルには悪いと思う。裏切ったとは思わないけども、でも、俺の愛したアルとは別の存在のアルに抱かれてしまった。 だって出会った頃のアルと同じ哀しみを纏い、心を凍らせていた同じ名前と顔のアルを俺は突き放せない。どうしても、凍えた心を溶かしたかった。肌を重ねていても、俺を見ることはない。ただ、感情の捌け口だけを求めていた彼とは違う形だけれども心を凍えさせたアルをそのままにしてはおけない。 どうしてかは分からないけれども、心を寄せたいと俺は思った。 俺に笑いかけてくれるアルが見たかった。 確かに、抱き合うまでには時間は掛からなかったけれども、アイシテルと互いに告げるのには、出会ってから長い時間がかかった。そうは簡単に、アルと同じアルの心が溶けるとは思わないけど、少しだけでも、温めてやりたいと思ったんだ。 多分、アイツの心を溶かすのは、俺とそっくりなオレであるとそう思いたかった。例え、俺たちの体細胞を使ったクローンだとしても、アルと俺の遺伝子を持つ限り互いに惹かれあって欲しいと昼のドラマみたいなことを俺は願っている。 一日に2度運ばれる食事で、何日閉じ込められているのかは知ることができる。 まだ、温かい食事は作られてすぐに運ばれて来ることも、そして、その食事をアルと同じ顔をしたアルが作っている事も、ちょっと考えればわかる。だって、味付けまで全く同じで、俺の嫌いなピーマンを細かく微塵切りにして入れる辺りがあまりにも、可笑しいくらいにアルと同じだ。 先刻も、俺の様子を見に来て、俺をここで抱いた。 最初は、自分の欲望を満たす為だけの優しさの欠片もない抱き方だった。 ただ、自分の欲求を満たすだけのセックスで、俺に極端に触れようともしなかった昔のアルと同じ抱き方に涙が出そうになる。 アルにはもうあんな思いはして欲しくはない。 でも、さっき、俺を抱きに来たアルは今までのアルとは違い。怖いくらいに優しかった。自分の欲求よりも、俺を快楽に落とし込むことに専念して、あまり触れなかった俺のペニスすら口に含んで、立ち上がるのが億劫なくらいに俺を愛してくれた。 少しずつ、俺の抱き方が変わって行ったアルと同じだった。 でも、多分、カレとは長くはいられない。 アルがきっと俺を探しに来るから、そうしたらアルは迷わずカレを殺すから、だって、俺たちは二人は要らない。混乱するし、俺はこんな傷付いたアルを二人も面倒見られない。もう一人のオレが居ることはベッドの中で聞かされた。 って言っても、のっぺりした部屋の中にはベッドしか家具はない。 俺自身も裸で何一つ、身に着けてはいない。 一日のほとんどをこのベッドの中で過ごしている。 今も先刻のセックスの余韻に浸りながら、じっと、扉を見詰めていた。 捕まってすぐの頃には脱出を試みたが、窓一つもない部屋では、逃げることもできない。できることはただ、何をされようとも生き延びて、仲間の助けを待つことだけだった。 カレは仲間は来ないと言っていた。俺のそっくりさんを送り込んだからだと、でも、俺はアルのそっくりさんを偽者だと一瞬で見抜いたじゃないか、俺のそっくりさんをアルが見抜けないわけないと言い放った俺をバカしたように笑った。 「信頼か?愛か?それが何になる。お前のアルはお前の偽者と今頃、ベッドの中だろう」 とそう言った瞳の中には、寂しさがあったのを知っているのか。 だから、俺は大した抵抗ができなかった。 背景に何があるのか、俺はわからない。 でも、BG団ではないことはわかる。 連中なら、捕まえた俺を生かしておくことはしない、すぐに殺してしまうか、00ナンバーをおびき出す餌にするかだ。こんなに奇妙な待遇はしない。 掃き溜めのゴミ箱のような場所に食事さえ与えずに閉じ込めておくだろうし、性的な虐待をするつもりなら欲求を滾らせた男たちの中に放り込んでボロボロになるまで、犯され続けるくらいなものだ。 こんなに清潔な場所を与えて、食事をさせて、しかも、この部屋にはトイレとバスがついているのだ。組織を裏切った俺たちに与える待遇ではないし、第一、アイツが俺をこんな形で抱くこともないだろう。 長い間、BG団にいて俺は誰よりも連中のやり方を心得ているから、連中ではないと、断言できる。関わっていたとしたら、外郭組織で、単独の作戦なのだろう。でも、何故と疑問は残るが、この手のことを考えるのは、アルとピュンマの仕事だ。 俺はシーツを手繰り寄せて躯を小さく丸めて、少しでも体力を温存しておこうと目を閉じた。 ××× 俺の腕の中に納まっているアルの髪を何度も何度も撫でる。アルと同じ感触と色合いのシルバーグレーの髪が、掌を滑っていく。固いようでしなやかなその髪の感触を知るのは多分俺だけだ。 アルの頭に気安く触れるのは00ナンバーの中にはいない。 まだ、アイシテルと互いに告げずにいた頃、傍で眠ってしまったアルの髪に幾度も手を伸ばして止めた記憶が甦る。こうして触れたかったと熱望した夜を数え切れないほど越えてきた。 確か、007が新しいメンバーに加わった直後だったと思う。 突然、アルが抱きついてきた。このままセックスに雪崩れ込むのかとそう思ったけれども、その夜は何もしなかった。ただ、今みたいに俺の胸に顔を埋めて一晩を過ごした。どうしたらよいのかわからないけれども、すぐにアルの寝息が聞こえてきて安堵したんだ。 その時、初めて俺はアルの髪に触れることができたんだ。 何度も、何度も梳いてせめてこの時間だけでも安らかな眠りが訪れるようにと、存在すら信じない神にすらそれを祈ったのは、もう昔のことだった。 アルにアイシテイルと告げられたその日から、滅多に思い出したことのない出来事だった。今は望めばその髪に触れることも、抱き締めてあげることも、抱き締めてもらうことも、抱き合うこともそう望んでいると、アルが欲しいと告げるだけでそれを手に入れられる。 『おい』 顔を上げて俺を見るアルはいつものアルとは違う。何処か心細いとそんな不安にブルーグレーの瞳を曇らせているのだ。知的で、決断力のあるアルとは全く違うアルだ。一度も、こんなに頼りなげなアルを見たことはない。 でも、アルなのだ。 多分、俺に出会う以前のアルはこんな顔をしたことがあるのかもしれない。けれども、俺が出会ったアルは感情を自分で抱え込めなくて、でも、どうすることもできなくて、のた打ち回っていたそんな姿だった。 『どうして、オレを嫌いにならない。いや、オレを否定しない』 俺が言うのもなんだけど、それって俺の台詞だよ。 アルと俺なら、俺がアルにそんなことを言って困らせるのが普通なんだ。そんなことアルなら言わない。いや、でも、言わせないように俺がしてしまっていたのかもしれない。 俺にアルを受け止める度量があれば、アルの苦しみは少しは和らげてあげられたかもしれない。けれども、俺は俺でしかないし、あの激情を躯で受け止めるしか方法を俺は知らなかった。 心で相手を受け止めることを知ったのは、本当に最近アルにアイシテルと言ってもらえてからだと思う。 昔に後悔がないわけじゃない。いくつもの場面でアルを傷付けてきたことに、後悔はしてるけど、昔の俺たちがなかったら今の俺たちはなかったし、俺はアルの愛を手に入れられなかった。 『あんたが、アルだからだ』 と俺が応えると腕の中のアルは困ったような顔をする。 困った顔をしてろよ。アンタのジェットはこんなことは言わないのか。まあ、昔の俺なら言えない台詞だろな。話を断片的にしか聞いてないが、このアルは不思議とよく話してくれる。話が上手いわけではないが、ぽつんぽつんと断片的なのだが、的を得た、繋げやすい状況の断片を俺に差し出してくれる。 『アルであること以外は、俺にとってたいした意味はないんだ。あんたが偽者でも、アルに違いはない』 そう、このアルは多分、俺が出会う以前のアルなのだろうと想像させるものがあって、アルではないとそう思えるから、出会う前の経験を得て作り上げられるアルの原石を見たそんな気にさせられるし、決して、こんな状況だけどイヤな気持ちにはなれないし、変だと思うけれども、俺の偽者と旨くやって欲しいと思えてしまう。 その為の手解きも悪くないと、ふとそんな寛容な気持ちにもなれたりするのだ。 不思議だ。 アルにはそんなこと考えも及ばなかったのに、俺も、少しは経験を積んでオトナになったってことかと、俺は心の中で小さく笑った。 俺に抱き締められたまま、じっと俺を見詰めるアルは何かを必死で堪えているように見える。感情など湧き出るままでよいのだとそう言っても多分、今のアルにはわからないはずだ。俺のアルならば理解できても、まだ、原石のようなアルには理解できるはずもない。 早く気付けと叱咤したいが、そうしてどうなるというものではない。教えられるものではない。時間と経験と苦痛が必要なのだから、それを超えないと手に入れられない。 『このデキソコナイッ・・・、何をしている。さっさと戻ってこんかっ!』 彼らを造った博士と呼ぶ人物の声がスピーカーを通して聞こえてくる。 口調は違うのに、声質はギルモア博士に似ていて、ひょっとしたら、彼はギルモア博士にそっくりなのかとそううたぐりたくなるような声だ。俺はこの博士という男にまだ会ってはいないし、声も今、初めて耳にした。だからこそ、彼らの目的がよく理解できない部分もあったのだ。だいたい首謀者に会えば、それなりに相手の意図も読めるけれども、相手が見えないのではどうしようもない。 それと同時に警報機が鳴り響き、この場所に彼らの敵が近付いていることを告げている。つまりは、俺の仲間が近くに来ているということだ。 俺は、現実に強引に引き戻される。 わかってはいる。 いつまでもこのアルとはいられない。 俺には俺のアルがいて、多分、俺を助けにやってくる。そして、間違いなくここに辿り着くだろう。 弾かれたようにベッドから降りて身支度するアルを、どうしてだかわからないけど、行かせたくはなかった。俺のアルに遭わせたくなかった。 マフラーが翻り、その背中を見た瞬間、溜まらない感情が沸いてくる。 止められないとわかっていても、止めたいどうにかしたい。でも、回り始めた歯車は止められないのだ。止まることは全てが死を意味することぐらい戦いの日々で俺は学んだんだ。 『ジェット・・・』 その気持ちを表す術も言葉も俺は持ってはいなかった。ただ、最後にその生きた証を腕に残しておいてあげたいと、そう思ったのだ。 もう、会うことはない。 それは、俺が俺だから、アルがアルだから理解できることなのだ。 誰かに理解して欲しくはないけれども、多分、アイツも心の何処かでそれを感じ取っているはずだ。だから、俺を抱き返そうとした手が止まっていた。 そうだ。 アル、その手は俺じゃなくって、もう一人のオレを抱くためにある手だ。 お前を抱き締めてるのは、お前のオレにそっくりなただの幻でいいんだぜ。 俺の躯を突き飛ばし、廊下へと走り出たアルの姿は扉によってすぐに閉ざされてしまった。 白い壁と白い天井と白いシーツの白い色彩の中で俺の目蓋の裏には、走り去っていく黄色いマフラーの残像が鮮やかに残っていた。 俺はぼんやりとその姿を見送ると、ベッドに戻り、自分を迎えに来るだろうアルを待つために、シーツに包まり膝を抱えて、じっと、アイツが消えた扉を見詰め続けていた。 ◆EPILOGUE 「あいつら、幸せだったんだよ」 激しく、互いの存在を貪るように確かめ合ったベッドで、その余韻を残した掠れた声で、ぽつりとジェットはそう漏らした。 ジェットの救出劇に関わったのは、フランソワーズとジョーとアルベルトだけであった。 そもそも、00ナンバーサイボーグ計画の為にクローン研究の規模を縮小させられた科学者がギルモアを恨み、外郭組織として新しい研究の道を模索した彼は、第一世代の三人のサイボーグのクローンを造り出そうとした。更には、ギルモア博士のクローンを造り、年を取った自分の脳をその躯にと移し換えていたのだ。 フランソワーズのコピーが居なかったのは、彼等の体細胞を保管していた男女別保管庫の誤作動で女性の体細胞のみが全て、クローン再生できない状態になってしまっていたからに過ぎない。 だから、ジェットとアルベルトのコピーしか存在しなかった。 復讐の為だけだった。 そんなにも恨まれることではない。科学者なら、そのような体験は、一度や二度はするものだ。 多分、それ以外に何らかの理由があったのだろうが、ギルモアは心当たりがないと彼等に語った。でも、歯切れの悪い台詞の向こうに、何かを隠しているようであったけれども、誰もそれ以上問い詰めようとは思えなかった。 でも、部屋を辞そうとしたアルベルトの背中に『すまん』とそう小さく謝罪の言葉をギルモアは伝えて寄越した。いずれ、語ってくれる日が来るのだと、アルベルトは聞かぬ振りをして、部屋後にした。 そして、一応のメンテナンスを済ませたジェットは、アルベルトとベッドの中に居る。 「何がだ」 アルベルトの答えは冷たかった。 どうして、幸せだと言える。 勝手に生み出されて自分たちそっくりに仕立てられて、何も知らずに互いだけを好きになるように仕向けられて、何処が幸せだったのだろう。 最期も、醜悪な姿を晒して、死んで行った二人。救いは全てが粉塵となり、この世に残らなかったということだけではないのか。 「もし、俺が、俺のそっくりだったら、死ぬ時に幸せだと思う」 ジェットはそう笑った。 「どうしてだ。勝手に、造られて、勝手に、好きになる相手を決められて、勝手に……」 「うん。でも、選べって言われても、きっと俺はアルを選ぶ。どんなに短い間しか生きられなくても、アルと一緒なら、それでいい。俺達のそっくりさんもそう思っているよ。だって、一緒に死ねたんだもん」 殺したのは自分たちだとは口にはしない。 助けようと思えば、二人を助けられたかもしれない。 アルベルトが偽のジェットを、ジェットが偽のアルベルトを時間を掛けて口説き落とせば、二人きりで生きて行くこともできたであろうけれども、その道を絶ってしまったのは自分たちなのだ。 そう、それが自分たちの身勝手な行為だと二人には分かっていた。 エゴだということも二人は知っている。 見てみたかったのだ。自分たちにそっくりな二人がどんな最期を選択するのか確認したかったから、二人を殺してしまった。それは同罪だ。手を下したアルベルトも、分かっていて何の手も打たなかったジェットも。 ジェットは怒りに震えるアルベルトの背中を抱き寄せる。 だから、アルベルトは優しいのだ。 自分のことのように憤る。 科学者に翻弄されたその運命を哀しむのだ。 だから、抱き締めてあげたいと思うし、ずっと、そう思ってきた。 鋼鉄の鎧に包まれたアルベルトの内面は穏やかで、優しい傷付き易い魂を内包しているのだ。ずっと、見続けていたから知っている。 今回ことで傷付いたのは自分よりも、アルベルトだと思う。 抱き締めてあげたい。 自分が彼にしてあげられるのは、抱き締めてあげることしかない。そして、何があったとしても例え、周りに馬鹿だと言われてもアルベルトの前では笑っていることしかできない。 でも、どんな時でも、それを忘れなかったら、彼を手に入れられたし、こうして抱き合うことができるとジェットはそう信じていた。 「アイシテル。アル。あんただけを……」 「ジェット」 アルベルトの哀しみを宿した瞳を見たくなくて、ジェットは誘うように腰を押し付けて、耳元に抱いてと甘い囁きを落とした。 一度、抱き合った躯だ。 アルベルトの放った残滓でジェットのアナルは綻んでいた。欲しいのだと、足を広げて誘うと導かれるようにアルベルトの鋼鉄の手が這わされる。 「っあ……」 撫でられるように触れられるだけで、腰の奥が疼き、早くアルベルトが欲しいと肌がざわめき始めてしまう。鋼鉄の指の先端を挿れられると、甘い吐息が上がるのが、ジェット自身も分かっているけれども、決して、アルベルトが求めるから、声は殺したいとは思わない。 こんなに感じているのだと、正直に伝えたいから、恥ずかしくとも声を殺したりはしたくはない。 特に、今日のように傷付いたアルベルトを見た日はそう思う。 自分をどんなに手荒く扱っても良いから、苦しみからの逃避でも構わないから、逃れて欲しいと思える。確かに、アルベルトも弱いとは思わない。強い男だと思う。自分など必要ない強さを持っているとも思うけれども、アルベルトに必要とされたかった。 どんな形でも、自分をストレスを解消させるために抱くのでも構わない。 でも、今は違う。 自分を愛するただ独りの相手として欲してくれている。 「アル……・挿れて…くれよ」 ジェットは甘くそう誘う。 アルベルトにも分かっている。やり場のない憤りを抱えた自分を受け止めようとしているジェットの想いが伝わってくる。それが、嬉しくもあり、時には情けないと思うこともある。 「アルっ!」 そんな自分を誤魔化すように意地悪をして、更に鋼鉄の指を深く挿れるとジェットの腰が逃げる。それを反対の手で捕らえて、自分の猛る肉棒に触れるまで強引に引き寄せた。ジェットの細い勃ち上がりかけたペニスとアルベルトのそれが絡み合う。 「っああ……」 口を開けて、感じるのだと訴えるジェットの喉元にキスを落とすと、もう一人の自分が落とした名残りがあった。まるで、遺書のようだと、アルベルトは苦笑いを漏らす。そして、裸のアルベルトの背に手を回したジェットは自分がつけたのではない爪痕に触れ、何を考えてアルベルトに抱かれていたのかとふともう一人の自分に想いを馳せる。 でも、すぐにアルベルトの愛撫がジェットを強引に、そんな想いから引き離した。 「いゃっ……」 互いに触れる欲望の証しをアルベルトは鋼鉄の手でまとめて握り込んだ、アルベルトと触れ合う感触とそれを擦り合わせるように動かす鋼鉄の手の感触にジェットは酔い痴れる。自ら腰を差し出して、もっとと強請るように声を上げた。 ふと、視線をアルベルトに向けると、セックスしているのにも関わらず口の端をへの字に曲げて不機嫌そうな顔をしている彼が急に可愛らしく思えてしまった。その口唇に口唇を重ねて、キスをしたいと舌で撫ぜてそう伝えると、自分から舌を深く差入れる。 それを許したアルベルトの銀色の髪に指を潜らせ、逃れられぬように後頭部を抑えて、深く深く口付ける。 下腹部から齎される快楽と、自分に貪られるままにされている口唇、そして、触れ合う心にジェットは、帰る場所が彼の傍であって良かったと心から思う。 放したくはない。 互いに触れ合いながら、そう想う。 例え、明日、不様な死に様を晒したとしても、互いの手は放したくはない。 それを教えてくれたのは、皮肉にもあの二人であったことを多分、自分たちは忘れないのだろう。 「アイシテル」 「俺も、アイシテル」 どちらともなく、想いを伝え、確かめ合う。 離れていた数日間を埋めるように、二人は長い時間、肌を重ね合わせていた。 「アル、あんたを愛してる」 |
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From '螺旋状に構築される殺意' of the issue 2002/10/14