Unclean angel 『Unclean angel(2003年5月3日発行)』より



「知りたいんだろう?」
 とジェットは意地悪く、そう言った。
 覚悟してNYに来たはずだったのに、最後の一枚を脱ぎ去ることができない。
 ハインリヒに施された愛の証を誇らしげに、自分に見せたジェットの美しさを忘れることができなかった。乳首を飾るボディクリップが、綺麗に剃毛されたペニスをしっかりと拘束するペニスリングが、鮮烈に網膜に焼き付いて拭い去れない。
 気付けば、自慰行為の切っ掛けはいつもあのジェットの愛で拘束された姿であった。
 あのように自分も愛で拘束されたい。雁字搦めにされて、愛しい人以外のことを考えられなくなりたい。二ヶ月近く思い悩んで出した結論のはずであった。
 どんな愛され方をするのか、知りたかった。
 ちらりとジェットに視線を流すと、ジェットは椅子に座ってブーツを脱いでいる。
 足の裏の人には有り得ない穴が見えてしまった。
 まるで、その暗い穴は自分の心の中にある深淵を覗き込む、そんな気持ちにさせれられてしまう。
 自分にちらりと視線を遣るジョーはブリーフしか身に着けてはいない。
 朝晩は冷え込むが昼間は春の兆しが顔を出し始めている季節だし、この部屋は暖房もしっかりと効いていて裸でいたとしても寒くはないはずである。
 しかし、ジョーが躊躇している理由はそんなことではないことぐらい、ジェットにも分かっていた。
 自分と恋人のアルベルトの関係を知っているジョーは、その危うい倒錯的な関係に共感を覚えて、自分の中に自分が愛する人にジェットと同じようにしてもらいたいのだとの欲望があることに気付かされたのだ。
 そして、二人の関係をもっと深く知りたいとそう考えてNYまで遣って来たのだろう。
 長期の休暇が取れたとNYに遣って来ていたハインリヒを空港まで送って戻って来たら、自宅のアパートの前で立ち竦むジョーの姿があった、というわけだ。
 家の中に迎え入れて、ソファーに座らせる。驚かさないようにぽつりぽつり、自分の心境を告白するジョーの話に耳を傾けたのだった。ジェットだとて、考えなしにジョーにこのようなことをしようとは思っていない。愛の形は人それぞれだし、自分達の愛し合い方は確かに異端であろうが、互いがそれに満足していればそれで良い。
 それをジョーに押し付けるつもりもないのだ。
 ただ、それをジョーが知りたいのだと必死の形相で頼み込んでくれば、そこでNOとは言えないジェットが居る。
 恋愛に対して何処か似た感性を二人は共有していたから、ジェットはジョーを無碍にはできないでいるのだ。ジョーは叶わぬ恋に自分を追い込むことにより精神的な快楽を覚える性質であったし、ジェットは肉体的にも精神的にも恋人であるアルベルトに拘束されることに悦びを感じる。
 しかし、互いに接点がないままで過ごしていれば、影響し合うことはなかったのだが、不幸にも二人は出逢い、そしてジョーはジェットとハインリヒの関係を知ってしまった。
 そのことがジョーの心の奥にあった本当の欲望を揺り起こしてしまったのだ。
「どうする?」
 ジェットは固まったままのジョーに対して冷たくそう言った。
 ブーツを床に投げ捨てるとどさりと音がする。
 その音のする方に視線を流したジョーは何か決心をするかのように大きく呼吸をして、一気に身に着けていた最後の一枚を取り去った。
 若々しい肉体がジェットの視線に曝される。
 白い傷一つない肌だ。
 それこそがギルモア博士のジョー対する愛情であり、科学者として執着の現われでもあった。人により近い形のサイボーグをと望んだ理想がジョーそのものであるのだ。
 ジェットのように排気口が見えていたり、噴射口なども存在しない。裸でいたとしても普通の人と変わらない肉体がそこにある。それが羨ましいとは思わない。何故なら、アルベルトが愛しているのは、誰でもない自分のこの躯なのだから、それ以上、ジェットには望むものなどないのだ。
「ベッドに行きな」
 ジェットは顎でベッドルームを指し示すと、ジョーは両手で股間を隠すようにして、指し示された方角に歩き始めた。
 扉の前で、一度だけジェットを振り返る。
 心細そうな表情とは裏腹に瞳は期待に濡れていた。
 その姿にジェットはジョーもやはり自分と同類なのだとの結論を出さずにはいられなかったのだ。
 確かに、触発してしまったのは自分達の存在であったかもしれないが、それを選んだのはジョーなのだ。もう、大人である。何も知らない子供ではない。これがどういう意味を持つことなのか、慎重なジョーは熟慮を重ねてきたはずだと、僅かに躊躇する良心をジェットはゴミ箱に捨てた。
 そしてジェットも立ち上がる。
 膝下まである丈の長いレザーコートをはらりと脱ぎ捨てた。肩から、腹、股間、そして足、白い素肌がジョーの目の前に鮮やかに浮かび上がる。愛される自信に満ちたジェットを見ていると自分がみそっかすの誰にも愛してもらえない存在に思えてしまう。
 ジェットの股間がぴんと勃ち上がっている。ハインリヒが来ていたとのことであるから、先刻までのジェットの行状を想像することは難しくはなかった。
「ジェット」
「オレ、今、機嫌がいいんだぜ。教えてもらいたいんなら、さっさとするんだな」
  まるで、獲物を見つけた野生の肉食獣のように舌でペロリと濡れた口唇を舐め上げる。ジョーは決心をさらに固くしてベッドルームに続く扉を開けたのだった。






「ジェット」
 空港に向かうタクシーの中でアルベルトはさり気なくにジェットの肩を抱き、自らの傍に引き寄せた。タクシーの運転手の存在を意識して躯を硬くしていたジェットにアルベルトは、仕方がないとばかりに上体だけ自分の方に寄りかかっているジェットの耳元に心配ないとの囁きを注ぎ入れる。
「チップは多めに弾んである。その意味は分かるな?」
 つまりタクシーの運賃+後部座席で起こったことを見て見ぬ振りをしろとの意味でのチップであった。この手の客は決して大都市では珍しくはない。見られているとの興奮でより快楽を得られるからと好んでタクシーの後部座席でセックスをするカップルも少なくはない、そんな世の中だ。
 様々な客を乗せて走るタクシーの運転手には慣れっこだった。
 タクシーの運転手を伺うが、バックミラーに映る顔色は何一つ変わらない。
 ジェットは腹を決めると、尻をいざらせてハインリヒにぴたりと躯を寄り添わせた。
 革の手袋を嵌めた手が、レザーコートの隙間を縫って入り込んでくる。するりと太腿を撫でられるだけで、ジェットの甘い息が上がる。
 三日三晩、アルベルトに愛され続けた。
 与える全てを享受しろ、とそう告げられた。
 人形のように、アルベルトがいなくては生きていけない赤ん坊のように、全てをアルベルトに委ねたこの数日は、天国であった。
 食事はアルベルトの手でジェットの口に運ばれた。風呂はアナルまで丁寧に洗われ、生えかかっていた恥毛は綺麗にその左手の電磁波ナイフで剃られる。周囲を触れられるだけで、硬くなるペニスにはその都度愛撫を施し、ベビードールを着せて、口唇には紅を差した。
 ペディキュアを施し、マニキュアを塗り、ジェットをオンナに仕立て上げる。
 女の格好をさせられて、恥らうジェットに綺麗だと口付けて、その躯を激しく抱いた。
 そのくせ、帰らなくてはいけない日の朝になると染めた爪先や指先を除光液できれいにし、風呂でピカピカに磨き上げる。
 ブーツとレザーコートだけを用意し、これだけを身に着けて空港まで送るように、とそう言われた時、ジェットは期待しなかったわけではない。
 何故なら、今までは密室でしかアルベルトは自分を愛してくれなかった。
 でも、外で自分に施される愛の行為は、世間に自分がアルベルトの所有物であるとの宣言のようにも取れて嬉しいと思えたくらいであった。
「アル」
 甘えた声を出して、肩に頭を凭せ掛けた。アルベルトは一向に嫌がる様子もなく肩を抱いた手で更に深くジェットの頭を抱き込んでくれる。
 それが嬉しくてたまらない。
 更に敏感な部分に手を這わされて、声が上がる。口唇を噛み締めたジェットにアルベルトは囁いた。
「声を殺すな。次に会うまでお前のその甘い声を忘れないように聞かせてくれ」
 甘美な誘惑である。
 ゲイだと近所の連中に指を差されて、今住んでいるアパートを追い出されてしまったとしても、ジェットはそれでもアルベルトの誘惑に身を任せることを選んでしまう。
「あっ…」
「気持ちいいか?」
「っう、イイ。アル」
 肩口に顔を埋めて、頬を擦り付ける。躯に馴染んだコートから漂うアルベルトの体臭に、ジェットは興奮してしまうのだ。ペニスを握り、リズムをつけて扱かれるとつい、腰が浮いてしまいそうになる。ペニスだけでは足らない。アナルに入れて欲しいと腰の奥が疼き始める。
 ペニスの愛撫だけでは、ジェットは達したとしても本当の意味でのエクスタシーを得られるわけではない。アルベルトのペニスを受け入れて、激しく抉られて初めてエクスタシーを感じられ、セックスをしたとの認識を躯がしてくれるのだ。
 このまま別れてしまうなんて、我慢できなかった。
 快楽の火種を仕込まれたまま一ヶ月近くも、アルベルトと離れて暮らすなんて我慢できない。自らで慰めたとしても所詮それは、自慰行為にしか過ぎなくて、酩酊感を齎す程のものではない。
「アル。入れてぇ」
「ここでか」
 意地悪い笑い声と台詞が脳内を侵食する。
「汚れるだろう」
「あんたの全部、あそこで飲み込むから、残さないから、くれよ」
 息が絶え絶えになりそうになりながらもジェットは強請った。三日三晩、弄られて愛された躯は僅かな刺激で気の毒なくらいに震え、次の快楽を要求してしまう。このまま帰らせたくはなかった。自分と一緒にいて、自分が快楽で狂ってしまうまで、抱いて欲しいとジェットはただ、アルベルトを求めることしか考えられなくなっていた。
「っああん」
 強く根元を握られたかと思うと、その手は離れて行く。
 肩に回されていた手に力が込められて、上体がそのまま前に倒されていくと、ちょうどジェットの顔がアルベルトの股間に当たった。硬く、スラックスを押し上げるまでになっていたペニスを見て、ジェットは嬉しくなる。
 自分のあられもない姿に感じてくれているのだ。
 だから、アルベルトに愛されるなら、どんなに淫らなことでも恥ずかしいことでもできるとの確信がある。
 震える指でファスナーを下ろして、下着の間から自分を貫く硬いペニスを探り出した。口唇を寄せてキスを落としてから、口に含むと、一杯に愛しい男の体臭が広がる。アルベルトの存在を求めてジェットの股間は痛い程に張り詰め、アナルは一人でに収縮を繰り返していた。
 出掛ける寸前まで弄られていたアナルは未だ綻んでいて、すぐにでもアルベルトのペニスを迎え入れられる状態であったのだ。
 淫らに音を立てて、何度も口の中から出し入れをして大切に大切にジェットはそれを育てていった。
 含んだまま先端を舌で突付き、根元に指を這わせる。口唇を窄めて、ちゅと先端から溢れる滴を吸い上げ、軽く歯を立てる。
 愛しい男のペニスを持っている全てのテクニックで奉仕する。
 やがて口に含むのすら辛くなる程に、そのペニスが育ち、アルベルトの息が聊か荒くなった。
 ハインリヒの手によって洗われ、整えられた髪に革の手袋の感触がある。
 髪を優しく撫でられるのは、もう良いという合図だ。
 ジェットは向かい合うようにしてアルベルトのペニスを跨いだ。すると、袷の部分から、何も身に着けていない白い足が露になる。裾を跳ね上げてアルベルトの目の前に自らのペニスを晒すとジェットは愛しそうにアルベルトの顔を見詰めた。その表情は蕩けそうと表現するのが最もよいとの顔をしている。頬に手を添えて、甘い吐息と台詞を吐き出す。
「縛って…」
 自分のペニスを拘束して欲しいと言っているのだ。
「あんたの服が汚れちまう」
 自分は汚れたとしても構わないが、アルベルトの服を汚したくはない。今からドイツまで帰っていくのだ。わざわざNYまで訪ねてくれたアルベルトの休暇にけちをつけるようでそれだけは嫌でたまらなかった。
「ああ、そうだな」
 とそんな気遣いをみせるジェットに満足そうにアルベルトは笑い、革の手袋をした手で健気に勃ち上がるペニスの根元をぎゅっと拘束した。
「っあああ」
 千切れそうなくらいの力で拘束される。ことが終わった後にはくっきりと痕がついてしまいそうな力だけれども、それすらもジェットには快楽となる。道具ではなくその手で戒められているというだけで、ペニスで沸き起こる快楽は背筋を這い登り、脳髄を激しく焼いた。白い光が爆発して、眩暈を起こす。
 腰を揺すって、足を更に広げて、もっと奥へにとアルベルトを招き入れてみせるのだった。
 欲しい、どんなに与えられても決してこの渇きは癒えることはない。どんなにアルベルトの欲望の証を注ぎ入れられたとしても、次の瞬間にはまたアルベルトが欲しくなってしまう。
 自分の躯はアルベルトの精液がエネルギーではないかと思うくらいに、何よりもその存在が欲しくてたまらない。
 タクシーの中だということすら、ジェットにとっては刺激的なセックス為のシュチュエーションになっていた。
「っあ、あ、あっ……」
 あられもない嬌声が車内に響く。タクシーの運転手がちらりとバックミラーで後部座席を伺う視線があった。ごくりと唾を飲み込む音がアルベルトの耳に届いてきた。
 そうだ。
 ジェットはいやらしい躯を持っている。
 男だと分かっていたとしても、抱きたいとそう思わせる妖しげなフェロモンを振り撒いているのだ。そうさせたのは自分だとの自負があるから、そんなタクシーの運転手の反応は、アルベルトにとってはこんな魅力的で、自分に従順な恋人を持っているとの優越感に浸れるものであった。
「ジェット」
 優しく名前を呼ぶと、快楽で濡れた青い瞳をすぅとアルベルトに当てた。
 アルベルトの存在以外、追うことのないジェットの瞳である。
「タクシーの運ちゃんが困ってるぜ」
 ここがタクシーの中だとジェットは思い出して、身を竦め頬を赤く染めてアルベルトに縋ってくる。その姿がとても愛らしいから、虐めたくなってしまうのだ。
「ジェットが、いやらしい声を上げるから、勃っちまったってさ」
 耳元にそう囁くと、ジェットの濡れた瞳は服従の色を湛えてアルベルトに向けられる。
「っひい、あああん」
 自分の状況を思い出させられて戸惑っているジェットをアルベルトは突き上げた。突然の突き上げについていけなくて、あられもない声を上げる。髪がぱさぱさと乱れて、口の端で固まった唾にその髪が張り付いた。
「お願いしてみろよ」
 アルベルトは意地悪くそう言うと、ジェットのペニスを更に強く握った。
「あっ、イタ……!」
「ケツマンコに突っ込まれて、ひいひい言ってる淫乱な俺を見て下さいって…、言えるな」
 アルベルトはどんな時でもジェットには優しい。こうしてサディスティックなセックスを要求する時程口調は優しく穏やかになっていくのだ。そして、ジェットにNOの選択肢はない。
「ほら、早く言わないと、空港に着いちまう」
 ハインリヒは耳元で囁きながらジェットのコートの前ボタンを外し始めた。上から順番にウエストのベルト辺りまで外し、そして、肩に空いた手を滑り込ませて、レザーコートを滑り落とすと薄い左肩が露になる。
 それでも、言うことを躊躇しているジェットの、今度はレザーコートの裾の持ち上げた。なんなら、全部見てもらうか、といわんばかりの視線を送るとジェットは小さな諦めの溜め息を搾り出す。
 口唇を誘うように舌で舐め、荒い息を整える。
「運転手さん…、ケツマンコに突っ込まれて、ひいひい…喜んでいる、淫乱……な、オレを見て下さい」
 ようやくそう言い終えると、アルベルトは容赦なくジェットを突き上げた。羞恥に身を震わせていたジェットではあったが、数秒後にはただアルベルトの齎す快楽に身を浸してそれ以外に考えられなくなってしまっていた。
「っあ、アル…、イイ、いいよぉ〜〜」
 喘ぎとアルベルトの名前だけを繰り返して、ジェットはタクシーの中で乱れた。嬉しいと心の奥がざわめいている。屋外で愛される。つまり自分はアルベルトのモノであるのだと、世間に知らしめてくれていると思えば、羞恥すら快楽に摩り替わる。
 アルベルトに愛されている自分を見て欲しい。
 こんなに激しく愛されるモノは女だってそうはいないだろう。
 その身をもってこんなにアルベルトは自分を愛してくれているのだと思うと、羞恥など簡単に乗り越えられてしまう。このまま裸で、精液に塗れたまま見送れといわれたら出来るかもしれないと、ジェットは激しく突き上げられながらそう思う。
「あ、もっと……」
 どんなに愛されても足りないとそうアルベルトに告げながら、ジェットはドイツに帰ってしまう恋人の頭をしっかりと抱いて甘い声を漏らしながら空港に向かったのである。






「っあ」
 ジョーは情事の残像がある部屋で声を上げた。
 自分のこんな声を聞くのは随分と久しぶりのことだと、どこか頭の隅で冷静に思った。ジェットとは違う意味の恵まれない幼少時代を送ったジョーだが、いつも被害者の立場であった。
 ジョーが育ったのは、日本の地方都市にひっそりとある教会と併設された、親元で生活の出来ない子供達を預かる施設であった。そこ以外の生活をジョーは知らなかった。
 赤ん坊の時に、その教会の前に捨てられていた。
 確かに、命の危険や寒さ、ひもじさは経験したことはない。
 贅沢な食事ではなかったが、ちゃんと栄養面を考えて作られていたし、一人一人ベッドもあった。寒ければ、暖房が焚かれていたし、学校にも通うことが出来た。
 しかし、ここは日本である。
 標準というカテゴリーに入らない子供達に対する風当たりは決して優しくはないのだ。大人達は同情を寄せ、かわいそうだとは言うが自分の子供として彼等を引き取って育てようという人などそうはいない。
 赤ん坊ならまだ貰い手はあったが、ジョーは生まれた時から瞳の色も髪の色も生粋の日本人とは明らかに違っていたから、引き取り手はなかった。大きくなっても、その容姿は整っているが故に、攻撃の対象となり、挙句は大人の都合のよい玩具にされていた。
 その地方都市の有力者が力ずくで、ジョーの自由を奪い、性的な暴力を振るったのだ。
 そして、初めての体験に身を震わせるジョーに向かって、黙っていなければ施設も教会もどうなるかわからないとそう囁いた。まだ子供ではあったが、逆らえば自分の住んでいる施設がどうなるかは心得ていた。
 それ以来、施設を囲む大人達の玩具にされたことは少なくはなかった。
 そんな生活の中での心の拠り所は神父で、ジョーには本当に彼しかいなかったのだ。だから、自分の惨めな立場を告白することなどできなかった。
 そして、その気持ちが親に対する愛情ではなく恋慕だと気付かされたのは、皮肉にも大人達の玩具にされている最中であった。
 せめて、この大人が神父様なら、とそう考えてしまったのだ。
 サイボーグにされて力を得た時は、もう自分は大人達の性的な玩具にならなくてもよいのだと正直嬉しくも思えた。実際サイボーグになってからは、それは全くなかった。しかし、神父を殺され拠り所を失った心の空洞はあまりにも大きかった。
 それを埋めようと求めたのが、彼等の父親的な存在であるギルモア博士であった。
 恋をしていると気付くのに時間はいらなかった。
 BG団との戦いが決着しても、行く宛てがないのを理由にしてギルモア博士の傍を離れなかったのは、そんな理由があったからだ。
 身の回りの世話をする日々に幸せを感じていたけれども、ハインリヒとジェットの関係を目の当たりにして、一緒に暮らすだけの関係に耐えられなくなりつつあったのだ。
 ギルモア博士を愛している。
 ギルモア博士に、愛して欲しい。確かに、博士は愛してくれているけれども、ジョーの欲している愛ではないのだ。博士は自分を、いや自分達を愛してくれていて、その存在の全てを懸けてくれているのは、理解できる。でも、ジェットがハインリヒに愛で拘束されるように、自分もそうされたいのだ。
 本当は、自分が博士に全てを捧げたいのだ。
 この触れる手が、ギルモア博士のあの節くれだった皺の寄った手であったとしたらと、ジョーは想像をする。
「ひっ、うっ……ん」
「感じる? ジョー」
 ジェットはくくくと喉で笑い、埋めていた股間から顔を上げた。
 ジョーは、うんと小さく頷いてみせる。
「縛られた気分はどう?」
 何か変だ。そう告げると最初はなと、ジェットは意味あり気な顔をした。それがどういう意味なのか、ジョーは後々その意味を深く知ることになる。
「こんなにされたことないの?」
 ジョーはないと答える。
 大人に性的な玩具にされたことはあるが、躯に傷跡をつけると面倒だからと拘束されることやSM的な行為は経験がなかったのだ。
 それが、今、友人でもあるジェットの手で縛られている。
 両手は手錠を掛けられてベッドの背もたれの部分にまとめて拘束されていたし、足は大きくM字に開かされて、足首と太腿を縄で固定してあった。
「こっちは?」
 先刻まで入り口を漂っていた指がアナルにするりと潜り込んできた。経験のあるその場所はすぐに昔を思い出して、収縮を始める。幼い頃より経験を積んだジョーの躯は、その場所でも感じられることを知っていた。
 サイボーグになったとしても、脳内に刻み込まれた忌むべき記憶は決して消えてはくれないのだ。
「ああ…」
「イイ?」
 と言いつつジェットは器用にアナルの中に入れた中指で内壁をまさぐっている。その感触にジョーは身を捩り、あられもない声を上げる。どこか清純なイメージを持つジョーだからこそ、こうして汚す行為に大人達は優越感と快楽を得ていたのかもしれない。
「っあああ…、ジェ、ット……、っあああ、イヤッ…、ああああーーーーーー」
 突然、ジョーの喘ぎが激しくなる。
 ジェットは構わずにその触れた場所を中指の腹で幾度も突いた。経験者ならば分かるのだが、内壁にも感じるピンポイントが必ずあるのだ。それは前立腺を刺激していることにもなる。ここを刺激されれば、特にアナルで感じることを知っている躯はたまったものではなかった。
 しかも、ジョーのペニスはジェットに時間をかけ愛撫され、絶頂を迎える寸前でかわされたまま、一度も達していないのだ。ジョーの勃ち上がったペニスからはしとどにヌメル液体が溢れ、茶褐色の恥毛を濡らし、足の付け根からアナルへと流れていた。
「い、いかせ……っええ、っふあっ……」
 逝きたいと懇願してもジェットは一向にその手を緩めない、更に強弱をつけて感じる内壁を弄り、張り詰めたペニスに気紛れに舌を這わせる。
 快楽を知っている躯は快楽に弱い。
 ジョーも例外ではなく、もう我慢が出来なかった。ジェットがしてくれないのなら自分の手ででも達したいとそう思って、拘束を解こうと力を入れた瞬間、ジェットは更に指の本数を増やして、痛いくらいに内壁の感じる場所を強く刺激する。
 そして、ペニスを深く喉の奥まで引き入れると、口の中で複雑な愛撫を施しながら、抜き差しを始めた。男娼の経験のあるジェットのフェラチオは絶品で、堪え性のないジョーなど陥落させるのは簡単なことであった。
「っぁ、っああぁぁあああ…、イ、イク…、っあ、っんふ、いい…、…ぁあ」
 ジョーはあっけなくジェットの口の中に放った。
 肩で息をする。何故か腕が痛い。
 ジェットは乱れたジョーの前に顔を寄せると、口の端にジョーの残滓をつけたまま笑う。
「お前、拘束を解こうとしたろ?」
 ジョーは腕が痛い理由にようやく思い当たった。ただ逝きたいとしか考えられずに、拘束を解こうとつい力を入れてしまっていたのだが、ジェットが愛撫を激しくしたので、半端な状態で止まってしまっていたのだ。
「ダメだぜ。オレ達、サイボーグだからこんなのその気になれば簡単に外せる。でも、それでも、敢えて自分では外さない。この意味……、お前ならわかるよな」
 そう耳元で囁かれて、ジョーはようやく、何故ジェットとハインリヒがサイボーグ用の拘束具を使用しないかの意味を知ったのだ。逃れることは出来る、でも、自分の意思で逃れない。つまり、支配されることを了解しているということになるのだ。
「ジェット」
 ジョーが少し、分かった気がするとの意味を込めて名前を呼ぶと、ジェットは困った顔をして、口の端の残滓を手の甲で拭った。
「全く、困っちまったぜ」
 と呟くように言うとジョーの上から降りて、クローゼットを開ける。頭を突っ込んで何かごそごそしていたかと思うと、その手に握られていたのは、黒いグロテスクなペニスを象ったものであった。
 ジョーに見せつけるようにジェットは舌で舐め、口に含んだ。ゆっくりとベッドに向かって歩きながらその黒いペニスが自分の唾液でてかてかと輝くまで愛撫を続ける。
 あれを入れてもらえるのだろうかと、ジョーのアナルは疼いた。
「入れて欲しい?」
 今更、取り繕っても仕方がない。
 ジョーが頷くとジェットはどうしようかなと視線を漂わせながらジョーの躯を跨いだ。先刻とは反対方向を向いていて、ジョーからはジェットの背中しか見ることは出来ない。
 ジェットが腰を上げると、ジョーの目の前に赤く熟れたジェットのアナルが差し出される。収縮を繰り返していて、内壁が少し捲くれ上がっていた。自分のもこうなのだろうかと、ジョーはそこから目が離せなかった。
「ったく、アルとのセックス、思い出しちまったじゃねぇか」
 と呟くジェットのアナルからはハインリヒが残した滴がとろりと出てきてしまっていた。そして後から見えるペニスもギンギンに勃ち上がっているのが目視できる。ジョーはジェットのペニスに奉仕することに異存はない。
 自分もジェット程ではないが、奉仕を数えられないくらい強要された経験は持っている。あんな汚い大人のものを咥えるくらいなら、恋愛に関して至極近い感性を持ち合わせたジェットのモノを咥えた方がずっとマシだ。
「オレさ、突っ込んでもらわねぇと、逝けねぇのっ…」
 とジョーの眼前で自らの唾液で濡らした黒いペニスをアナルに当てる。くいっと押し込むと先端が簡単に入る。もっと力を込めるとめりめりめりと黒いペニスが入っていく。途中で、一度先端部分のみを残してずるずると引き抜き、今度は思いっ切り突っ込んだ。その勢いで太い部分もすんなりとジェットのアナルに飲み込まれる。
「っくくぁ」
 ジェットと声を掛けると、アルのはもっと立派だぜと声が返ってくる。それを想像してついジョーは唾を飲んだ。
「もっと、りっぱで、突っ込まれると腹がぱんぱんに張っちまうぐらいなんだぜっ!」
 そして根元までそれを納めると、ジェットは根元についたスイッチを入れた。低いモーター音がジェットのアナルから聞こえてくる。飲み込んだディドールが蠢いているのだ。
 そのモーター音に合わせてジェットは淫らに、腰をくねらせながら快楽のダンスを踊っている。
「っああ、っ、ジョー、オレのも咥えて」
 とジョーの口唇にペニスが届くように、膝の位置を動かした。ジョーは口だけでジェットのペニスを捕らえると躊躇なくぱくりと咥えた。その瞬間に、ペニスはぴくんと良い反応を見せる。
 自然とジェットの腰が揺れ、ジョーが動かなくともジェットのペニスはジョーの口から出たり入ったりする。途中、意地悪く歯を立てると、ジェットは喘いで髪を振り乱して、悦んだ。
「ッイイ、ジョー……」
 ジェットが自ら埋め込んだディドールのスイッチにもう一度触れると、更にモーターの音が大きなり、動きが激しくなった。
「っあああ、キモチ…いい、あ〜、イキソウ」
 白い尻が揺れて、腰をジョーの顔に押し付けもっとと愛撫を強請るジェットに応えて、必死でフェラチオをする。剃毛されて、つるりとした子供のような性器のせいか、それともこの倒錯的な雰囲気に酔っているのか、次第に自分も興奮してくるのが分かった。
 自分もして欲しいと腰を突き上げると、ジェットはそれに気付き、ジョーのペニスを咥えてくれる。
 くぐもった喘ぎ声を上げながら、互いのペニスを愛撫し続ける。
 薄暗くなり始めた部屋には、モーター音と荒い息遣い、喘ぎ、粘膜の擦れる音が響く、白い肢体が二つベッドの上で、ただケダモノのように絡み合っていた。
「っぐ、ふ」
「っあ、はぁ〜ん」
 ジェットの腰が激しい喘ぎと共に浮き、ペニスが口から零れそうになった瞬間、逃すまいとついジョーは歯を立ててしまった。
 その瞬間である。
「っあ、っあぁぁぁああああっ、はぁ、ん」
 ジェットはジョーの顔に精液をぶちまけた。
 何気なくぺろりと舐めてみれば、味は然程しない。匂いもあまりしない。
 ハインリヒに、搾り取られたのかとジョーが思っていると、ジェットはジョーのペニスを再び、愛撫してくれる。幾度も舐め上げて、口に咥え抜き差しをして、玉袋にまで指を這わせて柔らかく揉む。
 一度放っても、サイボーグになってから自慰行為しかしていないジョーのペニスはいたって元気で、勢いを未だ失わない。
「っあ、ジェット…、僕もう」
「ダメだ」
 とジェットは先刻自分の上で乱れていたとは思えぬ冷たい声でそう応える。
「簡単には、逝かせてもらえないぜ」
 と呟くとジョーのペニスに何かを巻きつけた。ひんやりとした感触だけは伝わってくるが、何なのかジェットの背中に阻まれて見ることは出来なかった、次の瞬間、鈍い痛みがペニスを襲う。
 見てみろとジェットはジョーの腹の上から退いた。
 顔だけを起こして見てみると其処には黒い革で出来たペニスリングが嵌められていた。勃ち上がったままで根元をきっちりと拘束されたペニスは、血管が浮き出ている。ジェットの指先が気紛れに先端のヌメル液体が溢れ出る場所に這わされると、更にジョーのペニスは硬くなる。
 けれども、感じれば感じる程に痛みは強くなっていく。
 つまり完全に勃起していない状態で嵌められたので、勃てば勃つ程辛くなってくるのだ。
「っあ、ジェット……」
 ジェットは再び、ジョーの上に圧し掛かると自らの精液で穢れた、清純な容姿を見詰めた。
 ジョーの恵まれない幼少時代の話しは聞いて知っている。
 BG団から逃げ出した頃のジョーは、BG団よりも自分達の存在に気を張っていた。あまり男性陣には近寄ろうとはせずに、フランソワーズの隣を意図的に陣取っていたのをジェットは見逃していなかった。自分もそんな経験があったからこそ、ジョーの行動にぴんと来たのだ。
 その後、様々な経緯を経て、互いに大人の性的な玩具にされた経験を語るようになっていったがだが、その後その話しになるといつもジョーはどうして自分がとそう言っていた。
 でも、こんなジョーを見ているとわからない気がしないでもない。
 大人達はこの清純な顔を汚すことに喜びを見出していたのだろう。ジョーはギルモア博士にそうして欲しいのだ。しかし、ギルモア博士は決してそれを望まないだろうと、全て分かっていた。
 でも、ジョーの欲望は止められない。
 自分はたまたまアルベルトが応えてくれたから、こうして彼の愛に耽溺できるけれども、ジョーは違う。そうされることを夢想しながら自分を慰めることしかできないのだ。そのジョーの心にあった欲望を気付かせてしまったことに、少しの後悔を感じていたから、敢えてジョーに手を差し伸べたのだ。
 所詮、自分達の関係はマスのかきっことナニヒトツ変わらないものだ。ジョーはジェットを抱くことはないし、ジェットもジョーを抱くわけではない。慰め合うだけのことなのである。
 ジョーもそれを求めているし、自分もそんな形でしかジョーには応えられない。
「ジョー」
 ジェットは穢れたジョーの顔に自らの顔を近付けた。そして、精液をペロリと舐めると、やっぱ薄いわとそうコメントをする。
「やっぱ、三日三晩、吸い取られるとこんなもんか」
 自慢とも、冷静なコメントとも取れる台詞にジョーの躯が疼く。博士にベッドに拘束されて三日三晩、嬲られ続けたら自分は嬉しくて発狂してしまうかもしれない。有り得ないことだけれども、望まずには居られないのだ。
 温厚でいながらも、時折覗かせる科学者としての冷徹な視線で撫で回されたい。実験動物のように扱われても構いはしない。全裸で首輪を着けられ、檻に入れられたい。ペニスにもギルモア博士の持ち物であるとの証しのペニスリングを嵌められて、博士の来訪だけを待つ。そうなれば、自分はどれ程幸せだろうと。
「なあ、お前、博士にどうされたい?」
 そして、ジェットはジョーの口唇に自らの口唇を寄せた。啄ばむだけのキスを数度繰り返すと、もう一度、ジョーに尋ねる。
「どうされたい? して欲しいことをしてやるよ」
 とジェットは、そんな誘いの台詞をジョーの耳元で囁いた。





「僕は、ギルモア博士に………」





 ジェットは久しぶりにおだやかなセックスをした気がした。
 普通の恋人のように抱き合い、普通にセックスをする。たまにはこんなセックスもするのである。いつもいつも、ジョーが焦がれたようなセックスだけをしているわけではない。
「アル」
 穏やかに凪ぐブルーグレーの瞳がジェットに向けられた。そして、何だと隣にいるジェットの躯を抱き寄せた。つい数分前に、ハインリヒの欲望を注ぎ込まれたジェットのアナルからは精液がとろりと出てくる。
 その感触は幾度経験しても慣れるものでなく、その度に躯が竦むが、その感触をやり過ごした後には、幸福感に包まれるのだ。
 オンナでもなく、誰でもなく自分にその猛りをぶち込んでくれることがジェットには嬉しいことである。
「ジョーがさ」
 ハインリヒの目が途端に剣呑な色を帯びる。
 つい数ヶ月前にメンテナンスでギルモア邸を訪れた折に、ジェットはジョーに自らが施してやった愛の証を見せていたのだ。そして、こともあろうかジョーはそれに引き寄せられるかの如くにジェツトのペニスに触れたのだ。
 ジェットに対して、過ぎた独占欲を持つハインリヒにしてみれば眉間に皺を寄せたくなるような出来事であったのだ。それを見た瞬間、心に火が点いた。どれ程自分がジェットを欲しているのか知らしめなくてはと、かなり手酷いセックスを強要してしまった。
 手足を拘束したまま床に転がし、ペニスを拘束し逐情できないようにし、更にアナルには小型のディドールを入れて半日近く放置した上に、尿道にカテーテルを挿入するプレイまでさせた。
 カテーテルを見た時、ジェットは脅えた顔をしたが、決して逆らうことなく従順に自分に身を任せてくれたものだ。
 ジョーに素肌を見せれば、自分が普通でいられなくなることくらいは分かっているくせに、どうしてジェットがそんなことをするのか知りたかった。確かに、二人の間には何か秘密めいた友情が確立していることは感じ取れるが、それが何かはアルベルトは知らない。
 ただ、推測するとすれば、ジョーはギルモア博士に惚れている。それは間違いないと思う。自分にすら嫉妬しているとの視線を向けてくるくらいだから、半端な惚れ方ではないのだろう。
 そのジョーの恋愛の相談役がジェットだと考えれば、二人の秘密の友情というものにも納得が行くし、ジェットがジョーに対して素肌を晒した理由も検討がつく。
「ジョーがどうした」
「あんたが、NYから帰った後、訪ねて来た」
 ジェットはそこで黙ってしまう。そして、アルベルトに強く抱きついて、首筋に顔を埋めてキスを一つ落とした。
「寝たのか」
「うん、でも、アレは寝たっていうのとは違う」
 ジェットは暫し躊躇していたが、これは話しておかなくてはいけないことだろうと心を決めてアルベルトを訪ねたのだ。今後、同じことがないとはいえない。その度に、恋人を騙すようなことはジェットにはできない。
「ジョーはギルモア博士が好きで…」
「知っている」
 アルベルトのその答えにジェットはそうなんだと、呟くように台詞を吐く。でもアルベルトの顔は見られずに首筋に頬を摺り寄せたままである。
「オレがあんたに愛されるみたいに、博士にして欲しいって……」
 長い付き合いだから、これだけでジェットの言わんとする言葉の意味を察してしまったアルベルトである。だから、ジェットはジョーとセックスをいや、自分達の愛し合い方を教えたのだ。
 知りたいと願うジョーの気持ちに応える為に。昔、叶わない恋心を自分に抱いていたのだとジェットは言っていた。その叶わぬ気持ちを知っているが故に、ジェットは黙っていられないのだろう。
 ただ、ジェットとジョーの間に恋愛感情が介在しなかったとしても、独占欲の強い男からしてみれば面白くないことなのである。例え自慰行為の延長にその関係があったとしてもだ。
「ジョーの気持ちに火、点けちまったみたいだ」
 ジェットはそう告げると、その告白を誤魔化すかのように突然顔を上げて、台詞を綴ろうとしたアルベルトの開いた口唇を奪った。
 圧し掛かり、舌を滑り込ませてアルベルトの腔内を弄る。
 ジェットの尻がアルベルトの硬い腹に乗り、アナルからはとろりと自分の放ったものが流れ出てくる。
 ジェットはジョーとのことを後悔しているわけでもないし、ジョーが博士に対して積極的にアプローチをすることを反対しているわけでもない。
 裏切りではないのだが、ジョーとしてしまったセックスの存在を心の中でどう位置づけるのか、ジェットは聊か悩んでいるだけなのだ。ジョーもギルモア博士も大人だ。自分の始末は自分でつけるだろうし、自分達がどうとは言わない程度には分別もあるだろう。
 アルベルトは喰らいついてくるジェットの口唇を引き剥がす。
 こんな告白をされた後なのにその青い瞳を覗き込んで、穏やかに笑ってしまう自分がいた。いつもなら、ジェットが自分以外の誰かに心を寄せることが、嫌でたまらないのに今夜は不思議とそんな気分にはならない。
「俺の気持ちにも、火を点けたんだぜ。ジェット……」
 アルベルトが少なからずはジョーとの関係を理解したことをジェットは感じた。でなければ、今頃、縛り上げられて喘ぎとも悲鳴ともつかぬ声を上げさせられているだろうからだ。それがイヤなのではないが、少しでももジョーと自分の間に存在する複雑な感情の一端を知って欲しかったから、嬉しかった。
「オレなんか、いっつも尻に火が点いてんぜ」
 とジェットは言うと、愛しい男との短い一夜の悦楽にその身を浸していくのだった。





BACK||TOP||NEXT



The fanfictions are written by Urara since'09/04/01
From 'Unclean angel' of the issue 2003/05/03