我が心を右手に告げること勿れ 『我が心を右手に告げること勿れ(2003年12月29日発行)』より



◆Don't kill people

「けっ……」
 004は自分の足元に転がる死体をブーツの爪先で蹴飛ばした。
 それは002が気を失い人形のようになっても、代わる代わる犯し続けた二人の巨漢の変わり果てた姿であった。
あの事件から数年後、二人はこの基地の警備主任として赴任して来た。さすがに、あの時と同じ轍は踏まぬと警戒していたし、脱出計画の話しが出始めた時期でもあった為、慎重にならざる得なかったけれども、004にしてみれば、これは千載一遇のチャンスだった。
 あの思い出したくもないセックスという名の虐待をお膳立てした男は、警備主任から警備の総責任者に昇格していた。だから、自分と繋がりのあるあの二人を主任として呼び寄せたのだと、兵士達の噂を耳にした。
 脱出計画がかなり具体化してきた折に、004はこの三人の抹殺を001に告げた。脱出する時にこの三人だけは始末しておきたいと、叶わないなら、脱出計画をBG団にリークするとまで脅して、協力させた。
 当時、警備主任だった男はもう、この世のものではない。自分のデスクに血であの世に行く為の地図を作成している最中だろう。
 どうしてこんなにも三人を殺してしまいたいとの激情が湧いて来たのか、自分でも分からない。
二人に散々弄ばれてぐったりと動けなくなった002と、拘束されたままその狂宴を強制的に見学させられた004を放置したまま部屋を出ていってしまったのだ。なかなか戻らない二人を心配して探してくれたのが003でなかったら、と考えると今でも背筋が寒くなる。
 何も身に纏わず大きく足を広げ、巨大な男達のペニスを受け入れ続けていたアナルはだらしく開いたまま白濁した精液を流していた。暴力ともいうべきセックスのショックで白目を剥いたまま気絶をし、自らの精液だけでなく下半身は過ぎる快楽によって垂れ流した尿によって汚れていた。
 003は何も言わずに004の自由を奪っていた対サイボーグ用の拘束具を外し、ベッドのシーツを剥ぎ取り、横たわったままの002の裸体を手際よく包んだ。一瞬だけ俯いて悔しそうに口唇を噛むと、視線だけで行こうと004に語りかけた。
そのまま、ギルモア博士の元に担ぎこまれた002は一週間の安静を命じられた。ここだけの話しにしておくからとギルモア博士に状況の説明を求められたが、002は頑なまでに口を閉ざしていた。
 それからの二人はまるで、何もなかったかのようにサイボーグ研究所での日常を演じながら、あの出来事の前と変わらぬ関係を続けてきたのだ。
 けれども、004の002に対する感情は劇的な変化を迎えていた。
 ただ、煩いだけのお節介なアメリカ人。暇つぶしの相手だと思い込もうとしていたことに004は気付いたのだ。
愛しているのだと、傷付き易い心を持っているくせに、他人にはこよなく優しいこの青年の躯と心を愛してしまっているのだと、自覚せざる得ない自分とあの事件以来度々対面することになってしまった。
脱出に必要な情報を収集する為に、002は幾人もの男達に躯を自由にさせていた。そのことを知るだけで、その男達に暗い嫉妬が湧き起ってくるのが自分では止められなくなかった。脱出の為だと割り切っている002の行為は許せても、相手の男が許せぬのだ。
「004……、時間がっ!」
 脱出へのカウントダウンが始まっている、と知らせに来た002は004の足元に転がっている死体に息を呑んだ。実戦に幾度も出て、人を殺して来た。それはお互い様だけれども、今の004の躯からは自発的な殺気がまるで蒸気のように噴出している。初めて見るその姿に、何が彼をここまで追い詰めたのだろうと、死体の顔を見て002は動けなくなってしまった。
 自分を弄んだ連中だ。
「004」
 何があったのだと問い質そうとした002を004は突然、それ以上言わないでくれと抱き締める。そして、先刻まで人を殺して、殺気が躯を覆っていた男とは思えぬ穏やかな口調で耳元に囁きを落とした。
「お前の為に、殺ったんじゃねえ。俺があいつ等を許せなかっただけだ」
 有無を言わせぬ台詞の向こうに、002は004の愛情を感じとる。あの事件以来、004の自分に対する態度が変わった。好きとは言わなくとも、ただセックスの相手だけではない扱いをするようなことが重なった。抱き合っていても、ただ、触れ合うことが目的なのだと言わんばかりに、それ以上を求めぬ夜を過ごすことも珍しくなくなっていた。
 俗にいう恋人同士の甘い一夜とは遠い形ではあったが、抱き寄せるその腕が日に日に優しさを増しているように002には感じられた。でも、それは都合の良い思い違いだと、ずっと自分に言い聞かせていた002はまさかと首を横に振る。
「あっ、でも……」
「ここを、生きて出られたら……な」
 聞きたいことは話してやると視線で伝え、002の躯を開放し、行こうと鋼鉄の右手を差し出した。002が恐る恐る握ると、しっかりと握り返される。004に促されるままに002は手を引かれながら新しい世界へと歩き始めた。




◆Don't have a sex

「っああ」
 こつこつと時間を刻む音と男の艶かしい喘ぎ声だけが、高い天上と高価なシャンデリアが放つ光に支配された部屋に響いた。
 この部屋の主はといえば、シルクで織られた生地を使ったガウンを羽織ったまま椅子に座っている。
「004ッ!」
 004はゆったりとしたソファに腰掛けて、ちょうど自分の股間辺りにある002の頭を優しく撫でた。そして、白い背中に鋼鉄の右手を這わせてやると、ふるると白い肌が震える。
「ほら、良く見てみろよ」
 004はそのまま手を002の双丘まで這わせると、小さく収縮を繰り返すアナルを人差し指と中指でぐぐっと開げた。
「あっ」
 羞恥を帯びた002の声が上がる。
「恥ずかしいか。でも、いい子にしてろよ。見せ付けてやるんだろう? うん」
 004のペニスを口いっぱいに頬張った002は視線だけで004を見上げると、目元を赤く染めながらも小さく頷いた。最初から了解していたことだし、004は、彼等が絡むと途端にある種の理性を失う傾向にある。
 それはそれで嬉しくないわけはないが、少しそんな風に彼を変えてしまった自分という存在が疎ましく思えることもある。
 004は002のアナルの内壁までもが外気に晒されるくらい、強く引っ張った。
 ここに来る前に、緊張と興奮を収める為に一度002を抱いた。彼は決して自分には逆らわない。力によってネジ伏せられているのではなく、002はそれを望み、また自分がそれを叶えている。そして、自分もそんな002との関係を何処かで歓迎しているのだ。
「ほら、見てみろよ。こんなに綺麗なんだぜ」
 と、この屋敷の主に見せ付けるように更にアナルを開げる。
「うっーーーー、うう」
 くぐもった声が向かい合わせに置いてある椅子に座っている男から聞こえてきた。年の頃は六〇歳くらいで、デブで小男で、お世辞にもハンサムとはいえぬ面相をしている。アンコウを深海から釣り上げたらこんな顔ではないかと連想させるような醜い顔と躯だ。
 この体型と顔で、綺麗な少年が好きだというから笑わせてくれる。
「随分、あの手この手でこいつを可愛がってくれたもんだな」
 004は002が自分のモノであるということを強調すると、ぴくんと002の躯は歓喜で震える。誰のモノでもなくただ公衆便所同然の扱いを受け続けていた002にしてみれば、誰かのモノになるということは、長い間、望んできたことだった。
 その人の為だけに躯を開き、心を委ねる。
 羞恥はあるが004が望んだことだと思うと、見られることに肌が粟立っていき、倒錯的な悦びを覚えた精神がぐずぐずとその快楽に拠って溶け出していくようだ。
「お前さんが嗾けて、こいつを玩具にした連中は全員が死んだ。残っているのはお前だけだ。お前はこいつを他の男に抱かせ、惨いことをさせて、悦んで高見の見物をしていたそうじゃないか。ご大層なコレクションの中にもこいつの画像があったよな。さっき拝ませてもらった」
 004は目の前でくぐもった呻き声しか出せぬ、醜い男に淡々と語りかける。人差し指と薬指で開げたまま中指をアナルに挿入すると、ジェットがペニスを口に含んだまま感じるのだと悦びの声を上げる。
 004にこうして愛されるようになってから、男達に自由を奪われ、好き放題弄ばれる悪夢は見なくなったし、思い出すこともなくなった。全て、それらの行為は004によって齎されたものであると002の中では転化されてしまっていたのだ。
「002」
 004は優しく002の顎に手を掛けると自分の方を向かせた。潤んだ青い瞳は迷うことなく004のブルーグレーの凍えた瞳に向けられた。
「あいつの猿轡を取ってやれ」
 002は頷くと、名残惜しそうに004のペニスにキスを一つ落とし、躊躇うことなく立ち上がった。何も身につけていない若木の如くしなやかな白い肢体が、男の眼前に晒される。髪の毛と同じ赤味を帯びた金色の恥毛は自分の流した先垂れによってキラキラと輝き、その中心では血管が浮き出るほどに誇張したペニスがある。
 そして、目の前では歩く度に誘うように揺れる。
 深爪をしている指を猿轡にかけると、一気に引き裂いた。一見、細い躯は力があるようには見えない。骨の上には薄っすらと筋肉がついているだけで、少しでも腕を上げればアバラ骨が見えてしまいそうなくらいの痩躯だ。
 サイボーグとして、その外見にそぐわない力を持ち合わせているが故に、男の暗い欲望に火をつけたのだ。
 自分より優れた戦闘能力を身につけ、その気になれば自分など簡単に殺すことの出来るサイボーグが自分の言い成りになり、躯を開く様は例えようもない優越感を男に齎した。また自分がそうするようにと命じた、あるいはそうなるように仕向け、思い通りに002を抱いた素晴らしい体躯を兼ね備えた男達への嫉妬もその中には含まれていた。
そして、苦渋に満ちた002を見る度にもっと甚振ってやりたいと、留まることなく欲望が湧いてきたのだった。
 BG団サイボーグ研究所の所長の立場を利用して、男は全く別のセクションに異動を命じられるまで002を性的に虐待し続けたのだ。
「何が、目的だ」
 男のダミ声が聞こえてくる。
 002は関係ないとばかりに引き裂いた猿轡を床に投げ捨てると、首だけで004を振り返って指示を仰いでいる。
 死神といわれた男には相応しくない柔らかな笑みでおいでと呼ぶと、002は躊躇うことなく踵を返して、004の元に舞い戻った。足元にしゃがみ込んで、甘えるように膝に頬を擦り付け、天を突くように誇張したペニスを愛しげに目を細めて視姦し、指を絡ませる。
「金なら、欲しいだけやる。だが、わしは、既にBG団を引退した身だ……、組織に対しては何の影響力もない。002、004、わしがやれるもんなら何でもやるから、早く医者に連れて行ってくれ……、殺さないで……くれ」
 そう一気にまくし立てると、ごほごほと咳き込んだ。しかし、椅子にしっかりと縄で固定されている為に微動だに出来ない。
そして、咳と一緒に、脂肪で顎だか首だか肩だか区別のつかないその辺りからだらだらと血が流れて、高価なシルクのガウンを血で染めた。ガウンを伝って血はぽたぽたとこれまた高価なペルシャ絨毯の上に血溜まりを作っていく。
「オレはナニもいらない。後は“死神”が決めることだ」
 と002は冷たい視線を男に一瞬だけ向ける。
 そして004を見上げるととろんと快楽に浸った表情で、猫が主人に甘えるかの如くに目の前のペニスにじゃれ付いて、時折気紛れに鋼鉄の手で喉元を愛撫されるとごろごろと言わんばかりに悦びの声を上げることに熱中をする。
「004っ!」
「望みは、お前が醜い姿のまま、絶望の中で死んでいくことだけだ」
 と男の姿を下から上へと視線で愚弄する。
 この男が002にしたのと同じ、行為であった。
 確かに、一見成金の趣味の悪い男という外観だが、今の格好は哀れを通り越して滑稽だった。
 今朝男は、調教される少年と調教する青年をセットで風俗店にデリバリーすることを頼んでいたのだ。支払いの良い彼はその店でも上得意で、それを撮影して悦に入るのが、一線を退いたこの男の楽しみだったのである。
 半日にも渡る饗宴が終り、彼等が帰ってしまった後、一息つこうとした瞬間をまるで見計らっていたかのように004と002が侵入して来たのだ。
 反撃する間もなく、気絶させられて椅子に括りつけられた。
 ズボンも下着も剥かれて剛毛で覆われた下半身は剥き出しにされていた。心地良さに目を覚ますと、自分のペニスを002が握っていたのである。一瞬、002のことを男は知覚できなかった。ここに居るはずもないという常識が判断を遅らせたのだ。
 ビール腹の下から辛うじて覗く申し訳程度のペニスを、002は男を椅子に固定したのと同じ縄できちきちに縛り上げた。叫ぼうにも猿轡を噛まされて、呻き声にしかならない。命乞いをすることもできず、目の前で004の電磁波ナイフが目の前ではギラリとはためくのを見ていることしか出来なかった。
殺されてしまうのかと目を瞑るが、何も変わった様子はない。単なる脅しだったのかと、おそるおそる目を開けると、目の前では004と002が抱き合って濃厚なキスを楽しみながら、男の無様な姿を笑っていた。
 何が起ころうとしているのか、男には全く予想もつかない。
 BG団の幹部が引退した、しないに関わらず暗殺されているという噂は耳にしていた。そして、それに00ナンバーが絡んでいるかもしれないという話しはまことしやかに囁かれていたが、それを表立って肯定するものは誰もいなかったし、警戒せよとの連絡も回ってくることはなかった。
 何故なら、幹部同士の潰し合いは決して珍しいことではなく、BG団では幹部が幹部を暗殺することなど日常だったからだ。
 似たような趣味を持っていた自分の前任者だった男は老人ホームで真っ裸のまま、恐怖のあまり悶絶するような表情で目の玉をひん剥いて死んでいたという。
「た、助けてくれ」
 目が霞んでくる。
自由になった口で命乞いをするしか助かる方法はないのだ。この屋敷は密かな楽しみの為に建てた屋敷で、ここに滞在する場合は基本的には独りなのである。
「何でも……、言うことを……」
 けれども、004と002は男に構うことなく目の前で二人の世界を作っていた。
「002」
 004は002の腕を引いて立ち上がるように促した。
 立ち上がった002は、視線と素肌に触れる手の感触によって与えられる004の指示に従って、膝の上に白い双丘を宛がった。
「あの世の餞に、いいもんみせてやるよ」
 と004は大量の出血で朦朧とし始めている男にそう言う。
 002の膝の裏に手を置くと、その躯ごと軽々と持ち上げた。大きくM字開脚させられた002はその不安定な体勢から逃れるように、後ろに腕を回して004の頭を抱く。
 男には怒号するペニスを受け入れることに悦ぶアナルがひくひくと収縮している様だけがクローズアップされて見えた。
 ペニスの先端がアナルに当てられ、ずるりと先端が挿入されていく。
 スローモーション映像が男の意識を手放しかけた脳裏に焼きついていく。
「あっ」
 002が喉元を仰け反らせた。
 更にずぶずぶと亀頭部分を埋没させると、002の勃ち上がったペニスが挨拶するかのように上下に揺れた。
 そして、一度引き抜いてから、狙いを定めるように先端をアナルに当てて、一気にその躯をすとんと膝の上に落とすと、自分の体重によって怒号したペニスを咥え込んだ002の悲鳴があがる。
「ひっ! っうああああああああ……」
 膝の裏を抱え上げられたままでは自分のアナルで体重を受け止めるしかない。めりめりと音がしそうなくらいにめりこんだペニスは深くアナルに深々と突き刺さっていた。
 息つく暇も与えずに004が腰を動かすと、悲鳴は甘い声へと変貌していく。
「っふん」
 薄っすらと目を開けて、ぼんやりと自分を見ている男の視線を跳ね返すように002は自ら更に足を広げて見せた。
「あっ、っう……004」
 どんな煮え湯を飲まされたのか、筆舌し難いものがあるのだからこの男に対しての同情の余地はない。だからといって、こんな復讐をして得るものは何もないことぐらい承知しているけれども、004の意志に従わないことを自分は良しとは出来ない。
 倒錯的な方法なのだろうし、病的な行為なのだろうが、かつて自分を弄んだ男の前で004に抱かれると、不思議と至極愛されているのだとの感慨が湧いてくるのだ。自分自身の為なのだと言いつつ、002を弄んだ男達を殺していく004が愛しくてたまらない。
 確かに、自分達は暗殺を繰り返すことによってBG団の脆弱化を図っては来た。それは、大きな組織を相手にして生き延びる為の戦いの一つの方法だと割り切っていた。
 もちろん、それだけならば、004が人を殺したところで002は何とも思わないし、自分もまた同じことをしている。
 けれども、敢えて惨い殺し方を選択している。
 一瞬のうちには殺さない遣り方だ。
 そう、今回のように……。
「あっ、いゃあ……、ッイイ」
 002は背中を仰け反らせ、004の頭を抱き無理な体勢であるにもかかわらず口唇を強請る。
「もっと、乱れてみろよ。あいつが見てるぜ」
 004はそう言い放つと、鋼鉄の手を002の腰に回すと動けなく固定し、更に強く自分のモノなのだと言わんばかりに突き上げたのであった。
 二人が睦み合うソファの向かいでは、目を剥いたままペニスを勃ち上がらせて、血を流す醜い初老の男が動かなくなっていた。
けれども、互いの存在に耽溺する二人にとっては、その男の死すら愛を確かめ合う道具にしか過ぎなかったのである。




◆Don't supervise

 どんよりと重く項垂れた雲が視界を覆いつくす。
 何処まで行っても、その雲は途切れることなく前方を塞ぎ、それによって気分もどんよりと重たくなっていく気がしていた。
 ここはカシスという街で、フランス国内では有名な避暑地であった。
 マルセイユでレンタカーを借りて、二人はこの街にやって来た。もちろん、バカンスが目的ではない。
 カシスは夏は観光客で賑わうが、冬ともなれば冷たい海風によって街が支配される為、やって来る酔狂な観光客はほとんどいない。海岸沿いに並んだ観光客目当てのレストランやファーストフード店は固く戸を閉ざし、時折野良猫が通るのがせいぜいであった。
 そんな小さな街並みを抜けて、海岸沿いの道を数十分程車で走った辺りにその屋敷は建っていた。
 剥き出しになったコンクリートの外壁には凹凸がほとんど見られない。
 真四角の上に鋭く傾斜した切妻の屋根が乗っただけの、まるで幼稚園児がクレヨンで描いた絵のような造りの屋敷であった。それが小さなものならば、変わった趣味の持ち主と笑って済ませられるだろうが、ここまで巨大だと薄気味悪い。
 屋根からは一般家庭に常備しているパラボナアンテナにしては、いささか大き過ぎるそれが立っており、住宅というよりは、何かの研究所を彷彿させる外観だった。
「アレか?」
 アルベルトは海岸沿いの道路にある退避所に車を止めた。
 前方一キロメートル程度の場所にそのきっかいな建物が見える。
「らしいな。ご大層な警備だな」
 ジェットは双眼鏡を覗きながら、薄く笑った。
 門塀には高圧電流が流れ、庭にはおそらくサイボーグ犬か何かが放たれているのだろう。建物の外壁は侵入者を防ぐ為に余計な凹凸がないから、登ることは出来ない。仮に塀を乗り越えてサイボーグ手ぬをやり過ごし侵入したとしても、正規の入り口からしか入ることが出来ない。
 そして、全ての入り口は主人の許可なくしては開閉しない仕組みになっていた。
「で、何処から?」
 ジェットは運転席でハンドルに上体を凭せ掛けているアルベルトに問いかける。
「上空からだ」
「でも、屋根の上にはレーザー網だろう?」
 確か、アルベルトはこの屋敷の警備について、合流した自分にそう話したではないか。
「雨の日には、屋根の上のレーザーを切るんだ。普通の人間では雨で視界の悪いしかも夜に、屋根の上に降り立つのは無理ってもんだろう。第一、雨の日には海風が強く、パラシュート降下したとしても風に煽られるのがせいぜいだ。だが、俺とお前なら、簡単だろう? 幸い今夜は雨だ」
 アルベルトのまるで、何処か旅行にでも出掛けようかという浮き立った口調の説明にジェットは肩を竦めた。
 隣の男がいくらBG団の元幹部がターゲットだとはいえ、人を殺しに行くというのにどうしてこうも陽気でいられるのかが、ジェットには分からない。いくら恋人のアルベルトに会えるとはいえ、人殺しの片棒を担ぐのははっきりいって楽しいことではない。
「つまり、オレはあんたを連れて屋根の上まで飛んできゃいいってわけだ」
 ジェットは覗いていた赤外線モニターを装備した双眼鏡を顔から外して、後部座席に後手に投げた。
 途端に、灰色の海と灰色の空が視界一杯に広がり、どんよりとした気分に拍車を掛ける。自分達が生き延びる為には、BG団の幹部を暗殺して組織の脆弱化を図るのが目的だとわかっていても、ジェットは何処か割り切れないものを抱えて、毎回、暗殺作戦に参加して来た。
 基本的には二人一組か、もしくはそれ以上が望ましいことにはなっているが、せっかく視野に捉えた幹部を逃がすのは惜しいものだと、一人で暗殺を行う場合も少なくはないのだ。それは女性のフランソワーズだとて例外ではない。
 彼女も、幾度もそんな作戦に参加してきている。
 今更なのに、引き返せないのに、アルベルトが暗殺作戦の時に隣に居るだけで滅入る自分がいた。独りだったら、ずっとマシだし、自分も冷酷になれる。けれども、冷酷になるアルベルトを見るのは戦いの場なら平気なのに、暗殺という場になると違って見えてしまうのだ。
 特に今回の相手は、二人にとっては面識がない相手ではない。
 特にジェットにとっては、出来たら二度と会いたくはない相手ではあるのだ。彼が暗殺のターゲットだとしたら、アルベルトがどう変化していくのかいわれなくとも予測がつくからイヤなのかもしれない。
 多分、自分はその意向に逆らうことが出来ないだろうから。
「戻るか」
 アルベルトはハンドルに凭せ掛けていた上体を持ち上げると、廃車寸前のポンコツのエンジンをスムースにスタートさせた。見事なハンドル捌きで車をUターンさせると、来た道を戻り始める。
 どんよりとした雲に追いかけられるように、二人が乗った車は海岸線をひた走って行くのであった。




◆Don't use violence

「ホントにやっちまってイイのかよ」
 随分、下品なダミ声だと004は顔を上げる。
 自分の置かれている状況は既に把握出来ていた。来たこともない部屋の内部は広く、巨大なキングサイズのベッドの上には002が倒れていて、それを取り囲むように、巨漢の男が三人立っているのだ。二人の黒人の男は何も身に纏ってはいなかった。堂々とした体躯を惜しげも無く晒し、黒き肌は照明を反射して鈍く光を放っていた。
 そして、残りの一人は004に馴染みのある男であった。
 BG団のサイボーク研究所の西地区を統括する警備主任である。研究所のある島の西は、この島に出入りする為の港があり、港を出入りする客人を案内する役目も仰せつかることが多いということで何度が行き会ったことはあるが、いけ好かない男だ。
 サディスティックな一面と、サイボーグ達を機械人形と言っては卑下する態度は面白くない。研究所の奥深くにある彼等のプライベートエリアや実験エリアとは異なる区画をテリトリーにしているが故に、表立っての諍いは起きてはいないが、特にドイツ人には何か含むものがある彼は、004に対して奇妙な対抗意識を燃やしている節が見受けられていた。
 だから、こうして自分が椅子に拘束されている状態であったとしても、とうとうやったのかという感想しか抱けないでいる。
「どうせ、機械人形だ。多少、手荒く扱ったことろで壊れはせん」
 下品な笑いを最後に付け加えると、拘束されている004の元に歩み寄ってくる。手にしていた鞭で004の顎を強引に上げさせると、その醜い顔の男の何処か病的な瞳と004の蒼い冴えた瞳がぶつかった。
 にやりと笑うと、二人の巨漢を振り返る。
 するとベッドの上に乗った二人の男はぐったりとしたままの002を抱き上げた。白い痩躯が黒い肌の巨漢の男達に囲まれると更に華奢に映る。何も身に纏うことを許されない002は、腕を後ろに縛られて、荒い吐息を漏らしていた。
 一人がジェットを背後から支え座らせると、一人は足を大きく開げさせ、躯の隅々まで視線を舐めるように這わせて002の華奢な肢体を鑑賞している。002は逃れようと身を捩るが力が入らないのか、胸を上下させて荒い息を零すばかりである。
 いくら華奢な造りとはいえ、サイボーグなのである。腕力のあるタイプのサイボーグではないが、体格の良い力のある人間にも負けるはずはないのに、逆らえないでいるのと、あの苦痛ともとれる表情から002の躯がどういう状態なのか004には察しがついていた。
「でもよ。そっちの色男は何だ。俺達、そっちの兄さんみたいなタイプにゃ、用は無いぜ。それともお前さん、趣旨変えしたのかい?」
 002の背後から彼を支えている黒人は、そう白い歯を剥き出しにして笑った。
「あんたたちの玩具の恋人だよ」
 二人同時にヒューと口笛を鳴らす。耳障りな音に004は僅かに眉間の皺を深くする。こういう連中に対して感情を剥き出しにすることは、精神戦のセオリーには含まれない。あくまで、冷静に事態を見極めて、自分達を甚振っても楽しくはないのだと思い知らせるのが解放される一番の近道なのだ。
 実際に、自分も完全に対サイボーグ用の拘束具で両手両足を拘束されている。これでは、如何な戦闘用サイボーグといえども戦うことは出来ない。
「アルファ、こりゃ、イイ舞台設定じゃねぇか」
 と002の背後にいる男が笑う。そして、向かいの男は002の小さな顎を持ち上げると、顔を寄せて低い声で囁きを漏らす。囁きといっても、三メートルも離れてはいない場所にいる004には筒抜けなのであった。
「子猫ちゃん。あんたの彼氏に、子猫ちゃんの淫乱な姿見てもらうといいぜ」
 002の視線がぼんやりと男に当てられて、誘われるように004に向けられた感情のない瞳が、004の姿を捉えた瞬間、感情がまるで泉から涌き出るが如くに瞳から溢れだし、002は逃れようと闇雲に躯を捩らせるが、相手は人間だが元レスラーだ。新しい00ナンバーサイボーグである005の能力を引き出す為に、戦い方を伝授しに来た数多い教師達の一人いや、一組であったのだ。
 躯のどこをどう捕えれば、相手は動けなくなるかなどは熟知しているし、サイボークといえども、拘束されて、薬を盛られていてはどうしようもないであろう。ここの警備主任が絡んでいるとなれば、少なくとも002の機能に障害の残る薬品は使用してはいないだろうことだけは、救いだと004はそう冷静に状況を判断していた。
「でもよ。機械人形同士でセックスできんのか?」
 と、002の向かいの男は股間に手を伸ばして、その体躯に見合った細身のペニスを潰ぶさんばかりに握り込むと、002の唸るような声が上がり、背後の男の胸に頭を擦りつけるように背が反らされる。
「子猫ちゃん、感度イイぜ。一時期、セックスドールにしてみようかと話が出たくらいだ」
 警備主任の男はそう言う。確かに、002の皮膚の感度はその性能を引き出す為に、鋭敏に出来てはいる。その結果、快楽を捕え易い肌になっていることは、否定はしない。どんなに敏感でそして、淫らな肉体を持っているのかは、004が一番良く知っていることなのだ。
「ベータ、彼に見せてやれよ」
 と002の向かいにいた男が002の背後にいる男にそう声を掛けると、頷いて002の膝の裏を持ち上げて、局部だけではなく秘部すらも見えるように004の眼前に晒す。けれども、004の視線からは何の感情も読み取れなかった。
 男達はチッと舌打ちをすると、目を瞑っている002の顎を掴み、左右に振りまわして、無理に目を開けさせようとした。
「子猫ちゃん。あんたのイイ人が縛られてるぜ。お前が素直にならねぇと、ほら……」
 促されて、視線を走らせた其処には椅子に拘束されている004と警備主任がいた。警備主任が手に持っているのは、対サイボーグ用のスタンガンである。特殊な方向性を持つ電流を使用したこのスタンガンは、機械部分に働きかけることにより非常な苦痛を与える代物なのである。
 サイボーグの開発の傍ら、対サイボーク用の武器も開発が進められていて、002はこのスタンガンで幾度も気絶を強いられる実験をされたことがあった。本能的な恐怖で躯が竦む。しかも、自分にではなく004に向けられている。機械の部分に働きかけるこのスタンガンは、機械の部分が多ければ多いほど、苦痛は激しくなる。自分以上の機械化をされている004の苦痛を思うと、002は男達に屈するしかなかった。
 例え淫乱だと思われても、004に苦痛を味わせたくはない。
 004が自分と関係を持つのは、自分に対する憐憫の情や暇つぶしと欲求の捌け口だとしても、それでも、002は004を愛していた。愛されなくとも、この男の腕の中に抱かれる一時に恋焦がれているのだ。
 自分がどんな目に合わされたとしても、きっと彼はこの酷薄ともいえる面持ちを変えることはないであろう。それが嬉しくもあり、そして、悲しくもある。ここで、彼が暴れたとしても、叫んだとしてもそれは結局は彼等を喜ばせるだけで、自分達がここから逃れる時間を延ばしてしまうようなものだ。
 木偶人形のように抱かれてやれば、連中もそのうち飽きて面白くないと自分を打ち捨てるであろう。
 治安の悪い地区で育ち、今と似た経験のある002は、不用意な抵抗をすれば泥沼に填まると経験で理解していた。
「っあ………」
 背後から手を回したベータと言う名の黒人は、002の赤味を帯びた金色の薄い恥毛の生えた股間に伸ばして、優しく指で002のペニスを扱き上げる。先刻に与えられた痛みすらも快楽として受け取れてしまうペニスは半分勃ち上がっていて、ベータの指に擦り上げられる度に、002はすすり泣くような声を上げ始める。
 くちゅくちゅと、先端から流れ始めたそのぬめる液体を細いペニスに塗りたくられるようにされて、更に002は身を悶えさせる。揺れる胸の突起が痛い程に張り詰めていて触れて欲しいと訴えているようであった。
 アルファはその乳首を指で潰すように摘むと、002の嬌声が一際高くなり、胸を差し出すように背を反らせる。
「かわいいなぁ〜」
 アルファはそう呟きながら、002の喘ぐ口に自分の太い指を突っ込んだ。快楽に従順に出来ている002は、嫌だと思う気持ちとは別にアルファの太い指を捕えて、愛撫するように舌を巻き付けていた。
「ホント、可愛いな。子猫ちゃん。今夜は、ベータと足腰立たねぇくらい可愛がってやるよ。子猫ちゃんの旦那様じゃ、物足りなくなるくらいにな」
 そう囁きを落として、寄せた口唇で耳朶を食み、ねっとりと耳に舌を這わせた。
「ひっ……んん!」
 002も途切れそうになる意識の向こうで004の冷たい視線を感じていた。確かに、男達に二人がかりで愛撫を施されて、肉体は正直に反応してるけれども、あの冷酷な004の視線に射抜かれる感触に、自分の躯の快楽だけではない快楽に躯がぐすぐすと溶けてしまいそうな感覚に囚われてしまう。
 そうなのだ。確かに、薬を盛られていつも以上に感じ易くなっているし、男達の手が待ち遠しいと熱い躯を持て余していたのも事実なのである。そんな淫乱な自分を見詰めている愛しい男の視線に、倒錯的な喜びを見出せてしまう自分に002は呆れていた。004がこんな自分を見て、どう思うかと想像するだけで、背筋を快楽という名の電子信号が駆け上がっていく。
 背後から回される男の手はペニスを扱くことだけに集中をしていて、向かいのアルファはジェットの躯に余すことなく舌を這わせていた。耳朶から、首筋に時折、きつく吸い上げると艶やかな赤い花が白い素肌というキャンバスに散らされていく。
「見てみろよ」
 二人は艶やかに咲いた赤い花を見て、忍び笑いを漏らした。
 自分達がレスラーとして戦い方を伝授しに来たインディアンの末裔は、レスラーとしての才能があり、レスラーになっていれば成功を収めたであろうと、格闘家としての視線でそう二人は評価していた。
 時折、そのインディアンの元を訪れる華奢な肢体のアメリカ人青年に二人は目をつけた。子供の頃から一緒に育ってきた彼等は、非常に似た嗜好を持っていた。好きになるのは男で、しかも若い手足の長い華奢な白人男性ばかりである。しかも、二人同時に、つまりその相手と三人でセックスしなければ、二人とも満足出来ないのだ。
 こんなに体格の良い二人に同時にセックスの相手をさせられれば、普通の人間ならただでは済まない。どんなに二人を愛していたとしても、躯がついて行けなくなってしまうのだ。だから、二人は後腐れの無い金で買える相手を探しては、こうして自分達の相手をさせていた。
 久しぶりの好みの子猫に興奮して、理性を働かせることが出来なくなりつつあったのだ。
「いゃっ………ぁぁん」
 白いキャンバスに咲く赤い花を見たくて、ベータは後から足を抱えて更に大きく開かせると、アルファが身を屈めて002の股間に顔を埋めた。突然、口腔に引き込まれ、生温かい感触に002の甘い声が上がり、本能的に快楽を求めようと腰を自然にアルファに押し付けていた。
「っああん」
 ベータの指で高められた002のペニスは更なる刺激を求めていたのだ。其処を口に含まれては一たまりも無かった。先端の粘膜をねっとりと這わされた肉厚の舌で舐められて、自然と腰が揺れて自分の秘部が勝手に綻んでいくのが分かってしまう。
「っい……ぁあん」
 002が左右に首を振ると赤味の掛かった金髪の跳ねた部分が舞うように動き、その度に赤い残像が宙に残り、004の目にはそれが002の心で流している血の涙ように見えてしまった。男に犯されたことは悔しいであろうが、それで屈する程度の男ではないことは良く知っている。
 華奢だがしなやかな肢体と同じで002はしなやかで柔軟性のある強い心を持っているからだ。屈しているようで、それは生き残るための手段であろう。男の意のままにされ喘ぎを上げていても、屈していないとの心だけが伝わってくる。
 002も自分に当てられる004の視線を感じて、ちらりと霞む視界に彼の姿を捉えた。ああ、004がいると思うだけで、理性の箍が外れて行く。もっと、淫らに乱れて、どんな男に抱かれても喜ぶ淫乱な肉体を持っているのだと彼に伝えてやりたい。
 愛している。
 例え、昔の恋人の亡霊から逃れられない彼であったとしても、愛している。自分を卑下していたとしても、愛しているのだ。友情以上、恋人未満なんて関係はいらない。どうせなら、欲望のストレスの捌け口に自分を抱いてくれるのなら、もっと自分は明確な意志を持って004を愛していると自分にそう誓える気がしてならないのだ。
 彼等がもっと自分の淫乱な姿を引き出してくれればよい。
「ッイイ……ぁぁん」
 そんな誘いすら含んだ台詞がするりと口から漏れて、熱い吐息に混じり、冷えた空間に染み込んで行く。
「そうか子猫ちゃんしゃぶられるのが、大好きか」
 002のペニスを含んでいるアルファはそう言いつつ、笑った。自ら足を広げる仕草をして、媚びるような視線を自分を見上げる男に流した。こうすれば、男達はみな自分を、彼等のいい様に抱いた。002の意志など構うことなく自分達だけの快楽を追い、無体に扱った。それが今の002には欲しかった。
 本当は辛かった。
 誰かに、どんな形でも良いから004との関係を壊して欲しかったのだ。
 アルファは002のペニスに舌を這わせて、子供がソフトクリームを舐めるように丹念に舌を這わせて、先端から零れる液体すら舐め取っていく。その度に002の躯はびくびくと震えて、甘やかな吐息を薄い口唇から漏らした。
「っひっ・………っ、いったぁああああっん………はぁ、イッ……ん!」
 舌を這わせていたアルファは突然、002のペニスに歯を立てたのだ。歯型が残る程に根元に近い部分に食らいついたのだ。でも、その強烈な痛みで、射精間近であった002は逐情してしまったのだ。
 強烈な痛みと快楽が交じり合って、002のペニスはヒクヒクと痛みに耐えるように、快楽を欲しがるようにひくついていた。本人は放心したように抱き上げられているベータに躯を預けていた。ニメートルは有にある巨漢に抱かれた002はまるで、子供のようですらある。
 黒い肌が白い肌を引き立てて、ライトの下で蠢く白い素肌は艶かしく誰の目にも映っていた。
「子猫ちゃんは、こういうの好きみたいだな」
 アルファは放心状態に近い002にそう囁きかけた。
「イタイ……の、イ、ヤァ」
 目に涙を浮かべて巨漢の男達にそう哀願する002の媚態は更に男達の理性を燃やしてしまうには十分過ぎるものがあった。
「イヤか…。でも、子猫ちゃんは、逝っちゃっただろう」
 とアルファは口の端についた白濁とした液体をぺろりと舐め取った。そして、震える002の白い薄い胸に指を這わせる。ぴくりと先刻の痛みを思い出してなのか、逃げるように躯が震えたけれども、アルファは構うことなく、乳首をも、爪と爪の間に挟むようにして捻った。
「ぁああ………いゃっ……。イタイ……の、イヤっ……」
 何処か甘えて媚びた声に二人の巨漢は、002の媚態の虜になりつつあった。
「すまねぇな。でも、子猫ちゃんが可愛いのがいけねぇんだぜ」
 アルファがペロリと強く摘んだ乳首に舌を這わせて、労わるように舐め取ると、薄くなった皮膚に唾液が沁み込んでじんわりとした痛みを002に与える。むず痒いような痛いような感覚に胸を捩って逃れようとするが、背後から抱きかかえられていては動くことも出来ない。
「アルファ」
 002を背後から抱きかかえていたベータは堪らないと相棒にそう訴える。背後からその温かな躯を抱き締めて、頭部や腰を擦りつけられるように動かれては、ついその気になってしまうではないか。
 ベータはそっとベッドに002を横たえると、頭を膝で挟み込んで腰を落とした。既に勃ち上がって硬くなった肉棒を002の口元に押し付ける。すっぱい男の体臭が002の鼻を突き、押し付けられる男の脈打つ太い肉棒を自然と咥えていた。
 小作りの002の顔の中にある口ではこんなにも太いモノは含みきれない。まだ、勃ち上がる余地を残していたが、002の口には収まりきらないで、押し付けられると喉の奥まで男のペニスに支配される。004のモノでないモノを含んで、舌を這わせている自分を004がどういう視線で捕えているのか、鍛え上げられた男の大腿に阻まれて見ることは叶わなかった。
 002は腰を押し付けられて咥えろと指示された通りに、男を口に含んで愛撫を施す。こんなに大きく太いペニスに貫かれたことはない。そうされれば、自分は壊れてしまうかもと思いつつも、二人かがりで与えられる過ぎる快楽に肉体は次を期待し始めていた。
 ベータが002に含ませたまま、横たわった002の大腿を掴み大きく足をVの字に広げさせて、腰を浮かさせる。全てを明かりの下に晒された002の股間にアルファの顔が埋められて行く。
 再び、勃ち上がり始めたペニスを口に含み、太い指を器用に002の後部へと這わせて行く、押し開くように指の先を挿れると、ぴくんと002の躯が跳ね、口に含んでいたベータの肉棒を深く咥え込み過ぎて咳き込んでしまったが、それがまたベータの快楽を擽り、ぐっとその牡は002の小さな口腔の中で体積を増していく。
「っぐ……っああう……・・」
 くぐもった声が男の股間から上がり、大きく不自然に広げられた股間からは002のほっそりとしたペニスが勃ち上がっていた。通常では考えられぬ光景に、004は端からでは分からぬぐらい僅かに眉を顰めた。
 二人の巨漢にいい様にされている002の媚態を見て、その淫らな肉体が綺麗だと思えてしまった自分の感性に眉を顰めてしまったのだ。別に002を卑下してるわけではない。
「ひっ……んんぁぁぁん・……・…っ!」
 限界まで広げられた股間の奥に息づく秘所に黒く太い指が指し込まれると、下半身だけをくねらせて、逃れようとする。細い腰が快楽に揺れる様は艶かしく、その光景だけで普通の男なら達することが出来そうなくらい淫猥な光景であった。
 ペニスを男に含まれて、奉仕され、顔を塞ぐようにしてまた男に奉仕する002の艶姿は、004が見たことが無い程に壮絶な艶に溢れていた。このような状況でなければ、002を抱き殺してしまいたいとのいう感情をどうしてだか、育ませる効力を持っていた。
 何度も飽くことなく男は指を挿し入れし、ペニスをしつこいくらいに舐り、ゆっくりと自分達の凶器を含ませる場所を寛げて行く作業に没頭していた。
「うっ……。くっ・……ふぅ」
 002の足を握っていたペータは、眉を寄せるとぶるっと巨漢を震わせた。
 ゆっくりと、002の顔を跨いでいた足を外すと、002の小作りの顔が現れる。顔中に男の放った精液をかけられて、ぼんやりとその男の顔を見上げる002は哀しいけれども、とても、その男のそう言う類の征服欲を煽るのに十二分過ぎる魅力に溢れている。
「はっ……んん。けふっ……・こっほ……、っう」
 飲み込めなかった男の精液に咽ながらも、下半身は捕えられ愛撫を受けて震えている。汚れた顔の長い睫毛が震えながら瞬いて、自分を見詰める004の視線を捉える。ああ、彼はまだ見ているとだと思うだけで、肉体に与えられる快楽以上の快楽が腰からじんわりと這い登り、躯の力を奪い取っていく。腕を後ろで拘束されているが故に、巧く躯を動かすことも出来ない。腕が動けば、自分を愛撫している巨漢の男の髪に指を絡める芸当くらいは出来たのにと、自分を見詰める004に向かってはんなりと微笑んだ。
 そう微笑むしか自分の気持ちを表すことは出来ない。伝わらなくとも良いのだ。そんなことは関係ない。ただ、004に笑いかけたかっただけなのだ。
「うっ……ッああ………イイ、そっ……っこ、ぁあああん、いゃぁ……ん!!」
 002は自分の秘所に指の先を感じて、迷わず更に欲しいのだと声を出していた。今更、暴れて嫌がっても仕方がない。男達が自分に飽きて、打ち捨ててくれるようにと、淫乱な躯を持て余すような態度を取る。どう、何を求めているのか、躯を売って生きる糧を得ていた経験のある002にはそれをある程度察することが出来る。
 ベータはそんな002を見てにやりと笑う。
 そのにやりと笑う視線を受けとめアルファは、愛撫の手を止めて細い腰を掴み、くるりと軽々と躯を反転させ、腰を自分の黒々と勃ち上がった太い肉棒の切っ先に宛がった。そして、ゆっくりではなく、一気に半分まで貫いた。
 喉でも潰させてしまったかのような擦れた悲鳴が部屋に響き、自由の利かない上半身で逃れようとしている002の肩をベータが抱き上げる。002の痩躯は腰の部分をアルファが掴んでいる故に宙に浮いた形になる。
 このような体勢では思うように逃れることも動くことも、痛みを逃がそうとすることもできず、002は涙を零す。今までの優しい愛撫は、これから与えられる地獄への片道切符の代金にしか過ぎなかったのだ。
 まだ、半分しか飲み込んでいないのに、002は自分のアナルがぎちきちと音を立てているのを感じていた。これ以上、深く貫かれたらと原始的な恐怖が躯を襲う。金を払ったからと、拘束されたままフィストファックを強要されかけた時に至極にていた感覚に、背筋を冷たい恐怖が走って行った。あの時は、医者にかかり一週間も立ち上がれなかったのだ。よく内臓破裂を起こさなかったものだと、もぐりだが腕の確かな医者はそう漏らしていた。あの時の恐怖があったから、002は躯を売る仕事を止めて、少年ギャング団へと転身したのだ。
 もう、そんな思いはイヤだった。
 でも、自分の意志で逃れることは出来ない。せめて004の姿を瞳に僅かでも映すことだけが002の許された自由だったのだ。
「いゃっ……・っ、イタ……っあああん」
 それでも、戯れでペニスに伸ばされる愛撫に感じ、疎ましいと思いながら恐怖の向こうにある誘いに身を任せそうになってしまう。男達に壊されたらどうなるのだろう。
その時、004はどうするか何を思うのか知りたいと思えてしまう。危険な考えだと理解していたけれども、彼の心にそうしたら自分は残れるかもしれないと、甘い誘惑に身を委ねそうになってしまう。
「ひーーーっ!」
 けれども、そう妄想することすら許されずに、通常の男の腕程もある太い男根が無理矢理押し込まれようとしていた。少しずつ慣らすようになら受け入れられるとは思ったけれども、こんなに強引な、いくら解したとはいえ、無理に突っ込むような仕打ちに002は口唇を噛んで必死に痛みと恐怖に耐えていた。
「すまねぇな。でも、子猫ちゃんは色っぽすぎて、俺達、我慢できなくってな」
 と、ベータが002の頭を胸に抱き寄せてそう囁いた。
 突き上げられる痛みと強い圧迫感に息をするのがやっとの002の口からは喘ぎすらも漏れては来なかった。
「せめぇな。子猫ちゃん。俺が、入りきらないぜ」
 と嬉しそうに、労わる感情すらないアルファが再び、ずんずんと腰を進めてくる。
「あっ……いゃあ」
 背筋だけでない。躯全体に冷や汗が吹き出してくる。恐怖と痛みで知らぬ間に涙が溢れて、言葉にならぬ言葉で止めて欲しいと懇願するが、男達の耳には届きはしない。いや、届いていたが、それは却って男達の嗜虐心を煽るだけで、何の役にも立たなかった。彼等の相手が持たない理由は、最初はゆったとした愛撫で始まっても、すぐに我慢ならなくなり自分達の体格に似合う肉棒の太さを忘れて相手を貫いてしまうからなのだ。
 そんな男達の性癖を知らぬ002は痛みを堪える。躯を強張らせれば、悲劇が待っていることを躯が知っている002は必死で躯の力を抜いて、少しでも気の遠くなりそうな苦痛から逃れようとしていた。アナルだけでなく腰骨も軋みそうな男の巨大なペニスは口で奉仕させれていた以上に大きかったのだ。
「ふん」
「あっ………いっん……・…っあああああっ!!」
 アルファが最後の一突きをすると巨大な肉棒が002の体内にきっちり収まった。最後の部分が押し入る時に腰骨が砕けそうな痛みを感じて、002は喘ぎともとれる悲鳴を上げた。自分に痛みを与えている男の片割れであるベータの分厚い肩にしっかりと縋るように顔を寄せて、必死で痛みと圧迫感から逃れようとする姿は、二人の巨漢の更なる嗜虐心に油を注ぐ結果となってしまう。
 腹の中に異物を入れられた圧迫感は通常のセックスの比ではない。まるで、何かを注入されたような感覚に002は息すら苦しくて出来なくなりそうで、眩暈を感じてしまう。
 気持ちイイとか、もうそういう問題ではなくなっている。
 触れられていないペニスは痛みと恐怖で小さく縮こまり、喘ぎで乾いた舌が歯の裏に引っ付いてしまいそうだ。喉はカラカラと乾いて、声も出せなくなってしまう錯覚に陥る。セックスというよりは拷問に近い交わりに、002は何度も意識を手放しそうになったけれども、ベータがそれを許してはくれなかった。
 荒く細かく息を吐き出して、自分の躯を何とか維持しようとする002の努力は空しいだけであった。
 突然、全てを002に収めたアルファが激しく腰を突き動かし始めたのだ。ゆっくりとしたグラインドではなく、まるで、電気ドリルで壁に穴を開けるような激しい突き上げに、002は動物の断末魔のような声を発して、カクカクと力の入らぬ躯を揺さぶられ続けている。上体はベータに支えられていて、動くことも逃げることも出来なかった。
「うっ……」
 アルファが突然、動きを止める。ぶるると鍛えられた背筋をうねらせながら、深い溜め息を吐き出した。
「もう、最高だぜ。ベータ」
 そう言いつつ002から巨大なペニスを抜き出したアルファは細い002の腰を手だけで支えて、004に視線に向ける。
「あんた、うまく調教したな。傷付くかと思ったら、まだ大丈夫みたいだな」
 002は膝を震わせて、その震えが白い双丘にも伝わって来ていた。無理な挿入が002の華奢な躯に負担を強いていたのだ。
 004に向けられたアナルの周辺にはまるで、射精されたかと思う程に男の精液で汚れ、白い大腿にもその汚れがついていたし、挿入によりぽっかりと穴を開けた002のアナルの赤い内壁からとろとろと白濁とした液体が流れ出てきていた。
 男に無理に挿入され、そして、巨根が抜き出される時にその内壁を道連れにして来たのだ。普段見ることは叶わない002の内壁をも、004の視線に晒される。
 それでも、其処はアルファが触れるとヒクヒクと浅ましく引くついてまるでもっとと求めているかのように蠢いていた。
「今度は、俺だ」
 そのままベータは向かい合わせに002を抱き上げて、見事に勃ち上がっているペニスで緩んだ002の躯を引き裂いた。いくら先刻慣らされたといえ、限界を超えた挿入に002の躯の節々は笑い、薬の効果以上に躯を動かすことが出来なかった。
 ただ、獣のような声が時折上がり、今まで意志を持っていた瞳がガラス玉のように色合いを失っていく。意志を持って男達に身を任せていた002を見ていても、何も感情は湧いてはこなかったが、動けなくなった人形のような002を弄び、幾度もその秘部を貫き、下卑た笑いを零す男達に、それをお膳立てした、自分の傍らに立つ男に、今まで感じたことのない暗い感情の芽が息吹き始めるのを004は感じていた。
「ひっ……くっん、いゃ……・・ぁ!」
 寝言なのか分からぬような、泣き声のような意味を持たぬ002の台詞は黙殺されて、気を失ってもすぐに、男達に叩き起こされ、代わる代わるにアナルを貫き続けられる。二人の体液で下半身は白く染まり、くちゅくちゅとイヤらしい音だけが、部屋を満たそうとしていた。
「っあ……00……4」
 男達が幾度目かの射精をした瞬間、何かを探すように、ぐったりとしていた002の精液で汚れた顔が上げられて004を黙視したかと思うと、すぐにがっくりと項垂れて完全に気を失ってしまった。




◆Don't deceive

 轟々と火が燃え盛る音が、地響きとして伝わってくる。
 強化ガラスで作られた窓は、火の熱で溶かされつつあった。まだ、誰もこの異変に気付いたものはいない。仮に通りかかった誰かが気付いていたとしても消防車が来るまでにはまだ時間が必要だろう。野次馬も然りだ。
 冷たいコンクリートの外壁は変色して、密閉された内部で熱し膨張した空気が脆弱であった屋根から噴出して、穴の開いた部分からもくもくと黒い煙が夜空に吸い込まれて行く。
 街の明かりの届かぬこの場所では、黒い煙すらも暗闇に溶け込んで近くで目視しなければ、その異変には気付かぬであろう。
 夜空に舞い上がる黒煙を避けて、二人は屋敷が建っていた断崖の先端から、崩壊して行く屋敷を見詰めていた。
「終ったな」
 しゃがれた声でアルベルトは呟き、そして隣に立つジェットの手を暗闇の中で一筋の光を求めるかの如くに強く握り締めた。
「ああ」
ジェットも強い力でその手を握り返した。
何が終ったとは決して聞かない。
「お前の躯を通り過ぎた連中は全て死んだ。生き残っているのは俺だけだ」
 その台詞にジェットは悦びと、そして恐怖を感じる。少なくとも、自分の意志で生き延びる為以外に人を殺すことを良しとする男ではなかったはずだ。なのに、自分の躯を弄んだBG団の兵士に限らず、幹部も全て瞬殺出来る能力を持ち合わせていながら、全員に死の恐怖を堪能させるような殺し方をしているのだ。
 残虐ともいえるそのやり方が仲間と対立を生み出したことすらあった。
 彼らしからぬその行為に、畏怖を抱いているのは自分であり、そこまでにして病的なまでの愛を手向けられて嬉しいと思える自分もいる。
「帰ろう」
 ジェットはそう言って握っていた男の右手を引っ張った。
 アルベルトが自分の躯の上を不本意に過ぎていった男達を殺したからといって、その記憶が抹殺されるわけではないし、何かが変わるわけでも決してないことを二人はよく知っていた。
 死に行く男の目の前でセックスをしたとしても、何も変わることはなく醜い顔の男が一人死んだという事実しか残らない。
倒錯的な情事の後ジェットがシャワーを使っている間に、BG団の情報と思しきものは全てアルベルトが収集した。そしてデータ化し、黒いコートのポケットの中に仕舞いこんである。
 男の前で病的な行為をする理由などありはしないのだ。
 でも、アルベルトはそれを望んだ。
 アルベルトの本意が何処にあって、何を男に欲していたのかはジェットには理解出来ないが、望むことであるとしたら叶えてやりたいとそう思ったから、痴態を晒した。もう、あの男の存在など自分にとってはどうでもよくなっていたのだ。
 アルベルトに愛されていると知ったあの瞬間から、自分に触れる手は愛しい鋼鉄の手に転化されてしまっていたから。
「何処へ」
 何処か心細そうな声のアルベルトをジェットは腕を伸ばして抱き締めていた。ジェットに触れた男達を殺していくとの目標が達成されてしまった今、この男が何を思っているのかは分からない。でも、自分を愛してくれていることだけはジェットにも伝わってくる。
 病的だろうと何であろうと、ジェットが欲しかったのは、自分だけを愛してくれるその鋼鉄の右手だったのだ。それが手に入れられるならば、何を犠牲にしても構わない。
 自分を弄んだ男達の命がこうなると分かっていながら、アルベルトに殺戮を続けさせたのは、本当は自分の意志であったのかもしれない。殺すことをもちろん止めようとも思わないが、残酷な殺し方をまるで楽しんでいるかのような行為は止められたかもしれないのだ。
アルベルトの全てを手に入れる為に。
アルベルトを愛していること以外は本当は必要のない感情なのかもしれない。そんな気持ちや考えは所詮、愛していることを自分の心の中に植えつける為の添え木にしか過ぎないのだろう。
そして、全てを手に入れる為の最後の台詞をジェットは愛しい男の耳元で囁いた。






「あんたが帰りたい場所へ……、オレの居場所はあんたの居る場所だから……、何処へでも、地獄の果てだって、一緒に行くよ」





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From '我が心を右手に告げること勿れ' of the issue 2003/12/29