エンジェル! 危険な張り込み捜査
アメリカ西海岸独特の抜けるような青い空に赤味のかかった金髪が綺麗に映える。 風を孕んで靡く髪は、近くで見るととても柔らかく良い香りがする。襟足が跳ねているヘアースタイルは何とも、彼をキュートに見せているのだ。 ギラギラと輝く太陽の下であるにもかかわらず、白い肌に覆われたしなやかなボディーを隠しているのは、丈の短かなアメリカ国旗をデザインしたTシャツと白いホットパンツである。しかも、丈の短いTシャツからは腕を上げ下げする度に、可愛らしい臍や細いウエストが見え隠れする。 更に白いホットパンツはようやく小さなお尻を覆う程度の生地で作られているのだ。いくら、この店の売りというか、ウェイトレス&ウェイターの制服だとは言え、許せない露出度だ。 しかも、客に何か言われて愛想良く笑い果てには、胸についている小さなポケットにチップを入れてもらっている姿には、腹が立つ、チップぐらい部屋に一杯欲しければやるものをと思うこの男の経済観念は庶民からみれば遠慮がちに見積もったとしても0が3桁ばかり違っていたのだ。 わざわざこのハンバーガーショップに毎日立ち寄る為に、普通の彼から見れば面白味のあまりない何が哀しくてアメリカ車などに乗らねばと思うのだが、初めて愛しい彼がこの店で仕事を始めると聞きつけ、やって来た彼にそんな車で来られたら仕事の邪魔だとつっけとんに言われたのがショックで、フォードフェスティバなどという面白味もへったくれもない車を買ってしまったのだ。 スーツを脱いで、ジーンズを履き、仕事の合間を抜けて愛しい彼に愛に来るためだけに、ここまで来ているのにいつも彼は仕事の邪魔だと、キス一つしてくれない。でも、そんな彼も可愛くてならないのだから、救いようのない馬鹿としかいいようがないだろう。 愛しい彼が美味しくもない。まだ、愛しい彼の作った焦げたパンケーキの方が美味しいと思わせるようなハンバーカーとポテトとコーラーとサラダのセットを紙のトレーに載せて颯爽とローラースケートを操って風の精のように彼の元に来てくれるのだ。 「チースーバーガーのランチBセット、おまたせしました」 と開いた窓から紙のトレーに乗ったそれらを差し入れる。 用意していた紙幣をジェットの手に握らせると、その手ごと僅かに自分の方に引いて耳元で囁いた。 「今夜は、空いてるか?」 「アルッ!!」 ジェットは怒ったような呆れたような口調で、強引でオトナなくせに自分べったりの恋人を見た。確かにいい男だとは思う。恋人を亡くした直後の憔悴した彼を理屈もなくただ守ってあげたいそんな気持ちで慰めてあげようとベッドを共にしたのが最初だった。 けれども、今ではすっかりと恋人同士になってしまっている。 「先週末のお前のBD、いくら仕事上のアクシデントがあったからって祝ってやれなかったから、せめて、食事だけでも…」 「だから、オレ仕事中で、ここに潜入捜査でバイトしてるんだけど…」 ジェットは幾度も説明をしたその台詞を繰り返す。もう、今夜、彼と食事に行くことは間違えない。そんなことは百も承知だけれども、でも、自分も仕事があるってことをわかってもらいたい。別に遊びでやってるわけではないのだ。 「邪魔はしない。ただ、お前の姿を見にハンバーガーを買いに来るだけだ。今夜7時に事務所に迎えに行く」 「ちょっと…、服を着替えに戻らなくっちゃ…」 反論しようとしたジェットの背後から同僚のウェイトレスの声が掛かる。 「ジェット、ボスがこっちを睨んでるわよっ!!」 「サンキュー・ジャッキー」 ジェットに声を掛けたジャッキーは波打つ金髪を揺らしながら、まるで何事もなかったようにハンバーガーが出てくるカウンターに滑って行く。この店のシステムは可愛いウェイトレス&ウェイターが車まで注文を聞きに来てくれてその上に車まで運んでくれるというシステムの店で、味はまあまあだが、大きな通りに面していて近くにはコレといった飲食店がない為、繁盛をしているというわけなのだ。 ウェイトレス&ウェイターも給料は安いが、チップを客が弾んでくれるのが収入のほとんどを占めている為、歌手や女優、モデルを目指している子達も少なくはない。 「着てく服がないんだから、用意しといてくれよ」 暗に了解したとの意を唱えると、ジェットはアルベルトの車を離れて、ボスの元に滑って行く。 まるで空を滑るようなしなやかな動きにアルベルトの目は釘付けになっていた。 「ああ、とびっきりと素敵なのを用意させてもらうよ」 「ジェット」 カウンターにハンバーガーを取りに行ったジェットをボスが呼び止める。 「はい」 「昼間は忙しいんだ。男に媚を売ってる暇があったら、ハンバーガーを売れ。デートは構わんが、明日結婚します、店を止めますってのはナシだぜ。違約金取られるの覚悟しておけよ」 と太いもぢゃもぢゃに毛の生えた腕に似合わぬしぐさでハンバーガーの乗った紙のトレーをジェットの手に乗せる。 口は悪いが、ウェイトレス&ウェイター達からは絶大な信頼を寄せられるボスなのだ。彼のガタイのよい強面があるから、カワイコちゃんたちを巡っての諍いも起こらない元プロレスラーで今はハンバーガーショップのコックは心根は優しいのである。 あんなことを言っていても、新しいウェイターのジェットを変な男に引っかからないか心配してくれているのだ。ジャッキーをジェットに元にやったのはなかなか戻らないジェットが強引な男に捕まって四苦八苦しているのではとの危惧であった。 ジェットは悪いとは思う。 あれは自分の恋人でそんな心配は要らないんだよとは言えないのが、潜入捜査の辛さだ。 「了解、ボス」 とジェットは答えて駐車場を所狭しとローラースケートで駆けていた。 「ねえ、ピュンマ」 隣の運転席でホンダNSXのハンドルを操っているピュンマにフランソワーズはそう声を掛けた。 「何だい?」 フランソワーズは昼のニュースが終ったラジオのボリュームを落とすと、溜息混じりにこう言った。 「あたしの見間違いぢゃないわよね。今、あたしたちと反対車線をあのドイツ人が通り過ぎていかなかった。似合わないTシャツ着て、しかも、ジェット以外には乗らないって豪語するアメ車に乗ってたわ」 フランソワーズはピュンマを見ると、笑っている。あれは幻でも何でもなく現実だってことだ。ジェットは何も言っていなかったが、毎日、通いつめているに違いない。きっと、初日にあの男の愛車で乗り付けてしかもスーツを着たままであったのだろう。それをジェットに仕事の邪魔だと言われて、車まで着替えて通ってくるマメさは褒めるが。 「そうだね。フランソワーズの考えてる通りだと僕も思うよ。仕事の邪魔ならないようにってしてるんだから、いいじゃないか。でも、まあ、相手が相手だから、ジェットには釘を刺しておかないとね」 とピュンマがハンドルを左に回すと、車体は緩やかな左折していった。小さな通りから大きな通りに出ると、ジェットのいるハンバーガーショップまではすぐである。 「そうよ。相手は、殺し屋なんだから、気をつけないと…、でも、どうしてあそこのハンバーガーショップに現れるのかしら?」 エンジェル達が探しているのは、南米、北米大陸を股にかける殺し屋である。依頼人に関しては語れないが、とにかく彼は何処に住んでいるのか不明だし、本名も年齢もわかってはいない。 ただ、最近、このハンバーガーショップに不定期ではあるが、最低でも1週間に一度は現れることだけが唯一の手掛かりでジェットがウェイターとして潜入しているのだが、前に彼が現れてから10日、ジェットが潜入してから1週間が経ってるのに、一向に姿を見せない。 そろそろフランソワーズには焦りの色が見え初めていた。 「フランソワーズ、焦りは禁物だよ。ジェットはああ見えても、はしっこいからターゲットを見逃すようなことはしない。それにフランソワーズの疑問だけど、僕も僕なりに色々と想像してみたんだけど。彼があそこに定期的に現れるのはあの周辺に何かあるんじゃないかって…」 ピュンマは分かるだろうと暗にそういう意味を込めた視線をフランソワーズに流した。それを受けてフランソワーズはまあねと答えるとサイドミラーを覗き込んだ。 「つまり、病院か何か定期的に通う必要のある施設がこの周辺にあって、食事時ともなれば、何か食べられるのはあのハンバーガーショップ以外ないから、あそこで済ませてるって言いたいんでしょう。でも、その施設の特定が出来ない」 「そう言う事。でも、これは僕の感なんだけどね。今日辺り、ターゲットが現れそうな気がするんだよ」 そんな顔に似合わぬ物騒な話しをしている二人の美人を乗せた車は、ジェットが居るハンバーガーショップへと吸い込まれていった。 「ハーイ、ジェット」 目聡くピュンマの車を見つけたジェットは注文を取りにやって来る。やはり、三人の中でこういう格好をさせると一番似合うのはジェットだ。違和感なくこの空間に溶け込んでいる。ターゲットが来たとしても、ジェットが彼を探している探偵だとは思わないだろう。イワンのキャスティングは絶妙だが、フランソワーズにとっては聊か退屈な捜査である。 日々、ジェットから連絡が来るのを近くのモーテルで待機しているだけなのだ。ピュンマはコンピューターで彼が今まで関与したと推定される事件について色々と手掛かりを捜索している。 「いらっしゃいませ」 とジェットはウェイターの顔で出迎える。 「収穫ナシ…だよ」 「こっちもだ」 とピュンマが答える。 「今日はCランチ二つでいいわ」 とフランソワーズ。 「そうそう、ドイツ男を見たけど、毎日、来てるみたいね」 ジェットのその台詞に肩を竦めただけであった。でも、頬が緩んでかなり嬉しいそうなのは、今夜デートですって言ってるようなものである。自分は退屈しているのにとも、フランソワーズは少し腹が立ってくる。 「ピュンマの感に拠れば、今日辺りですって」 つまりターゲットの出現は今日だとピュンマが言っていたというのだ。だとすれば、デートは語和算になってしまう。ジェットは必ず仕事を優先させるからである。だから、自分達は恋人と長続きしないのだ。自分達のり仕事を理解してくれる恋人など、そう簡単に見つかるものではない。 「うーーん。残念、Cランチ二つな」 ジェットはあっさりとそう言っただけで、二人の乗った車を後にした。 「フランソワーズ?」 ピュンマの含みのある口調にフランソワーズはこう言った。 「そりぁね。ジェットにはドイツ男がいるし、貴方には堅物のネイティブが居るともでも、あたしには誰も居ないのよ。ちょっとぐらいいいじゃない」 気品のある美貌と教養を兼ね備えた美人の言うことではないのだが、それが妙にピュンマの目には可愛らしく映った。この仕事を辞められないのは、スリリングな事件が好きなのと仲間である彼と彼女が好きなのがある。 そんな彼女はとても素敵だと、ピュンマが笑い。 誤解したフランソワーズがピュンマに食って掛かり、そこに注文の品を持ってジェットが現れる。 エンジェル達は今日も、事件を追いかけているのであった。 |
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