休日の午後には接吻を
休日の朝は、ゆっくりとお昼近くに起きる。 昨夜は久しぶりに再会した恋人同士のセオリ通り、二人は早急に互いを確かめ合い。明け方近くまで、メイクラブに勤しむ。そして、抱き合ったまま眠り、朝食と昼食を兼ねた昼過ぎのブランチを楽しむのだ。 普段は、どんなに遅くまで起きていてもちゃんと翌朝は決まった時間に起きてしまう性質のアルベルトだが、ジェットが尋ねて来る時は、ゆったりと時間に拘ることはしないようにしているのだ。 ジェットの体調に合わせて、二人でブランチを作ることもあれば、外に食べに出掛ける事もある。あるいはアルベルトが腕を振るうこともあれば、ジェットが用意してくれることもある。 今日はアルベルト特製のサンドイッチと作り過ぎたからと加速装置を使ってドイツくんだりまでお裾分けにとジョーが持ってきてくれたミネストローネがブランチの主役であった。 ライ麦パンにチーズやソーセージ、トマトやレタス、ホウレンソウ等をランダムに挟んだだけのものである。それが大ぶりの皿にところ狭しと並べられ、深いスープ皿はなみなみとミネストローネで満たされていた。 別にご馳走というほどのものでもないけれども、ジェットにとってはどんな質素な食事だとしてもアルベルトと食卓を囲むということが大切なのである。 アルベルトの食べ方は上品というのか、巧いと思う。 テーブルマナーなど無縁であったジェットとは違いアルベルトはテーブルマナーを身に着けていた。それを、強要はしないが、外で食事をすると引け目を感じることがジェットにはあるのだ。だから、庶民的な店は良いけれども、少しでも格式ばった店には絶対に近寄らないし、アルベルトが誘ってもあまり良い顔は出来ないだろう。もっとも、アルベルトはそれを知っているから、敢えて庶民的な店にしかジェットを連れて行った事はなかった。 グラスに注がれたオレンジジュースを一口含むと、皿からジェットは生ハムとレタスのサンドイッチを手に取った。ブラックペッパーの効いた生ハムはジェットがアルベルトのアパートを尋ねるようになってから、覚えた味の1つで、お気に入りでもある。 口に入れて噛むと、しゃきしゃきとしたレタスの水気と生ハムの塩気で口が支配され、徐々にブラックペッパーの風味が口の中に広がってくる。 口に最後の一切れを押し込むようにサンドイッチを食べ終わると、それをじっとアルベルトが見ていた。 「何、見てんだよ」 自分の食べ方が決して見ていて気持ちの良いものではないと自覚のあるジェットは口唇を尖らせて拗ねるが、アルベルトにしてみれば、美味しそうに食べてくれるから、作ってやろうかと言う気持ちになるし、美味いと笑うジェットの幸せな顔を見るためならば、手間隙を惜しみたくはないと思う自分がいる。 「いや……」 と、お茶を濁したアルベルトにジェットは何だよと言いつつ、トマトとチーズのサンドイッチに手を伸ばした。男性メンバーの中で一番細いくせに食欲だけは旺盛なジェットはかなりの健啖家である。そして、食べないように見えるアルベルトだが、彼の場合はテーブルマナーが良いので、食べていても食べていると思わせないものがあるのであって、彼もまた結構な健啖家なのであった。 そんな二人が揃えば、皿のサンドイッチなど簡単になくなってしまう。 アルベルトはサンドイッチを口にしながら、時折、ミネストローネを味わう。確かに、ジョーの料理の腕前は格段に上がった。別に本当に余ったわけではないのだ。味見をさせる為にわざわざ加速装置でドイツまで走って来ただけなのである。 何故なら、アルベルトの味覚とギルモア博士の味覚の嗜好は非常に酷似しているのだということなのだ。だから、何度か、アルベルトの元に試作品を持ち込んでは、試食をさせられている。それを教えると、ジェットは自分もアルベルトの為に料理をすると言いかねないので、アルベルトは知り合いにお裾分けで貰ったと言っている。決して、間違ってはいない。その辺りがアルベルトの狡猾さなのであった。 二つのサンドイッチを食べたジェットは、一息ついて正面に座っているアルベルトに視線を向けると、彼はミネストローネを啜っていた。 銀色のスプーンが赤い液体を掬い、それを色合いの薄い口唇に運ぶ。いつもはへの字に曲げられた口唇が動く様は妙にセックスの時の彼の口唇を彷彿させるのだ。話す時もあまり大きく口を開けずに話すアルベルトの口唇はジェットにキスを落とす時だけは活発に動くのだ。見なくとも触れる感触で、その動きが分かってしまう。 口唇についた僅かなスープをペろりと舐める仕草に、いつもアルベルトと過ごして居る時は常に仕掛けられている快楽と言う名の爆薬が一つ密やかに爆発をした。起き抜けのペニスがどくんと頭を擡げ始めしまう。 そして、トマトと生ハムのサンドイッチをその口に運び、ライ麦パンごと歯で噛み切る。赤いトマトの汁が口の端を伝って零れようとするのをまたも、ぺろりと舌が救い上げる。白い歯にピンクの生ハムのコントラストはまるで、自分のペニスや乳首にアルベルトが歯を立てる色彩を思い起こさせる。 昨夜も、アルベルトがジェットのペニスを口で愛撫する様を見せつけられたのだ。 茶色掛かったピンクの自分のペニスが口唇に挟まれて、舌で舐め上げられる。時には歯を立てられる。あの疼きが簡単に躯に蘇り、快楽と言う名の爆薬は1つが爆破すると後は、いとも簡単に誘爆を起こし、躯の内部で激しい爆発が起こり次第にジェットの躯の中を情欲という爆風が吹き荒れる。 コップに注いだ牛乳を流し込む喉仏の動きと、白い液体を飲み込む様は自分の放った証しを全て飲んでしまった彼の満足気でセクシーな笑みを思い出す。そして、囁かれた甘い言葉にすら躯が疼いて、アルベルトが欲しくて堪らなくなってしまうのだ。 「ぁあ……」 ジェットは、手にしたサンドイッチを皿に置いて、溜め息を漏らした。 どうしたのだと、自分の目の前にある皿から自分にアルベルトの視線がちらりと動く。その瞳の色合いの変化は自分がどれほどまでに、彼に愛されているのかとダイレクトに伝えてくる印象がある。自分を見詰める彼の瞳の蒼が強く出る様は、シルバーグレーの凍えた瞳が、日差しの差し込む穏やかな北海の海に変貌してしまうようなのだ。 愛情に包まれる感触が、ジェットを困惑した状態へと追い込んでいく。 ただ、普通に食事をしているだけなのに、節操なく彼が欲しくなってしまう。これではロクに一緒に食事もできないと思うが、それも一瞬で、あの魅力的な口唇に触れたいとの止められぬ欲求が沸いて来た。 「アル……」 ジェットは手を伸ばして、アルベルトの口唇に触れる。少しひんやりとした感触に、ああ、彼だと肌が覚え込んだ感覚がぞくりと快楽という電気信号を発信させてしまう。 親指で触れて僅かに開いた隙間から、小指を滑り込ませると甘く爪の生え際を噛まれた。ジェットの為すがままにしてくれるアルベルトが欲しい。このままダイニングの床に押し倒されて、強く激しく抱き締められて、固い床に何度も打ちつけられるように突き上げられたいと望んでしまう。 「アル……。あんたとシタイ」 ジェットは迷うことなく欲望を口にする。 自分はこうすることでしかアルベルトが好きだと伝えられない。彼を見ているだけで抱かれたいと思えてしまう程に好きだとそうとしか伝える術を知らない。アルベルトにしてみれば、自分に向ける全ての行為に自分に対する好きだという感情がふんだんに込められていることを覚っているが、ジェットは可愛いことにそうは思ってはいない。 だから、セックスに関しては積極的に欲望を口にする。 「偶然だな、俺もだ」 そう言われて、伸ばした手を鋼鉄の手で握り締められ、指先に幾つもキスを落とされる。 それだけなのに、指先からは痺れるようなうねりが腕を這い上がり、躯全体に高速の早さで伝えられてしまう。こういう時の自分の性能は良いのにと、ジェットはそう心の中で笑った。 「アル」 熱を帯びた瞳で見詰められてNOと、言えるはずがないと指先に落とされたキスにすら甘い吐息を漏らすジェットを上目遣いに見遣った。 アルベルトもまたジェットの仕草に欲情を感じていたのだ。鼻についたマスタードをペロリと舌で舐め取る仕草は、自分の欲望の証しを口で受け止めてくれた時に飲み干せなかったそれを舌で舐め取る行為を思い出させる。頬についたマヨネーズを手の甲で拭い、それを子猫のように舌を這わせる仕草は、抱き寄せながら絶頂を迎える時に縋るようにアルベルトの首筋や耳元に無意識で舌を這わせる仕草を思い起こさせる。そして、ミネストローネを口に運んだ後に白い歯をスプーンに当てるのは、自分の鋼鉄の手に歯を立て、甘えを含んだ瞳で自分を見詰めるそんなジェットを彷彿とさせるのだ。 何でもない様に食事を続けながらも、食事が終わったらどうしてやろうかと考えていたのはアルベルトも同じだった。 「ジェット」 アルベルトは手を甘く噛んだまま立ち上がるとジェットの座る椅子の傍らに跪いた。そして、貴婦人に傅く騎士の如く、アルベルトは手の甲にキスを落としてくれる。 そんな仕草につい照れてしまうのだ。 時折、アルベルトは芝居かかった仕草で誘ってくれる。アルベルト程のハンサムな男がそんなことをすると格好良すぎて困ってしまうとジェットは眉を寄せた。そんな扱いを受ける恥ずかしさと嬉しさを誤魔化すようにジェットはわざと乱暴に言う。 「なぁ、デザートはあんたを下の口から食べたい」 ちょっと下品なお誘いに鋼鉄の騎士はにやりと口の端だけを上げて笑った。 「腹がはぜるくらい食わせてやるよ」 鋼鉄の騎士の下品なお答えにじゃじゃ馬な貴婦人は口を開けて笑い、食わせてくれよと舌なめずりをしてみせた。 今日も、こうして恋人同士の穏やかな午後は過ぎていくのである。 |
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