分別回収 −不燃物−



「おいっ」
 そう声を掛けられて、アルベルトは手を止めた。
「あんた、生ゴミと不燃物と可燃物を一緒に捨てる気か? ああん」
 態度の大きな男だとアルベルトはぼんやりと彼の顔を見た。
 突然、きつい口調で声を掛けてきたのは自分と同じくらいの背丈で、年は随分と若い男であった。
 20代前半、いや10代後半ぐらいにも見える若さだ。
 市の衛生局から委託を受けた業者の作業服を着て、首にはタオルを巻いている。
 収まりきらない赤毛が帽子から飛び出しているのが、何ともまあ、新聞の4コマ漫画のキャラクターみたいに見えた。
「聞いてんのか。今日は水曜日で不燃物を捨てる日だ。で、生ゴミの収集は昨日。ちなみに、明日が可燃物の収集日だ」
 その勢いに押されてアルベルトはつい謝ってしまった。
「すまない」
 そのアルベルトの手には崩れて原型を留めないケーキがあった。
「もったいねぇな」
 年若い男らしからぬ台詞を吐くと、ぼんやりとしたままアルベルトにこうアドバイスをくれた。
「あのな、多分、会社に生ゴミ処理機があると思うから、其処にケーキは捨てな。ああ、給湯室に置いてあるはずだ。企業では、設置を義務づけられてるからな。それから、ケーキの乗ってるケーキ皿はゴミ箱に捨てとけ。いいな」
 彼はそう言うと動き出した、ゴミ収集車の後部に飛び乗った。
 徐行しながらゴミ収集車は隣のビルのゴミ専用のコンテナのある場へと移動していく。
 アルベルトはぼんやりと、徐々に遠ざかる跳ねた赤い髪を見詰めていた。
 やがて、ゴミ回収車は隣のビルの陰に隠れて見えなくなった。あんな遠慮のない物言いをされたのは久しぶりで、ここ数年沈みっぱなしだった気持ちが少し上昇した気分になった。
「ケーキが生ゴミ処理機で、ケーキ皿がゴミ箱だったな」
 アルベルトはそう呟くと、ビルの中へと戻って行く。
 まだ、人があまり出社していないビルの中には人影もまばらで、そのほとんどが徹夜で仕事をしていた連中ばかりだった。
 原型を留めないくらいに崩れたケーキを持って歩くアルベルトを奇異の目で見る者はいなかった。
 それよりも徹夜で疲れているせいなのか、見てはいけないものを見てしまったという顔をするのだ。
 しかし、アルベルトにとってはそんなことどうでも良かった。
 ただ、誕生日だと押し付けられたケーキが邪魔だっただけだ。
 そうケーキを押し付けた女性に率直に告げたところ、目の前で床にケーキを投げつけられた。そして、ヒステリックに喚かれ、その女性は片付けもせずに立ち去ってしまった。
 途方に暮れたアルベルトは取り合えず、汚れた床の後始末をした。
 ケーキは拾い集めてケーキ皿の上に乗せ、オフィスの隅に置いておいたが、仕事が一段落して、そのままにしておくわけにもいかないと、ビルのゴミ専用コンテナのある場所に向ったのである。
 そして、其処であの印象的な青年と出会った。
 教えてくれた通りに、始末しなくてはとアルベルトは彼が勤める会社のオフィスがある5階へと階段を使って昇っていった。





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