官能の毒牙に食まれる歓び



「いやなら、逃げられるだろう」
 冷たいアルベルトの声がジェットの耳元に届いた。
 いつもの彼とは違う。自分がしてはいけないことをしたのだと今は理解している。でも、あの時は自分でもどうしてなのか分からないけれども、彼の本意が知りたいのだと思った。試すような真似も同然の行為だけれども、狂ってしまった歯車は戻せない。
「……っあ、アル。ゴメン……ごめん。俺……」
 ただ、謝罪の言葉と喘ぐ声しか出ては来なかった。
 ジェットは知っていたはずだ。そう言う行為がどれだけアルベルトを苦しめてしまうのか、そして、誰かを殺してしまいたいという暗い殺意を持たせてしまった原因を不本意とは言え、作り出してしまうのは自分という存在であることをジェットは忘れてはいなかった。
 ただ抱き合うだけの触れ合いだったのに、自分を犯した男を自分の意志で殺害した直後のアルベルトに、愛を囁かれたあの身が蕩けるような心の快感を忘れられない。それをもう一度と願ってしまった自分がいたことを、ジェットには否定出来ないのだ。
「俺に、謝るようなことをしたのか?なぁ、ジェット」
 優しい口調でありながらも、その声は冷たくいつもの自分を優しく包むドイツ語訛りの英語ではない。
「ご、ごめ……ん。えっ……っふ、ごめん」
 泣き声が混じり始める。快楽と自分に対する情けなさで溢れ出した涙は、口から零れる喘ぎ同様に自分の意志では止められなくなっていた。涙で途切れる視界には、シルバーグレーの髪に部屋の光りが淡く反射していることぐらいしか伝えては来てくれない。
 そう、自分がいけなかったのだと、ジェットはどうしてそのような行動に自分自身が出てしまったのか理解出来ない。
 其処にアルベルトが来ることを知っていながら、自分を暴行しようとした男に身を任せるような真似をしたのだ。
 そう、今からどれくらい前かは分からないが、数時間程前のことであった。
 いつも、アルベルトの休暇にジェットがベルリンを訪れて濃密な恋人同士の時間を過ごすのが常であった。アルベルトはいつも、自らの飛行能力を使ってやって来る恋人の躯の心配をしてくれる。NYでちゃんと食事はしているのかとか、部屋は片付けているのかとか、危ない友人と付き合っているのではないのかとか気に掛けていてくれる。
 そんなに色々と言うのなら、NYに来てみるかとのジェットの誘いにアルベルトは二つ返事で頷き、GWの休暇を利用しての訪米となったのである。
 律儀なアルベルトはケネディー国際空港に降り立つと真っ先にジェットに電話を掛けて来た。ジェットが住んでいるアパートまで、イエローキャブを利用して一時間弱程度であろう。料理をして、散らかしてまたアルベルトに怒られてはとジェットは近くに出来たイタリアン料理のデリバリー専門店に足を運んだ。抱えるほどの料理を持って帰宅したジェットは同じアパルトメントに住む、自分より少しばかりの年上の青年と顔を合わせたのだ。
 ろくに話などしたことはないが、顔を合わせると会釈をして寄越す。
 小さな子供が転んだりすると手を差し伸べる姿や、犬を散歩させつつ、その犬の戯れる姿は普通のはにかみ屋の青年に見えた。
 アパルトメントの入り口でばったりと鉢合わせをした二人は黙って、階段を昇った。成人男性がようやく通れる程度に狭い階段を上り、ようやく5階の自分の部屋に辿り着いた。5階の一番手前がジェットの部屋で一番奥が彼の部屋である。
 買った料理を床に置くのを憚られて、鍵をジーンズの尻のポケットから取り出すのに悪戦苦闘していたジェットを見かねて、彼は食料品を受け取り、手伝うと申し出てくれた。
 サイボーグと言う身分から人との接触を避けてしまう傾向にあるジェットにしてみれば、些細なことだけれどもこういう親切を受けるのは本当に久しぶりのことで、少しばかり浮かれていたのかもしれない。警戒もせずに簡単に彼を部屋に招き入れてしまった。
 彼はジェットから預かったイタリアン料理のデリバリー専門店で買い込んだ料理をテーブルに置いてくれる。ジェットはせめてもの礼にビールでもと冷蔵庫を覗こうと腰を屈めた瞬間、後頭部に激しい衝撃を受けた。
 人工頭蓋骨のおかげで気絶は免れたものの視界がクラクラと揺らぎ、膝に力が入らない。冷蔵庫の取っ手を掴んだ手がするりと抜けて、床に膝をついてしまった。
 戦闘で培った経験は伊達ではなくジェットは浮き出る冷や汗を逃がし、浅い呼吸を繰り返して、気配で相手を探りながらも1秒でも早い回復に努めようとしていた。
「ごめんなさい」
 青年の体格の割りに高い声が聞こえてきた。
 背後からゆっくりと歩み寄る。何をされるのかと、警戒したジェットの躯を優しく抱き起こして、床に横たえる。打ち所が悪かったのか、ぐらぐらと揺らぐ視界はなかなかに元には戻らない。でも、この青年から殺意も悪意も感じられないのだ。まさか、BG団り残党が放った暗殺者ではとそんな考えが過ぎるが、だとしたら、背を向けた瞬間に対サイボーグ仕様の銃で頭をとっくに撃ち抜かれていたであろう。
「っな……」
 青年は持っていた黒い皮の鞄からガムテープを取り出すと、力の抜けたジェットの右手と右足、左手と左足を手際良く拘束してしまう。
「ちっ……放せっ……」
  悪態をついてガムテープの拘束を絶ち切ろうと少し回復した視界で彼を見ると、其処には泣きそうに歪んだ青年の顔があった。黒い髪に青い瞳、ジェットと同じ色の瞳が哀しみで染まって行く。ああ、自分も昔はこんな目をしていた。アルベルトに抱かれた後、シャワーを使う自分の顔は喜びではなく哀しみに彩られていた。それでも、関係を絶つことなど出来ないで、悪戯に過ごした日々が過去にはあったのだ。
 拘束から抜け出すタイミングを逃がしたジェットは大きく、深い呼吸を繰り返す。
「本当にごめんね。僕は、君が大好きなんだ。いつも、こうしたいって思ってた」
 て言うと鞄から刃渡り30センチのサバイバルナイフを取り出す。ナイフならば刺されたとしても、仲間の中では薄い部類に入るジェットの人工皮膚でも通すことはない。ナイフはジェットの長袖Tシャツの裾から差し込まれて、ずたずたに引き裂いていく。そして、ベルトをジーンズを下着を器用に切り裂いてジェットの白い素肌を露わにしていった。
 その間、青年は決してジェットを手荒に扱わなかった。
 謝罪と、好きだと告発を続けて、ジェットの肌を傷付けないようにしている。その哀しみに満たされた瞳が自分の昔と重なり、ジェットは言葉を失っていた。
「知ってるよ。君に恋人がいるくらい。アルって、嬉しそうに電話で話してたから……」
 ギルモア博士に持たされたGPS携帯を使ってアルベルトはマメにジェットに連絡を寄越してくる。どうと言うことはないことなのだが、ジェットの独り暮らしが気に掛かるようで、煩いと思う反面、そこまで気に掛けてくれるその気持ちが面映い。
 多分、その時の会話を聞かれてしまったのだろう。
「分かってる。でも、一度でいいから僕は君を抱きたい。僕はこう言う方法でしか好きな人を抱けなくてごめんね」
 と肌蹴たジェットの白い薄い胸にキスを落とした。ひくりとジェットの躯が跳ねる。
「この食事は彼が来るからなの?」
 との問いにもうすぐアルベルトがここに尋ねて来ることを思い出す。彼は、今の自分の姿を見て、どう反応するのだろうかと、そんな考えが過ぎった。BG団に居る頃、まだ、アルベルトが自分に対する気持ちに気付いていなかった頃、ジェットはBG団の関係者にアルベルトの目の前で犯されたことがあった。
 既に、躯だけは繋ぐ仲で、セックスをしていたが、アルベルトはどう見てもジェットに友情以上の好意を持っているようには見られなかった。確かに、自分が望んで、自分から仕掛けた関係であった。愛してくれとは決して言えるはずもなく。ただ、傍にいて仮初めだとしても彼に抱き締められることに歓びを感じていた。
 彼に好きな人が出来たら、自分はお払い箱だと思いつつ、でも、彼を望んだ日々は長かった。
 そんな日々に終止符を打ったのが、その事件であったのだ。
 その事件以降、アルベルトのジェットに触れる手が優しくなった。あまり愛撫など施さなかったその手がジェットを昴める目的で触れるようになった。自分に対する同情なのかとも思っていたが、齎される優しいアルベルトの手にジェットはされでも良いのだと、身を委ねたのだ。
 けれども、それはその事件によって彼はジェットを愛していることを始めてアルベルトが自覚したからであった。BG団を逃げ出す寸前にアルベルトはジェットを犯した男とそれをお膳立てした男を自らの明確な意志を持って殺害したのだ。
 アルベルトが欲しいと心奥では願っていながらも、決して口には出来なかった日々をこの状況は思い出させる。
 もし、アルベルトがこの姿を見たら、どうするのだろう。
 それが知りたかった。
 あの男達に犯された後、抱き締めてくれた時のように彼は抱き締めてくれるのだろうか。それでも、汚れても愛していると言ってくれるのだろうか。もちろん、全てをこの男に委ねるつもりはない。もうすぐ、アルベルトがここにやって来る。
 ジェットはその時のアルベルトの顔を見たいと、純粋に思ってしまった。
 そうジェットが考えた瞬間、ベルが鳴った。
 ジェットと何回も呼ぶ声がして、扉がガチャガチャと音を立てた。鍵は開いたままなことにアルベルトは気付いたらしく、扉が開いた。ワンルームのアパルトメントは玄関を開けたら、そこはもう、部屋の中である。
 一瞬、その光景に其処にいた全員が動けなくなった。
 でも、それは本当に一瞬の出来事で、様々な感情を瞬殺したアルベルトは何も言わずに、青年を撲り倒して、猫の子を掴むように片手でジェットの部屋から叩き出すと、鍵を掛けた。その眼は、怖いくらいに冴え渡っていて、まるで、犯されている自分を冷静に見詰めていたあの瞳に酷似していた。何と、彼は言うのだろうとジェットは彼を見詰めた。
 そして、拘束されたままのジェットをまるで、ダッチワイフでも抱くように何も言わずに抱いたのだ。恋人になってからは、決してそんな抱き方はしなかった。これが愛し合う為のセックスなのだとジェットは始めて知らされたそんなセックスをしてくれる。
 肉体的な快楽もだけれども、心の快楽をも齎してくれるそんな抱き合い方であったはずなのにとジェット思っていた。何も言わないアルベルトに不安を感じながらも、彼に愛して欲しいと願う。けれども、彼も聖人君主ではないのだ。
 あの、暗い始めて自らの意思で人を殺したいと痛烈に願ってしまったそのどうしようもない何に対する怒りかはわからないけれども、収集のつかない感情が躯の中を駆け巡っていた。ジェットを愛しているのだ。自分の手以外にはその白い素肌を触れさせたくはない。
 どんな理由があったとしてもだ。
 あの腸の煮え繰り返るような憎悪を抱ける自分に嫌悪をし、そんな感情を発露させる原因となったジェットを恨んだ。どうして、彼と出会ってしまったかのかと、サイボーグにされてしまった時と同じくらいに自分の運命を呪った。
 人を愛さないと誓った心が崩れて行く。
 その時の自分を支えていた張りぼての強さが瓦解して行き、何も残らない。そんな自分が恐ろしくって、どう扱ったら良いのか分からなくて、アルベルトは迷走していた。そして、答えを出せたのは、自分はジェットを愛しているのだという真実があったからだ。
 そして、今、彼とこうして濃密で優しい恋人同士の時間を過ごしているが、ふとした折りに、その時の不安が頭を擡げて来てしまうのだ。自分以外がジェットに触れると言う。彼がジェットを愛していると自覚せざる得ないあの事件を彷彿とさせるからなのだ。
 そのアルベルトの深く沈めてた負の感情をジェットは呼び覚ましてしまった。
 自分のしていることは恋人同士の睦み合いではないことぐらい承知していたけれども、逃げようと思えば、逃げられたのに、逃げなかったジェットが憎い。どうして、そんなに無防備に誰かにその素肌を触れさせるのだ。
 多分、自分を試していたのだとそれもジェットの様子から理解は出来るけれども、でも、自分の心は止まらない。
「こんなにして、あいつはお前をこうしたいと思ってたんだ。お前もこうされたかったんだろう?」
 耳朶に囁きを吹き込んで、ジェットのペニスを縛り上げている皮の拘束具に触れた。ジェットの滴る愛液が染み込み、その皮は必要以上にその痩躯と同じように細いペニスをぎりぎりと縛り上げている。ジェットの躯に施されている性具は全て、青年が忘れて行った黒い看鞄に入っていたものであった。
 その上から触れると、ジェットの甘い息が上がり、細い腰が誘うように揺れた。
 躯はアルベルトが残した所有の徴が至るところに残り、アルベルトの精液で汚された肌はピンク色に上気している。何故だか、こうして甚振られているジェットを見ていると怒りもだが、奇妙な興奮を覚えてしまう。この体勢のまま、フェラチオの強要し、その憎たらしいけれども、自分を好きと告げる口唇を汚した。飲み込めなかったそれがジェットの顔に付いている。
「……っ、ごめ……、ごめん、なさい……っええ」
 しゃくり上げながら、喘ぎを漏らしつつ、それでも謝罪を止めることはない。
 でも、決して、ジェットはアルベルトに止めてくれとは言わなかった。いつもそうだ。ベッドの上では、アルベルトが望んだことは叶えようとするし、自分の快楽以上にアルベルトの快楽を優先させようとする。
 もし、アルベルトがこう言うプレイを望んだら、ジェットは頬を染めながらも身を差し出すのだ。分かっているけれども、でも、そんなジェットが許せない。自分にだけではないからだ。様子を見て、逃げ出そうと思っていたとしても、それでも、アルベルトは嫌なのだ。
「悪い子はお仕置きしないとな」
 自分の声とは思えない冷静な意地の悪い声が自分ではない別の誰かが発しているように聞こえ、手にしたバイブのスイッチを最強にする手も自分の物ではない気がしているが、それに反応してジェットの躯は快楽で強張っていた。謝罪よりも喘ぎが多くなり、青い瞳からは、大粒な涙が流れる。瞳だけではなく、拘束されたそのペニスの先端からも、そして、バイブを捻り込まれたアナルからも、ヌメル涙が流れ出でる。
「っあぁぁあん………っはん、いゃ…………んんん…ア、ル」
 身を悶えさせて、それでもアルベルトの名前を苦しい息の下からでも、愛しいのだと想いを有りっ丈込めて呼んでくれる。
 逃れようと思えば、その力で手足を拘束しているガムテープを引き千切ることなどと容易いはずなのに、ジェットは決してしようとはしないのだ。アルベルトに与えられる全てを健気にも享受してようとしているかのように見えるのだ。
「っあ……・アル……・っはん、ゴメン」
 更にボロボロと大粒の涙が止まらない。アルベルトに汚された顔を涙が洗い流して行くほどの涙の量であった。
 どうして、このように泣かなくてはいけないのだろう。泣くぐらいならば、自分など捨ててしまえば良いのに、自分を嫌いだと言えばもう恋人同士ではいられないのに、そうすれば、こんなにジェットが泣くこともないのにと、アルベルトは自分勝手だと思いつつ、その涙に口唇を寄せた。
 ペロリと舐めると塩辛い味がする。
 機械化された躯であるのに、生身であった頃と同じ味がした。
 口唇でその涙を吸い取ると、塩辛いだけでなく苦い味がするような気がする。それはきっと自分に負い目があるからだと、アルベルトは気付いてしまった。
 自分が自分の気持ちに素直になれなかった間、ジェットには辛い想いをさせたから、彼が蕩けてしまう程に甘やかせてやりたいと思った。満たされなかったであろう彼の過去の分を自分が埋めてやりたかった。
 でも、過ぎる欲がジェットを時として、こうして苦しめてしまうことがある。
 愛している、手放したくはない。でも、ジェットを雁字搦めにしてしまいそうになる自分と共に居ない方がよかったのではと、思うこともなくはないのだ。
「アル……」
 涙で視点の定まらなかったジェットはその目元に触れる優しい口唇の感触にアルベルトの心を汲み取ろうとしていた。
「……アル……ごめん」
 必死で、躯に中を駆け巡る快楽と戦いながらもアルベルトにそう伝えて寄越すのだ。もう、謝まらないで欲しい。悪いのは自分なのだ。試したいと思わせてしまった自分の行動がいけないのだ。それでも、自分が悪かったと謝ることの出来ない自分の性格を恨みたくなる。
 左手の電磁波ナイフで手足の拘束を解くと、ジェットの長い手足がぱたりと床に落ちる。
 その華奢な躯に圧し掛かり、頬に、流れる涙に口付けを落とす。
 心の中ですまないと、そうジェットに告げる。
 こんな愛し方がしたいわけではないのだ。
 これでは、あいつ等と自分も同じではないかとアルベルトは自分の激情のままに起こした行動に深い後悔を覚える。
「ジェット……」
 搾り出されるようなアルベルトの苦しげな声にジェットは笑った。アルベルトが見ていたとしたら、どうしてそんなに笑えるのかと思えるような艶やかな笑みであった。ジェットには分かっている。彼が自分に心の中で謝罪していることぐらい。自分も悪かったのだ。
 彼がどんなに優しくて、傷付きやすい人なのか自分が知っているはずだ。どんなに人を愛することに臆病で、愛したらその感情を押し留められない情熱家であることを自分が一番理解していたはずなのにと、でも、それに自分の気持ちに気付いてくれたから、もう良いのだとジェットは思う。
 彼が齎す快楽だから反応してしまうし、それが嫌ではないのだと、言ったら彼はどんな顔をするのだろう。彼がしたいのならば、こんなセックスも受け入れられる自分がいる。躯が軋み、既に快楽の暴風雨に侵食されていてもジェットは吐息を堪えて、泣いていたせいでしゃくりあげる自分を必死で堪えて、名前を呼ぶ。
「アル」
 呼ばれて見詰めると、微笑むジェットの姿がある。
 ジェットは最初から自分を許しているのだ。何をされても、自分を見捨てないからと言ってくれているのだ。どんなにそれがアルベルトを強くしているのか、一生ジェットは気付かぬであろう。彼が居なければ、自分はただのガラクタとして一生を終えていたであろう。
 愛してやりたいとの欲求が膨れ上がってくる。
 肉欲だけではなく、心をも抱き締めたいとそう始めた願ったの日の感情が、再燃する。自分にあるだけの技量でジェットの躯に自分の存在を刻み込んだ最初の夜、同様に今も愛してやりたかった。
 今でも、その時に恥らいながらも甘やかにアルベルトに応えたジェットの白い肢体は脳裏に焼き付いている。ジェットを抱くことに慣れてしまった自分が嫌になる。当たり前過ぎて、どんなに彼が自分にとって大切なのかを再認識しなければならなかったのだ。
 もう、二度と忘れまいと思う。
 どんなに彼が必要で、愛していて、その存在を自らが欲しているのか、忘れてはならないと自分の心に刻み付ける。
「ちゃんと抱いてやる。イイ子にしてろ」
 いつものアルベルトの優しいドイツ後訛りの英語にジェットは強張らせていた躯の力を抜いた。自分達は、不器用同士なのだから、言葉で伝えたって互いに理解出来ないけれども、こうして肌を重ねれば、アルベルトのことが分かる。今、彼がどんなに後悔していて、どんなに優しく自分を抱きたいと願っているか、ジェットにはアルベルトの触れる右手の動きで知覚できる。
 応える変わりに、自由になった腕をその広い背中に回して、抱き付いた。
 ペニスを痛い程に拘束し、アナルを攻め立てるバイブの感触すら、先刻とは違ってジェットには感じられる。痛みは痺れに転化され、やがて純粋な快楽として昇華される。そして、慣らされたアナルにバイブの代わりにアルベルトの凶器が突き立てられるのだ。
 それを待ち侘びてしまう自分がいる。
 もし、アルベルトが望むのならば、自分は拘束されたままで構わないのだと、ジェットは自分を振りまわす年上のそして、臆病で、素直で、頑固な恋人が愛しくて抱き寄せる腕に僅かだけ力を込めた。
「ねぇ、たまには、こう言うシチュエーションも悪くないだろう?」
 そう笑う年下の恋人にアルベルトは深い笑みを返した。確かに、こんなのも悪くはない。今度は、ちゃんとジェットの為に、似合いの拘束具を買ってやろうかと、アルベルトはそう思える自分に呆れながらも、自分を虜にして止まない白い肢体に意識を沈めて行くのであった。





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