悦楽の流刑地
階段を昇って玄関の扉を開ける。 玄関ホールの左手には大きな引き戸があり、其処を開けるとキッチンと一体になったリビングが広がっている。 リビングにはトマトとオリーブオイルの匂いが充満していて、空の胃袋がぎゅっと収縮するのが感じられた。 帰宅した自分に背を向けたまま、何やら冷蔵庫に頭を突っ込むように探し物をしている恋人の背後に気配を消して立つと、腰に腕を回して、襟足の辺りが跳ねる癖のある髪にただいまのキスを落とした。 「ただいま」 「お帰り」 気配を消したはずなのに恋人は驚く仕草も見せず、くくっと鳩が泣くように喉の奥で笑うとくるりと躯を反転させて、アルベルトの頬におかえりなさいのキスを返してくれる。 驚かせてやろうと思っていたのに、残念だと言うと、ジェットはまたもそれが可笑しくてならないと笑う。 「だって、あんた帰るコールしてから、きっかり30分で帰ってくるんだぜ」 「時間に正確すぎるのも、聊か考えものだな」 とアルベルトは軽く肩を聳やかせながら、ジェットから離れるとリビングと対面になっているキッチンカウンターの上に雑誌を置いた。 「頼まれもんだ」 ジェットはちらりとその雑誌の表紙に視線を走らせるとサンキュと小さく呟き、上体をぐいっと伸ばして、キッチンを後にしようとしていたアルベルトの頬に掠めるようなキスをする。そんなんじゃ足りないなと言いつつ、アルベルトは戻って来るとジェットからのキスを待った。 冷蔵庫から取り出したアボガドをまな板の上に置くと、エプロンで濡れた手を拭いて、ジェットはアルベルトの前に立った。 そして、おもむろにアルベルトの口唇に自らの口唇を重ねる。 自分の口唇で、アルベルトの口唇を挟み込むようなキスを何度か繰り返す。やがて、アルベルトの腕がジェットの腰や背中を気紛れに徘徊しようとした瞬間、電子レンジが派手な音を立てた。 ジェットはサンキュな、と鮮やかなウィンクを残してアルベルの腕の中から逃れ、何事もなかったかのように電子レンジの中身を取り出し始める。 「今夜は?」 「トマトとなすのパスタと、アボガドのサラダと、昨日の残りのローストビーフ、オニオンスープ」 と答えたジェットは料理に没頭し始める。 BG団を逃れた頃は、湯を沸かしてインスタントラーメンを作るのがやっとだったジェットの料理の腕前も随分と上達した。イタリア系の血のなせる業なのかパスタ料理に関しては、世辞でもなく美味い。 今夜の夕食が楽しみだと、そう言いながらアルベルトは再び、上着を置きに2階の寝室へと上がっていった。 階段を上がると、そこはロフトスペースなっていて壁一面のクローゼットと、中央にはキングサイズのベッドが置かれている。サイドテーブルには目覚まし時計と、読みかけの雑誌や本があり生活しているのだという空気を醸し出していた。 ここで、二人で暮らし始めて既に半年近い時間が過ぎようとしている。そう、一度死んでからまだ一年しか経ってはいないと考えると、不思議な感覚に囚われることがある。 こうしてジェットと静かな暮らしをしていたとしても、何処からともなく湧いてくる違和感が拭い去れないことがあるのだ。 この暮らしが嫌いなわけではない。 むしろ、幸せ過ぎるのが恐ろしいくらいだ。 仕事も順調である。 相変わらずトラックで荷物を運ぶ単純な仕事ではあるが、長い時間誰かと接していなくとも良いということはアルベルトにとって、良い条件の仕事といえる。彼の能力であれば、いくらも仕事を選ぶことが出来るであろうが、車を運転する仕事がアルベルトは好きであった。 仕事がある日はジェットが夕食を作り、休みの時は自分が夕食を作る。 後の食事は気が向けば二人で食べることもあるが、個々に済ませることもある。 長い付き合いだから、一緒に暮らし始めても戸惑うことはあまりなかった。自然とそれが当り前のように大きなトラブルもなく二人の生活は続いていた。 ある一つを除けば、普通のカップルと変わらぬ暮らしだと思う。 ここで暮らし始めてから半年の間、ジェットが一度も外出していないことを除けばである。 確かに、ここを出なくても生活出来るようにさり気に仕向けたのは自分の方だった。 馬鹿馬鹿しい要望を押し付けて、この家の中に閉じ込めたのは自分だったはずだ。けれども、それが当り前となった今となっては、ジェットをこの家から出すのが怖くなってしまっているのだ。 ジェットが黙って軟禁状態に近い生活を送れる性質ではないことを知っている。それを諾々と受け入れているということは、ジェットはそれを納得しているということになる。 一体、何がジェットをこのコテージに繋ぎ止めているのか、アルベルトには理解出来ない部分がある。 要因の一つとして自分の存在が上げられるのであろうが、それだけではないはずだ。 クローゼットの扉を開け、着ていた上着を仕舞おうとして、目に付いたのはジェットのジャケット類であった。クリーニングの袋から出されないまま、半年間ずっとこのクローゼットに眠っている。 決して、不満があるわけではない。 けれども、再改造を受けた自分が過去の自分とは明らかに違うことをアルベルトは良くも悪くも自覚していた。 『メシだぜ』 ジェットの呼ぶ声がする。 今行くとだけ答えて、アルベルトはクローゼットの中に時折浮かぶこのような思考を押し込めると、何事もなかったかのようにトマトとオリーブの香り漂う階下へと降りていった。 「よお」 ジェットは前触れもなくバスルームに入り込んできた。 ジェット手製の夕食を済ませた後、片付けを引き受けた自分より先に風呂に入ったはずだった。何か用なのかと訊ねるといいやとジェットは素っ気ない返事をして、髪を洗っていた004の足元にしゃがみ込んだ。 二人が暮らしているコテージのバスルームは、男二人で暮らすには聊か豪勢な造りをしている。リビングからバスルームに続く扉を開けると、洗面台とトイレがあり、さらにその奥に脱衣所と日本式の風呂場があった。 アルベルトはシャワーさえ使えれば不満はなかったのだが、ギルモア邸の日本式の風呂がいたく気に入っていたジェットの発案で風呂は日本式のものが採用された。 「おいっ!!」 ジェットの行動は突然すぎる。 髪にシャンプーのつけたままのアルベルトのペニスをばくりと口に含んで、そのまま目線だけを上げる。 何処か縋るような青い瞳を見せらると、アルベルトは何も言えなくなってしまう。 恋人になってから、幾度ともなく躯を重ねた。 幾度かそれぞれ違う相手との恋愛をしたこともあるが、結局、戻るのはこの場所しかないと思えるのだ。 だから、自然と一緒に暮らさないかとの言葉が出た。 死に対する様々な感情はあったものの、それを自分は死の間際に受け入れられるのだとアルベルトは思っていたが、結局、そうではなかったというわけである。生き返ったことに対して、誰よりも喜んだのは自分であったからだ。 人生に未練がありすぎたのだ。 「うっ……、ベッドまで待てねぇのか」 どうにかその台詞をペニスに無邪気にじゃれているジェットに吐き出すと、ジェットは勃起しつつありペニスを含んだまま首を横に振った。 ジェットは、何も言わない。 セックスの時は妙に饒舌だったくせに、カナダで暮らし始めてからはセックスの合間もあまり話さなくなった。 ただ、前よりもアルベルトを求める頻度が増えた。 腕が縋るようにアルベルトの腰に伸ばされる。 壁に背をついて、宙を仰いだアルベルトの頬が上気しているのは決して風呂に入っているからだけではない。 獣じみたセックスも経験していたのだから、これくらい今更なのであるが、最近のジェットは何処か様子が妙なのである。 ジェットもアルベルトも大人だ。自分のことは自分で決められるし、強制されてもただ諾々とそれを受け容れられる程に可愛い性格もしてはいない。確かに、一緒に暮らし始めた当初、コテージに閉じ込めるように画策したのは自分だ。 でも、監禁したわけでもないし、コテージから出るなと命令したわけでもない。 帰ってこればジェットの顔が見られることは非常に嬉しいことではあるけれども、自分と二人きりで家に居たとしてもジェットは自分と同じ空間にいたがるのだ。 一緒に風呂に入ったり、ベッドへ入るのも同じ時間だし、ソファーに座っていても必ず躯を密着させてくる。 どちらかというとさばさばしているジェットには珍しい行動で、特にセックス以外での恋人としてのボディタッチを好まなかった今までに比べれば、アルベルトにとっては嬉しいことばかりなのではある。 「っくぅ……」 性感帯を知り尽くしたジェットのフェラチオに、さすがのアルベルトも呻き声を上げるばかりだ。 完全に勃ち上がったペニスの尿道部分に舌を潜り込ませるように愛撫しながら、玉袋をやんわりと揉んで、自らの尻をくいっと上げる。綺麗に反った背骨の浮いた背中がアルベルトの視覚を刺激するということもジェットは知っている。 もっとと強請るように突き出されたアルベルトのペニスをジェットはそのまま深く、喉の奥まで迎え入れる。吐き気が込み上げて涙が出そうになるが、自らを犯しているのがアルベルトのペニスだと思うと、平気でそんなことが出来るのだ。 恋人として付き合った時間はあまりにも長い。 だから、恋人でありながらベッドを全く共にしない時期もあったし、互いに会うことを避けていた時期もあった。そんな間、男女を問わずジェットは付き合ってみたが、やはりアルベルトでなければ駄目だと思わされるだけであった。 こうしてつかず離れずの関係は続くと思っていたが、物分りの良い大人の振りを自分がしていただけであったのだと、ジェットはここに来てから気が付いた。 さり気にコテージからジェットは出そうとはしないアルベルトの行動に、正直嬉しいと女々しいが思ってしまったのだ。 少なくとも、ここに閉じ込めておきたいくらいにアルベルトが自分に執着しているということに他ならなかったからだ。 例え、女と関係を持っていることが知られたとしても、アルベルトは気にも止める様子は今まで一度も見せなかった彼が、アルベルト以外を見ることに嫌悪に近い感情を見せてくれたことによって、ジェットの何かが変わっていった。 こんなにも求められることが、幸福を齎すことだということをジェットは初めて知ったのだ。 だから、もっととアルベルトを求めたくてならない。 同じ家に住んでいながら、常に躯を密着させて相手を感じていたいのだ。 宙を仰いだままのアルベルトの視線が気に入らない。もっと淫らな自分を見て欲しくて堪らない。 だからわざと歯を立てると、アルベルトの視線が自分の方に戻ってくる。シャンプーが滴り落ちている様はとてもセクシーでぞくぞくとする。 身長はほとんど変わらないが、分厚い胸板や首から肩にかけてのラインに男らしさを覚え、つい背後から抱きつきたくなることもしばしばある。 「ってぇ。何しやがる」 アルベルトはそう言うと、ジェットの顎を捉えた。 セックスの時には、乱暴になる彼の仕草が堪らなく今は好きだ。昔は自分のそれに合わせて男らしく振舞っていなくてはならないのがルールだと信じ込んでいたが、自分がアルベルトの女のように振舞う方が興奮するということをここで知った。 「アル」 視線が絡み合う。 やがて、アルベルトの右側の口の端がにやりと上がった。それを合図に、ジェットは腕を捉まれる。そのままアルベルトが凭れていた壁に顔を押し付けられると、腰をぐいっと引かれる。足を開けとばかりにアルベルトの足がジェットの膝の内側を蹴飛ばしてくる。 素直に従って足を広げると、予告もなく冷たい感触がアナルに当たった。 ぬるりと滑る感触と共に、アルベルトの右手の指が2本挿入される。 「っあっ!!」 「ったく、突っ込んでほしけりゃ、まどろっこしいことせずに、そう言えよ。ジェット」 遠慮なく2本の指を抜き差しさせる。 ジェットの背中が突然の陵辱に震えるのが視界に入る。アルベルトは髪から垂れてきたシャンプーを乱暴に左手で拭うと、ジェットのペニスにそれを擦り付ける。 逃げることはないと分かっていながらも、アルベルトはジェットの細い腰に左手を回してしまう。 身長は変わらないのに、飛行能力を追求したジェットの躯はかなり細身である。耳の後ろから鎖骨にかけての筋も浮いているし、背骨のラインも綺麗に見える。人工内臓の保護する為に、薄っすらと人工筋肉が肋骨を覆ってはいるが、自分と比べると全てが細い。 「どうなんだよ」 つい乱暴な台詞が口をついて出てしまう。 ジェットが自分の元から出て行かないという確証があっての甘えにも近い感情だと、アルベルトも理解しているけれども、大人の男でなければならないとずっと自分に言い聞かせていた理性が、生き返った時にどういうわけが剥離してしまっていた。 「突っ込んでくれよ」 ジェットが苦しげに求める言葉を紡ぎ出した。 「いい子だ」 アルベルトは腰の回した左手をそのままに、アナルを嬲っていた右手を外し間髪いれずに堅くなっていた自身のペニスをジェットの完全には解れていないアナルへと突き刺した。 「っああああ」 痛みに悶えるジェットの声が上がるが、構うことなく突き進んでいく。もとろん、ジェットは逃げようにも左手で腰をホールドされていてはどうすることも出来ない。 半分以上埋没したのを確認すると、アルベルトは右手でジェットの顎を掴み強引に後を向かせた。 「たまんねぇな」 そう囁くとジェットは困惑した目をしてアルベルトを見詰めてくるが、その向こうには歓喜の色があった。 「お前が、こんなに好きモンだったなんて、初めて知ったぜ」 アルベルトが揶揄するとジェットはいやいやするように首を横に振った。どんな時でも尊大に抱かせてやっているんだぜというジェットは何処にもいない。そんな昔が嘘であるかのように、アルベルトの女のようにジェットは抱かれて喜びを心と躯で伝えて寄越すのだ。 「っはぁっ……、っう」 アルベルトの突き上げられる状態でジェットはただ嬌声を漏らすだけであった。 でも、ジェットはそうされることを望んでいたし、そうしたいとアルベルトも望んでいることを互いに知っていたのだ。 アルベルトは聊かやりすぎだと、反省しながらビールのプルトップを抜いて、隣に座ったジェットに手渡した。 渡されたビールを一気に流し込んだジェットは小さく溜息を吐く。 ビールを嚥下する音に合わせて喉仏が上下し、口唇に残った泡を手の甲で拭う仕草や、バスルームでの情事の匂いを纏ったままのジェットからアルベルトは視線が外せなかった。 バスルームで仕掛けてきたのはジェットの方だった。好き勝手に弄んで、結局ジェットのペニスにはほとんど触れてやることもせずに、自分だけ達した後、床に崩れるように座り込んだジェットをそのままシャワーを浴びて一人出てきてしまった。 どうしてやったら、良いのか分からなかったのだ。 綺麗に洗って、お姫様抱っこでもしてやればよかったというのだろうか。 どんなに、女のように喘いでセックスをしたとしてもジェットは男なのである。 もちろん、ジェットが男であることにアルベルトは何ら感慨を抱くことはない。たまたま、彼が男性という性であっただけということであり、自分はジェット以外の男性とは誰ともセックスをしたいとは思わない。 ペニスを見て興奮するのはジェットだからである。 そのペニスがバスローブの狭間から見え隠れする様が、先刻逐情したにもかかわらず、アルベルトの牡を刺激する。 不思議なのだ。 女性の太腿ではないのに、筋張ったジェットの細い足を見ていると嘗め回してやりたいという欲望が湧いてくる。 昔は興奮の要因ではあったが、嘗め回したいと思わなかった。 セックスも互いの性器を愛撫することが主で、それ以外の場所に触れることはあまりなかった。なのに、ここではジェットの全身を嬲ってやりたいと思える。いや、おそらく昔からそんな願望が自分にあったのだ。 けれども、ジェットと自分の関係は男同士の愛情の結晶であって、どちらかが女々しい態度をしてはならないと戒めていたに過ぎない。 男であるジェットが女のように啼く姿にアルベルトは興奮するし、ジェットはアルベルトに支配されることに喜びを見出している。 今だとて、自分を誘惑しようとしているのではないかと、そんな馬鹿げた考えが脳裏を過ぎるのだ。頭の中がジェットの様々な姿態で一杯になり、セックスを覚えたての頃のように、いくらでもセックスがしたいとの欲望が湧いて出てきてしまう。 再改造を受けて、以前より幾つか違う点があるが、日常生活において大きな変化は見受けられない。やや、手足の鋼鉄部分の触感センサーが敏感にセッティングされた程度のことだ。 以前から、ジェットに触れる時だけは不思議とその躯の熱さを感じることができた。 それは同じ素材から作られたサイボーグであるのだから、共鳴反応を起こしていたのだと、理由づけをして強引に納得をしていた。 でも、新しい躯になってからも、それはやはり変わらなかった。 センサーでは感じることの出来ない、リアルな触感が今でも、いや、今まで以上に感じることが出来る。 それを何度も試して、確認したくてたまらないという部分もあるのだと、ジェットに執着している自分の弁護をしてはみるものの結局触れたいという欲求には逆らうことは出来ない。 「おい」 それ以上は何も言わずにジェットのビールを取り上げると、そのままソファーに押し倒してしまう。乗りかかるような体勢で、遠慮なく寛げている襟元から掌で胸を撫でるように滑り込ませた。 「アル」 自分では前触れもなく人のペニスを咥えられるくせに、自分がこうして触れられると驚くんだなと、どうでもよいことを考えながら、ジェットのまだ上気している首筋に歯を立てる。 「っい……、何考えてんだ。お前っ!!」 いつもの威勢の良いジェットの台詞だが、決して強くアルベルトを押しのけようとはしない。それが、既にこの行為の続きをしても良いといっているも同然だなとアルベルトはそう受け止めた。 「何って、お前を犯ることしか考えてねぇよ」 アルベルトはそう言いつつ、右手の掌を迷うことなくペニスへと滑らせて行った。押し倒された勢いで肌蹴られたバスローブからはジェットのペニスが顔を出している。既に堅くなり始めていることにアルベルトは満足を覚える。 更に気分を良くして、肌蹴られた薄い胸板を彩る乳首を舌先で突付くようにして振動を与えてやってから、まるで動物がマーキングするかの如くに唾をねっとりと擦り付けてやった。 唾が外気に触れて冷えていく感触がたまらないのか、ジェットは上体を捩るように動かすが、アルベルトの束縛から逃れようとはしない。 アルベルトは乳首だけでは足らないとばかりに、胸板だけに及ばす、首筋、腋の下まで舌を這わせて濃厚なマーキングの行為を続ける。もちろん、その間にも、ジェットのペニスを右手で強弱をつけて握り込んでやることも忘れない。 「動物みてぇだな」 ジェットには最近のアルベルトのセックスがそう感じられる。 でも、昔の方がある意味では動物的だったのかもしれない。 こうして、まるで自分のモノであるかのように確認するような自分を嬲るだけが目的のセックスなんてしたことがなかったからだ。マーキングするかのようにジェットに挑んでくるアルベルトの姿が愛しくてならない。 奇妙な考えなのかもしれないが、とジェットはアルベルトに身を任せたまま、瞼を閉じた。激流にのまれるような快楽ではなくじわじわと毒されてやがて逃げられなくなるような快楽に身を浸すことを望んでいる。 相手がアルベルトであるのなら尚のことだ。 急くように逐情することだけが目的のようなセックスなのではない。男同士であるのはもちろんだが、それ以上に踏み込んだ関係を望んでいたのかもしれない。 それがどのような形になるのかは今もジェットにも分かりはしないが、ただ、こうしてアルベルトに抱かれていると愛されていることの悦楽に心が震えて、もっと欲しくなってしまう。 「っあああっん」 「ぼんやりしてんじゃねぇぞ」 アルベルトは何処かぼんやりと意識を漂わせているジェットが気に入らない。どんな時でも自分という存在を認識してくれなくては我慢がならない。いや、自分以外の誰も認識しなくてもよい。 ただ自分に囲われていてくれれば良いのだ。 ジェットも男だ。 意地も、プライドもある。 それをかなぐり捨てて、自分を求めて欲しいのだ。 この鋼鉄の手で、自分の思うがまま啼く躯に仕立ててみせたい。生き返って望んだことが、利己的なことだったなんて、仲間には言えねぇなとアルベルトは冷静に自分を見ることが出来るのだが、やはり、衝動を止めることはしない。 「ぼんやりしてて、俺じゃない男が乗っかっても気付かないんじゃねぇのか」 「かもな」 そう返す辺りは相変わらずなのであるが、躯はアルベルトを求めてもっとと啼いている。 「だったら、ここから出るんじゃねぇ。ずっとここに居ろ。俺の帰りを待ってろ、必要なものは全部、用意してやる。お前に乗っかってる男を殺すなんざ、まっぴら御免だからな」 自然とこんな言葉が口から出てしまっていた。一度、出たものを引っ込めることは出来ない。家から出るなと口に出したのは初めてであった。そのようなことを匂わせることはあったとしても、ジェットに直接、それを要望したことはない。 ジェットは、アルベルトの顔を見詰める。 表情のない顔がゆっくりと綻んで、そうして、微笑んだ。 「分かってる」 腕を伸ばして、固まったままのアルベルトを抱き寄せるとちょうど首筋にアルベルトの口唇が当たった。それだけで、握られたペニスがぴくんと反応してしまうのだ。アルベルトなしで今更、我慢などできはしない。 「あんたが、望む限り、俺はここに居るぜ。あんたの女になる覚悟でここに来たんだ。だから、ちゃんと言ってくれよ。何が欲しいか……」 ジェットもまた言ってくれることを望んでいた。 言葉にした通り、女々しいのも女っぽいのも嫌だと思っていた。アルベルトと恋人になったとしても、自分は男でありたいとずっと考えていた。でも、今は違う、アルベルトの女でもいいのだし、そう扱われたとしても構いはしない。 アルベルトの隣に居るのが自分でありさえすれば、それ以外は些細な問題なのだと、アルベルトを失ったからようやく自覚できたのだ。 「ああ、言ってやるよ。腰が抜けてたてねぇくらい嬲ってやるから、あんあん、可愛く啼いてみせろよ。お前の声だけで俺が逝けるぐれぇに、色っぽくだぜ」 難しい注文だなと、ジェットはアルベルトの耳元に囁いた。 そんなジェットにアルベルトも囁きを返す。 『なぁに、いつものお前でいいのさ』 |
The fanfictions are written by Urara since'09/04/01