愛する苦しみに救いの手を
焚き火を囲み久しぶりに再会した00ナンバーアメリカ組と島村ジョーは、取りとめもない極々ありきたりな世間話に花を咲かせていた。 実際は、久しぶりに再会した女子大生の如く、009と002がひっきりなしにしゃべっていて、たまに005が相槌を打つようなものであったが、まあ、彼等にしてはそれなりに楽しい一時であった。けれども、009は些か、002に対しては腹に一物もっていた。 009の外見は清純な乙女そのものだが、中身は強かな乙女的要素を多く持ち合わせている。この強かさ故に、意外と強烈なキャラクターが00メンバーにはまだバレテてはいない。さすがに、同じ乙女的な匂いを嗅ぎ取っている003にはすっかりバレテはいるけれども、003にしてみれば、むさくるしい男達の中でも唯一、同性の友人の居るのと同じくらいの気安さを感じて敢えて口を拭っているとはいえ、バレていないのはなかなかなものである。 ふと、会話が途切れて、三人は何気に薪の弾ける音に耳を傾けていた。 辺りには不審な動きもない。慣れた手付きでコーヒーを注いでくれた005に二人は礼を言う。インスタントコーヒーではあるが、温かなコーヒーに世間話しをしながらも、周囲に気を配って緊張していた糸が僅かに緩んだ。 そもそもだ。 そもそも、009が連絡を取ったのは、005だけであった。002がアメリカに帰ったのは分かっていたか、連絡先が分からなかったのだ。で、日本から、アリゾナへの直行便がなかった為、ロサンゼルスまで行き、其処で005と合流し、アリゾナに向かう予定であった。ところが、005との待ち合わせ場所には何故か002が居たのである。 009から連絡をもらった005はすぐにニューヨークに飛び、脳内にある無線機を使って002と連絡を取ったのである。遠くからでは使えないが、ある一定の距離まで近づけば可能なのだ。 005曰く、捕獲作戦を行うのには、やはり空中戦のエキスパートである002が居た方が何かと便利だという弁であった。 確かに、捕獲するのに002の飛行能力は役立つと思うが、ここに来る前に002の恋人である004が日本に来ていたのである。BG団との戦いを終えて、故国に帰郷したメンバーの中には004も002も含まれていた。 仕事で日本に来た004は今後の身の振り方をギルモア博士に相談しに来たのだ。別に、それはどうということは無いし、ギルモア博士とのラブラブな日常を邪魔するものでなければ、ジョーは寛大になれるのである。 けれども、004との話しのついでに、002の話しが出た。 002が004と時折、会っていることぐらいは00ナンバー内では暗黙の了解事項であった。けれども、跳ねっ返りで、そそっかしい、ジェットをギルモア博士は博士になりに心配していたのだが、004は知っていながら、あの馬鹿は何をしてるんでしょうねとシラを切ったのである。 つい心の中で知ってんなら、ちゃんと話して博士を安心させろよっと突っ込みを入れてしまう009であった。 大切なギルモア博士をやきもきさせておいて、ラブラブイチヤイチャするなんて、羨ましさもあるジョーはだからして、ジェットに対して腹に一物を貯めてしまっていたのである。 ギルモア博士を愛しているし、例え、他に同居人がいようと居候がいようとギルモア博士と同じ屋根の下で暮らすことができれば、それで幸せなのだ。コーヒーや紅茶を入れてあげたり、食事を作ってあげたり、洗濯をしたり、掃除をしたり、時には、研究の手伝いをしたり、お供して買い物や調べ物をしに出掛けたり、ジョーにとっては愛する博士との日々はとても素晴らしいものであった。 博士の愛情がジョーが博士を思う愛情と異なっていたとしても、全然、構わないし、甘えて抱きつくと撫で撫でしてくれる皺の寄った手の感触が堪らなく嬉しいのである。 年中、発情しているカップルに対抗しようとは思ってもいないが、目の前でイチャイチャと本人達は控えめだと思っているであろうが、アングロサクソン民族的な愛情表現を奥ゆかしい日本人の前でしないでもらいたいと思うわけである。 少しは博士が抱いてくれたら、何て思わなくもないけれども、途中で腹上死されるよりかは健康で長生きをしてずっと自分の傍に居てくれた方がずっと幸せだ。教会の孤児院で育ったジョーは肉体的な愛情よりも、精神的な愛情に重きを置くタイプであった。自分は、博士に殉じて、誰ともエッチしなければ、それで殉愛だと真剣にそう思っているのだ。 それなのに、目の前でベタベタする二人に何故か、アルベルトに対してはそう思わないのだが、ジェットは年が近いせいかふと虐めてやりたいのだと意地悪な欲求が込み上げてくる。 「なあ、皆、どうしてる?」 ジェットは突然、そうジョーに尋ねる。博士には全員が連絡を入れているだろうし、博士の傍にいるジョーはその事情を知っていると思ったのだ。焚き火の向こうから、上目遣いに何かを伺う時の視線はアルベルトを探している時の視線と似ていた。乙女的な思考回路を持つジョーにはそのジェットの考えが一瞬でわかってしまう。 ここのところ、多分、004と会っていないのだ。 だから、自分を介して博士のところに律儀に3日とおかずに連絡を入れてくるドイツ人の行状を知りたいと言うところであろう。 ジョーはここで、カチンと来る。 ギルモア邸を出て、空港まで004と一緒だったのだが、世間話しをしていても結局、この跳ねっ返りなじゃじゃ馬娘のようなアメリカ人の話になっているのだ。しかも、ちょっと渋くて格好良いなと思っているアルベルトの顔には惚気てますと書かれている。クールに戦術論なんかを008と戦わせている時の004はナイスガイなのだが、どうしてジェットが絡むと普通の男になるのだろうかと、些か気に入っているだけに面白くないわけである。 「うん。アルベルトが日本に来てね」 この台詞に今度はジェットが凍りつく。 仕事が忙しくて、10日程は休みが取れないからと前回、アルベルトの仕事の休みの日にベルリンの彼のアパートを訪ねた時は、そう言っていた。今回も、アルベルトが仕事で暇だから005との連絡に答えて、この恐竜捕獲作戦に加わったのである。そのアルベルトがどうして、日本にと疑問を覚えずにはいられない。 凍りついたジェットを見て、ジョーは心の中でニヤリと笑う。 この二人の不穏な空気に005は気付くが、雄を巡って小競り合いをするメス猫のような雰囲気に感だけは妙に良い005は関わらないほうが利口だと結論を出して、聞かない振りをして夜空を見上げる。 「へぇ〜」 ジェットは口の端をヒキヒキ引きつらせながらも、平静を必死に装っている。仕事で忙しいって言ったのに、どうしてアルベルトが日本にいるのかと問いただしたいのをじっと我慢する。第一、日本に行くんなら、行くと言えばいのにと、ベルリンの方角をぎっと睨み付けてしまう。 「仕事だって、言ってたけど…。でも、その割りにゆっくりしていったんだよ。僕も日本のあちこちを案内してね。ほら、アルベルトってハンサムでしょう。シルバーグレーの瞳に銀髪だし、今の日本の女の子って積極的だから、いろんな所で声を掛けられて大変だったよ。でも、連れがいるからって、全部断ってくれて…、人込の中ではね、時々、僕の肩を抱き寄せてくれたり、手を握ってくれたり、ホント、アルベルトって優しいよね」 何処を回って、アルベルトかどう喜んだのかと事細かにジョーは話した。些か誇張気味な部分もなきにしもあらずであったが、決して、嘘は言ってはいない。 「凄く、喜んでくれてね。今度はドイツを案内してくれるって…」 ジョーの話しにジェットは沸騰寸前であった。 あんなに愛してるって言って抱いてくれたのに舌の根も乾かないうちにジョーにまで、とジョーに対して嫉妬するよりもアルベルトの言動が許せないジェットなのである。アルベルトにちょっかいを出すジョーよりも、他を向いているアルベルトが許せない。 アルベルトはハンサムだし、ナイスガイだから、モテルのは仕方ない。アルベルトを好きな人は居ても良いけれども、アルベルトが好きなのは自分でなければイヤなのだ。 非常に我が侭なジェットなのである。 そんなジェットの様子にジョーは心の中でくすりと笑う。やっぱり、フランソワーズの言う通り、ジェットを突っつくと楽しい反応が返ってくる。アルベルトが傍にいるとすぐにフォローを入れるから、楽しくはないが、きっとこの捕獲作戦が終わったら、すっ飛んでベルリンに行くに違いないと思うと笑い出したい気持ちになる。 ふうふうと毛を逆立てて怒っている子猫ようなジェットの様子に、おそらく、保護欲の塊みたいなドイツ人はこんなアメリカ人が好きなんだろうなとジョーは漠然と思ったりしている。 お似合いだと思うし、祝福してやりたいと思う。 死線を常に背に感じていたからこそ、好きな相手と過ごすことは大切だと分かっているけれども、あまりにもラブラブだから、つい嫉妬してしまうこともあるのだ。 ジョーは心の中で神様ごめんなさいと言いつつ、帰ったらギルモア博士にどうやって甘えようかなと腐れたことを考えていた。 ふうふうと毛を逆立てるジェットと空のお星様を見上げるように両手を合わせ、乙女の祈りポーズをして、キラキラと目を輝かせるジョーの間でどうしようかと額に手を当てて悩む005の姿があったのである。 |
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