螺旋的後日談
『なんなのよ』 これが、この事件というのか現象についての情報を手に入れたあたしの第一声だった。別に、霊現象が怖いわけじゃないわ。あたしにしてみれば、生きてる人間の方がよっぽど何をしでかすかわからない分、怖い。 だいたい、サイボーグにされて地獄巡りを既に済ませて来たあたしが、今更、幽霊如きにびびってたって説得力なさすぎだわ。 そもそも、半年程前に起きた出来事だった。 長期間の観察を必要とするメンテナンスの為に、あのドイツ男は来日していた。それなら、一緒にギルモア邸でバカンスを決め込むのだとジェットまでやってきてくれたのは、確かに嬉しかったわよ。 あの堅物男がメンテナンスで身動きできない時間の全てをジェットはあたしの為に割いてくれるわけだから、蒸し暑い最悪な日本の夏だって、あたしには天国にも思えたわ。本当に、BG団を逃げ出して、自由を手に入れられて、実験の為や訓練の為に人を殺す生活から逃れられて、太陽の下を自分が願った時に歩ける生活を手に入れて、ジェットともっとそんな普通の当り前の喜びを分かち合おうとそう思っていたあたしからジェットを奪っていたあのドイツ男に、恨みはあるわよ。 ジェットが愛している相手じゃなかったら、とっくに解体処分にしてやったと思うわ。 あのドイツ男に何かあるとあの子が哀しそうな顔をするから、あたしは何も、まあ、時々、意趣返し程度のことはするけど、まあ、そんなところよ。 あたしとあいつの間にはジェットがいて、多分、あたしとあいつのジェットの存在があるから、相容れない部分があって、またジェットの存在があるから互いに理解できることもある。 けどね。 あたしが、何で、太平洋上にある無人島まで来て、どうしていちゃいちゃする二人の姿を見なくっちゃ行けないのよ。 ていったって、目の前のこいつらはやめようとする気配はない。 確かに、死んだのよ。 ちゃんと、粉々になったってことは確認したわよ。あたしはその場にはいなかったけど、近くで待機していてちゃんと事後処理の為、スキャンしてその遺体が修復不可能なまでに木っ端微塵になった判断を下したのはあたしだったんですもの。 ギルモア博士に遺恨を抱いていたとある遺伝子工学が専門の科学者は、様々な角度からサイボーグに適した人間を割り出す為に、第一世代のメンバーのありとあらゆる生身の部分の体内組織がサンプルとして残されていた、その体細胞を使って、004と002のニセモノを創り上げた。 そしてニセモノに連れ去られたジェットの代わりに偽の002がギルモア邸に入り込んだこたに気付いたあたしたちは、アルベルトに相手をさせている間に、ジョーと二人で彼等の隠れ家であることの島を必死で探したわよ。たまたま、ジョーが洗濯をしていて偽の002が飛んできた方角を見ていたというありがたち目撃証言があったとしても、いかなあたしといえども骨の折れる仕事だったわよ。でも、あたしがジェットを発見できないわけもなく、もちろんこの島を捜し当てた。 本当に小さな島。 ギルモア邸がある場所から100kmほど、南方に位置していた。あたしの能力ではギルモア邸からは、その島の存在を知ることはできない。 そして、あたしたちは連れ去られたジェットを助けて、偽004と偽002、そして、ギルモア博士に遺恨を抱いていた科学者をも抹殺した。偽004の体内に埋め込まれていた爆弾が爆発をして、彼等が隠れ家としていた研究所も粉々に砕け散った。 そんな経緯のある島。 発端は動物学者が、とある海鳥の研究の為に事件から3ヶ月後この海域を訪れていた。たまたま、この島で野営を張ったところ、こいつらに出くわしたというわけだ。 そして、この話しをネット上で公開した挙句に、彼等のサイトまで立ち上げてしまったもんだから、あたしのネット上の友達がその話を何処かで見つけて来て、あたしに教えてくれ…。 でもって、その話が本当か、ひょっとして間違って、連中は生きているのかもしれないと、確認にドルフィン号で飛んで来たというわけなのだ。 ついてくるといって聞かないジョーを万が一を考えるとドルフィン号で待機していた方が良いと説き伏せて、一人あたしは暗闇に足を踏み入れた。あたしにとってみれば、暗闇でも明るい昼間でもたいして視界は変わらない。却って夜の方が空気が澄んでいてより遠くまで見渡せることもあるのだけれども。 今、あたしの目の前で展開されているのは、新婚真っ青な生活をしている004と002の二人だった。 でも、ジェットのドイツ男じゃない。 だって、ジェットは可愛いのは一緒だけれども、ドイツ男は…違う。ヘタレだけれども、ヘタレの程度がマシというものだ。ジェットに愛していると囁かれて、頬を染めるような可愛い男じゃない。 だったら、証拠を見せろとジェットをベッドに連れ込んで、朝まで放さないのが関の山のエロ親父だ。 見詰め合って、頬を染めて、やがて惹かれあうように口唇を重ねるなんて、あのドイツ男がするはずもない。 この島に上陸して、この光景はスグに見えた。 目を離そうにも離せないに違いない。 霊現象なら、ひっそりとなのだろうが、目の前ではまるで、新婚熱々のカップルの日常生活を強引に見せられてる状態なのだ。挙句に、二人セックスに突入してるし、一晩、これだったら、普通の男だったら神経が参ってしまうに違いない。その動物学者は、二人に当てられて、すっかり足を踏み外して、ファンサイトまで作ってしまったのだ。まあ、確かに、楽しいサイトであることは否定しないけどね。 そのあわれな動物学者の末路を置いておくとして、とりあえず二人は幽霊になっても、こうして端迷惑、この上ない。 ったくこのフランソワーズ様にどれだけ苦労をかければいいのよ。 ああ、もちろんジェットはいいのよ。 何をしていても可愛いし、あの子に迷惑を掛けられるんなら、全然、構わないわ。そう、誰だってジェットの愛らしい姿や純粋な心に触れればそう思うに違いないのよね。 でも、何で、ああ、ジェットが喘いでる姿は可愛いけど、鼻息を荒くしてるドイツ人の裸を見なくっちゃいけないのよっ!! ああ、腹の立つ。 偽者だっていってもジェットは可愛いのよね。 せっかく思いが遂げられて、例え、こんな形だって幸せを満喫しているあの子を強制お払いしちゃうのは可哀想だし、でも、このまま放置しておいたら、いくら人が来るには面倒な地域にある島だといってもねぇ〜。 いつ、テレビに嗅ぎ付けられて、ここが騒がしくなるとも限らない。 どうしたものかと、あたしは目の前で展開されるアダルトビデオ真っ青なセックスシーンを見ながら考えたわよ。 ったくなんでもあたしが…。 でも、きっと、事後処理に走り回る自分の姿が想像できちゃって、あたしは凄く嫌な気分を味わった。 それでも、偽者といってもホンモノ並みに可愛いジェットを、見捨てるわけにいいかないのよ。あの子優しいから、ニセモノで幽霊っていったって晒し者にされてる自分のそっくりを見たら心を痛めちゃうようなそんな子なのよ。 『さて、どうしようかしらね』 |
The fanfictions are written by Urara since'09/04/09