緊縛
「逃げちゃ。ダメだよ」 優しい口調だけれども、有無を言わせない強さがある台詞にバイキンマンは身体をびくりと震わせた。 白いシーツの上に青白い肌、黒い光源によっては紫色にも見える髪、紫色の瞳、赤い縄が散らばっている光景が薄暗い照明の中にぽかりと浮かび上がっていた。 「アンパンマン」 脅えた声が静かな室内を満たしていく。 とにかく彼の存在が恐ろしくて、身を捩るが赤い縄で拘束されていては逃げることも出来なかった。 寝室に忍んで来たアンパンマンと普通の恋人同士のセックスをした。 情事の後の倦怠感に身を任せて、ぼんやりとしているとシャワーを浴びたアンパンマンが背後から近寄ってきて、そのまま後から抱き締められるのだと思っていたから振り返ることもしなかった。 ところがアンパンマンはバイキンマンの腕を後で拘束し、更に、右足を折り畳むようにして縛られてしまっては、立って逃げることも出来ない。 もがくバイキンマンを尻目に、股間で小さく縮こまっているバイキンマンのペニスを口でやんわり愛撫すると、抗議めいた甘い声が上がる。 「っひゃ……、っあ、アンパン…ン」 吸い上げるだけで快楽に弱いバイキンマンの身体は簡単に反応する。恋人として、その反応は愉しいものであるけれども、反対にこれだけ快楽に弱いと、自分以外の誰かがバイキンマンに襲い掛かっても簡単に陥落してしまうのではないかという心配もある。 今日はそれが見事に的中した。 半分勃ち上がったペニスにコイルを巻く要領で縄を掛けていく。縄目に粘膜が刺激されてバイキンマンは腰を震わせてその責めに耐えている。耐えているのが痛みによるものだけではないことは、誰よりもアンパンマンが良く知っていることなのだ。 「イタ……」 「痛い? 感じてるんでしょう。縄を掛けている間だって、バイキンマンのここ気持ちイイって涎を垂らしてるじゃないか」 そう揶揄されてバイキンマンは羞恥で身体中を桜色に染める。 先端だけが出たペニスの根元から縄がそのまま玉袋へと繋がっている。また、玉袋もその陰影がくっきりと分かるように縛り上げ、その縄の先端は背中で縛られている腕へと続いていた。 身動ぎして、腕を動かせば、自らのペニスを勃起している反対方向に引っ張ることになり、更なる痛みがバイキンマンを襲うという緊縛の手法である。 「アン……パ」 バイキンマンの頬を涙が伝う。 自分がどうしてこんなことをされるのか分からないのだ。アンパンマンとは敵同士という壁を乗り越えて恋人同士になり、バイキンマンとして全てを捨ててでも一緒に居たいと思うようになった。 アンパンマンさえ一緒に居てくれたら何も要らないといっている自分にどうしてこんな仕打ちをするのか理解できない。 「泣かないでよ。こうして縛られてる君はとても美しいよ。きっと、君には赤い縄が映えると思っていたからね。可笑しいかもしれないけど、僕はずっと君をこうやって身体も心も縛っておきたかった」 バイキンマンには分からない。 自分の身体も心もアンパンマンのことしか考えられなくなっているのに、これ以上どうしたらよいのだ。 「知ってるよ。君が僕を愛してくれていることぐらい。でも、不安なんだよ。君はとても魅力的だから、こんなことをしてどうなるわけでもないけど、僕の気持ちを知って欲しかったんだよ」 アンパンマンは滔々とバイキンマンの耳元で囁くように語りながら、乳首やペニスの先端、触角など感じやすい場所に指先を滑らせる。 「凄く、綺麗だよ。バイキンマン」 アンパンマンはそう言ってバイキンマンに優しく口付けた。 |
The fanfictions are written by Kurataki Humiharu since'19/10/13