花の影と太陽の名残り3
「フランソワ−ズ」 桜が見たいとそう呟いた彼女とジョーは小さな公園に一本だけ咲く桜を見に来ていた。 「昔はね。ここには桜並木があったのよ」 小さく彼女は呟いた。 随分、昔、ジェットとここを訪れた。二人の間で交わされた些細なけれども、二人にとっては大きな約束を果たす為に、彼は彼女をここに連れて来てくれた。空を飛んで、人気のないこの場所に降り立ったのだ。 今と同じ、深夜の静かな時間。 「貴方達とまだ、出会っていなかった時。あたしが始めて出会った仲間がジェットだったの。あたし達はアルベルトが来るまでの長い時間を二人きりで過ごしていたわ。同じ部屋で過ごして、同じベッドで眠って、いつも肩を寄せ合っていた」 ジョーは始めて聞く話しに驚いていた。 二人が同じベッドに寝ていたなどと聞いたこともなかった。あまりにも二人の親密さに、恋人同士なのかと思っていた時期もあったからだ。 彼女はそれを見越していて、今まで言わなかったし、もちろん、言うつもりもなかったけれども、もう彼はこの世の人ではない。ジョーが焼き餅やくから、黙ってようぜとそう彼は約束を持ち掛けてくれた。二人の間でいくつも結ばれた約束のほとんどは彼が死ぬまで、破られることはなかった。 彼女よりも早く死なないという約束以外は、ジェットは律儀に守り続けていてくれた。 「彼は、あたしとって大切なただ一人……弟、便利ね。この言葉……。そんな言葉でしか、伝えられないけど、大切な人だったのよ。あたしがこうしてここに立っていられるのも、彼が支えてくれていたから、あたしの今があるのは…、サイボーグにされた絶望からあたしを助けてくれた人なのよ。ただ一人の大切な人だったの」 彼女はそう言うと、涙を零した。 アルベルトから彼の病気を密かに知らされて以来、一度も彼女は彼に会いに行かなかった。彼の心を誰よりも理解していたからだ。骸はアルベルトの手で埋葬され、死に顔すら見られなかった。いや、病気のことすら知らされなかったメンバーはアルベルトを責めたが、彼女は決して責めなかった。 彼ならこうするだろとうと理解していたから、むしろ、そうしてくれたアルベルトに感謝すらしている。そして、密かに病気のことを伝えてくれたことも、アルベルトは彼と自分の関係を知っている一人なのだ。 「彼を愛していたんだね」 ジョーはそう言いつつ、彼女の躯を優しく抱き締めた。自分に向ける愛とは違う形の愛であると、その涙が伝えてくれる。 「ええ、違うわ。ジョー。今も愛しているのよ。彼を……」 彼女の囁きが風に舞う花弁に乗り、天高く召された彼の元に届くようにとジョーはそう祈った。 |
The fanfictions are written by Urara since'02/08/27