嘲笑う闇夜のヒーロー



 全く…夜中に僕はナニをしているんだと思うけどね。
 僕にだって、怒れるという感情はあるんだよ。そう、神父さまは隣人を愛せよと教えてくれたけど、ホモの隣人は要らないと僕は思うよ。
 ああ、僕がホモだって? 失礼な僕のギルモア博士に対する崇高な愛と、暇があれば乳繰り合ってる下品なホモなバカップルと一緒にしないでもらいたいもんだね。
 ああ、失礼…僕は島村ジョー。別名009とも言うけれども、プライベートではその名前を使うことはまずない。
 BG団の影がチラホラと見えて、平和を満喫するとは言い切れない日々だけど、それなりに暗殺者が襲ってくるわけでもなくまったりと日々が過ぎていってたんだ。そういう背景もあって、前にも増して、世界に散っている仲間たちはギルモア邸に顔を出すようになった。
 いや、別に来るのはいいんだよ。
 どんな理由であれ、戦いに赴くということが眼前になければ。彼等が訪ねて、いや帰ってくるのを博士は凄く楽しみにしているから、そんな博士の顔を見るのが僕はダイスキだから、別にいいんだけどね。
 ナニが気に入らないって? だからホモのカップルだよ。
 特に機械の部分の多いバカップルの片割れのドイツ人は誰よりも密なメンテナンスが必要で、その度に一人で来ればいいものをどうしてだか、頭の軽いアメリカ人がついて来るんだ。
 別々に来るんならいいんだけど、二人でってのが問題だよ。
 本人たちは遠慮しているらしいけどね。慎ましやかな日本人の僕から見れば大胆不敵な行動をしている。どう見ても、僕たちデキテます、ホモですって公言している態度だよ。別に、二人がデキてても、僕は寛大だし、博士は特にジェットに対しては深い思い入れがあるらしくて、彼が幸せそうにしていれば、ホモだろうと構わないらしいんだけど……。でもね、癪に障ることもあるんだよ。
 とにかく僕はしょっちゅう実家に帰ってくる妹夫婦に目くじら立てる行き後れ姉の気分を味合わされている。妹は、ベタベタと旦那とラブラブしているのに、姉の恋は片思いで実らない。だから、つい妹夫婦に意地悪しちゃうってな感じ…。ああ、ワイドショーの見過ぎなんだろうけど…、一番、それが近い心境なんだよ。
 フランソワーズも、どうも、僕を使ってあのバップルで遊んでいるようにしか見えない部分があるけど、フランソワーズとは親友同士だから許してあげるよ。それに、あの二人に嫌がらせすると少しはすっきりするからね。
 ハインリヒが博士のお供をして本屋に行ったのが悪いんじゃない。今まで我慢に我慢をしていたのが爆発しそうになっただけだよ。
 そう二人が悪いわけじゃないよ。
 でもね。幸せそうにしているのを見るのが辛くなったり、うらやましくなったりするんだ。こんなの、幸せの代償と思えば安いもんだよ。
 僕は、鏡で最後の点検をした。
 手術着に手術用の帽子に、ゴーグル、マスク、手袋、その下には防護服を身に着けている。手術着のポケットには数本のペンがちゃんと入っているのを上から叩いて確かめる。用意は万端だ。
 最後に新聞紙に包んであったある物体を取り出した。買い物帰りに不燃物専用ゴミ置き場にぽつりと忘れ去られていたのを見付けて拾ってきた火鋏みである。元々は青い色をしていただろうそれは年季ものらしくあちこちが剥げかかっていて、腐食も始まっていた。
 ゴミの回収業者が忘れて行ったらしいので、遠慮なく失敬してきた。目的を達成したらちゃんとあの不燃物専用ゴミ置き場に返すつもりなんだよ、そう借りただけなんだ。くれぐれも言っとくけど、泥棒したんじゃないからね。僕が盗みたいのは博士のハートだけさ。
 だって、僕が密かにフランソワーズとこの計画を実行に移す為に必要だったんだ。あの汚らわしい物体を摘み上げる道具がどうしても必要だ。100円ショップで見付けたトングは小振りだったし、汚らわしい物体を摘み上げた以上、捨てるしかないじゃないか。その為に、消費税込みで105円使うのは勿体ない。
 思案していた僕の目の前に落ちていた火挟みは神様がお与えになったとしか思えないね。実行あるのみってさ。ふふん。
 見てろよぉ〜。ジェット。
 僕の前で、イチャイチャするからいけないんだからね。僕だって、僕だって、ギルモア博士とハグしたり、チューしたりしたいんだからぁ〜〜。
 用も済んだんだから、さっさとアメリカでも、ドイツでも勝手に帰って行けってぇの。僕と博士の静かな日々を奪うんじゃないっ!!
 僕の目の前でイチャイチャしたことを絶対に、後悔させてやるぅ〜。
 僕は火鋏みをしっかり握ると、奥歯の加速装置のスイッチを入れた。





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The fanfictions are written by Urara since'02/09/07