邪まな午後



 昨夜の夕食は鰻丼だった。
 近所のスーパーで珍しく一色産養殖鰻がナント、聞いて驚いちゃいけない2尾で580円だったんだ。
 別に、僕は国産だろうと中国産だろうと全然、構わないし、別に鰻なんか食べられなくって、独りでの食事ならお茶漬けで全然、構わないんだよ。
 でもね。やっぱり、ギルモア博士には精をつけて元気でいてもらいたいじゃない?
 ああ、僕は島村ジョー、サイボーグ009とも言うけど、今はジョーって呼ばれる方が多い。で、偉大な科学者、アイザック・ギルモア博士の家の居候に?なるのかな。
 僕としては、居候から、恋人に昇格したいと日々願ってるんだけど、博士はナンていうかな。研究一筋の人生を送って来たからすっごく、恋愛に初心なところがあるんだ。まあ、そこが博士のカワイイとこなんだけどさ。
 僕はそんな博士を愛して…。いゃ〜ん、言っちゃった。うん、凄く愛していてね。早く恋人になれるように日々努力しているってとこ。
 で、話しは昨日の鰻丼に戻るんだけど、最近、もう一人の居候で、いや、本当は僕も入れて居候は三人なんだけどさ。一人は外見は赤ちゃんだから、まあ、一応の数には入れないんだけど。もう一人の、いや、紅一点のフランソワーズは僕達の仲間が経営する張々湖飯店でウェイトレスのアルバイトを始めたんだ。
 で、今まで00ナンバー全員で移動していた時は、張大人が皆の食事を作ってくれていたんだけど、今は店が忙しくって、定休日になるとご飯を作りに来てくれるぐらいになっちゃったんだ。僕は張大人のご飯、凄く好きなんだけど、まあ、仕事だから仕方ないじゃん。
 ああ、話しがずれちゃったけど、その紅一点のフランソワーズは、まあ、性格は置いておいて顔は綺麗だし、バレーダンサーだったていうだけあって、スタイルは凄くイイ。だから、張々湖飯店の看板娘になっていて、彼女目当ての客も増えているとか。もちろん、張大人の料理の美味さもあるって否定しないけどさ。
 そういうわけで、家事を僕とフランソワーズで分担してたんだけど、でも、フランソワーズって女の子なのに、凄い家事音痴なんだ。どうやったら、そう言う料理が出来るってくらい料理が下手だし、掃除も四角い部屋を360角に掃いちゃうし、洗濯物を干せば皺々にしちゃう。唯一、巧いのがイワン…ああ、数に入っていない赤ちゃんなんだけどね。まあ、どんな奴かは、皆知ってるから説明はしないけど、頭はイイけど、外見は赤ちゃんだから、手が掛かる。オムツだって換えてあげなくっちゃいけないし、ミルクだって飲ませなくっちゃいけないが、巧いことぐらいかな。
 だから、分担していた家事の負担が僕にきて、いやいいんだ。結局家事をするってギルモア博士の身の回りの世話をするってことだから、奥さん…ムフフ…みたいな気分になれるし、博士も色々と気遣って労いの声を掛けてくれたりするしさ。
 でもね。今日と明日は博士が友達の米寿の祝いとかでコズミ博士と連れ立って出掛けていったんだ。ホントは、僕がお供するつもりでいたんだよ。博士一人で外出させて、また、BG団じゃな くっても、怪しげな組織に誘拐されたりしたら大変じゃないか?
 僕の大切な博士に何かあったら…………ウッホン、そんなことじゃなくって、博士の護衛兼助手としてついていくつもりだった。あわよくば、若い愛人…なんて間違えられたらナイスかな?何て思惑もなかったわけでしやないけどさ。
 でも……、でも、博士ったら余計なことに気を回して、『年寄りばかりでは、退屈じゃろう。ブリテンにちょうど店が休みだから、ついて来てもらうことにしたよ』って言うんだよ。酷いじゃないか、ブリテンが良くって、どうして僕が駄目…ううん。博士が僕に気を使ってくれるのは凄く嬉しいんだけどさ。でも、僕は、博士と一緒が一番幸せなのに…。
 で、話しはまたまた、最初の鰻丼に戻んだけどさ。
 今、僕の目の前では、どうしてだか、アメリカ人とドイツ人が僕とフランソワーズの目も憚らずにイチャイッチャしてるんだよ。
 本人達の弁によれば、それでも控えてるって言うんだけど…僕からすれば、もう、イチャつき過ぎってやつだよ。
 ドイツ人の方、アルベルトと言うんだけどね。ああ、僕がファーストネームで呼ぶとソファーに  座って本を読んでいるアルベルトの膝に頭を乗せたゲームボーイで遊んでいるアメリカ人が睨 むんだ。だから、ハインリヒって言う時と、色々と使い分けている。
 まあ、それくらいはいいよ。僕は寛大だからね。
 普段なら、この二人が僕の目の前でセックス始めたって笑って見物してあげられるくらい僕は寛大だよ。
 でもね。今日は博士が居ないんだ。僕が博士がいなくってさびしい思いをしてんのに、わざわざ日本に来てまで、ベタベタするバカップルに頭来てたんだ。
 ほら、今もアルベルトがジェット…ゲームボーイで遊んでいるアメリカ人の方の髪を優しく撫でたりして、猫みたいに撫でられたジェットはへへっと笑って、アルベルトの手を握ったりしてぇ〜〜。
 うぇ〜〜ん。僕だって、博士の膝で眠りたいんだよぉ〜。
 それなのに、ナンでお前達のベタベタを何が悲しくって見物しなくっちゃいけないんだ。こいつらがここに居るのは、僕のミスだから仕方ないんだけどさ。本当は来週って言ったつもりが、1週間間違ってメンテナンスの日時を言っちゃてたんだ。で、仕方ないから、日本見物をしようって休暇を多めに取得していたアルベルトは、メンテを終えてから観光をする予定を変更して、博士が戻ってくるまで観光して、博士が戻ったらメンテしてもらうってことにしたんだけど、君達観光はどうしたんだ。
 さっさと、東京タワーでも、浅草でも、行けばいいじゃないか。ジェットなら京都まで飛んでいっ たって、全然日帰り出来るし、どうせなら、ホント何処ぞのホテルの泊まってもらいたいよ。
 なのに、こいつら昼中から何処にもいかず、ベタベタベタベタしてる。
 朝から、躯の一部分を何処か必ずくっ付けてるんだよ。離れたのは、トイレと食事の時だけ、 ジェットは猫が主人に懐くようにアルベルトにべったりと張りついているし、それに対して何も言 わないどころか、おいでと言わんばかりの態度はナンなんだよ。
 昨日食べた、鰻と一緒に買ってきた1本138円の鰻のタレぐらい甘くってとろとろしてて、頭痛くなりそうだ。博士と二人で出掛けた帰りに食べた鰻丼のタレのように上品でまったりとした四万十川産の天然物の鰻と創業以来使い続けている年季の入ったタレの絡み具合はまさに僕と博士なのかもしれないけど、君達は、中国産の養殖鰻とスーパーで売ってる安物の鰻のタレそのものだね。下品で美味しくなくって、やたらとベタベタしていて…フン。
 だ・か・ら安物の鰻と鰻のタレみたいに絡むんじゃないって言ってるじゃないか、言ってる傍から僕の意向を無視して……、ジェットの馬鹿野郎、いくらほっぺただって、キスをするなっつうのキスを…しかも、あんた、いやアルベルトも嫌がってないどころか、三十路にさしかかったおっさんが、照れてどうするんだってぇの。
 見詰め合っちゃって…エッチすんなら、部屋に行けよぉ〜。でも、シーツだけは洗濯して帰れよ。洗濯して帰らなかったら、着払いで宅急便でドイツに送ってやる。おいって…聞いて……ねぇよ。
 だから、止めろって……ジェットの馬鹿野郎。僕の位置から見えないと思って…思って…口唇にキスしたろ、ええ、したろ、言ってみそ。
 だって、知らん顔してフランス刺繍…家事は全然駄目なくせに何故か刺繍だけは巧いんだよ彼女…、じゃなくって、フランソワーズが聞き耳立ててるじゃないか。ってことはしてんだよ。お前達…。ジェット…だから、誘うんじゃないっての。
 もう、いくら僕がホモのバカップルに対していつも寛大だからって、堪忍袋の尾が切れるって言葉が日本にはあるんだからね。僕の堪忍袋だって、そんなに図太いわけじゃないからね。
 ああぁ〜、アルベルトもその気で腰に手回してんじゃん。ジェットって許せないけど、僕より背が高いのに、ウエスト細いんだよぉ〜、しかも、体重も軽いしぃ〜。色だって白いじゃん。そんなことじやなくって…ぇ〜〜。
「だぁ〜〜〜、安物のスーパーの一尾200円の中国産鰻とおまけでついてくる安物のタレみたいにベタベタするんじゃねぇ〜〜っ!!」
 僕はとうとう叫んでいたね。
 絶対に許さないよ。僕の博士の留守中に、僕が寂しい思いをしている前で堂々とお誘いしたのはジェット…君なんだかんね。この借りはきっちり返してもらうよ。
 博士ぇ〜〜、僕ぅ、さびしい、早く帰って来て下さい。
 いいや博士の居るパーティ会場に行こう、押しかけてやるんだもん。どんなに、僕がさびしかったか博士に聞いてもらうんだもん。
『加速装置』




「きゃっ……はははは…。あっははははははははは」
 ギルモア邸の居間には、笑い転げるフランス人と、何が起こったのか分からないという顔をしたドイツ人とアメリカ人が残されていた。





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