嬉々快々
ジェットは自分の顔の上で、彼の喉の奥が鳴る音に視線を上げる。 いつもはきちんと整えられたシルバーグレーの髪が、あちこちに跳ねるように乱れていた。戦いの時ですら涼しげな顔をしている彼が、自分を抱く時には髪すらも乱して獣のように自分の躯に食らいつく様が何とも言えず好きなのだ。 「っあ……」 突き上げられるその感覚にジェットは身悶える。 いつもの感じ方とは違う原因は、分かっている。乱れた彼の髪を抱き込んだままその原因に ジェットは視線を合わせた。自分を激しく貪る男とそっくりな動かないロボット、でも、彼と彼にそっくりの彼に見詰められていると奇妙な感覚に包まれて、つい過敏に反応してしまう。 「っちょ……。っあ、アル」 性急過ぎる彼の欲求に自分がついていけない。 彼の休暇に合わせて毎度、毎度、NYから飛んで来るのだ。 飛んで来て、部屋に入って、最初に、目に止まったのが、実はこのロボットではなくリビングに残されたジョーの形跡であった。きちんと整えられたキッチン、冷蔵庫に入っていた作り置きの温めるだけの食事、一塵の埃すらも許さないとばかりに磨き上げられた室内と、綺麗に洗濯されたシーツに、アイロンまでかけられたアルベルトの洋服。 ベルリンに博士のお供で来ていたのは知っている。 でも、アルベルトのアパートを我が物顔で整理整頓して去って行ったのが憎らしい。ジェットは家事が苦手だ。本に書いてある通りに作っても、どうしてもちゃんとした料理が出来上がらない。食べる方は得意だが、作る方はからっきし駄目なのである。それに、片付けようと思えば、整理していたはずのものが雪崩れを起こしてしまうし、掃除機をかけようとすれば、どう言うわけだが絨毯が捲りあがり、テーブルや椅子が派手な音を立てて倒れていってしまう。 最初の頃は、お湯を注ぐだけのインスタント食品ですら、上手く作れなかったことを思えば、電子レンジで温めたり、湯を沸かしてその中にパックごと入れて温めたり、が出来るようになっただけでも、格段の進歩であるのだけれども、やはり、他人の芝生は良く見えるではないが、家事が出来るジョーがいや、アルベルトに何かしてあげられるジョーが羨ましい。 本当なら、お帰りなさいと温かな食卓を用意して待っていてあげたいけれど、今の自分では料理どころが、アルベルトのアパルトメントのキッチンを破壊するだけで終わってしまう危険性をジェットは自覚していた。 ジェットがアバートを転々としているのはそれが理由の一つにあるからだ。料理をしようとしては、キッチンを壊して、引っ越す羽目に陥るというわけである。 従って、最近、料理に関しては諦めムードのジェットなのだ。 そんな事情にようやく折り合いをつけられたジェットがアルベルトのところに来て見れば、ジョーの痕跡がある。何とも言えずにジェットは複雑な心持になっていた。自分の出来ることといえば、ベッドの上でアルベルトを満足させるぐらいなことだ。 だから、淫らに帰ってきたアルベルトを誘った。 玄関から、そのままリビングの床に雪崩れ込んだのを皮切りに、浴室の中を経て、ようやくベッドの上までやって来たのであった。 そこで、ベッドサイドに置いてあったアルベルトとそっくりな等身大のロボットを発見したというわけである。 ベッドの中で、その胸に抱き締められたままそのロボットを入手した経緯を聞かされて、正直、驚いた。ロボットの性能云々よりも、アルベルトの怪我が心配で、あれだけ激しいセックスが出来るのだから心配はいらないと思うが、つい圧し掛かって確認してしまったのだ。 腹の上の乗ったジェットの下半身の感触に簡単にアルベルトの躯に火がついてしまう。硬い人工皮膚に覆われているにも関わらず、ジェットの自分に触れられて震えるペニスや、自分を受け入れてくれる可愛らしいアナルの感触がリアルに伝わってくる気がしてしまうのだ。 「……って、誘ったのお前だろう?」 そう耳朶にベッドモードのトーンを落とすと、ジェットは縋るように硬い背中に腕を回してくる。こうして、縋ってくる仕草も、ジョーの存在にヤキモキする姿もとてもジェットらしくて可愛いとアルベルトは本気で思っている。 彼の生き様や、経験、生立ちを見れば、随分にハードな奴であろうと思わせるが、ジェット自身を見てみると意外にその内なる心はピュアで傷付き易く、片意地を張っているくせに寂しがり屋 で、本当は泣きたくとも、傷付いている人が目の前にいれば、無理をしてでも笑って慰めようとするそんな優しさを内包していることが分かる。 彼のこの優しさに自分も随分、救われた。 今、こうして、自分にそっくりなロボットと相対しても心が揺れることなく、生還出来たのは偏に ジェットの存在によるものが大きいと思う。 改造されて、自棄になり、過去に縛られて、動くことすら出来ない自分を愛してくれたただ一人がジェットなのだ。 そう自棄になっていた頃の自分のままだったら、ふくろうの親子を助けようとは思わなかった。あれはジェットの影響による。まだ、BG団からの逃避行の最中に、コズミ邸で厄介になっていた頃、台風で飛ばされた巣を発見したジェットは声も立てずに涙を流しながら、その巣と巣にいた雛を地面に埋めていた。声を掛けた自分に、死んでしまったことは自然の摂理だと分かっているけれど、その死に様を知って泣いてやる奴が一人くらいいていいじゃないかと、そう言いながら、地面に僅かして生きられなかったその命を還そうとしていたのを思い出したからだ。 優しくて、寂しがり屋で、意地っ張りな彼が愛しい。 だから、自分とそっくりなロボットを車のトランクに積んで帰って来たのである。自分の怪我の 具合を見てもらったついでにロボットについても検分してもらった。プログラムさえリカバリーすれば、ジェットのボディガードに置いておいても支障はないとのお墨付きを頂いた。博士も寂しがり屋ジェットを一人住まいさせるのは反対だったのだから、ついでとばかりにボディガード兼非常事態の連絡用と称して、2、3の機能を付け加えてくれた程なのだ。 一番、付き合いの長いジェットをギルモア博士は他のメンバーの目にも明らかなくらい可愛がっている。でも、それが、祖父が孫に対する態度に似ている為に、全員が微笑ましいとの眼差しで見守っているのだ。自分達も、サイボーグになった悲哀から立ち上がるのに、最初に救いの手を差し伸べてくれたのが、ジェットだからして、彼に対して全員がつい甘くなってしまう傾向にある。 もちろん、ジェットを何よりも大切に可愛がっているフランソワーズは、外見が自分そっくりなのが、気に入らないけれど、やっぱり番犬って言ったらドイツシェパードが相応しいわねと、半分面白くないという表情をアルベルトに対して向けた。でも、見たらジェットが歓ぶのを知っていて、心中複雑であろうが、ロボットのリカバリーする為のソフトを不眠不休で構築してくれたのは彼女なのであった。さすが、電子工学を専攻していた才媛だけはある。 もっとも、その手順に従って実際のリカバリーをしたのはアルベルトなのであるが、ジェットが来るのに間に合ってよかったと思う。 アルベルトに余す所なく愛されながらも、これなら寂しくないと、嬉しいと笑っていた。 本当なら、一緒に暮らしたいと思うのだが、ジェットは仕事に行く自分を見送るのは嫌だと、そう言うのだ。帰って来なくなる気がするから、まだ、今は嫌だというのだ。いつかは、そんな日が来るかもしれないけれども、今はもう少し時間が欲しいとそうジェットは俯いて小さな声でそう答えたのだ。 自分は長い間、自分のジェットに対する気持ちに気付くのに時間を掛けてしまったのだから、今度は自分が待つことになっても仕方ないと思うし、実際にジェットがちゃんとした答えを出すまで待っていてやりたいと思う。 こうして、たまに会って、激しく萌え上がるセックスに精を出すのも、悪くない。 久しぶりだからこそ、この白い肢体を存分に食らい尽くしたいと思える。 「っ……誘って、ないっ!!」 「お前は、俺の前に居るだけで、誘ってることになるんだぜ」 ジェットの半分、子供染みた反論をアルベルトは大人の口説き文句で簡単に篭絡してしまうのだ。わかっていても、勝てないのだ。悔しいけれども、そんなアルベルトがジェットは好きでたまらない。 「あんた……、って」 ジェットが溜め息を吐くと、体内にいるアルベルトのペニスを感じ取ってしまい、飽きれたような溜め息に甘い艶が混じってしまう。 「でもさ」 ジェットは何か秘密を打ち明けるように、アルベルトのブルーグレーの瞳を、スカイブルーの瞳で見詰めてくる。蒼と青が重なり合い、美しいブルーのコントラストを二人の間に描き出している。暫し、その互いの彩りを堪能するとジェットはアルベルトの色の薄い厚めの口唇を舌でペロリと舐め上げた。 「あいつに見られてると、すっげぇ感じちまう」 突然、衒いもなくジェットはそんなことを口にする。アルベルトが口さがなくて黙っているような下品なことでも、その可愛い口に乗せるのだ。次に来る台詞を予想したアルベルトは呆れた笑いを口の端に滲ませる。 「あっちはついていないの?」 自分の予想に反しないジェットの台詞にアルベルトはお返しとばかりに、腰を突き上げて腕の中に小作りな顔を抱き込むようにして耳朶に舌を這わせた。 「残念だな、ツンツルテンだ」 覗き込んだスカイブルーは、情欲に潤み、そして愉しげに笑んでいた。 「俺がいなくて寂しいんなら、ジョイステックでもつけてやろうか?ただし、本物よりも硬めだろうがな」 「アルって・…下品」 ケタケタとジェットは笑う。 自分で振っておきながらの台詞じゃないとアルベルトは些かむっとはするが、所詮は邪気のないジェットのすることなのである。ジョイステックをつけた自分とそっくりなロボット相手に自慰行為に浸るジェットを見てみたいとは思うが、会えない間、我慢させておいて自分の腕の中で乱れさせるその欲求に比べれば、些細な楽しみである。 どうせなら、自分も交えて、二人と一体の方が楽しめるとアルベルトはそう考えている。でも、あのロボットに自分と同じ人格をインプットしていたら、絶対にジェットに惚れたであろう。ロボットで本当によかったと思う。クローンか何かであったとしたら、絶対にジェットを巡っての死闘が繰り広げられていたのは言うまでもない。そんな変な自信がアルベルトはあったのだ。 「お前だって、見られて興奮してるじゃねぇか」 と言いつつ、アルベルトと自分の腹に挟まれて愛液を流すジェットのペニスを鋼鉄の手で握り締めた。 「ぁう………」 ジェットの頭が仰け反り、顔を隠そうと腕が持ち上がる。それを許さないとばかり捉えて、頬に口唇を寄せながらアルベルト自身も昔の自分では考えられないような下品な台詞を平気で零している。随分、ジェットに感化されたと思うが、不思議と嫌ではないのだ。 「なら、あいつも混ぜてしてみるか?」 アルベルトのその台詞にジェットは目尻を下げて、甘やかな笑みを深くしていく。 「駄目だよ。あんたに二人かがりで愛されたら、俺、壊れちまう。あんた一人で手一杯だ」 ジェットは時折、こうして自分では敵わないと思うような、こちらが恥ずかしくなるような愛の言葉をアルベルトの硬い機械の躯の奥深くに隠されている軟な心まで簡単に届くような甘美な言葉を与えてくれる。 「俺だって、お前みたいに手の掛かる子猫ちゃんは一人で十分だ」 そうアルベルトが断言をするとジェットは嬉しいと受け入れているアルベルトをぎゅっと意識的に締め上げる。 「うっ」 そのきつい締め上げに、アルベルトは深い快楽を下半身に指し込まれたように感じて、呻いてしまった。どうしてだか、ジェット相手だと、自分で押さえが利かなくなってしまう。負担を掛けたくないと言いながら、こうして休日の大半をベッドで過ごす羽目に陥らせてしまうのだ。 「じゃぁ、さ」 続きしようぜとウィンクを交えて、ジェットはアルベルトを誘う。互いにそんな遣り取りをしながらも、下半身に熱気が篭るのを感じていて、それが、臨界に達するのを待ち侘びていた感があるのだ。互いの言葉と僅かに触れる場所、深く繋がってる部分とが絶妙なバランスを持って、二人は快楽への上昇気流を見出そうとしていた。 そして、今、それを見付けた二人は戸惑うことなくその中に身を投じたのである。 「アル、ありがと」 とジェットは、恋人の硬い広い胸に抱かれながら小さな声で礼を言う。 それを聞きながら、やはり自分の持ち物にそっくりなジョイスティックを着けるべきかとアルベルトは真剣に悩んでいたのである。 |
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