甘く危険な恋を封鎖せよ



 カチャリ。
 鈍い金属音が、アルベルトの耳に届いた。嫌な予感を感じて音がした辺りにある自分の左手を引き寄せると手首あたりに違和感がある。
 膝に乗り上げたジェットを見上げれば、悪戯に成功した子供のような表情でシテヤッタリと言う顔をしている。
「何の真似だ」
「へへへへ…っ!!」
 顔をくしゃくしゃにして嬉しそうに破顔する。
 午後の静かな読書の時間を邪魔されて些か不機嫌だとの表情をしても、一向にこの子悪魔はお構いナシなのだ。そこが可愛いところだと思える自分も随分だと思いつつ、アルベルトは空いている鋼鉄の手でジェットの右手を掴んでぐいっと躯を引き寄せた。
「あのさ。今日のオレのラブ運、最高ぅ〜なんだぜ。だから、ずっとアルと居たらさ、すっごくいいことがあるんじゃないかって…」
 で、手錠を掛けるという所に辿り着く思考回路がよく理解はできないが、自分と一緒にいたいのだと甘えてくることは理解できる。昨夜も同衾したばかりなのにジェットは一緒に過ごせる時間は貪欲で、いくらでもアルベルトとの時間を欲しがるのだ。
 愛情を際限なく欲しがる子供のようで、愛情を受けることが出来なかったジェットの今までの人生を思えば、自分の残りの愛情を全て注いでも惜しくはない。
「で、これか?」
「これだったら、誰もアルに用事頼めないじゃん」
 何かと器用なアルベルトは仲間につい頼まれごとをしてしまう。頼まれることが、頼られることが決して嫌いではない面倒見の良いアルベルトはフットワークも軽く引き受けるから、また、頼まれる。すると時間がとられて必然的にジェットと過ごす時間が一番被害を蒙るのである。
 ジェットにはそれが不満だった。
 何でも出来る恋人は自慢だけれども、一緒を過ごせる間は近くにいたい。
 触れ合って、その存在を感じていたいと思うのに、忙しく立ち働いているアルベルトに声を掛けそびれてしまうのだ。
 先程、ジョーに引っ付いて買い物に行った時にぶらりと立ち寄った雑貨屋で玩具の手錠を見つけた。随分とやぐい玩具だったけれども、互いに離れられないくらい繋がっていられたらと、自分でも乙女的な思考だと思いつつ、つい買ってしまった代物だ。
 その気になればサイボーグ、いや、生身でも男の力なら壊すことが出来る程度のものであるが、アルベルトはそれをしようとはしない。
 ジェットに付き合ってくれるつもりがあるのだということが分かるから、嬉しくなってしまうのだ。
「だったら、やることは一つだな」
 と言うと手錠で拘束された手を薄い背中に回して、捕らえた手を更に強く握ると笑いで開いた口唇に自らの口唇を寄せた。ジェットも自分からそれが欲しかったとでも言うように、隙間からアルベルトを迎え入れる。
 舌で幾度も口唇辿り、交わりたいと絡みつくジェットの舌を捕らえて自らのテリトリーに引き込み歯を立てて逃れられぬようにして、丈の短いシャツから覗く白い背中に手を這わせ、指をジーンズの中に潜らせる。
 くぐもった声が上がるが、舌を捕らえているので声にはならない。
「っむぅ……っんん!!」
 苦しげに眉が寄せられて、アルベルトを求めて腕を広い背中に回そうとするがアルベルトは両手はそれを許さなかった。ジェットの右手はアルベルトの左手と共に自らの背中に回っていたし、左手は鋼鉄の手で拘束されている。
 背中のウエストラインに沿って触れる指の感触に背筋を電流が走り抜けていき、中枢神経を刺激し、乱れてみろとそう脳が指令を出す。それに応えるかのように自分のジーンズの前がきつくなり始めていた。
「あっ……アル」
 自分を雁字搦めに拘束する愛しい男の名前を呼ぶと、男はジェットが好きなベッドでしか見せてくれない野性的な笑みを口唇の端に乗せる。
「こんな、プレイも……いいな」
 ジェットはそんなことを考えてもいなかった。
 ただ、一緒に傍に居たかっただけなのに、そんな風に誤解されていたことが恥ずかしくとも、そして、彼に乱される自分が少しだけ愛しくもあった。でも、そんな初心な自分をアルベルトには見せたくしないから、恥ずかしいだなんておくびにも出さずに、こう言い切った。
「だろ?たまには変わったことしねぇと、オレ、あんたとのセックスに飽きちまうぜ」
「ガキは黙って、ぶっ飛んでろよ」
 愛しい彼のワイルドな口説き文句にジェットは気を良くしたのか笑みを深くして、もっと貴方が欲しいと言わんばかりに感じていると下半身をグリグリと固い膝に押し付けたのだった。





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浅葱真様
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