ダレカノイトシイヒト おまけ



「あら、ジェットったら、相変わらずお盛んね」
 とフランソワーズの白い指が耳の下辺りの情事の名残りを爪先で軽く引っ掻くようにするだけで、ジェットは、ビクンと大きく躯を強張らせた。
「フランッ!!」
 ジェットは困惑した瞳をフランソワーズに向けるが、彼女は何処吹く風と表情のない曖昧な笑みを浮かべるだけだ。
「昨日は、確か、ハインリヒの部屋からアナタの声が聞こえてはずだから……犯人はお堅いドイツ人ってことかしら?」
「そうだよ。羨ましい」
 ジェットはそう言って、何度もそのフランソワーズが指摘した情事の名残りを指の腹で撫でてみせる。時折、乾いた口唇を舌で濡らす誘うような媚態にフランソワーズは溜息を零した。
 ジェットは本当に欲の深い何でも欲しがる子供に過ぎない。
 男達が自分の躯に溺れているのが楽しくてならないようだ。それでなくとも、性的なタブーのほとんどないジェットにセックスドールとしての改造を施したのだから性質が悪すぎる。
 快楽に順応してジェットのアナルは女性のあの部分の如く、自然と濡れる。わざわざ解さなくとも男を受け入れられる躯の造りへと改造されているだけでなく、遺伝子レヴェルまでにその手の改造は施されて、一月にほぼ一度の割合で発情期が遣って来る。
 これはフランソワーズの憶測なのであるが、その遺伝子レヴェルの改造は、男性を性的に引き付けるフェロモンを発するようにされているのではないのかというくらいに男が釣れる。要に入れ食い状態であるのだ。
 どんな美女にも靡かない鋼鉄の男ですら一発で堕ちたし、アフリカの優等生ですら一晩でジェットの躯にメロメロなってしまった。精神的に決して弱くはない、意志の固い00ナンバーの男共がころりと参ってしまうには、それなりの理由があるはずだ。
「うらやましくなんか…ないわよっ!」
 そう、この子悪魔と一番長く付き合ってきたのは誰だと思ってるのかとフランソワーズは隣で視線を宙に漂わせたままのジェットに流した。
 先刻と少し様子が異なっていて、青い瞳が潤んでいるだけでなく、口唇からは甘い吐息が漏れ始めていた。全く…とフランソワーズは頭を抱える。
 発情の時期にはまだ早すぎる。
 だいたい、嫌なことにフランソワーズのツキノモノの時期とジェットの発情のシーズンとがぴたりと重なるからだ。
「ジェット?」
「ああ、フランが変なこと言うから、昨日の思い出しちゃったじゃないか。アルったら昨日はヤケに乱暴でさ。オレ、腕縛られちゃったよ。ペニスも縛られちゃってさ、すっげぇ感じちまってさ。思い出したら、またしたくなっちまったじゃん」
 くすりと艶めいた笑みを零して、ジェットは猫の如くしなやかな躯をぐぐっと前に倒した。ランニングシャツにトランクス、今からマラソンにでも出掛けるのかというスタイルで、しかも下着をつけていないとくれば、確信犯もいいところだ。
 白い素肌や躯のライン、そして固くなった乳首までもがランニングから透けて見える。そのスタイルで昼食の少し前に起きてきたジェットにフランソワーズが見えるわよと囁くと、一昨日張々湖に剃られたからヘーキと答えを返してくる腐れ具合なのである。
「あなたねぇ」
 フランソワーズはこめかみを押さえる。
 いつものことだ。
 これが、いつものジェットなのだ。
 頭の中はセックスで出来てんのと聞きたくなるくらいなものである。ここに、00ナンバーの男が独りでもいたらフランソワーズの前だろうセックスのお誘いにかかるジェットの姿が見えたはずだ。
 尻の軽い子悪魔だ。本当に。
「アルはコズミ博士のところで、ジョーは買い物だろう?なら、博士しかいないなぁ」
 と立ち上がったジェットの股間は膨らんで、お漏らしをしてしまったように愛液が滲み出してトランクスに染みを作っていた。ジェットは誰がいようとおかまいなしで盛る。見ていれば、混ざると平気で言うのだ。
「お漏らししたから、博士にお仕置きしてもらうの?」
 とつい余分なことを聞いてしまうフランソワーズもフランソワーズである。
 何故にというと、潤いのない生活の中でジェットに翻弄されるバカな男共の生態は少ない娯楽でもあるのだ。
 ネタにしなければやってらんないわよとのフランソワーズである。
 でも、そんなジェットがフランソワーズは可愛くてならない。つまりバカな子ほど可愛いという原理であるから、突き放せないのだ。
 ジェットがここまで突き抜けられるには、彼の心の中で深い長い苦しい葛藤が存在していたからだ。あんなに苦しんでいるジェットを見るくらいなら、小悪魔でインランなジェットの方がずっと彼らしくていいと素直に思える。
「へへ…、いいな、そのお仕置きってさ。もちろん博士に可愛がってもらうんじゃん」
「ハイハイ…、せいぜい博士が死なない程度にお仕置きしてもらいなさい。今、博士に腹上死でもされたら眼も当てられないんだから…」
「ほーい。大丈夫。もうすぐピュンマが来て、今夜は彼に可愛がってもらうから…、彼のナニってさ、躯の割りに大きくって固いんだぜ。それでアフリカ仕込みのリズム感でガン突き上げられたらたまんねぇの…へへへへ」
 とジェットは足取りも軽く地下の研究所に降りていった。
 博士といえど人間である。
 男性である以上、ジェットの毒牙から逃れる術はなく。研究一筋であった博士が男の悦びを知ったのはジェットとナニをするようになったからで、決して責められなくはないのだとフランソワーズはついジェットでなく相手の博士に同情してしまっていた。
 ピュンマが来たら、博士のところにジェットは居ると言ってあげよう。
 そうすれば、意外に負けず嫌いのアフリカンは、今夜、更に激しくジェットを突き上げるでしょうとフランソワーズは独りリビングで笑った。





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