赦されざれる者へ寄せる背徳の囁き9



 重い鉄の感触が手の中にある。



 生身の頃にいきがって持っていた、そんなこともあったけれども今のジェットはそれを有効に使うことが出来る技量を持ち合わせていた。一人の優れた兵士としてBG団で受けた訓練は多岐に渡っていて、銃の扱いもそんな一つであった。
 高い水準の飛行能力を有するジェットは動体視力に優れている、それはすなわち優秀なスナイパーとしても必要な事柄であった。
 004や009、そして008に紛れて目立ちはしないが、ジェットもまた優秀なスナイパーであったのだ。高速で移動しながら相手を打ち落とすなどというのは、決して普通の腕前では出来ることではない。
 ふとジェットはそんな昔を思い出していた。
 昔は銃口を誰かに向けただけで、フルフルと細かく震えていたのに、今は微動だにせずにぴたりと相手の眉間にその銃口が向けることができる。
 恋した男の顔が其処にはあった。
 冗談だろうともいなすこともせずに、ただ銃口を向けるジェットを冷たい目で見ている。戦いの場にあるアルベルト・ハインリヒとしての目ではなく004としての視線の冷たさにジェットはこの男の強さを見た。
 それにこんな拳銃では00ナンバーの中でも最も皮膚の耐久性に優れたその躯を打ち抜くことは出来ないであろう。
 でも、向けずにはいられなかった。
「アルベルト」
 彼の名前を呟くと同時に目から涙が溢れて視界が歪む。
 どうして自分が泣いているのか分からないけれども、涙が止められない。
「バイバイ…、アル」





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