恋の幻想



 アルの鋼鉄の手にリボンをかける。
 ぐるぐると包帯を巻くようにしてから、蝶々の形の結び目を作ろうとしてみるが所詮不器用なオレにそんな真似できるはずもない。
 黄色のリボンでグルグル巻きにされた右手を見て、アルは少し困ったように笑った。
 右手だけぢゃない。
 首にも、頭にも、左手にも足にも、色とりどりのリボンが巻かれている。
 もちろん巻いたのはオレなんだけど、上手く綺麗に結べないのがつまらない。でも、大人しくオレの言う通りにじっとしていてくれるアルのその気持ちがちょっと嬉しかった。
 オレの誕生日に合わせて休暇をとってくれてわざわざNYまで来てくれた。
 だいたいオレタチのデートはオレがドイツのアルのところに行くケースが多い。何故って、オレは空を自由に飛べるからで最高速度マッハ5で飛行できる。だから、速度を緩めて飛んでったって、せいぜい1時間とちょっとくらいで着いちまう。
 そして、アルのアパートのベッドで蕩けるような時間を過ごして帰ってくるってのが定番だ。互いに休みが合うように努力はしてるけどさ。互いの生活もあるから、せいぜいどんなに会えるって言ったって月に1回か2回ぐらいなもんだ。
 まあ、NYベルリン間での長距離恋愛をしているカップルにしては会えるほうだけど、アルがNYまで来てくれるのは1年に一度ぐらいだ。
 しかも、オレの誕生日にわざわざ合わせてくれたことが嬉しくってオレはつい馬鹿な提案をしちまったが、アルは苦笑しながら好きにしろって言ってくれた。
 じっとしてるアルの服を脱がせて、裸にした。
 いつもオレを翻弄する体躯をじっと眺めて指を這わせるけど、アルの躯はそれをくすぐったいとも言わない、あのブルーグレーの瞳で興味深げに見てるだけだ。その点は面白くないけど、でも、こうしてオレに黙って玩具にされてるアルが妙に可愛くって仕方がない。
 誰もが怖がる大型犬が自分の言うことだけは聞いてくれる。なんてそんなノリに近い。
 ベッドのシーツの上いっぱいにぶちまけられた色とりどりのリボンはまだ余ってて、何処につけてやろうかって、考えてたオレは背後からリボンをいっぱいひっつけたアルに抱き締められた。
 そして、そのままシーツに二人して沈み込む。
 アルはオレの足を取るとリボンを器用に足首からしゅるしゅると巻きつけていった。ちょうど太腿の辺りに大きくリボンを結ぶと、ほらみろと自慢げに笑う。子供みたいに笑うアルが、オレはダイスキだ。だって、オレと二人きりの時にしかこんな顔はしないし、悪ふざけだってオレにしか仕掛けてはこない。
 これってオレだけに与えられた特権みたいじゃん。
 でも、オレがアルに結んだリボンとは全然違ってデパートでプレゼントを買ったみたいだ。だって、アルをプレゼントにもらうからって言ってんのにこれじゃぁ、オレがプレゼントみたいじゃん。
 視線だけで、ちょっと悔しいなと反論してみせるとアルはふっと笑ってオレを抱き寄せる。
「もう、いいだろう」
 その意味は色々あるけど、オレはもうちょっとアルにりぼんをひっつけて遊びたかった。だって、あそこにまだリボンをつけてねぇしさ。最後に取っとこうなんて思ったのがいけないのか、どうしようかとアルを見ると、アルの視線はオレの半勃ちのペニスに注がれていて、手にはリボンを握ってた。
 もう、どうして同じこと考えんだよ。
「アルの変態」
「蕩けるぐらいよくしてやる」
 アルのその言葉に、オレが勝てないって知ってる。オレの躯がアルの手にどれだけ敏感に反応するのかなんてさ。アルのセックスは良過ぎなんだぜ。麻薬みてぇで、一度しちまったらもうやめらんねぇ。SMっぽいプレイなんて嫌いだったんだけどさ。アルにされるとすっげぇ感じる。変態っぽいプレイだって、恥ずかしいけどアルとだって思うとめっさ感じて、馬鹿みたいに喘いでインランになっちまう。
 足を開いて、いいぜなんて余裕のある振りかましてみせるけど、オレのペニスは期待でひくひくしちまっていた。
 アルはそんなオレのペニスをまじまじと見てたけど、やがてリボンを巻いた鋼鉄の手がペニスに触れて、リボンが徐々に巻きつけられていった。半勃ちになったペニスに少しきつく結ばれたそれで逐情が出来なくなって、躯に熱が篭っていく。
 リボンで飾られたオレのペニスをアルは嬲ってくれる。
「お前はホント、可愛いぜ」
「っあ、あん」
 我ながら女々しい喘ぎが漏れちまう。可愛いってアルになら言われて恥ずかしいけど、でも、感じちまうから仕方ねぇだろう。だって、オレタチ愛し合ってる恋人同士なんだもんなぁ。
「なあ、アル、知ってる。今日オレの誕生日ってぇの」
「知ってるさ。だから、こうして蕩けるくらいよくしてやるって言ってるじゃねぇか」
「それだけ?」
 そう蕩けるセックスなんていつもしてるじゃないか。アルとのセックスはオレにとっちゃぁ、どれも良過ぎちまうし、気絶するまで止められねぇ、それくらい毎回成層圏までぶっとんじまいそうなくらいにイイんだぜ。
「ぶっとんじまうくらいよがらせたら、後はお前がして欲しいことをしてやるよ」
 耳朶を食むようにして、ドイツ語訛りの英語での睦言を注ぐ。もう、ダメってぇのそれだけでアナルが疼いて、あんたのりっぱなペニスで深く抉って欲しいと思っちまうんだからさ。
「とろんとろんにしてくれよ」
 














『ジェット』
『ジェットッ!!』
 あんな優しくしてくれるって言ったじゃないか。
 耳元で怒鳴るなってぇの。
『ジェット???』
「あれ?」
『あれ、ぢゃないだろう』
 電話の向こうから聞こえてくるのはアルの声だった。
 オレてば、妄想してしっかりとパンツを濡らしちまってた。半分勃ち上がったままのペニスによってパンツは見事なテントを張ってて、深い溜息を漏らしちまう。ひょっとしてすっごくオレ、アルに飢えてたわけ?確かに、クリスマス休暇以来1ヶ月以上も触れ合ってない。
『お前また妙なことを考えたろ』
 すっかりお見通しにアル。顔は見えないのに自然と躯も顔も火照ってきちまう。だって、あんたが悪い。そんなことを妄想させるようなことを言うからさ、オレやりたい盛りの18歳なんだぜ、それにあんたと晴れて恋人としての時間を楽しめるようになってまだ間もなくって、毎日だってあんたとセックスしたいのにさ。
 電話の向こうで漏れる苦笑。
 喉の奥でくくっと笑う音、それはアルがオレのこと馬鹿だけど可愛くって仕方ないぜっていう徴。分かってるよ、オレは馬鹿でインランで、でもさ、インランにしたのはアルなんだぜ。アルがあんなことやこんなことをさせっから、素質がオレにあったとしたって開花させちまったのはアルなんだから責任取れって。
『まあ、いいさ。誕生日にはそっちに行くから、ちゃんと躯洗って待ってろよ。お前が妄想しちまったことしてやるよ』
「変態」
 でも、好きなんだよなぁ。
「このエロ親父」
 でも、そのエロ親父に嘗め回されたいのはオレなんだな。
「でも、待ってんぜ」
 とだけ言うとオレは強引に電話を切った。これ以上、電話で話していたらテレホンセックスに雪崩れ込みそうなぐらいにオレの股間は元気一杯だ。
 元気になっちまったペニスを見て、溜息が漏れる。誕生日まで、後三日。どうしようかと悩んだけど、そのままにしておくことにした。疼く躯を持て余すのも悪くないし、それにアルとセックスしねぇとこの疼きは収まんねぇ。
 自家発電で収まるようなオレ様ぢゃねぇっつうの。
 オレは今度は妄想ぢゃなくて、アルとの濃厚の一夜を夢見る為にそのまま毛布に包まった。





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