劣情の行方2
「あの男は死んだぞ」 愛していたのではなくとも、誰にも決して許しはしなかった口唇を与えた男なのだから、何かしらの特別な感情が何処かにあったのだと思う。自分が殺したと知ったら、どんな顔をするのかハインリヒはそれが見たかった。 僅かに、青い瞳が動きハインリヒの顔色を伺うと、やがて静やかに笑った。 「ああ」 驚かないジェットにハインリヒは余計に腹が立った。 口唇まで許した相手なのに、それはただの気紛れであったというのか。一度拒絶されても食い下がれば仕方なしにそれを与えるのかとそう聞きたかった。 「口唇だけは……、なんじゃなかったのか?」 「ああ、そうだよ」 少し哀しそうな笑みを乗せただけのジェットに、どうしてか問い質したかった。 「あいつがあんたと戦ったら、負けるってわかってたから、なんていうかさ。人生最後の望みくらいは聞いてやってもって……、思っちまっただけさ」 最後の望みだと、とハインリヒの右の眉がひくりと跳ね上がる。 最後の望みならば、誰でも何でも言うことを聞くのかとハインリヒは、一時でも何か心の交流のあった相手に対してすら投げ遣りな態度を取るその姿に腹が立つ。 自分が死んだら、同じようにそう言うのかと思えてならない。 「だったら、勝者に褒美とやらはないのか」 ハインリヒらしからぬ言動にジェットは眉を顰めながらも、何が欲しいのだと視線だけて問い掛ける。自分にやれるものなど何もないのにと、そう思いつつもその向こうには迷っている男の瞳がある。 だから、彼にはセックスの快楽以外は与えられない。いや、それ以外の繋がりは自分が辛くなってしまうだけだから、ジェットはその言葉を敢えて口にするしかなかった。 「何が欲しい?」 ハインリヒは思考を逡巡させるように視線をすうと宙に泳がせると、何か思いついたのか、次にジェットのところに戻ってきた視線はまるで標的を視界に入れた時のようであった。 「なあ」 ペニスを握っていた手をそのまま股間に深く潜らせる。 髪と同じ赤味の掛かった見事な金髪の恥毛を掻き分けていくと、ペニスの先端から零れた滴で濡れそぼっていた。その周辺を鋼鉄の指で撫でると、その手を拒否するかのようにジェットの開きかかっていた足が閉じる。 閉じる膝の間に自分の膝を強引に割り入れて、更にその最奥を探るとジェットは、眼を強く閉じて眉を顰めて嫌だと拒絶をした。 ベッドの上では拒絶をしないジェットのその態度に、ハインリヒは安堵感を覚えてしまう。未だ、こんな身の上にあったとしても自分自身を失わずにいてくれるのかとそう思えて、何故か嬉しくなってしまう。だから、もっと投げ遣りではない彼の顔を引き摺り出してやりたい。 「ジェット、俺にもキスしろよ」 と触れ合う程に口唇を近付ける。 ジェットは嫌だと首を振って、近くにあるハインリヒの顔から口唇を遠ざけようと顔を背けた。ハインリヒは口唇をそのまま肌理細やかな皮膚の上を滑らせて、辿り着いた耳朶を食むように囁きを注ぎ入れる。 「何か、それとも…」 その瞬間、ジェットの造られた場所にハインリヒの鋼鉄の指がずぶずぶと飲み込まれていった。あさましくもその感触を捕らえて内壁が収縮し、離すまいと蠢いているのがジェットには分かる。 「っ……っく!!」 「ここに、突っ込んでみせようか」 ジェットの瞳が苦悩で濡れる。 どちらも選択したくはないとハインリヒに訴えるが、堕ちるなら地獄までと既に、ジェットがここに収容されてから、同じように改造された仲間達を幾人も手にかけていたハインリヒはそんな心境に到達してしまっていたのだ。 しかし、その理性のタガを外させたのは、ジェットと何かしら心の交流があったと匂わせた、軍人上がりの今日、この手で殺した男の存在であった。 「どっちがいい」 そう優しく囁き、ジェットの答えを待っている間も、耳朶を食み、舌で舐り、指を造られたその場所で蠢めかせて慣らされた躯に快楽を齎す。嫌と思っていたとしても、逆らえない本能にジェットはなけなしのプライドを放棄するしか自分を守る術を知らなかった。 くちゃりといやらしく自分の股間から漏れる音に、気分が悪くなる。 ペニスと玉袋、そしてアナルへと繋がっていたはず下半身であったが、今は違う。玉袋とアナルの間に、改造によって作られたヴァギナが存在していた。しかも、その場所は快楽を得ると濡れ、本物と何ひとつ違わない女陰の存在こそがジェットがここに収容された理由であったのだ。 幹部の一人がジェットに執心で、そこにヴァギナを造らせたのだ。多くの男とセックスを経験させ、感度を開発させている段階で、いずれは彼がセックス・ドールとして引き取る段取りになっていた。もちろん、ジェットは伊達にここに長く居るのではなかった為、その事実に気付いてはいたが、どうすることもできなかった。 男達はここを訪れては気紛れに、ジェットのヴァギナを征服していった。 中にはアナルが好きな男もいたし、ジェットを男として抱く男もいたが、後者はマレでシメールだとそう言って抱く男が大半であった。 ここに送られてから、一度だけハインリヒはやって来たが、造られたその場所には一切触れずにアナルを使っての前と変わらぬ形でセックスをしてくれたことがジェットには救いだった。 造られ、歪められた自分ではない自分を抱いてくれた。せめて、ハインリヒにこの醜い躯を見せたくはなかったのだ。彼が自分に対して心を開いていないことぐらい分かっている。新しい仲間だと彼に会わされた時、彼の持つ強い意志を感じ、きっとフランソワーズやイワンを支えてくれるとそう確信したから、ジェットにとってハインリヒは大切な人になってしまったのだ。 でも、触れられれば濡れ、シーツにはペニスとヴァギナから出る滴で濡れていたし、漏れる吐息は既に喘ぎにしかなってはいない。 「……イイ……」 ジェットにはそう選択するしかなかったのだ。 それが更に、ハインリヒを怒らせる要因となってしまった。 嫌がって、いきがって冗談じゃないと強い意志をみせるジェットが見たかったのだ。持って行きようのない怒りがハインリヒの中で爆発し、それは電子の信号となり機械仕掛けの躯を突き動かした。 「ああ、そうさせてもらうよ」 とそう呟くと、ジェットの足を大きく割り開いて、その濡れた場所に強引に猛るペニスを押し込んだ。アナルとは違い男を迎え入れる為の器官はあっさりとハインリヒを飲み込んでしまった。ずふずぶと音を立てて、ペニスが飲み込まれていく。最奥まで入り込んだペニスの動きが止まると、ジェットは深い呼吸を一つした。 その開いた口唇にハインリヒは自らのそれを重ねると、ジェットの口唇は逃げるように閉じようとしたが、強引に舌を割り込ませて、閉じれなくしてしまう。そのままジェットの舌を遠慮なく探し回り、絡めねっとりと深く口唇を重ねた。 唾液が混じり、ジェットの口の端からシーツへと伝い落ちていく。 突き上げられ、口唇を深く塞がれ、ジェットは眩暈を覚えた。確かに、快楽はある。自分は肉体的な快楽よりも、メンタル的な快楽にいつも飢えていて、優しくしてくれる誰かを求めていた。 でも、自分にそんな人は現れないと、ずっと諦めていた。 まだ、生身だった頃、好きになりかけた男と、一度だけ深いキスを交わしたことがある。 口唇を重ねただけの相手で、躯を重ねたことはなかったけれども、その口付けで自分は達ししまいそうな快楽を得た。 それを思い出して哀しくなる。 ああ、あの男の時と同じ気持ちだ。やはり、自分はハインリヒを好きなのだと、改めてそう思えた。だから、キスもしたくなかったし、オンナとして抱かれたくはなかったのだ。男が好きなインランと蔑まれたとしても男として抱かれたかったのだ。造られたその場所ではなく、持って生まれた場所で彼を受け止めたかった。 鋼鉄の手は遠慮知らない。 躯中を這い回りやがてはジェットの双丘を強く握り、更には、その狭間にあるアナルに触れてきた。ヴァギナから溢れる蜜でアナルもすっかり濡れてしまっていた。鋼鉄の指を滑り込ませると、ジェットの腰が浮き、苦しそうに眉を顰めるが、許してやるつもりはない。 背中に回された手が助けてと、縋ってきていてもハインリヒは止めるつもりはなかった。 小刻みにリズムをつけて突き上げ、アナルへの侵入も開始する。指でアナルの内壁を触れるようにして、深く差し入れ、そして引き抜く。何度も繰り返して、指の本数を増やしていく。 「っぁああ…」 ジェットの瞳の焦点は既に定まってはいなかった。 元々、鋭敏な肌は日々の男達への奉仕によって更に鋭敏になり、触れられるだけで快楽を得られる躯になっていた。しかも、ヴァギナだけでなくアナルの内壁の部分すらも快楽が拾えるようにと神経系統を複雑に張り巡らされて、前立腺を刺激しなくとも感じるようにされてしまっていたのだ。 普通に、ヴァギナに挿入されるセックスをしただけでも、ジェットの意識は薄れかけるのに、3箇所も責め立てられては逆らうどころか意識を保たせることすら出来なくなる。ハインリヒのペニスを挿入されて、突き上げられた段階でジェットの意識は薄れ行きつつあった。 ハインリヒは、そんなジェットの媚態を視界に納めつつ、更に早く突き上げると、最後に咆哮の如くの叫びを上げてジェットの体内に征服した証を放った。 「ひっ……」 一度は放っても尚硬度を保っているペニスを引き抜くと、ジェットの手がぱさりとシーツに落ちる。躯には全く力が入っておらず、足もしどけなく開かれたままで横たわっている。青い瞳は開いたまま、焦点は定まらず、すうっと涙が頬を零れて行った。 強い快楽に躯がついていけずに、達することの出来なかったジェットのペニスは天を仰ぎ、下腹部から大腿部にかけて濡れててかてかと淫靡に光っている。 「ジェット」 声を掛けても動かない。 人形のような瞳だ。 怒ればよいのに、惨いことをしたと、自分を殴ればよいのにとハインリヒは力なく横たわるジェットを見詰め続けていた。 ここを出られれば、彼は笑えるのだろうか。 最初に見た、あの笑顔が戻るのだろうか。 男達の性的な玩具でなくなれば、もっと感情を表してくれるのではないのだろうか。ずっと、そんなことを考え、望んでいたから、自分はそれを見たくて、こんなに惨いことばかりをしてしまうのだと、ハインリヒは心の深い部分にあるジェットへの想いに初めて自らで触れた。 「ジェット」 鋼鉄の手でハインリヒはガラスの瞳から流れ続ける涙をそっと拭ったのだった。 そして、引き寄せられるように、ほろほろと流れる涙を吸い取る為に、そっと口付けた。その涙で濡れた肌の感触だけが、自由を手に入れるその日まで長らくハインリヒの心に残像のように焼きついていた。 あの人を好きだったわけではない。 どんなに心を寄せてくれていたとしても、でも、あの人はハインリヒではない。なけなしのどうしようもないプライドの欠片が未だ心に残っているから、あの人へのキスは決して、心を動かしたものではない。 ハインリヒに殺される為に改造された男への、自分と似た者に対する哀れみの心だけなのに、自分より惨めな男がいたというのが自分の救いだった。 何もかもハインリヒと違うから、安心出来た。 だって、何よりもハインリヒの前では繕っていなくてはいけなかったから、本当の自分を曝け出して、これ以上の負担を掛けたくはなかったから、せめて彼が厭う存在となればハインリヒは自分を忘れてくれると思った。 でも、忘れてくれなかった。 何が彼の中であったかは分からないけれども、縋られて嬉しくないわけはない。 つい手を伸ばしてしまった。 この気持ちは、想いはきっと出口はない、救われない想いなのだ。 もうすぐ、ハインリヒとこうして会うことすら出来なくなってしまうだろうから、せめてと眠りの中では都合の良い夢を見たいと、脳裏に現れた自分を好きだとそう告げてくれるハインリヒの姿を目が覚めても忘れないようにとジェットはずっと見詰めていた。 |
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