コブラvsマングース
ゴゴゴゴーーーーーーー(以下略)。 コブラとマングースの如くに睨み合う二人。 この場合どちらがコブラでマングースかを追求するのは後日にして、己が身の安全を確保する為にグレートはソファーの上で小さくなった。 頬に怒りマークをつけて、ずいっと更に一歩ずつ歩み寄ると、背景のゴゴゴゴゴーーーーの文字フォントが聊か大きくなった気がした。 つい読んでいた新聞を楯にしてしまうグレートに罪はない。 この二人、戦闘時には恐ろしい程に気が合う。 コンビネーションもばっちりなのに、どうしてかある人物が絡んだ途端に仲が悪くなるのだ。 まあ、簡単に言ってしまえば、その人物の取り合いをしているのだが、自称小心者の中年男の前では戦わないで頂きたいとそう思うわけなのである。この間はこんな睨み合いから、嫌味の応酬に発展し、恐ろしいことにそんな状況であるにも関わらず顔には満面の笑みを湛えて、互いに罵詈雑言のパンチを繰り出していたのだった。 その恐ろしさは筆舌尽くしがたいものがあり、リビングで飼っていた金魚があまりの恐怖に死んでしまい、観葉植物が枯れてしまうぐらいなものであったのだ。 瞳の動きで『俺だ』と告げると、片割れはふふんと鼻で笑って『あたしよ』と主張する。言葉にしないで睨み合うだけの冷たい戦争を半世紀近くも続けていながら決裂せずにいるのは、ある意味仲が良いのかもしれない。 ここで、部屋を出て行こうとすれば見つかって巻き込まれる可能性は大だが、ここに身を縮めて座っていても二人に気付かれない保障もない。どうしたものかと、思案しているとタイミングがよいのか、悪いのか、二人の冷たい戦争の原因が部屋に入ってきた。 その瞬間、ここは南極かと思えるほどに下がった部屋の気温は、数秒で常夏の島ハワイへと変貌をする。 「あら、ジェット」 「おお、ジェット」 二人は部屋に入ってきた人物に対して、先刻のコブラ対マングースもどきの睨み合いは何処にやったのやら、にこやかな笑みを浮かべている。ハエトリ紙に吸い寄せられるハエの如くにジェットの傍に寄って行くと、二人がかりで何やら世話を焼き始めた。 そんなことに気付かないジェットが羨ましい。いや、気付かないからこそ、ギルモア邸は平和なのかもしれないのだ。 「グレート」 ジェットは二人をそっと押しのけるとソファーで座るグレートの傍に寄ってくる。 ジェットはいい奴だ。 まあ、多少単純でおバカだが、其処が可愛いところでもある。自分に甥がいたらこんな感じではないかと、グレートはジェットに対して常にそう思っているのだが、今日は違った。 二人の姿がジェットの視界から外れた瞬間、二人はグレートを睨みつける。目から破壊光線でも発射しそうな、そんな殺伐とした雰囲気が漂っている。 「ひっ…!」 ついビビってしまうブリテンはある意味普通の神経の持ち主であるのだ。 自分と同じ、もしくはそれよりも大きなコブラとマングースに睨みつけられたくはない。しかも、粘着体質は二人とも似通っていて、自分でしたことは忘れるくせに、されたことはそれはもう25年経とうがフルカラーで記憶しているとんでもない二人なのである。 自分は仲間に背後から撃たれて死にたくはない。 まだ、したいこともあるのだ。 そうだ、また新作のマトリックスも見ていないではないか。 「グレート、どうした?」 とその原因であるジェットは何も気付いておらず、ブリテンの前でしゃがみこんで甘えるように膝に手を置いた。 頼むから、二人がいない場所でそういうことはしてくれとのブリテンの心の叫びは神様には届きはしなかった。 「いや、その、我輩はちと、急ぎの仕事が・・・・・・」 とにかく自己保身の為にはここを逃げるしかない。これ以上、ジェットに懐かれたら、後でフランソワーズとアルベルトに何をされるのか、それこそ命の保障はない。 そう思わせるくらいに二人の眼光は鋭かった。 「また、明日・・・」 グレートはいそいそと部屋を退出してしまった。誰だって命は欲しい、本当に撃たれそうになったこと一度や二度ではないのだ。すまんと言いながら目が笑っていないアルベルトは怖い。敵が右から来ると指示されて構えれば、左から来たりしたこともあり、指示を出したフランソワーズに文句を言うと、目だけ笑わない笑顔で右と左を間違えてしまったわ、と謝られてしまった。 敵に追いかけられるよりも、それはもう恐ろしい体験なのだ。 大抵の場合、そんな体験の少し前には、二人の前でジェットが自分に懐いていたという事実が存在している。グレートにも学習能力はある。あれだけ怖い思いをしたら、嫌だって理解できるというものだ。 「どうしたんだ?」 ジェットは首を傾げて、グレートを見送っていた。 「グレートも色々と忙しいのよ」 「そうだ。何か話したいことがあるのなら、俺が聞いてやる」 「あら、相談なら、あたしが聞いてあげるわ。ジェット」 今夜もコブラ対マングースの戦いは続くのであった。 もちろん、勝利の品はジェットであるのは言うまでもないことであろう。 |
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