真夜中の後で
嬉しさのあまりに思わず鼻歌が漏れ、自然と躯がリズムを刻みだす。 ヘッドホンから流れてくる流行のヒップホップに合わせて、右足の爪先で床を叩き、リズムをとった。 冷蔵庫に頭を突っ込んだまま腰を振って冷えたバドワイザーの瓶を取り出し、栓抜きを探すのも面倒とばかりに、歯で栓を開ける。栓を何故か冷蔵庫に戻し、くるりと両手を上げてターン、お尻で冷蔵庫のドアを閉める。 ドラムのリズムに合わせて、猫のように軽やかなステップを踏みながら台所を歩き回り、時折、バドワイザーを流し込む。 くるりと身を翻して、ボタンをはめずに羽織っているだけのシルクのシャツがふわりと踊る感触を楽しみながら、音楽に合わせて歌い出す。 風呂で火照った躯に冷えたビール、そしてお気に入りの音楽は心地好い時間を演出してくれる。 それよりも、ジェットの心を浮き立たせているのは、久しぶりの年上の恋人との逢瀬であった。このアパートの住人である恋人はまだ戻っては来ない。何時、帰るかはわからないが、今日戻ってくるはずだ。NYから、マッハ2.5のスピードで1時間かけて飛んで来て、彼のアパートに入って一番最初にしたことは、防護服を脱ぐことであった。 一度、着の身着のままで飛んで来た時は服が燃えない速度を維持して飛ばねばならなく時間が掛かりすぎて、閉口したからなのである。 そして、着替えを持たないで来ているが故に恋人のシャツをクローゼットから取り出して羽織る。飛行能力を生かす為に、体温を高めに調節されているジェットはかなりの暑がりなので、シャツ一枚でも寒くはない。 シャツには彼の匂いが染み付いていて、彼に抱かれているような気分になる。だから、わざと着替えを持ってこないのだ。こうして、着替えがないことを言い訳にして彼の服を借りると彼の匂いに包まれて幸せになれるからなのである。 一番お気に入りの最後の曲が終わると、ジェットはヘッドホンを外して、無造作にMDプレイヤーを机の上に投げ、ダイニングテーブルに半分程飲んだバドワイザーの瓶を置き、椅子にすとんと腰掛ける。 大仰な溜め息を吐き出し、部屋を見渡してから肩を竦めると、椅子に右足を乗せ、立てた膝の上に頭を凭せ掛ける。 後は、彼が帰って来るのを待つばかりである。 時計の針は既に、午後10時を過ぎていた。 そう言えば、少し前、同じ事があったとその時の自分の乱れ方を思い出して、笑みを深くした。普段のジェットの笑みは子供のような部分が多く、どちらかと言うとみっともよいものではない部分があるのだが、こうして、アルベルトに対して想いを深める瞬間の笑みはとても綺麗に整った顔に映し出される。 「アル……」 恋人の名前を口唇に乗せた瞬間、玄関のドアが開く音が聞こえる。本当は飛んで行って、お帰りなさいと抱きつきたいのだが、自分を待たせたのが少し気に入らないと拗ねてみたいと思ってしまう。 ジェットは椅子に座ったまま動かなかった。 椅子に片膝を立て、頭を預けた体勢のまま部屋に入ってくるアルベルトに視線を合わせる。ジェットが来ていることは部屋から漏れる灯りで気付いているはずだ。玄関から部屋へと向かう僅かな距離を足早に歩いてくる音が聞こえる。 すぐに恋人は姿を見せてくれる。 「ただいま」 優しい声をかけても、ぼんやりとその姿を見ているだけのジェットに歩み寄ってくる。 黒い皮のジャケットがとても良く似合うとジェットはハンサムな恋人を見詰めてしまう。戦う彼も素敵だが、何よりも自分を愛してくれる彼はもっと素敵だ。我が侭を言っても、笑って許してくれて、優しく抱き締めてくれる。とても、心地好くて腕から抜け出すのが苦痛になってしまっている。 骨の隋まで溶けるようなセックスも最高だと思うが、触れる自分を想う心がその快楽を高めてくれることも知っている。 「どうした?」 そう言いながら、頭を優しく撫でる。 抱き締めくれないのは、どう見ても風呂上りのジェットが素肌の上に自分のシャツだけを羽織っているだけなのを気遣ってくれているのだ。外から戻ったばかりのアルベルトは冷え切っていて、頭に触れている皮の手袋も冷たい感触を伝えてくる。 こういう些細な優しさが自分を骨抜きにしてしまう効力があると、彼は知っているのだろうか。 「ナンでも…ねぇよ。あんたも風呂入ったらどう?躯、冷えてんだろう」 体勢を崩さずに、そう告げる口調は何処となく拗ねているのを、アルベルトはわかっていて苦笑をする。多分、帰りが遅いと拗ねていたのだろう。本当は早く帰りたかったのだか、道路事情で3時間のロスを余儀無くされたのである。まあ、あの事態を考えれば、3時間で済んだのは不幸中の幸いであるといえよう。 「ああ、そうだな」 と、アルベルトは答え、椅子に座ったままのジェットの姿に視線を這わせる。白いシャツが灯りを反射させ、薄いジェットの躯のラインを浮き上がらせる。背丈はそう変わらないが、細いジェットの躯とは異なり、アルベルトは幅のある体格をしている。だから、アルベルトの洋服を着ると、ブカブカになってしまう。 それが、妙に借りたシャツを着ていますとの印象を深めて、ジェットの愛らしさを際立たせている気がアルベルトにはしてしまうのだ。頭を膝に預けたままの仕草も幼く見えて、つい構ってあげたいと欲求が湧いて来る。 でも、自分のシャツを着ているということは、また着替えを持って来なかったということでもある。一緒に出掛けられないから、着替えを持って来いと言ってから、こうして休日の逢瀬を重ねるのは3度目だ。ジェットが着替えをワザと持って来ないことにアルベルトは気付いていた。 少しはジェットにドイツを案内してやりたいとも思うのだ。自分の故国を彼の目で見て、肌で感じて欲しいと願う。そうすれば、融通の利かない頑固な男のことを少しは理解してもらえる気がするからである。 ジェットはそんなことお構いないのかもしれないが、やはり、そんなことを考えているアルベルトとしては面白くはない部分も僅かだが残っている。今度は仕方がないから、ジェットのサイズに合わせた洋服でも用意しておかねばと心のメモに書き加えると、そんなことおくびにも出さずに、蠱惑的な恋人に手を伸ばす。 「着替え持って来いって言ったのを、聞いていなかったのか」 「んなこと、忘れたよ」 ジェットは憎まれ口を叩く。 ちゃんと覚えていたけれども、こうしてアルベルトの服を借りたいから持ってこないとは言えない。密やかな楽しみであるのだ。彼を待つ間、彼に抱かれるその瞬間を期待して、彼の匂いに包まれながら疼く躯を持て余す楽しみを味わいたいからとは、言えないではないか。 薄々アルベルトもジェットがわざとしていると知っていても、どうしてなのかまでは理解できない。自分のシャツを着たいと思っているのは分かるのだが、何故なのかが分からない。そういう無骨な男なのだ。 だからこそ、知りたいと強烈に思うアルベルトがいる。どうしてか、年下の恋人と一緒にいると冷静でいられない物事が多すぎて困惑してしまうことがあるけれども、それが不思議と嫌ではない。本来、自分は穏やかな恋愛を好んでいたはずではなかったのだろうか。 このように激しい感情を恋愛で持ち得たのは、彼が最初で多分、最後であろう。 「なら、忘れないようにしないとな」 そう言うと、椅子に座っているジェットの前にすぅっと身を沈めて、皮の手袋をはめたままの手で膝頭を捕えて左右に押し開いた。迷わずに目の前に現れるジェットのペニスを口に含むと、甘い声が上がり、逃れようと足をジタバタさせるが、膝をしっかりと捕えられてそれもままならない。 「あっ……。アル・…・……・ぁぁああっん!!」 アルベルトに抱かれる期待を含ませていた躯は、突然、核心に触れられて一気に萌え上がる。逃れようにも、腰と膝の感覚を力ずくで奪い取っていくような快楽にジェットは悶えるしかない。 確かに、抱かれることは期待していた。 この姿でいるということは誘っている意味も含まれているのだ。誘っていることを知られても、全然構わないけれども、彼に抱かれる事を期待しているとは、気恥ずかしくて伝えられない。アルベルトを思い出して、自慰をしたと言うのならば、簡単に告げられるし、恥ずかしいとは思わないが、これだけはちょっと恥ずかしいと思うジェットなのである。 頭を退けようと伸ばされた手には力が入らずに、反対にシルバーグレーの髪に指を絡めてしまう結果となっただけである。 「ひっ……っはっ……・・はあん……」 口の中に引き込んだ瞬間から、ジェットの躯は素直に反応を返してくる。含んだまま先端を舌で撫で上げただけで、足を震わせて、甘い吐息を漏らす。抱けば、抱く程、ジェットの躯は敏感になっていく。いくつもの性感帯を開発した自負がアルベルトにはある。 ペニスの先端に舌を捻り込ませるように愛撫をすれば、腰を揺らめかせて応えるし、袋を口に含んで転がせばアルベルトを受け挿れる秘部が激しく収縮する。 一度、口から出して、甘く歯を立てるとジェットは堪らないと頭を振って快楽に耐えようとしている。口に含まれただけで、ジェットは達してしまうのでは思わせるほどに、アルベルトの与える快楽には至極弱く出来ている。 「ダ……メッ……ァあっ、いゃあぁ……」 頭を仰け反らせて、アルベルトの頭に縋りつくように腕を伸ばしている。 淡い茂みはアルベルトが普段使っているボディソープの匂いがして、彼が躯を綺麗にして自分を待っていてくれたことを物語っている。こんなことが、可愛いと感じるのだ。必死で、自分を求める姿が、保護欲の旺盛なアルベルトを擽り続ける。 ざらりとした茂みの感触を舌が伝えてくるが、それすらもジェットのモノだと思うと、アルベルトの牡としても欲求を煽り立てて来る。 しとどに流れる愛液を舌で掬い取るように舐め、皮の手袋を膝の内側に這わせる。 「っふん」 いつもと違うアルベルトの手の感触に、もどかしさが広がっていき、あの手で触れられたいと皮膚が訴えてくる。 口に含まれて、突然、快楽の海に突き落とされたジェットは自分で泳ぐ体勢も整えられぬまま溺れさせられてしまっている自分を、まだかろうじて自覚していた。アルベルトの腔内のヌメル質感と淫らに自分の躯を這い回る舌と、そして煽り立てる意思の元に蠢く手に翻弄されてしまう。 もっと触れて欲しい。 自分を貫く彼のペニスの形が鮮明に脳裏に浮かび上がってくる。淫らに乱れたら、彼は感じてくれると分かっているから、決して、隠すことはしようとは思わない。触れられて感じ入っていると彼に伝えたい。愛されることを望んでいるのだと、わかって欲しい。 自ら足を開き、誘い込むように腰を押し付けている。 秘部すらも曝すように腰を前に出すと、舌が僅かに触れる。それだけで、気が狂いそうな快楽が襲ってきてしまう。 神経系統が焼き切れそうになる。 「ぁあ…ア、ル…シテ」 誘うことにも衒いがない。 すると、自分のペニスを舐めていた舌が離れて行き、白い内股に這わされる。赤い徴が一つずつ丁寧に膝に向かってつけていく。一つ付けられるだけで、膝が震え、背筋を快楽の電気信号が凄まじい勢いで這い上がって行き、脳内を支配する。 焦らすようなアルベルトの行為にジェットは腰を振って悶えた。上り詰める寸前に放置されてしまったジェットのペニスはフルフルと震えて、次の刺激を待ち侘びている。 ジェット自身もそうして欲しくて、熱い吐息を吐きながらアルベルトに懇願をするが、無視したまま徴を落とす作業に没頭する振りをしているだけである。 湿った腔内で愛撫されたジェットのペニスはアルベルトの唾液に塗れていたけれども、放置された今ではそれが乾いていく感触すらも快楽としてジェットは拾ってしまっている。 「ゃああ……ん」 アルベルトのキスがようやく膝に達しようとしていた。 「ヤッダ……アルぅ……イヤ〜〜っ!!」 悲鳴のような嬌声が上がり、アルベルトの髪を思いっきり掴んで放さなそうとはしないジェットは限界を迎えつつあった。して欲しい。触れて悶えさせて欲しいと願っているのに、意地悪をしないで欲しい。何がしたいのか、分かれば、アルベルトが望むのならとも思うが、何を考えて自分を抱いているのか知れないアルベルトは嫌だと思える。 いつも、焦らしはしたりするものの、ジェットがここまで懇願して果たされなかったことはほとんどない。だとすれば、アルベルトはいつもと違うことを考えながら自分を抱いているということになる。 難しいことを考えるのが苦手なジェットだが、肌を通して伝わる感覚には至極敏感なのである。 「なら、自分でしてみるか」 自分の顔を見上げるアルベルトの顔には表情が乏しかったけれども、自分の愛液を口唇の端から滴らせるその姿に、口付けたいと猛烈に思えてしまう。でも、手を伸ばしてもアルベルトは巧く交わして、口唇を寄せてはくれないのだ。 あの愛液を舐め取り、自分を含んでいた口を舐めまわして、愛してもらっていたのだと実感したい。 「アル……」 「そんなに逝きたいんなら、自分でしてみるか?」 らしからぬアルベルトの問いにどうしてとジェットは凍えた北海の海を映す男の瞳を見詰める。表情は分からないが、その奥まった場所に楽しげな光りを見出して何故か安堵を覚える。 「いゃ……」 ジェットは小さく、そう呟いた。 せっかく一緒にいるのに、アルベルトと抱き合いのだ。自分のペニスに触れてくれなくとも、アルベルトに抱かれるのならそれでも良い。自分でどうにかしろとは言われたくはない。どうせなら、このまま貫かれた方がずっと自分は嬉しいのだ。 「なら、どうして俺のシャツを着たがるのか、話してみるか?」 優しい口調で言われた言葉に、ジェットの躯が急に熱を帯びて、全身が薄っすらと桜色に染まって行く。白い灯りを受けて染まる柔肌にアルベルトは密かに、感嘆を漏らした。このまま床に押し倒して、思う存分貫き、縋りつかせたいと思わせる艶が滲み出ている。その躯を白いシルクシャツが覆っているが故に、全裸でいるよりも、エロティズムに満ち溢れた姿であった。 ジェットは首を横に振って、言いたくないと意思を伝える。 いずれ、アルベルトに言わされるとわかっていても、自分の意地がイエスとは言わせないのだ。随分、損をしているとは思うが、それが自分なのだから、今更変えることも出来ない。 「どうする」 アルベルトはジェットの顔を覗き込んで、そう聞いた。 伏せた睫毛が快楽に震えている。僅かに眼の端に滲み出た涙を舌で掬い取ってやりたい、とそう思えるけれども、どうしても自分のシャツを着たがるジェットの心理を知りたい。いや、そんなことは、自分の勝手な言い訳で、本心は多分、ジェットが自分のモノだと認識したくて、何処まで自分の無体に応えてくれるのか知りたいだけなのだと、アルベルトは心の何処かではそれを理解はしている。 この柔肌を蹂躙して、快楽の海に溺れさせて、僅かの間ですら自分と離れただけで自分を思い出してしなやかな躯を疼かせて欲しいと願ってしまっている。 諦めを含ませた甘い溜め息を漏らしたジェットは、震える手を張り詰めたペニスへと伸ばす。白い指が絡みつき、熱い吐息が漏れる。目の前で自慰行為をするジェットを見るのは始めてあった。 右手で握り締めて、人差し指を先端に這わせる。そして、左を袋に伸ばして、柔らかく揉みくだしていた。 「あっ……。ア、ル………」 アルベルトの視線に恥じらいながらも、一度、始めてしまったことは止められない。恥ずかしいと思いつつも、見られていることがジェットの快楽の神経回路を鋭敏にしていき、視線だけで達してしまいそうになる。 あの蒼い瞳で見詰められて、曝け出して、自分だけ乱れて、彼に抱かれている自分を妄想してと、倒錯的な喜びに目覚めていく自分の肉体は疎ましいものではなく。彼が望んでいるのならば、それが出来る自分のはしたなさすら許せる。 躯はどれだけでも、彼の要望に応えられるけれども、心の内は巧く吐露出来ないし、セックスをすることよりもアルベルトに対する想いを独りで噛み締める行為を知られるのは、どうしても恥ずかしい。 「ぁああああ・…・…っあ、いっ………」 激しく、ペニスを握った手を前後させ、左手は秘部へと這わせて、迷いもせずに指を突き挿れた。腰を突き出すようにして、見て欲しいとばかりにアルベルトの眼前に惜しげもなく秘部も局部も曝している。 自分を貫いているのは自分の指ではなく、彼の視線という剣で、自分を高めている手は彼の視線と言う愛撫だと思うと、快楽の頂きが見えてくる。其処には腕を広げて待っている彼の姿が見える。 ジェットはそんな彼を目掛けて、一気に頂きへと掛け上がった。 「ぁぁっ……ぃいぃく……ぁあん……いっちゃ……・ぅん・……ぁぁぁああああん!!!」 ジェットは大きく足を広げて、見て欲しいいわんばかりにアルベルトにその様を見せ付ける。こうして、彼がいない間、自分を慰めているのだと、そんな淫らな自分を知って欲しい。 肩で息をしながらも、アルベルトの反応が気になるジェットは薄めを開けて、恋人の様子を伺った。けれども、想像もしなかったその様に椅子の背に持たせかけていた上体を起こし、彼の顔に手を伸ばした。 「アル……」 てっきり、彼は自分が放った瞬間、避けてくれると思い込んでいたのだけれども、彼は動くことはしなかった。ジェットの白濁した液体を理性的で整った顔で受けとめていたのだ。 ジェットはどうしてだが、居たたまれない気持ちになる。 AVの俳優でもあるまいし、こんなことをしないで欲しいのと、してしまった自分への戸惑いで彼の顔に触れた手が別の意味で震えていた。 「アル」 「どうした」 口調はいつもの優しいアルベルトだ。でも、どうして避けなかったと言葉が出て来ない。 引き寄せられて吸い込まれるように彼の口唇が近付いて来る。今日、始めてのキスの予感に逆らうことなどは出来ない。そのまま口唇を奪われて、自分の放ったモノの匂いのするキスに戸惑いながらも、アルベルトの施す甘いキスの感触からは逃れられない。 口唇の横を流れる自分の愛液を舐め取ると苦い味がする。アルベルトのもの飲む時はそれが彼のものだと思うと、嬉しくてそれだけで味などはどうでもよいのだが、彼は自分のこんなモノをのんでいるかと思うと、妙な気分になる。 でも、きっとそれは自分を愛してくれているから、平気なのだと、そうジェットは思いたい。 ハンサムな彼をこのままにしてはおけない。 顔にこんなものを掛けられていても良い相手ではない。ジェットは猫のように自分の放ったモノに舌を這わせて舐め取ろうとしていた。その意図を察した彼は黙ってそれに従ってくれる。 頬や目元、口唇の横から、そして、皮のジャケットに至るまで全て舐め取らないと気が済まない。 「ジェット……」 最初はアルベルトはさせたいようにさせていたが、先刻の彼の媚態とこうして自分の放ったものを舐め取る柔らかい舌の感触が辛うじて抑えていた欲望の枷を簡単外してしまう。自分も欲しくてならなかったのだ。 会えない間、どうしているだろうかとジェットを想う日々であった。 「アル」 名前を呼ばれて顔を上げたジェットの口唇には白濁した液体がついていた。アルベルトはそれを舌で舐め取ると、ジェットの舌を誘うように、口唇に更に舌を這わせる。誘われて姿を見せたジェットの舌を絡め取り、腰を抱いてそのまま床へと引き摺り倒した。 床に横たえられた痩躯に圧し掛かり、ファスナーを下ろすと、猛っている自分のペニスは準備万端だと自己主張をしていた。 ジェットは自分を貫く猛りに手を伸ばして、アルベルトが感じていたことを実感するだけで、再び、それが早く欲しいと躯は訴え始める。 「アイシテくれよ」 ジェットのおねだりに、アルベルトは穏やかに笑って応えようとしていた。 あの件は追求されずに済むとたかを括っていたジェットだが、この後、ベッドでもっと啼かされて、結局、アルベルトに対して着替えを持たずにドイツに遣って来る理由を告白する羽目に陥ったのである。 けれども、その後、アルベルトは着替えを持って来いとは、決して言わなくなった。 良いことなのか、悪いことなのかジェットには分からないけれども、ジェットは今日もこうして、素肌にアルベルトのシャツだけを羽織り、帰りを待っているのだ。 |
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