ケンカ
オレたちだって、たまにはケンカも、いやしょっちゅうケンカもするけど、大抵は後々考えてみれば、馬鹿ヤロウだったな…なんて笑えるようなことがケンカの原因だったりする。 最後の楽しみにとっておいたデザートをオレが食っちまったとか、あるいは、あいつが隠してた酒をオレが呑んじまったとか、まあ、大抵はそんなことだ。後は、たまに他の誰かと仲良くしてて焼餅を焼くことが原因だったり、もするけど。 まあ、そんな時は一発やっちまえば、互いに仲良しこよしになれるんだが…。 今回はちと、根が深い、らしい。 ドイツ人の主食ともいえる。だな、そのソーセージをオレが食っちまったんだ。 冷蔵庫に無造作に入れてあったもんだから、オレは食っていいと思ってボイルして、お気に入りの粒入りマスタードソースをかけて食った。確かに、いつもあいつに食わされてるソーセージより格段に美味かった。 てっきり、オレに食わせる為に、買っといてくれたもんだとオレは思ってたんだが、あいつは違うとこきやがった。 だいたい、オレが来ることをわかってんなら、食うなとか包みに書いとけよと言っちまったが、それに対していつものあいつみたいに反論しなくって、寂しそうに笑って、すとんと椅子にまるで力が抜けたみてぇに腰を落としたっきり、すっかり腑抜けになって、あっちも役に立たなくなったジジイみたいにぼんやりとしている。 オレが何かを言えば、答えるけど…。 まるで機械みてえな答えばかりだ。 バスローブ一枚でこれみよがしに誘ってやったって、視線も流しゃしねぇ。 おい、どうなってんだよ。 オレはすっかり、ボケ老人と化した恋人の背中を見詰めるしかなかった。 あのソーセージは本当は、魔法のソーセージとか…あるわきゃねぇだろうって、オレ。大丈夫か。とオレはオレ自身に突っ込みを入れてみたりするが事態は進展しねぇ、当り前だ。 やっぱ、最後の手か。 オレはあいつの前に跪いて、項垂れるあいつの顔を下から覗き込んだ。本当に、しょんぼりとして元気がない。仕事から帰宅したままの服装で、食事もしていないしもちろん風呂にも入っていない。 「なあ、アル」 何だと、視線だけの返事。でも、オレはめげない。 「あんたが、いけないんだぜ」 「ああ、ちゃんと触るなと伝言しておかなかった俺が悪いさ」 だから、違うと言ってんだろうがぁ、って台詞をごっくんとオレは飲み込んだ。 「違うよ。早く帰って来ないあんたが悪い。オレが待ってるのに、オレは本当はあんたのここに……」 って股間に手を伸ばして、しょげてるあいつのブツをしっかりと握る。ふにゃりとした感触に、気力が萎えそうになる。握っただけでいつも元気に反応していたブツは全然その気配もみせない。 「ついてるソーセージ食いたかったんだぜ。それなのに、帰りが遅いから…」 少し困った顔で、しかも情けない顔でオレを見詰めてくる。 この辺りが可愛いんだよな、なんて言ったら怒られるから黙ってっけど、厳つい30男相手になんだが、本当にこいつは可愛いんだ。男って本当に、単純で融通がきかなくって馬鹿だとのフランの口癖がよく理解出来る。そして、フランはいつも最後に『でも、可愛くて愛しいのよね』と締め括る。 確かに、そうだ。 「あんたのが、一番」 そう言って、もう一度、覗き込むと、情けない顔を更に歪めてあいつは言う。 「お前に食べさせてやりたかった。ちゃんとボイルして特製ソースを作って二人で一緒に、テーブルを囲みたかった。美味しいって笑う、お前の顔が見たかった」 むっちゃ可愛い。 アルのことだ特性ソースもレシピを教わっただけでなくて何度も、試行錯誤して一発で作れるようにしているに違いなかったんだ。何もかもオレの為に、必死でしてくれる健気さがたまらない。 でも、言うと怒られるから言わねぇってばさ。 ホント、こういう時のちょっと気力が萎えてるあいつは可愛くって、つい抱き締めて甘やかせたくなっちまう。腕に囲って、撫で撫でして何でもいう事聞いてあげてぇじゃん。 強い男との認識の高いあいつとの今のあいつのギャプが、そんな情けない姿をオレだけには見せてくれるなんざぁ、たまらなく可愛い。 「だったら、食わせてよ。あんたの自前のソーセージ」 って軽いキスをすると少し頬を赤くする。 あああーーー、もう本当に食べてぇジャン。 もちろん、上の口からも、下の口からも、両方で味合わせて戴きましょうってなもんだ。 「なぁ」 甘えた声で躯を摺り寄せると、おずおずとアルの腕がオレを抱き締める。 「………、そんなところがダイスキだよ」 と言うと、あいつの腕の力はますます強くなって、オレは息も出来ないくらいに強く抱き締められた。 |
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