サンタクロースとトナカイ3



 とにかくサンタクロースとトナカイのクリスマスは忙しい。
 特に11月のハロウィンが終り12月に入った途端、人々の関心はクリスマスへと移り、子供達のクリスマスプレゼントへのリクエストも増え始める。
 いちいち、それを拾い上げ、一人一人のデータと照らし合わせてその子供に相応しいプレゼントをセレクトするのに、サンタクロース総合センターは普段の静かさが嘘だと思えるくらい騒々しかった。
 普段は温厚な雰囲気漂うサンタクロース総合センターの中は殺気だち、珍しいサンタクロースと怒号と忙しさのあまりに零れる阿鼻叫喚の声が一面に響き渡るのだ。
 それが、12月24日ともなれば、その忙しさはピークに達する。
 出発してしまえば、配達するだけになってしまうのだからまだ良いが、出発するまでがサンタクロースにとっては一年で一番忙しい日となる。
 しかし、トナカイも忙しいのだ。
 次々に運び込まれるプレゼントの配達の順番を考慮してそりに積載しなくてはならない。
 派遣される先の地域の地上の状態や家屋の状況、戦闘地域ではないかとか、衛星に捉えられない為のルートを探したりと、トナカイはトナカイですることが山とある。
 常に一心同体でいつも一緒のサンタクロースとトナカイなのだが、このクリスマスを控えた12月だけは一緒に過ごすことはあまりない。
 もちろん彼等もその例外ではなかった。
 特に、もっとも俊足といわれているトナカイを有するサンタクロースは一番広大なエリアを任されてしまっていたのだ。
 もちろん、広ければ広い程に配達は苛烈を極めることとなる。
 で、お互いに会えないまま1週間が過ぎようとしていた。
 最後のプレゼントの追加分のデータを受け取ったトナカイは情報集中管理センターから自分達に与えられている格納庫に向かって分厚いファイルを抱えて、長い廊下を蹄の音を響かせて歩いていた。
 パートナーのサンタクロースは情報管理集中センターに詰めたままである。
 でも、先刻ちらりと背中を見ることが出来て少しだけトナカイは気分がよかった。
 会えないからこそ、ちらりと姿が見えただけで嬉しい。
 それは二人が出会う前に遠くから彼を見詰めていた、くすぐったい気持ちを思い出させてくれるのだ。今がとても幸せだからこそ、顔を見られただけで嬉しかったあの日々の気持ちを決して忘れたくはない。
 鼻歌がつい、零れそうになる。
「おい」
 突然、背後から、肘を掴まれてトイレに連れ込まれた。
「ちょっと……」
 蹄パンチを食らわせてやろうと繰り出したが、それは相手の鼻先で止まった。
「あんた……」
「会いたかった」
 抱き締めたまま今度は個室に連れ込んで、しっかりと施錠をする。
「もう、気が狂いそうだ。1週間もお前に触れていない」
 確かに、出会ってから今まで毎日のように一緒だった。つまりセックスだって毎日のようにしていたし、触れ合わない日々など存在しなかったのだ。けれども、トナカイにしてみれば、そのあえない日々こそが今の幸せを実感させてくれるようで、嬉しい気持ちになることもある。
 パートナーのサンタクロースはトナカイをがっしりと抱き締めると、噛み付くようにキスの雨を降らせる。
 トナカイはサンタクロースのなすがままになっている。
 普段は冷静沈着と言われる彼が自分に会えないだけで、こんなに取り乱してくれるのが嬉しい。そこまで自分を欲してくれていると思うだけで、躯の芯が甘い熱に支配されそうになる。
「でも、オレはあんたの姿を時々見かけたよ」
「ああ、俺だって、お前の姿を見た……けれど、我慢できるか。見たら触れたいに決まってるだろうっ!!」
 サンタクロースはそう怒鳴ると、黙ってろと付け加えてトナカイをぎっと抱き締め、ふわふわとした毛皮に顔の下半分を埋めて、目一杯その匂いを吸い込んだ。
ふとブラウザから視線を外して、遠くに視線を流したその先に、その場を立ち去ろうとしているトナカイの背中が見えた。足を一歩進める度に、小さなしっぽがくりんくりんと揺れる。
 その様を見て、抱き締めたいとそう思った。
 思ったら、我慢できなくなっていた。
 トイレだと抜け出して、トナカイよりも先回りをして、このトイレで待ち伏せしていたのだ。
 もちろん、こんなところでことに及ぼうだなんて思っていない。
 せいぜい5分くらいしか席を外している余裕はないのだ。
 サンタクロースなのだから、それが自分の仕事なのだと理解は出来る。けれども、それとこれとは別の問題なのである。
 トナカイもそんなサンタクロースの心情を汲み取ってか、ファイルを持っていない腕で頭を抱きかかえるようにして髪にキスを落とす。風呂に入っていないのか少し汗ばんだ匂いがするけれども、不思議とイヤではない。
 仕事に打ち込むサンタクロースは格好良いのだ。
 間違えなく3割増しハンサムに見える。
「タイムリミットだ」
 そう呟くとサンタクロースとトナカイを開放した。
 そして慌てて個室のドアを開けて飛び出して行く。
 洗面所で手を荒い、廊下に続く扉のノブに手を掛けてからサンタクロースはふり返った。
「仕事が終わったら、じっくり可愛がってやる。配達で体力消耗するんじゃねぇぞっ!!」
 サンタクロースの一方的な言葉に、トナカイは小さく頷いたのだった。


 サンタクロースとトナカイの多忙なクリスマス直前のエピソードの一つなのです。





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