サンタクロースとトナカイ4



 12月も半分を折り返した頃になると、サンタクロースとトナカイ達の忙しさは半端ではなくなる。
 そんな中、正確無比な配達能力を備えたサンタクロース・アルベルトとハイスピードを誇るトナカイ・ジェットは、久しぶりにサンタクロース集中管理センターの食堂の片隅で二人っきりのランチを楽しんでいた。
「あら、トナカイ・ジェット」
 トナカイ・ジェットに声を掛けたのは唯一の女性サンタクロースであるサンタクロース・フランソワーズであった。後ろにはパートナーであるトナカイ・ジョーを従えている。
 赤いミニスカートから覗く足のラインは何時見ても美しく、それを殊更誇示するかのようにサンタクロース・フランソワーズは堂々と立っていた。
「サンタクロース・フランソワーズ」
 トナカイ・ジェットは立ち上がって、サンタクロース・フランソワーズに敬意を示した。
「ここ、空いてるかしら?」
 他にも空いたテーブルはあるのにわざわざここに座ろうというサンタクロース・フランソワーズの魂胆を知っているサンタクロース・アルベルトはちっと舌打ちをする。三日ぶりに二人の食事を邪魔されて嬉しいサンタクロースは居ないだろう。
 サンタクロース・フランソワーズはサンタクロース・アルベルトがサンタクロースになった頃には既にサンタクロースの国に住んでいた。彼女には特殊な能力があり、遠い場所の出来事を見たり、聞いたりすることが出来るのである。従って彼女の仕事はプレゼントの配達ではなく、プレゼントをあげるのに相応しい子供なのかということを調査したり、サンタクロースが安全に配達できるように配達ルートを調査する仕事をしていた。
 しかし、パートナーのトナカイには恵まれず、その能力にも関わらず何時まで経っても半人前扱いだった。けれども、最近、パートナーであるトナカイを見付けたのだ。
 年の頃はトナカイ・ジェットと同じくらいで、髪と瞳は茶褐色、零れそうなくらいに大きな瞳が魅力的なトナカイである。しかし、スピードに関してはトナカイ・ジェットにも引けはとらない優れたトナカイであるのだ。そして、サンタクロース・フランソワーズは半人前から、サンタクロース集中管理センター交通局第1課の責任者に抜擢されたのだ。
 其処は、サンタクロースが安全に配達できるように配達ルートを調査し、選定する重要なセクションである。
「どうぞ。サンタクロース・フランソワーズ」
 トナカイ・ジェットが椅子を引くと、ありがとうとサンタクロース・フランソワーズはトナカイ・ジェットの隣の席に座った。サンタクロース・アルベルトは自分の隣でぼんやりと立っているトナカイ・ジョーの為に座ったまま椅子を引いてやると、トナカイ・ジョーはありがとうございますと礼儀正しく頭を下げて、その椅子に腰を下ろした。
「ちゃんと食べてる? トナカイ・ジェット」
「食べてるさ」
「無理しないでね。それでなくても貴方は細っこいんだから、心配だわ」
 トナカイ・ジェットはサンタクロース・フランソワーズが大好きなのだ。まだ、サンタクロース・アルベルトと出会う以前に虐められて惨い怪我をしていたトナカイ・ジェットを助けて手当てをしてくれたのはサンタクロース・フランソワーズであったのだ。互いにパートナーでないことは本能でわかっていたけれども、種族を超えた友情を二人は育み、トナカイ・ジェットの家をサンタクロース・フランソワーズが度々訪ねていた。
 トナカイ・ジェットがサンタクロース・アルベルトというパートナーを見付けた後も二人の友情に変わりはなく、集中管理センターで会うとこうして親密な時間を過ごすのである。
「おい、いいのか」
 目の前で一見すればいちゃついているように見えなくもない二人の行動に、サンタクロース・フランソワーズのパートナーであるトナカイ・ジョーにそう耳打ちすると、彼は嬉しそうに笑った。
 トナカイ・ジョーのことをサンタクロース・アルベルトはあまりよく知らないのだが、トナカイ・ジェットが居たトナカイの村とは違う、サンタクロースとパートナーを組むことを拒否している村の出身だと噂で聞いている。
 50年も昔のことである。その村出身のトナカイとサンタクロースの間に不和が生じた。その不和がどのようなものであったのかは秘められていて誰も知らないのであるが、それ以来、その村のトナカイを選ぶサンタクロースも居なくなったし、また、そのト村のトナカイはサンタクロースのパートナーになることを頑なに拒んだ。
 そんな村の中でサンタクロースに好意的だったトナカイ・ジョーは、トナカイ・ジェットと一緒で随分と虐められていたらしく、酷い怪我をしていたところを仕事で一人で出掛けたトナカイ・ジェットが見掛けて、連れ帰ったのがそもそもサンタクロース・フランソワーズとトナカイ・ジョーが出会う切っ掛けになったのだ。
 そのせいなのか、トナカイ・ジョーはトナカイ・ジェットを兄のように慕い、二人はすぐに仲良しになった。
 何やら、四人でいると自分が仲間外れにされている気が大人気ないのだが、してしまうサンタクロース・アルベルトなのである。
「トナカイ・ジェットのことは大好きだし……。彼がサンタクロース・フランソワーズと友達じゃなかったら、僕はずっと独りぼっちだった。それにトナカイ・ジェットから貴方のことはいつも聞いてます。とても凄いサンタクロースっていうだけじゃなくって、優しい人だって。トナカイ・ジェットの大切な人だから、迷惑でなかったら僕のことも……」
 とトナカイ・ジョーははにかんだ笑みをサンタクロース・アルベルトに送る。
 なんだ、素直で可愛いじゃないかと、サンタクロース・アルベルトは思う。どうしてこんな素直で可愛らしいトナカイが虐められなくてはならなかったのかが、不思議でたまらない。同じような境遇であっても、トナカイ・ジェットとは性質も異なる。
 トナカイ・ジェットのような跳っ返りも悪くないが、こういう素直なトナカイも可愛いもんだ。まあ、トナカイ・ジェットの友達ってなら俺とも友達ってことだなと、答えると、トナカイ・ジョーはとても嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。サンタクロース・アルベルト」
「なあなあ」
 そんな二人のやりとりを見計らっていたかのようにトナカイ・ジェットの声が間に割り込んできた。
「今、サンタクロース・フランソワーズとも話してたんだけどさ。お正月はさ、四人でゆっくりと骨休めに温泉に行かない?」
「そりゃぁ、二人っきりってのも悪くないけど、たまには賑やかしいのもいいと思わない」
 とサンタクロース・フランソワーズも楽しそうだ。
 綺麗な顔をしているのに、いつも無愛想でしかめっ面ばかりしていた彼女だけれども、トナカイ・ジョーをパートナーに迎えてから変わった。それ以前もトナカイ・ジェットの前だけでは笑っていたが、他人の居る場所では笑うことなどなかったのだ。
 やはり、パートナーを得るということは大切なことなのだと、サンタクロース・アルベルトは改めて思う。
「僕は、雪を見ながら露天風呂がいいな」
「俺は静かな所だったら何処でも」
 トナカイ・ジョーとサンタクロース・アルベルトの合意を得て、トナカイ・ジェットとサンタクロース・フランソワーズは手を取り合って喜んでいる。
「でさ……」
 クリスマスを迎えるサンタクロース集中管理センターの殺伐とした空気の中、食堂の一角だけが暖かな空気に包まれていた。
 今年もサンタクロースとトナカイの多忙なクリスマスシーズンは遣って来ていた。





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