真夜中の訪問者
フランソワーズはあらかた用意された朝食をテーブルに並べて、首を傾げた。朝から豪勢な朝食だとは思うが、今朝は可愛いあの子が来ているのだから仕方がないといえよう。 彼は少し口唇を尖らせながら、ソファーに座って天気予報を見ている。 こうして、朝を過ごすのは何回目だろうとフランソワーズは笑う。 自分がフランスに帰国して、美術館の学芸員の仕事を始めてからもう数十回繰り返された出来事だ。 愛しいジェットは恋人と喧嘩をすると、酔っ払ってここに転がり込んでくる。呂律が回っていない舌で少しの間、恋人の悪口をまくし立てるとそのまま眠ってしまうのだ。真夜中に突然、予告もなくやってくるのは端迷惑以外の何者でもないが、それがジェットだと許せてしまう。 大騒ぎした割には、朝になれば、ケロっといつものジェットに戻っている。飲酒と呂律の回らない悪口はジェットなりのストレス解消なのだろう。 先刻、大きめのオムレツを焼く為に卵をといていると、起き出してきて朝食を作っているフランソワーズの背後からその手元を覗き込んだ。フランソワーズの両肩に両手を置いて、右頬にモーニングキスを落とし、『フランのオムレツはサイコウっ!!だから、大きめに焼いてくれよ』と楽しげに笑う。 昨夜の泥酔状態でクダを巻いていた影も形もない。 飛び出して来たのはいいが、行い宛もなく、最後には自分の所に転がり込んでくれるということは、如何にジェットが自分に心を許して、甘えてくれているかとの象徴である。 人懐っこい反面、ジェットは人に甘えるのが至極下手なのである。 それでも自分に甘えてくれる態度が嬉しくてならない。 確かに、自分が翌日休みだと分かっている時にしかジェットも自分の所には転がり込んでは来ない。その気の使い方が聊か癪に障るが、それがジェットの自分に対する思いやりだと彼を理解してあげられるくらいには付き合いは長いのだ。00ナンバーの中で、一番ジェットと付き合いが長いという自負がフランソワーズにはある。 ゆっくりと朝食を楽しんで、二人でソファーに座ってたわいのないおしゃべりをしたり、睡眠不足を補う為に寄り添って転寝を楽しんだりするのだ。そうこうしている間に、昼に近い時刻になると、ジェットの恋人は血相を変えてこのアパートまでやって来る。 サイボーグとしての能力を使わなくたって、その玄関ベルの焦った音だけでそいつだと分かってしまうくらいなものだ。 散々、そいつをジェットと二人で虐めて、あまりにもしゅんと肩を落とした恋人が気の毒になったジェットが仲直り宣言をすると、ちょっとだけ値の張るレストランに三人で繰り出すのだ。もちろん、そいつの奢りに決まっている。 それくらいの意趣返しは許されて当然だ。 大切な自分のジェットを横から、掠め取るような真似をしたのだからと、フランソワーズはあの男の顔を思い浮かべる度に悔しくなってしまうのだ。ジェットの幸せを願うから、二人の関係を決して壊そうとは思ってはいないが、機会があればあの男へのささやかな服復讐に頭をフル回転させる日々なのである。 こんな絶好の機会は、逃す自分ではないとフランソワーズは晴れやかに笑った。 「ジェット、ご飯、出来たわよ」 「オムレツ、大きめに焼いてくれた?」 「ええ、ジェットの為に愛情を沢山いれて焼いてあげたわよ」 「フランのオムレツは、世界一だからな。オレすっげぇ、ダイスキ」 「あら? オムレツの製作者は好きじゃないのかしら?」 「大好きに決まってんじゃん」 |
The fanfictions are written by Urara since'03/08/03