エプロン



 まあ、とにかく格好から始めないとね。
 ピンクにフリルってのは、ちょっと狙いすぎかな? って僕は思うんだけど、博士あれでいてピンクが結構好きだったりする。この間も、僕が薄いピンク色のシャツを着ていたらとても似合うって褒めてくれたしね。
 白よりかはピンクかな。って…。
 鏡の前で、練習をする。
 博士が帰宅して、疲れが吹っ飛ぶような…そんな笑顔の研究だ。まあ、小さい頃から、僕の笑顔には効力があるらしくって、大人は僕の涙や笑顔に翻弄されたもんさ。神父様に天使の笑顔と言わしめたこのジョー様の笑顔に堕ちない人間はいない。
「おかえりなさぁ〜い」
 語尾を少し上げて、段々と声を大きくして帰ってきてくれた喜びを表現する。そして、鼻にかかった甘えたニュアンスも忘れない。エプロンの裾を翻す足捌きも重要なんだ。膝の上辺りでふわりと浮くフリルがきっと僕の可愛らしさを表現してくれるはず。
 コーヒーメーカーのセットは完了している。
 博士が帰ってきたらスイッチを入れると、ちょうど博士が着替えて手を洗って、うがいをしてリビングに入ってくる頃には淹れたてのコーヒーが出来上がる。お茶請けも博士が気に入ってくれたレアチーズケーキと皿が冷蔵庫でスタンバイOKになってる。
 後は、博士が玄関の扉を開けるのを待つだけ…。
 うふふふふvv
 イワンは眠ってるし、フランは張々湖飯店のアルバイトでいない。
 誰にも邪魔されないで、二人っきりのティータイムを過ごせるんだよ。ホント日頃の僕の行いがイイから、与えられた幸せだよねぇ〜。
 博士って本当に、可愛いんだ。
 初心で、僕が甘えて擦り寄ると困った顔をして、大きなチャーミングな鼻の頭をポリポリって掻くんだ。そして、ちょっと距離を置こうとする。これって絶対、僕のこと意識してるってことだよね。
 博士のダイスキなコーヒーの香りを消さないように、匂いの少ないボディソープで躯は洗ったし、シャンプーも済ませた。今夜は張り込んで、中国産だけれどもマツタケ尽くしを用意してるんだ。
 3日も博士と離れてるなんて、本当に僕は気が狂いそうだよ。


 あっ、博士だ。
 車の音がする。
 僕は、慌てて自分の部屋からエプロンや髪型が乱れない速さで階段を駆け下りた。途中、インターホンの音がして、僕は胸を弾ませる。練習の成果はばっちし、さあ、ジョー本番だ。

僕は精一杯の笑顔で博士を出迎えた。


「おかえりなさぁ〜い」





BACK||TOP||NEXT



The fanfictions are written by Urara since'03/10/19