夫婦善哉3 門松的後始末



「全く、仕方ないあるね」
 とぼやきつつベッドの上で使いモノにならなくなっている自分の相方の顔を見た。
 つるりと禿げ上がった頭がなんとも情けなく、いつものテカリもなくどんよりと曇っている気がしなくもない。アル中だった男は特に酒については思いの他ストイックで独りでいる時にはまず呑まない。仲間内でのパーティの時でも、思うほど酒を口にしてはいない。
 泥酔するまで呑むなどということは彼の過去を知り、その人と成りを熟知している張々湖ですら首を傾げる行為なのだ。
「仕方ねぇだろう」
 ダミ声は思ったよりもしっかりしている。
 デロデロに酔っ払ってジェットの部屋で、転がっていたグレートを部屋に運んだのは張々湖であった。ギルモア邸に集まった仲間達の食事を一手に引き受ける張々湖は多忙だ。でも、その合間を縫ってこうしてグレートの様子を見に来ている。
「とにかく、これを呑むアルね」
 といかにも漢方臭いお茶をサイドテーブルの上に置いた。
「少しは反省するヨロシ、あんさんがいないとわいの助手誰がするアルね」
「反省はしねぇよ。それにジョーが居るじゃねぇか」
 いつもなら、すいませんと頭を下げて尻尾を丸めて自分に甘えてくる男が、今日は以外としぶとかった。確かにジョーはよく気が付くし、助手としてはもってこいの人材だが、どうもグレートのおしゃべりというBGMがないとリズムに乗れないのだ。
 しかし、張々湖はそんなことおくびにも出しはしない。
「ジェットが、泣いてたからな…、我輩はあの子の道化師だから、我輩の目の前で泣くのは我慢がならんのだ、大人、そいつだけはわかってくれよ。我輩が我輩であることの意味を教えてくれたのはあの子だ。誰よりも辛い思いをしていながら、我輩を無心で、見返りすらなく…」
 言いたいことは良く分かる。
 自分もジェットの存在に救われたから、張々湖もジェットが可愛くてならない。何か食べたいと言えば、例え中華料理でなくとも作ってあげたくなるのだ。料理人として彼には、ひもじい思いだけはさせたくない。自分が傍にいる限りはと、張々湖もそう思っているから、今回のグレートの行動については責めることは出来なかった。
「Our remedies oft in ourselves do lie,Which we ascribe to heaven.(天の力でなくてはと思うことを、人がやってのけることもある)」
 とブリテンは満足気にそう囁いたのである。だが、張々湖はそうした台詞から自らの世界に篭りがちになる男の鼻を摘んで簡単に現実に引き戻した。
「ナニ言ってるアル。さっさと、薬を呑んで、寝るヨロシ」
 本当にこの男は自分がついていないと駄目なのだ。
 生身の頃からの夢見がちな性格まで身体は改造出来ても、そこまでは科学者も改造出来なかったらしい。それがグレートの良い所でもあるのは認めるが、今はそんな必要はないのだ。
 自分達のケンカの仲裁をしてくれたグレートが早く復活しないと、二人して代わる代わるグレートの様子を聴きに来るのにも張々湖はうんざりし始めている。滑りすぎる舌で二人を安心させてくれないとおちおち料理もしていられない。と、張大人は大きな鼻をフンと鳴らした。
「ちゃんと呑むアル、夕食まではちゃんと復活しないと正月の特別料理はあんさんだけナシよ」
 それだけ言うと大人は部屋を後にした。
 グレートはそんなつっけどんだけれども、優しさを含んだ相棒の態度に感謝しつつその小さな背中を視線だけで見送ったのであった。





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