神父とシスター



「ったく」
 慣れない長いスカートをたくし上げて、ジェットは足音もなく廊下を進んだ。
 300年近くも使われたことがないといわれる地下道への入り口に続く扉を開けた。黴臭い匂いが充満してはいるが、この通路は現在も使われているものであり、万が一に備えての食料備蓄庫へと繋がっているのである。
 問題の地下道は更に、これよりも深い階層に存在しているのだ。
 食料備蓄庫に背を向けて、更に歩いて行くと、これまた妖しい鉄の扉が出現する。
 しかも、錆びた鍵というアイテムまでついている扉だ。自分の力で開けられるだろうが……、しかし、この格好ではと自分の姿を想像して再び、げんなりするのであった。
 そもそもは、ジョーが拾ってきたネタなのである。
 イタリア西部にある古い修道院の地下でBG団の連中が研究を行なっているのだと…、その修道院では昔錬金術の研究がされていて、その資料を使って、新しい金属の精製に励んでいるらしいというものであったが、噂にしか過ぎず確証がなかった。
 というわけで、修道院に潜入したのがジェットであったのだ。
 だか、しかしシスターはないだろと思うわけである。ジェットはアメリカから遣ってきた新米のシスターという触れ込みで、この修道院に遣ってきたのである。もちろん、潜入の為の手続きをしたのはジョーであった。神父じゃダメなのかと言うと君が神父になったって、すぐに化けの皮がはがれるよだと言ってくれたものである。
 どうせ、オレは学がないっちゅうに……。まあ、祈りましょうと言って誤魔化せるだけシスターの方が化けの皮がはがれないっていいたいんだろうけどさ。とジェットは独りごちると、よっこいしょと長いスカートを持ち上げて、膝上の黒いストッキングで覆われた足を盛大に出し惜しみすることなく曝け出した。
「誘ってるのか」
 何処かからかうような口調は、振り向かなくても分かる。
「とにかく、目の毒だ。そいつを下ろせ。扉は俺があける」
 とジェットの隣に立ったのは、やはりアルベルトであった。しかも、神父の格好をしたオプションつきである。
「あん??」
 どうして、お前がここにいるんだという意味を込めた台詞にアルベルトはちゃんと答えを返してくる。
「お前さん一人だと、心もとないって、俺に応援要請があったんだ」
 だろうと思ったという台詞を飲み込んで、まあ、開けてくれよと場所を譲ると神父の格好をしたアルベルトは左手の電磁波ナイフで錆び付いた鍵をすぱんと切り落とした。からんと鈍い音が薄暗い石畳みの廊下に響いた。
 ぎぎいーー。
 と錆び付いた音を立てて扉が開く。
 其処から更に地下深くに続く階段がある。
 先に足を踏み入れようとしたジェットをアルベルトは引き止める。
「似合うな」
「笑うな」
 ジェットはダンダンと足を踏み鳴らして怒るが、その姿がまた可愛らしい。
「まあ、カワイイ、お前を見れる特典がなけりゃぁ、イタリアくんだりまで来たりはせんさ」
 その台詞でジェットは全てを悟った。
 自分にこの格好をさせたのは、アルベルトをこの作戦に参加させる為だったのだ、所詮は自分が餌だったというわけなのである。だから、わざわざシスターの格好を選択する辺り、ジョーも性格が悪いと思いつつも、鼻の下の伸びた恋人に対しては仕方ないという気持ちになる。
「そうか? なんなら、シスターと寝てみる? 神父さん」
 神父の格好をしているアルベルトをそう誘ってみると、神父姿のアルベルトはにやりと笑う。
「騒がしいミサが終ったらな」
 つまり仕事が終わったら、楽しもうと言っているのである。
「へいへい、神父様」
 地下深くへ続く階段を下り始めたアルベルトに続いて、ジェットもスカートをたくしあげてその後に続いたのだった。





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