ある朝の風景



 アルベルトの爽やかな朝は、とある情景によって見事に吹っ飛んだ。
 カナダでジェットと甘い新婚生活(あくまでもアルベルト視点なのではある)を過ごしていた二人は、初めての夏のバカンスを里帰り、つまりはギルモア邸に過ごすことにしたのであるが、只今、ギルモア邸は諸事情でリフォーム中であった。
 仕方なくリフォームが終るまでコズミ邸へと避難することとなった二人なのである。
 朝も早いうちから起き出して、海岸を散歩し、これまた早起きのコズミ博士の手伝いをして立派な日本の朝ごはんを作り上げた。
 ほかほかに炊けた白いご飯に、コズミ博士お手製のきゅうりのぬか漬け、先日デートがてら立ち寄った魚市場で購入した鰯の干物、豆腐と葱と揚げの味噌汁、ほっくりと焼けただしまき卵に大根おろしを添えて、昨夜の残りのマグロは醤油と味醂をつけてさっと焙り白葱を千切りにしたものを水にさらして添えた。
 コズミ博士は一人暮らしが長く、料理なども手際よくこなして、和食がメインではあるが結構美味いのである。
 『そろそろジェット君を起こして来たらどうかね』といってくれるコズミ博士に甘えて、未だ布団に安眠に浸っているジェットの元へとアルベルトは向かった。
 自分が起きた時は、躯を小さく丸めてすやすやと穏やかな寝息を立てていた。
 薄っすらとかいていた髪の生え際の汗をアルベルトは自らの掌で拭ってやったのは数時間前のことであった。
 二人に与えられている部屋の襖をそっと開けた瞬間、アルベルトの動きが止まった。


 まさか。


 いや、留守番に置いてきたはずだった。


 何で、ここに居るんだ……。


 そう、甘い新婚生活を唯一阻害してくれるある物体は、自分に外見はそっくりであった。
 肌の色が黒いとか、犬の耳と尻尾がついているとかオプションはついているが、基本形はまさに自分そのものである。そもそも、自分のモデルにして作られた戦闘用ロボットだったのだから、似ていても仕方はないのだが。腹が立つことには変わらない。
 まあ、気づけば、ギルモア博士がジェットのボディガード代わりにとその偽の004に忠実な犬の人工知能を組み込んでしまったのである。外見は自分そっくりだが、行動はジェットに忠実な犬というわけである。昔から大型犬を飼うのが夢だったジェットはいたく気に入って、餌や散歩もいらない手軽なペットとして俺達の愛の巣に連れてきたというわけである。
 確かに、ジェットのボディガートとしては申し訳ないが、ジェットを起こそうとすると戦闘モードになるのはやめてもらいたいわけだ。
 新婚なのだから、別にエッチなんかしなくても一緒に眠りたい夜もあるのである。朝なんかも甘いキスで起こしてやりたいなんて考えたりもするわけだ。
 本来は二人の新婚生活の為に自力で製作したサイボーグ仕様キングサイズのダブルベッドはジェットと偽004専用のベッドと化してしまっている。
 そんなベッドに潜り込もうとすると、ぐるぐると威嚇をするあたりが可愛くない。
 ああ、そうだ。
 狭い、シングルの布団にカナダで留守番をさせているはずのお前がどうしているんだと、アルベルトは視線だけで問いかけると、偽004の目は剣呑になる。ジェットが自然と起きるまで誰もその眠りを妨げさせないことが自分の使命だと思っているのだ。
 同じ顔をした二人が睨み合う。
 決着はつかない。
『いつか、抹殺してやる』
 アルベルトは心に誓うと、安らかな眠りを享受しているジェットに背を向けてコズミ邸の台所へと戻っていったのである。





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