うさぎ



 ったく、サイボーグの躯って便利に出来てるってもんだぜ。
 本日、オレは通算約1時間泣いている。
 そもそもの発端は、ギルモア邸に1匹のうさぎが紛れ込んできたことに始まる。前足に怪我していたそのうさぎを確保して手当てやった。ペットなど飼ったことのないオレはそれなりに楽しい思いをさせてもらったんだが、ジョーがよく行くスーパーでうさぎを探しているとの張り紙がしてあって、結局、傷の癒えたうさぎを飼い主に返したところだ。
 それは、仕方ないが、如何にも辛かったら泣いていいんだぞとのオーラーが見えまくりのアルベルトを前にしたらついサービス精神旺盛なオレは泣いてちまう。何て、オレてっ恋人思いの優しい男なんだって、自画自賛ももちろん忘れない。
 幸いなことに飛行してもオレの眼球は乾かないように出来ている。つまりだ。その気になれば体内の水分を涙として、放出することが可能だということである。
 だから、オレは泣いた振りを続けてるというわけである。
 「泣くなよ」
 アルベルトは困ったような声でオレの頭を撫でる。
 困るんだったら、泣いてもいいんだよなんてオーラー出すなよって、心で突っ込みを入れながら、頭を横に振ったりと・・・・・・、ああ、オレってなんて芸の細かい男なんだ。
「あんまり泣いてると、兎の目になっちまう」
 はい??
 何処から、そんな歯の浮くような台詞が言えるんだ。
 この男は・・・・・・。
 自分の恋人ながら、オレの泣き真似は一瞬で止まっちまったぜ。フェイントだぜ、学習能力が恋愛に対してはないというオレの認識は甘かったらしい。
 きょとんと、アルの顔をつい見ちまったオレに対して、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして鼻を掻いてる姿なんざ。恋にとち狂った阿呆な男そのものじゃねぇか。ああ、どのみち、オレにメロメロはメロメロなんだけどな。
 ああ、あんたがそう来るんなら、オレも歯の浮くような台詞をお返ししてやるぜ。
「うさぎはさ。寂しいと死んじまうだってさ。うさぎになったら、あんたオレを寂しいって思わないようにしてくれる?」
 どうだ、参っただろう。
 オレだって、これくらいことは言えるんだぜ。
 してやったりと思いながら、あいつの反応を待つ、どうだ、言われたオレの驚きがちぃとは分かるだろう。
「させないさ」
 はい??
 オレは頭の中で目一杯、疑問符を飾りつけてみる。
 何がさせないんだ。
 この男は……。
 別段、オレは寂しくはないぞ。まあ、遠距離恋愛だから1ヶ月に一度会えるのがせいぜいだが、それくらいの 距離が上手くいくってもんだぜ。
 毎日、顔合わせてると飽きる。
 絶対に……。
 結婚した男はみなそう言うじゃねぇか。オレの近所に住む既婚者も口を揃えてそういうぞ。結婚は人生の墓場ってさ。
「お前が、うさぎでも、うさぎじゃなくても寂しい思いはさせないさ。ふっ」
 だから、その最後の”ふっ”てのは何だ。”ふっ”てのは……。
 誰か、こいつに妙なもん飲ませたか、吹き込んだりしてないだろうな。
 だいたい、絶対、変だ。
 こんなこと言える奴じゃねぇのは、オレが一番良く知ってる。
 言えるんだったら、最初の口説き文句だってちぃとはまともってもんだろうが。ムードじゃねぇ、既にこいつは拷問だ。
 やっぱ、愛って耐えることなのか?
 オレは脳内で、引きつり笑いをしながら、一人悦に入ってオレを抱き締めようと手を伸ばす恋人から逃げられずに、つい硬直しちまっていた。
 もちろん、その後の奴の行動は語るまでもないだろう。





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