就寝儀式
そっと触れる。 動かない。 無数のコードがジェットの躯に連なり、その中央のベッドで静かに眠っている。 触れる躯は温かい。 僅かに上下する胸に寄せた耳に、はっきりとした心音が聞こえてくる。 薄っすらと開いた口唇に、そつと頬を寄せれば規則正しい吐息が掛かる。 部屋に置かれた様々な機械の放つ音で、ジェットの生に繋がる呼吸や心音は掻き消されてしまうがこうして肌を触れ合わせれば、それを感じることが出来る。 淡いピンク色の手術着だけを纏ったジェット。 眠ったままであってもこうして触れられ、イキテイルのだと実感出来、彼を失う不安が一瞬にして払拭される。ただ、そこに横たわっているだけなのにこんなに自分の心をかき乱す存在なのだ。 ああ、ハヤクその瞳を開けて、俺に向かって笑って欲しい。 その口唇で我侭を言って欲しい。 どうしてジョーを助ける為に無駄な足掻きともいえる行為に及んだかを問いただすつもりはない。 ただ、あの時、ジェットだけがジョー助けられる可能性を僅かにでも握っていたからだ。もし、自分がジェットの立場だとしたら同じことをしたであろうから、その行為を責めることは出来ない。 サイボーグとして手に入れた自由は凄惨な戦いの中にしかないであろうことも最初から全員が理解していたことだ。誰がどんな形で最初に命を落とすかなど、予測すらつかない。戦術で破損率の最も高くなるが誰になるかは状況によりけりで、全員がその危うい場所に立っているのだ。 今回はたまたまジョーとジェットだっただけだ。 本当なら、ジョーの立場は自分だったのかもしれない。 どんな意図を持ってイワンがジョーを宇宙に送り込んだのかはわからない。例え、イワンが語ったとしても自分には理解出来ないだろう。 ジョーもまた同じで、そのことに対して、一言も何も誰にも語らなかった。 『ジェットが助けに来てくれた時、僕は生まれて初めて孤独ではないことを知ったんだよ。そして、何処に落ちたいと、聞かれた時、再び、君達と再開出来ることを確信したんだ』とアルベルトに対して、密やかな笑いを零した。 誰が悪いとか、責めるとかの行為ではないのだ。 必然を悟ったものが、行動を起こした結果が現状である。 ただ、それだけのことだ。 理性では理解出来てはいるし、覚醒したジェットを責める気も毛頭ない。 けれども、ジェットを失うかと心を痛めた男が居ることだけは伝えたい。死ぬなとは言えない。 今度は逆の立場が生じることもあるだろうから。 でも、生きていることが嬉しいと思える男がここに居るのだと伝えたい。笑ってまるで、買い物から帰って来たジェットに言うように、『お帰り』と抱き締めてやりたいのだ。 その日が、来るまでアルベルトの眠れぬ夜が続くのだ。 毎夜、こうしてジェットに会いに来る。 最後に薄っすらと開いた口唇に、自らの口唇を重ねるとアルベルトはジェットが眠る部屋の扉を閉じた。 |
The fanfictions are written by Urara since'04/04/27