消化不良3
「美味い」 ジョーはジェットのその言葉に安心をする。 ようやくいつものジェットが戻ってきた気がするのだ。彼の過去に何があったのかは詳しくは聞いたこともないけれども、最初に稼動したサイボーグとして辛酸を舐めたことは、本人からではなく、他の00ナンバーから聞いて知ってはいる。 でも、ジェットを見ているとそんなことがあったということすら忘れてしまいそうになることがある。 「よかった。口に合わないんじゃないかと思ったよ」 「うんなことねえよ」 ジェットはそう返すと、ひよこ豆のスープを次々に口に運び、あっという間に空にしてしまった。 そして、おかわりと皿を差し出すとジョーは立ち上がってキッチンへと入っていく。 ジェットはそんなジョーの背中を見送ってから、ローストチキンサンドウィッチに手を伸ばした。 ちゃんと美味しいと感じることが出来る。 それが今でもジェットは嬉しいと素直に思えるのだ。それが例え、機械の造られた躯であったとしてもだ。あの時のひよこ豆のスープの味は忘れていない。少しジョーの作ったスープの方が甘い気がするが、それでも、ジェットにはまた違う味わいがあると思えた。 「はい、どうぞ」 ジョーがようやく戻ってきて差し出したスープは、湯気を立ててトマト独特の香りを振りまいていた。わざわざ温めなおしてくれたのだ。その心遣いも嬉しい一つである。 「サンキュ」 スプーンを握ったジェットは、一口スープに口に運ぼうとしてその手を止めた。 「俺さ、サイボーグになって初めてメシが美味いと思った時に食ってたのがさ。ひよこ豆のスープだったんだ」 ジェットの零した台詞をジョーはそれ以上、何も追及しなかった。それだけでジョーには十分だったからだ。ただ、また作ってあげるよとだけジェットに告げる。 「おお」 ジェットは嬉しそうに破顔すると、再び二人は食事を再開する。 食べ物を租借する音だけが静かなギルモア邸のリビングを支配していた。 |
The fanfictions are written by Urara since'04/05/19