ホワイトデー 〜青い山脈シリーズ〜



 アルベルトはドキドキしていた。
 ジェットに告白をしたあの体育祭の日よりも、ずっとドキドキしていたといっても過言ではない。
 バレンタインにはジェットの手作りのチョコレートをもらった。二人っきりで保健室で甘い雰囲気の中、甘いチョコレートを食べた。こんなに美味しいチョコレートを食べたのは、初めてだと思えるくらいに美味しいと感じたのだ。
 そう告げるとジェットは照れながら、フランソワーズとフランソワーズの兄の妻であるニーナに協力してもらって作ったのだとそう言う。誰に手伝ってもらったとしたって、ほとんどを作ってもらったとしたって、ジェットが自分の為に、何かをしてくれるだけで嬉しいのだ。
 もちろん、アルベルトも一応料理は出来るけれど、お菓子までは作れない。
 だから、ジェットが好きだけど、ちょっと値段が高いから時別な日にしか買えないんだといっていたデパートの地下にあるケーキ屋でホワイトデー限定のキャンディーの詰め合わせを購入した。そして、その中にとあるモノを入れて包装してもらったのだ。
 別々に手渡すのは、少しばかり恥ずかしかった。
 最初はキャンディーだけを手渡すつもりだったのだが、それを見た時に気が変わったのだ。友人達のホワイトデーのお返しの買出しに付き合わされた時に見付けたものだった。値段はそんなに高いものではない。
 けれども、その赤い色がとてもジェットに似合うだろうと、そう思えたのだ。
 シルバーの台座にスワロスキーをあしらったピアスである。
 ジェットは左右に一つずつピアスを付けている。普段、目立たないシルバーのピアスをしているが、出掛ける時には違ったデザインの物をつけていることが多い。その一つとして着けてもらえたらと思ったのだ。
 指輪もいいかと思ったが、二人はまだ付き合って一年も経っていないし、いずれはとの思いはあるけれども、キスまでしか進展していないのに、ジェットの負担にはなりたくないというのがアルベルトの思うところであるのだ。
 アパートの前で、ひたすらジェットの帰りを待つ。
 待っていて、驚かせたかった。
 驚いて、次に嬉しそうに笑うジェットの顔が見たい。
 アルベルトはそんなことを考えながら、ブロック塀に凭れ掛かった。
 手にした紙袋の中には綺麗にラッピングされたホワイトデーのプレゼントが入っている。早く、ジェットに手渡したい。
 受け取ってくれると分かっていても、ドキドキとする。
 アルベルトは心臓よ静まれと、そう何度も言い聞かせながら、ジェットの帰りを待っていた。





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