クリスマス 〜青い山脈シリーズ〜



 街中はクリスマス一色だった。
 アルベルトはジェットと二人で、そんな街へと出掛けた。
 映画を見て、プレゼント交換をし、ランチを楽しみ、取り留めのない会話をしながらウィンドウのあちこちを見て回った。
 途中、ジェットがナンパされるというアクシデントがあったけれども、迫力あるアルベルトの一言でナンパ男は退散し、甘い恋人の雰囲気になったことに照れたりと、初めてのデートを二人は満喫していた。
「帰したくないな」
 既に暗くなった住宅街を歩きながら、アルベルトは呟くように言った。
 ジェットは聞き間違えかと、立ち止まってアルベルトを見詰める。寒さのせいか頬が赤くなっているように見える。
「じゃぁ、アルベルトもパーティーに来る?」
 二人が向っているのはフランソワーズの家である。元々、ジェットはフランソワーズの家でフランソワーズと彼女の兄ジャンと暮らしていた。ジェットが高校に進学した時にジャンが結婚し、それを機にジェットはフランソワーズの家から歩いて15分程度のアパートで独り暮らしを始めたのだ。
 独り暮らしをするにあたって、行事がある時には必ず帰省するというジャンとの約束があるから、今夜のクリスマスイブは、フランソワーズとジャン、ジャンの妻ニーナとでクリスマスパーティをする為、二人はフランソワーズの家に向っていたのだ。
「違う」
「?」
 アルベルトは困ったような顔をすると、ジェットを見詰めた。
「今日は本当に楽しかった。だから今がずっと続けばいいのにと……思ったんだ。ずっと、ジェットと一緒にいられたらと……」
 その告白にジェットの頬は寒さだけでなく赤く染まった。
 暫し、二人は見詰め合う。
 寒さだけでなく二人は凍り付いてしまったかのように動けなくなっていた。
 アルベルトの手が冷たいはずなのに、頬紅を差したように赤く染まったジェットの頬に伸びた。
「もっと、ジェットと一緒に」
 アルベルトの真剣な眼差しに耐えられなくなったジェットは視線を逸らした。もっとアルベルトを見詰めていたいけれども、恥ずかしい。二人っきりになったことは何度もあるし、甘い雰囲気になったこともある。
 抱き合ったこともあるし、甘く囁かれたことも、頬にキスをされたこともあった。
 でも、こんなに真剣なアルベルトの顔は見たことがない。
「ジェット」
 アルベルトの顔が近付いてくる。
 付き合って三ヶ月にもなるのだからキスくらいはいいと思うし、今日のデートで期待しなかったわけでもない。デートという行為が恥ずかしくて、はしゃぎすぎたところもあって、何度かキスをしたいと匂わせていたアルベルトに気付かない振りをしてしまっていた。
 でも、文化祭でキスもどきをされて以来、ずっとジェットは意識していた。
 あの時はキスぐらいなんて言ったけれど、キスなんかしたことない。
 フランソワーズやジャンとはしても、それは家族としてのキスで恋人同士のキスは初めてなのだ。
 言葉が出てこないまま、アルベルトの顔が近付いてくる。
 ジェットはフランソワーズが教えてくれた通りに、目を瞑った。
 背中にアルベルトの腕が回りしっかりと抱きしめられた。コートを着ていても寒いと感じていたのに、アルベルトに抱きしめられただけで、温かいと感じる。
 熱い吐息が頬に当たり、小さく『ジェット』とアルベルトの囁きが聞こえる。
 もっと熱い吐息が口唇に触れ、一度、離れた。
 再び、熱いものが口唇に押し当てられた。
 ああこれがキスなのだと、ジェットは思う。
 レモンの香りはしない。
 先刻飲んだコーヒーの香りがする。
 アルベルトの整髪料の匂いがする。
 心臓がドキドキして、頬だけでなく耳も赤くなってくるのが分かる。
 でも、全然嫌ではない。
 ゆっくりとアルベルトの口唇が離れる。
 そして、再び、強く抱きしめられた。
「ジェット」
「アル」
 言葉なんか要らない。
 自分はアルベルトのことが好きなのだとジェットは自覚する。ただ口唇が触れ合うだけの行為なのに、アルベルトが自分のことを好きでいてくれることがわかる。
 自分の背中に回った手は震えていたし、名前を呼ぶ声も震えているような気がした。でも、それは決して寒さのせいではないはずだ。
 そんないつもの彼らしからぬ姿が嬉しくてたまらなくて、そっとジェットはアルベルトの肩に頬を寄せた。
 住宅街の庭のクリスマスのイルミネーションがまるで二人の恋を祝福するかのようにキラキラと輝く中、暫し、ジェットとアルベルトは抱き合っていた。





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