愛のサル山日記 某月20日



 ジョーは快復してサル山に戻ったが、ジェットは未だ体力が戻ってはいないようだ。食も細く、あまり元気がない。怪我をするまではとても元気で跳ね回っていたから余計に心配だ。
 天気が良いし、今朝は涼しかったので、リハビリも兼ねて散歩に連れ出したのだが、仲間達のサル山の傍を通りかかった瞬間、ジェットは高い柵に縋って鳴き始めた。
 まるで、帰りたいと悲鳴を上げているような声だ。
 その声を聞きつけた仲間達が近寄ってきてしまった。
 遠巻きにジェットを見ていたが、やがてジェットと一番仲の良いアルベルトが柵に近寄ってくる。
 もちろん、柵は高くサルといえども乗り越えられない仕掛けがしてあるし、網の目も指を少し出すのがやっとという細かさである心配はないのだが……。
 アルベルトは指だけを出してジェットへと伸ばす、ジェットも身体を柵につけてまるで少しでもお互いを確かめたいという素振りを見せる。そして、ジェットが指を差し入れると今度はアルベルトが柵に身体をぺたりと寄せてジェットに指先に身体が触れるようにしてやる。
 二匹は何度もその行為を繰り返していた。
 そろそろ太陽の位置も高くなり気温が上がり出す時間だ。あまり暑い場所にいて反対に体力を奪っては快復に支障が出る。帰ろうとリードを引くとジェットは悲しそうに鳴いた。
 仲間達もじっとその様子を見詰めている。
 そして、帰りたいとでもいうようにジェットは仲間達の方を指さした。
 やはり仲間と一緒にいる方がよいのだろうか。
 ジョーの集団は統率が取れていて、余計な争いはしない。全員が穏やかに整然と暮らしているし、実験や研究、訓練にも協力的だ。知能も高く、我々とある程度なら意思を通わせることも出来る。
 こういった分野はコズミ博士の方が詳しいのだろう。
 今夜にでも、一緒に食事をしながら相談にのってもらおう。
 やはり、二人でしっぽりと。いやはや。
 小料理屋にでも招待して、ゆっくりと……。



ギルモア霊長類研究所所長 アイザック・ギルモア






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