独占欲
だいたいあの男の慣れ慣れしい態度はなんだというのだ。 いくら博士の友達の息子だからって、尊大な態度が鼻につく。しかも、時間があればジェットにべったり引っ付いて歩いているのも気に入らない。ジェットがあの男に対して邪険な態度を取らないのは、決してジェットがあの男を気に入っているからじゃなくて、博士の友人の息子というに過ぎない。 しかも、巧く00ナンバーを動かすのもまた気に入らない。あの男が来てからというもの調子が狂いっぱなしのイワンは、あの男が出て行くその時まで不貞寝を決め込もうと決心していた。 「イワン。起きてんだろ?」 イワンの不機嫌の要因にもなっている彼は優しく頬に触れてくる。そしてゆっくりと自分の頬をイワンの頬に寄せると、小さく笑った。その仕草にイワンは仕方なく目を開けると、今度は花の蕾みが綻んだような笑顔を見せてくれる。 「ほら、起きてた」 無言で手を伸ばすと彼は慣れた仕草でイワンを抱き上げた。 母親から引き離されてからしばらくの間、イワンは自分を優しく抱いてくれる相手に巡り合えなかった。孤独だけが友達だったBG団の生活で最初に自分を抱いてくれたのはジェットだったのだ。 危なっかしい手つきで自分を抱き上げてくれた。 泣きじゃくる自分を静める為に、ずっと自分を一晩中抱いていてくれた。 だから、その日からジェットはイワンにとって特別な存在になっているのだ。決して、そのことをジェットに告げたりはしないが、格別な思いを寄せている。 一番付き合いの長い自分だからジェットの能力について一番理解しているし、彼の能力を最大限に発揮できる作戦を立案できるのは自分だという自負もあった。けれども、あの男がジェットの能力を際立たせるような見事な作戦を指揮しているのを見た時、感情的な行動には出てないけれども、腹が立った。 天才だとしても感情はある。 それを他のメンバーに伝えることは苦手だし、必要ないと思っているが、発露する感情まではなかったことには出来ないのだ。 「どうしたんだ? 躯の調子でも悪いのか」 イワンはこんな時、困惑してしまう。 彼のことを自分が知っている以上にジェットはイワンの感情について聡い。知られたくない感情まで知られているようで、尻の座りが悪いが、決して、それは嫌なことではないし、差し伸べられる腕の温かさはイワンにとってみればなくてはならない存在なのだ。 何も答えないイワンをジェットはそれ以上、問い質すことはしない。 一度、聞いて答えなかったということはイワンが答えたくないことをジェットは知っていたし、無理に聞き出すこともないと判断したのだ。それは、優れた判断であるし、話さなくとも二人の関係が壊れるわけではない。 「まあ」 色々あるさと独り言を零しながら、ジェットは優しく抱いたイワンの頭を撫でる。その手の温かさと優しさは年月を経ても変わることなくイワンが望めば無条件でいつでも与えられるものであった。 その温もりを自分だけのモノにしていたいのだ。 アルベルトと恋仲になり、自分の知らない恋人同士の時間を過ごすのを正直見たくはない。フランソワーズと二人でデートと称して出掛けたり、内緒の話しをして笑っているジェットの姿も見たくない。 かといって、アルベルトやフランソワーズのことは嫌いではない。仲間として存在はもちろんのこと、個人的にも好ましい人物だし、ジェットとは違う意味で好きなのだと思う。 なのに、彼らが仲睦まじくしている姿は見たくないのだ。 相反する不合理な感情であるのに、そんなことを考えてしまう自分が好ましいと思えてしまう。 人間の感情は摩訶不思議で天才といわれるイワンですら、それらを理論武装して語ることは出来ない代物なのである。しかし、その感情というものが彼等00ナンバーが生き延びる為の原動力の一つにもなっているのは確かなことであった。 分かっている。 ジェットは生きているのだから、誰か一人のモノにはならないということくらい。 恋人としてはアルベルトのモノだけれども、姉弟にも近い関係を築いているのはフランソワーズで、同世代の友人として友愛を育んでいるのはジョーで、他のメンバーともそれぞれに仲間という一括りには出来ない関係を構築している。 それはイワンにもいえるし、他のメンバーにも言えることなのだけれども、それを理解できていても面白くはない。 「でもさ。正直、ちょっとやりにくかったぜ。イワンの指示なら的確だから考えなくとも、動けるけど、指示が飛ぶタイミング見計らうのが結構骨でさ。作戦は奴の採用してさ、イワンが指示出してくれりゃ。まあ、上手くいったから……な、イワン」 ジェットはまるで自分の心の中を読んだかのようなことを言う。それが嬉しくもあり、無意識の行動であったとしてもジェットにそんなことを言わせてしまった自分が腹立たしい。 「なあ、早く起きてくれよ。イワン。色々と話したいことがあるんだぜ」 その言葉に、イワンは嬉しさを覚える。 けれども、まだ起きたくはない。何故なら、ジェットが自分だけに向ける笑顔をあの男とは共有したくはないからだ。 それに、暫しジェットのウデノナカでしか味わえない幸せな気持ちを満喫していたいのだ。 確かに、色々と不可思議な負の感情に振り回されている感もなくはないし、否定も出来ないけれども、ジェットのウデノナカに居ると、そんなことどうでもよくなってしまう。 いつまでというわけにはいかないだろう。 ジェットの優しさを欲しているのは自分だけではないのだから……。 でも、今はイワンのジェットなのだ。少なくとも、ジェットが自分を抱いていてくれる間は、そう自分が決めたのだ。 もう少しこの幸せをとイワンは再び目を閉じた。 |
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