魅力ある恋人は困惑をもたらす
長閑な風景が車窓の向こうに広がっている。 線路と並走するように流れる川は茜色に染まり始めた日差しをそのまま映し出し、青々とした緑と相俟って見事な陰影を作り出す。 自分が暮らしている都市とはまた違った風合いがこの風景にはある。 どのような形であったとしても、美しいものは美しく、心惹かれるものはどんな姿であったとしても人の心を捉えるものなのだ。 そう今、自分の前で淫らに乱れる恋人のようにだ。 「っんん」 つい車窓の風景に見入ってしまったというポーズをすると、縋るよう伸ばされた恋人の手がシャツの袖の部分の生地をぎゅっと握り締める。 ここはイギリスの北部インバネスへ向かう列車の一等のコンパートメントの中であった。 彼等はその地に住む科学者に招待を受けたのである。元々はBG団の科学者で人を人とも思わぬサイボーグ研究に嫌気がさしていたが、逃げることは叶わずにBG団が崩壊してからようやく自由になった男だった。 何も出来なかった自分の行為に恥じて、00ナンバーサイボーグ達に技術協力を惜しまない一人であった。世界各国にこういう人達が存在していて、彼等の躯を維持する為に様々な研究を続けていてくれる。 今年の初め辺りから躯の不調を訴えていたが、最近、持ち直したらしく、会いたいとアルベルト宛にドイツからインバネスまでの切符を2組送付してきたのだ。彼の持つ技術はアルベルトの躯に必要な技術である為、彼の元を訪れるのはアルベルトの担当でもあった。だから、アルベルトに宛てに切符を送ってきたのだろう。 アルベルトはジェットと共にヒースロー空港で飛行機を降り、ロンドン・キングス・クロス駅からエディンバラ行きの列車に乗り、エディンバラ・ウェイバリー駅で乗り換えインバネスを目指している最中なのだ。 最初は列車の旅などしたことがないとはしゃいでいたジェットだったが、単調な風景に飽きてきたのと、早朝の出発で疲れたのかうとうと眠ってしまっていたのだ。 その寝顔の可愛らしさに触発されたアルベルトはこのコンパートメントが貸切りであることをいいことにちょっかいを出している最中なのである。 「お前のここも、風景の同じくらい見応えがある」 そういうと列車の椅子に座ったままジーンズの片足を抜いた格好で、股間をアルベルトに嬲られているジェットに話し掛ける。昨夜、抱き合った名残りを持つ躯は簡単に火が点いてしまう。それでなくともジェットの肌はわずかな刺激も拾ってしまうくらい敏感に出来ている。飛行型サイボーグとしては必要な機能で、その皮膚で気圧や温度の変化を感じ取って、補助脳で的確な飛行ルートを算出するのである。従って、基本的にジェットの人工皮膚は他の誰よりも鋭敏なセンサーを備えているということになる。 シャツはきちっと着たまま、下半身だけ剥かれている状態と誰が入ってくるかわからない列車の中での行為がジェットの性的な自虐体質を更に煽り立てていく。ジェットはアルベルトにこうされるが好きでたまらないのだ。 アルベルトは大きく開かせた足の間に跪いて、勃起したペニスを執拗に嬲っている。 「っあああん」 いくらブラインドを下ろしているからといって列車の中では誰が入ってくるのかわからない。声を聞かれたくなくてジェットは肩口辺りのシャツの生地を咥えて、嬌声が上がりそうになるのを必死で堪えている。 「お前のここ、ヒクヒクしてるぜ」 アルベルトはジェットの恥じらいなど知ったことかという態度で、アナルを鋼鉄の指先で突くと、きゅんと可愛らしくアナルが締まる。その締まったアナルに鋼鉄の指を強引に第一関節まで埋めると、ジェットの躯が強張るのが伝わってきた。 感じているのだ。 「本当に、お前は可愛らしいな」 揶揄するような口調にジェットは目を堅く瞑る。 声を出さないように咥えていたシャツの生地を離してしまいそうになるのを必死で堪えていると、伸び上がったアルベルトが左手でジェットの頬を撫で、寄せた自らの顔の方に向かせる。少し口を開けてジェットの口唇に合わせるようにするとジェットの唇が自然とアルベルトのそれに吸い寄せられる。 恋人同士の濃厚なキスを繰り返す。 その間にも、アルベルトの鋼鉄の指はジェットの体内に徐々に埋没していった。 「っんふ……。んぅ」 途切れ途切れのキスの合間にジェットの甘い吐息が零れる。 甘えるようにアルベルトの舌にじゃれるジェットの舌を軽くいなして、顔をジェットから離すと同時に埋没させていたアナルから鋼鉄の指を抜いた。ジェットがかすかに安堵の吐息を漏らした次の瞬間、アルベルトは鋼鉄の中指と人差し指を予告もなく解れ始めたアナルに挿し入れた。 「っぁああああん。いゃぁ………、ひゃやん、あぁぁ」 ジェットの嬌声がコンパートメント内にリアルに響いた。更にぐりぐりと回転を加えるとジェットの躯は快楽でびくびくと震える。 「アルッ……」 ままならぬ息の下、辞めて欲しいと訴えているが、欲情に濡れた瞳で抗議されてもアルベルトの征服欲を煽るに過ぎないのだ。わかっているくせにそういう顔をするジェットは無意識では自分にそうして欲しいと願っているとしかアルベルトには思えなかった。 「声を上げると誰かは入ってくるぜ。それとも、お前のこの姿、見てもらうか」 意地悪い口調でジェットの耳元で囁くと、ジェットはほろりと涙を零して首を必死で横に振った。 「いゃ……」 「ジェットは淫乱だな。列車の中で足を広げて、俺を誘って……。ここだって、剃って欲しいと頼んだじゃないか」 と左手でアルベルトは綺麗に剃毛されたペニスをぎゅっと握った。その根元には黒い革製のコックリングが填められている為、ジェットは射精できずに悶えていたのである。 ジェットは違うと首を横に振る。 確かに、最終的にそう願ったのはジェットだけれども、そう言わせるように仕向けたのはアルベルトであった。 「淫乱なジェットは、どうされたい? 外にいる誰かにジェットが逝くのを見てもらうか」 意地悪な台詞を囁き続ける。ジェットはそれにいちいち反応して恥じらい、白い皮膚を赤く染めて首を横に振り、甘い吐息を漏らすだけだ。その姿がたまらなく可愛くて、もっと滅茶苦茶にしてやりたくなる。 この仕草が自分の劣情を煽っていることをジェットは気付いていない。 ジェットを見ると、今までの自分では考えられないようなことをしてやりたいとの欲望が湧いてきて止められなくなるのだ。 「イャ」 「でも、逝くのはなしだ。着くまでお預けという約束だからな」 その台詞にジェットの目元に絶望の色が広がる。勃起したペニスを放置される苦しさを嫌という程味合わされてきたジェットにしてみれば、それは拷問に近い苦しさであった。 招待された屋敷に着くまで、まだ電車に乗り、タクシーを使って一時間はかかると聞いている。すぐに二人っきりになれるわけではないだろうし、このままでは精神が崩壊してしまいそうだという恐怖が躯を支配する。 「逝か……て……、アル」 「……、俺以外の男に見られながら逝くのか」 意地悪いアルベルトの台詞は終ることはない。台詞だけでなくジェットを嬲る手は休むことなく快楽を煽りたてる。 「……、いや、アル………っだけ、っあああ。あんた……だけっ、っふん、ぁぁぁああふっぁん」 可愛らしい台詞を言ってくれる。 ジェットが男とのセックスに慣れていることは彼の過去を聞かされていたから知っていた。それでも、過去に拘るよりもジェットに触れ、想いを確かめたかった。しかし、ジェットは慣れてはいたけれども、感情の伴わないセックスに慣れていただけであって、愛する者同士のセックスには不慣れで躯の反応とは別に心の反応は本当にそういう経験があるのかと疑いたくなるくらい初々しいものであった。 それは今でも変わらずに、アルベルトに意地悪をされると恥らうのだ。 「いい子だ。俺のジェットは本当に可愛いな。特別だぞ」 アルベルトは満足そうな笑顔を浮かべるとそっとジェットのペニスを拘束しているコックリングに触れた。 「っぁはぁん」 ジェットの甘いアルベルトに縋るような吐息が聞こえる。 ゆっくりと時間を掛けてコックリングを外していくとジェットの甘い声が殊更高くなっていく。 「ほら」 アルベルトは解放したジェットのペニスを腔内に向かえ入れてやり、歯を軽く立てながら舌先を尿道へと潜らせてやるとジェットは躯を突っ張らせた。 「っいゃん。ぁぁぁぁああああ……はぁん、イッ……いっく、……ひゃん」 ただそれだけの刺激を与えただけで、ジェットはひくひくと躯を引きつらせて長い射精をした。 どくどくとアルベルトの口の中にジェットの躯から放たれた欲情の証が流れ込んでくる。青臭い独特の匂いのするものではあるが、ジェットのものだと不思議と嫌ではない。ジェットの射精をコントロールしているのはアルベルトである。離れていたとしてもジェットはアルベルトの承諾なしには射精をすることすら許されてはいない。 全てを飲み込んだアルベルトは舌でジェットのペニスを綺麗にした後、顔を上げると、そこには、虚ろな目をしたジェットがいる。 意識しないけれども快楽によって流された涙は頬を濡らし、肩で息をしながら、剥き出しの下半身をしどけなく投げ出したまま足を閉じる気力もないようだった。 「いい子だ。俺の可愛いジェット」 アルベルトはそう言うと再び、ジェットのペニスに革製のコックリングを丁寧に嵌めてやるのだった。それをジェットは虚ろな瞳でただ見詰めているだけであった。 「うっ、ふん。アル……」 どんな夢を見ているのか知らないがジェットは甘えるような寝言を漏らした。凭れ掛かり眠っているジェットをアルベルトは見詰めた。 腕時計で時間を確認すると目的地のインバネスまで後30分程で到着する。そろそろ起こしてやらなくてはと考えながら、陽が落ちて闇に包まれつつある風景に目を遣った。車窓には、邪気なく眠るジェットの姿と、その姿に劣情を煽られている自分の顔が映っている。 ジェットにあらぬことをしてみたいとの妄想への衝動が日々激しくなっていく自分がアルベルトは怖かった。何時の日か、眠るジェットを傍らに置きながらも妄想していたようなことをしてしまいそうだ。 眠るジェットを見詰めながら、惨く啼かせたみたいとの妄想を滾らせる時間が増えてきている。 現状に、満足できなくなっている。 ジェットを男として征服したい。 独占したくてたまらない。 離れて暮らしていることが心配でならないし、自分の知らない時間を過ごすジェットを知っている人達にも嫉妬を覚える。見苦しい感情だとは思うが止められないのだ。今夜もジェットが啼いて縋って、気を失うまで放すことはないだろう。 何故なら、ジェットを抱く時に歯止めがかからなくなってきているのだ。普通のセックスだけでは飽き足らずに、車の中や人通り途絶えた路地裏でジェットを啼かせるようになってきている。 まだ、ジェットに触れなければ妄想をするだけで我慢していられるけれども、それが出来なくなる日もそう遠くない確信がアルベルトにはある。 けれども、それは今ではない。 アルベルトはそんな自分の気持ちを深く心の奥に押し込めると何事もなかったかのように、穏やかに眠るジェットの躯を優しく揺さぶった。 「ジェット」 |
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