相部屋



 ギルモア邸は然程部屋数が多いわけではない。
 実際に住んでいるジョーやフランソワーズ、イワンには個室が与えられているが、それぞれの場所で生活の成り立っている他のメンバーの個室まで確保されているわけではないのだ。
 従って、残り6名は3名ずつの相部屋を使用せざる得ないというのが実情なのである。
 毎度、その組み合わせは籤引きによって決められることが多い。
 今回は002、004、008と005、006、007との振り分けと相成った。
 別段、何か事件が起きたわけではなく、博士の発案によって全員が年末年始の休暇を日本で共に過ごす為の来日であった。
『ダメ……っ、あっ』
 隣のベッドから聞こえてきたのは、ジェットの声だった。
『ピュンマに聞こえる』
『黙ってろ』
『っあああん。っあ、其処、ダメェ〜』
 鼻にかかったような甘えた声が静かな夜気を塗ってピュンマの耳に届くのだ。
 そりゃぁ、アルベルトとジェットが恋人同士だってのは知ってる。野を越え、山を越え、谷を渡り、川を遡って、ようやく恋人同士になったというのを見ているわけではないが、聞いて知っているし、互いを必要としている姿は、まあ、自分のことは置いておいて、生温かくは見守ってやりたい、とは思うわけだ。
『っく、っぁぁあああ』
 遠慮していたはずのジェットの声のボリュームが少しずつ大きくなってくる。
 確かに、ジェットの密やかな喘ぎ声が耳に入るまで眠っていたけれども、独立運動の闘士で、常に戦場に身を置いていたピュンマは熟睡できない性質なのである。僅かな気配や物音に目が覚めてしまう。
 二人の声が普通の話し声だとしたら、意識の何処かにそれを引っ掛けながらも眠ることは出来たであろうが。声の種類が種類であった為、目が冴えてしまう。ピュンマだとそういう意味では健康な青年男子なのである。
『聞こえちゃう』
『聞かせてやれよ』
『ひゃん』
『それとも、お前の格好見てもらうか』
『いゃぁ、っああん』
『どうして、欲しい? うん』
『っぁぁあ、ダメッ……、っう』



「いい加減にしろよっ!!」
 本番に突入しそうな勢いの二人にピュンマの怒りが爆発する。
 毛布を跳ね除けて、隣のベッドを睨みつけたピュンマの視線の先にはほとんど全裸に剥かれて涙目になっているジェットを、パジャマを一切乱していないハインリヒが押さえつけていた姿があった。
「盛るなら……、他所でやってくれっ!! 僕の安眠を妨害しないでもらいたいもんだね」
 前半は怒りを後半には嫌味をコーティングして台詞を吐くと、ジェットの涙目になっている顔が恥ずかしさと、困惑で歪んだ。今にも涙が青い瞳から零れそうになりながらも、小さな声でゴメンと呟く。
 ハインリヒはこちらに背を向けたままである。
「ああ、もういい。僕はジョーの部屋に行くから、君達は好きに盛ってくれていいよっ!!」
 枕と毛布を引っつかんで、ピュンマは部屋を飛び出した。
 どうして自分が貧乏くじを引かねばならんのだと、でも、泣き出しそうなジェットの顔を見ると出て行けとはいえないあたりの自分の人の良さを呪うばかりである。
 更に、背を向けたまま暗に二人にしてくれよと……、強引に告げるハインリヒが憎たらしくてならない。あの男のことだ。こういう手段に出れば、自分が感情のままに部屋を出て行くと分かっていてあの所業に出たに違いないのだ。
 理解出来てしまうから、余計に腹が立つというものである。
 ピュンマはこの意趣返しはいつかハインリヒにしてやると心に誓うと、リビングに続く階段をリズミカルな足取りで下りて行った。





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