The day from which the angel flew down



「はっ…ぁぁっん」
 甘い声が薄暗い部屋に甘やかに響き渡る。触れられたその場所から白い肌を朱く艶やかに染め上げられ、声を上げる本人はその感覚が堪らなく自らに幸福を齎してくれることを知っていた。だから、感じている肉体の醜悪さすら隠さずに、愛しい男の前で曝け出す事が出来るし、また彼もそれを望んでいるのだ。
 彼のその鋼鉄の手にのみ反応する躯を彼は愛しさを込めて触れてくれる。
「気持ち……、いいだろう」
 耳元で囁かれるドイツ語訛りの英語はとてもセクシーだ。その声だけで達することが出来そうなくらい、甘く、強く、時には優しく、自分を支配することの出来る唯一の声なのだ。その声で命じられれば自分はどんな淫らなことにも応えられてしまう。
「イイ…」
 喘ぎと共に、とても感じていると囁きで彼に応えると満足そうに微笑んでくれる。
 優しくて残酷で、何よりも自分を愛してくれる彼が、愛しくて、欲しくて誰にも渡したくはない。その為ならば彼の性的奴隷でも、セックスドールであったとしてもジェットは一向に構いはしなかった。大切なことは彼の心がどれだけ自分に向けられているかということであって、彼が自分をどう扱うかなどはそれにくらべれば些細な出来事でしかなかった。
「いい……、あっ、アル」
 分厚い胸に縋るように腕を伸ばして、抱き合う。硬い胸の感触にすら敏感になった躯は感じて、触れるだけで乳首が立ってくるのが感覚で知れる。
 それに気付いたアルベルトはジェットの立ち上がり、硬くなった乳首をそっと鋼鉄の指先で器用に摘み上げるときゅっと音をたてるように乳首は形を変えて、ルージュを塗ったように激しいキスで朱く染め上げられた口唇が、熱い嬌声を紡ぎ出す。
 まるで、ジェットの躯は自分とって楽器のようなものだ。
 激しく触れれば激しく、羽根が触れるように触れれば柔らかなそんな音を奏でてくれる。愛しくて誰にも渡したくない自分の為だけに奏でられる楽器にも等しい肉体であるのだ。それは自分の思うが侭になる体の良い道具という意味ではなく、その美しい肉体という楽器を奏でられるのは自分しかいないという自負であり、それこそが愛の証であった。
 その美しい造られた肉体を飾るものはナニヒトツない。
 ただ、白いシーツの上に一つの裸体がある。
 それだけなのに至極そそられる。その躯をもっと欲しいと渇望する自分が其処にはあるのだし、破壊してしまいたいと願う自らもある。
 タタカイによって開花してしまった自らのサディスティクな嗜好を全てで受け止めてくれたのはジェットなのである。前々から自らに眠っていたのか、あるいは殺戮という非日常の中で自らの弱い心を守る為に自分が生み出した違う自分なのかは分からないが、誰かを嬲りたいと思う気持ちがサイボーグとしての完成を近くすればするほどにアルベルトの心の中に芽生えていった。
 最初に、そんな自分を誘ったのはジェットだった。多分、彼はそんな自分を知っていて自らを犠牲にしてもその弱い心を救ってくれたのだ。ジェットなくしては生きていく意味が今のアルベルトにはない。こうしてジェットに触れなければ動けなくなる。心が凍って人を殺す機械になってしまうことを自覚していた。
 性的にサディスティクにジェットを嬲って、愛している心と大切にしたい心と破壊したい心と全てを自らの中に取り込んでしまいたいそんな自分は、ジェットに対する欲に拠って揺れ動くココロを持っているからこそそれが人である証に思える。そんな自分を受け止める強い心を持ったジェットが自分以外の人に僅かな関心ですら寄せることにアルベルトは我慢がならなかった。
 だから、性的な快楽でジェットを縛ろうとしている。
 既にジェットの肉体はアルベルトという冷徹な性の科学者によって、彼にしか反応せぬ躯にと造りかえられてしまっているのだ。アルベルトが願えば、どんな淫らなヨウキュウだとて健気に応えてくれる。会う時は必ずアルベルトが贈った天使を模ったペニスリングを着けることをヨウキュウしているが、一度としてジェットはアルベルトとの逢瀬の時にそれを着けずに現れたことはなかった。今日も、ちゃんとそれを着けてアルベルトを訪ねて来た。そんな従順さはいつもの彼と違って、自分は彼にとって特別な存在なのだと知れ、更にジェットへの思慕が募る。
 男性にしては細い肩から胸に鋼鉄の手を滑らせる。
 その手は何かに触れているという感覚しか脳には伝えてこないはずなのに、ジェットの躯に触れるその時だけはまるで生身の手であるかようにジエットの皮膚の滑らかさや温かみすら伝えて来る気がしてしまう。例え、それが自らに見た幻想であったとしてもアルベルトはジェットを感じられることだけが、幸福をもたらしてくれる。機械の躯だとて愛し合えるし、愛を語ることは出来る。機械だからこそしか、語れない愛も存在するのだと最近は思う。
「っ…っふん」
 何時もと違うその触れ方にジェットの躯は戦慄いた。どんな形であれアルベルトに触れられるだけで自分は感じることが出来るし、それが幸福だと思える。でも、今夜のアルベルトは優しすぎる。何時ものような激しく自分を攫っていってくれるような強引さはない。確かに、力強いアルベルトのペニスで三度も貫かれてジェットのアナルは綻んでいたし、その証が時折、シーツに流れ出しているけれども、今夜は性具で自分を縛ろうとはしなかった。
 普通に恋人同士として抱き合う夜もあるけれども、ここのところアルベルトのセックスは激しく、ジェットは自分が壊れてしまうのではないかとそんな危うい幸福を感じていた。こういう愛され方が嫌なわけではない。真綿で包まれるような、口の中で溶かされる砂糖菓子のような愛撫は決して嫌いではない。それがアルベルトならば、全てをジェットは受け止められる自信があった。
「今夜は……、オマエが蕩けちまうように愛してやる。到底、忘れられない夜にしてやる」
 と、何度も放つことを甘く強要されたペニスは鋼鉄の手で握られただけで、自分でも呆れるくらい正直に反応してしまっていた。
軽く握った手をスライドさせると、くちゅりと自らが放った残滓が淫靡な音がジェットの聴覚をダイレクトに刺激する。
「っあ、アル」
 喘ぎとも、囁きとも取れぬ声を朱く染まった口唇から吐き出すと、ジェットは応えるように白い肢体をくねらせた。
「今夜は、オマエの誕生日だからな……」
 その台詞に今夜のアルベルトの行動の全てをジェットは理解したから、歓喜の震えが悦楽の震えを伴って、電子の流れとなり背筋を駆け上っていく。だから、なのだとジェットは納得をすると、自分を悦楽によって支配する男に向かって微笑んだ。
「だったら、オレが熔けちまうぐらいにアイシテクレヨ」





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