ヒナマツリ



 フランソワーズは小さな一対の雛人形の埃を払う。
 もちろん、フランスには雛祭りという風習はなく、どのような成り立ちのある祝い事なのかは知らないが、ジョーが日本の女の子のお祭りだよと教えてくれた。
 この雛人形は、コズミ博士がフランソワーズにと送ってくれたのだ。
 ニュースで見たような豪華なものでもガススケースに入ったものでもないけれども、手作りの温かさが滲み出ている雛人形であった。
 20cm程の大きさの丸い形の雛人形はコズミ博士の元に通ってくる家政婦さんが趣味で作っているものだということだった。
 底の部分にはフランソワーズの名前が刻まれていて、その心遣いも嬉しくて、フランソワーズは毎年、この時期にこの人形を飾るのがとても楽しみでもあった。
 皆が集うわけではないけれども、ジョーがささやかな雛祭りの料理を作ってくれて、当日、ギルモア邸に集まれるメンバーといっても、日本滞在組み+ジェットぐらいものだけれども、お祝いをする。
 女の子は独りだから、自分だけが特別に誕生日でもないのに、こうしてお祭りの主役になれるのが少しだけ面映かった。
 今年は、ギルモア博士が洗濯できるという明るいオレンジ色の縦縞模様の着物を買ってくれて、ジョーが着せてくれた。それを見たジェットが似合うと褒めてくれて沢山の写真を撮ってくれる。
 本当に、ささやかな、当り前の日常。
 それが愛しくてたまらない。
 血の繋がった家族ではないけれども、家族、いや、それ以上の絆で結びついた仲間達が愛しい。
 いつまでもとはいわないけれども、一日でも、長くこの平和で当り前な日々の暮らしが続きますようにと、願わずには居られなかった。
「少しでも長く、貴方達ともお付き合いできるといいわね」
 とフランソワーズは雛人形にそう話しかけた。





BACK||TOP||NEXT



The fanfictions are written by Urara since'05/03/03