モーニング・コール



 ジェットは、薄汚れた天井をぼんやりと見上げた。
 時計を見ると、起きるには少しばかり早い時間だった。後、10分は惰眠を貪っていられる。思い切って起き上がって、とも思うが、約束を考えると起き上がる気になれない。
 無意識の内に、堅くなっていた股間をパジャマ代わりのTシャツの上から撫でると先端が濡れていた。
 BG団に居た時の癖というのか習慣で、眠る時には下着を着けない。白い丈の長いシャツだけを与えられていた生活が長かったせいか、下着を履いてベッドに入るには抵抗がある。
 その時、枕元に置いてある携帯電話が鳴った。
 三回目のコールが終った瞬間を見計らって電話に出ると相手は、ジェットが想像していた通りの人からだった。
 ドイツ語訛りの英語が電話越しに聞こえてくる。
 柔らかな響きが寝起きには心地良い。
「ああ、起きてる」
 夢で見た彼の声と何ら変わらないことがジェットの何かに触れ、電話をしながらも戯れるように触れていたペニスがひくりと蠢くのを感じていた。
 もう、彼と二ヶ月も会っていない。
「毎日、電話くれなくたって起きれるさ。もう、子供じゃねぇんだ」
 躯とは裏腹にそんな台詞が口をついて出てしまう。
 特に第一世代と呼ばれる、イワン、フランソワーズ、アルベルトと、そしてジェットはコールドスリープと長く社会と隔絶した生活を送っていた影響で、現代の日常生活に疎かった。
 その上、まともに働いた経験のないジェットを心配したアルベルトとフランソワーズは、就職するにあたって起きる時間にはアルベルトが、帰宅した頃を見計らってフランソワーズが電話を掛けることを約束させたのだ。
 その習慣は、こうしてジェットが真っ当に働き初めてから二年経った今でも続いている。
「それに、今日は休みなんだ」
 ジェットがそういって、携帯電話を切ろうとした瞬間、聞こえたのはドイツ語で囁かれたかなり際どい単語を含んだ愛の言葉だった。
「っばか野郎、朝からサカルんじゃねぇ」
 そう言うが、その台詞に反応してジェットのペニスは更に硬くなっていた。
 これ以上、会話を続けているとのっぴきならない状態になりそうで、ジェットは強引に携帯電話の電源を切った。
 ついこの間の休みの朝、アルベルトはこうして電話を掛けて来た。
 そう、今と似たような状況で、俗にいうテレフォン・セックスをしてしまったのだ。よもや、アルベルトの電話の声だけで自分が逝けるなんて思ってなかったし、逐情してしまった自分にジェットはショック覚えたのだった。
 ここまで自分がアルベルトに入れ込んでいるということがである。
 愛していると思うし、過去が過去だけに、セックスに対してのタブーはあまりないが、どうもこういうメンタル的な部分から湧き上がる快楽にジェットは慣れていなくて、戸惑いを覚えるのだ。
 そんな自分が自分で恥ずかしくなって、誰も見ていないのに毛布に潜り込む。
 でも、明日もいつもの朝と変わらずアルベルトからモーニング・コールがあるだろう。
 今朝のことなど、忘れたかのようにいつものあの声で『おはよう。ジェット』と甘く囁いてくれる。
 そして、自分もいつものように答えるのだ。
『ああ、おはよ。ちゃんと、起きてるぜ』





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